検査値ノート一覧へ

Lab values · Published

低用量デキサメタゾン抑制試験

Low-dose dexamethasone suppression test

別名
LDDST1 mgオーバーナイトデキサメタゾン抑制試験デキサメタゾン少量抑制試験
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePathophysiologySurgery
トピック
内科学 L-32:Cushing症候群内科学 E-06:糖質コルチコイド欠乏と過剰病態生理学 I-21:クッシング症候群の発症機序・症状・診断外科学 S-01:副腎疾患と外科的帰結
関連疾患
クッシング症候群

🧠 全体像が担うのは「コルチゾール過剰があるかどうか」というスクリーニングであり、原因を下垂体性か異所性かに絞り込む(HDDST)とは目的がまったく違う。と並ぶ、を疑ったときの一次の一つで、感度は高いが特異度は相対的に低い。非抑制という結果だけで診断は確定せず、複数回・複数法で過剰を確認する診療の入口に位置づく。

何を調べる検査か

正常な視床下部-下垂体-軸では、を投与するとACTH分泌が負のフィードバックで抑制され、それに伴いコルチゾールも低下する。では原因を問わずこの負のフィードバック機構が破綻しており、低用量のでは翌朝のコルチゾールが十分に低下しない。LDDSTが見ているのは「でACTH-コルチゾール系を抑え込めるか」という一点であり、抑制されないことがコルチゾール過剰を疑う所見になる。

💡 検査薬にを使うのは、一般的なとほとんどしないためである。など他のグルココルチコイドで代用すると、投与した薬剤自体が測定値にされ、抑制の有無を正しく判定できなくなる。

いつ行うか

を疑う臨床像がある患者の初期評価で行う。と並ぶ3つの一次のひとつで、患者背景(睡眠リズム、腎機能、採尿の可否など)に応じて選ぶ。

⚠️ 1つの検査の1回の異常だけでは確定しない。 少なくとも2回、または異なる検査法の組み合わせで異常を確認してからと判断する。

⚠️ の除外を先に行う。 経口・注射に限らず吸入・外用・を含むあらゆる経路のグルココルチコイド使用歴を確認する。すでにでHPA軸が抑制されている患者にLDDSTを行っても、内因性過剰の有無を判定できない。

が見つかった患者でも、の有無を評価する目的で同じ1 mg法を用いる。ただしこの場面は判定の考え方が異なる(後述)。

手技・プロトコル

外来で最も広く使われるのはで、より煩雑だが判定材料が多い2 mg×2日法(もある。

項目 2 mg×2日法(
投与法 1 mgを23時ごろに単 0.5 mgを6時間ごと×2日間(計2 mg/日×2日)
何を測るか 翌朝の血清コルチゾール 血清コルチゾールまたは
採血・採尿時点 投与翌朝8〜9時 投与前(基礎値)と2日目
特徴 服のみで完結し外来で施行しやすい 手技は煩雑だが偽陽性が少ないとされる
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing syndrome'>クッシング症候群</span>を臨床的に疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exogenous steroid'>外因性ステロイド</span>を全経路で除外"]
    B --> C["術式を選択"]
    C -->|"オーバーナイト法"| D["23時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>1 mgを単<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pronation'>回内</span>服"]
    D --> E["翌朝8〜9時に血清コルチゾールを採血"]
    C -->|"2日法"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>0.5 mgを6時間ごと×2日間投与"]
    F --> G["2日目の血清コルチゾール・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='urinary free cortisol'>尿中遊離コルチゾール</span>を測定"]
    E --> H{"コルチゾールが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cut-off'>カットオフ</span>未満に抑制されたか"}
    G --> H
    H -->|"はい"| I["正常抑制。過剰の可能性は低い"]
    H -->|"いいえ"| J["非抑制。別の一次<span class='jp-term jp-term-diagram' title='screening test'>スクリーニング検査</span>で確認"]

判定

判定法 意味
(標準) 翌朝コルチゾール1.8 µg/dL(50 nmol/L)未満 正常抑制。感度95%超・特異度80%1
(高 5 µg/dL(140 nmol/L)未満 特異度95%超まで上がるが感度は犠牲になる1

💡 1.8 µg/dLという低いは「過剰を見逃さない」ことを優先した設計であり、非抑制という結果の多くが偽陽性であることを織り込んで使う。境界域や偽陽性因子(後述)が疑われる場合は、特異度の高い5 µg/dLのや、との組み合わせで判断する。

⚠️ 偽陽性・偽陰性と注意点

この検査は偽陽性(非抑制)が多いことを前提に解釈する。

  • :うつ病などの精神疾患、、重度肥満、コントロール不良の糖尿病、妊娠では、腫瘍が存在しなくてもHPA軸の生理的な活性化により非抑制となりうる1と臨床像(肥満・)が重なりやすく鑑別として意識されるが、非抑制の直接因子として確立しているわけではなく、併存する肥満・インスリン抵抗性の影響として捉える。
  • エストロゲンによる上昇:エストロゲン含有経口避妊薬や妊娠は総コルチゾールを見かけ上上昇させ、経口避妊薬使用女性の約半数で偽陽性となる1。検査前6週間のが望ましい1
  • CYP3A4関連薬剤:フェニトイン・リファンピシン・カルバマゼピンなどの強いCYP3A4の代謝を促進して血中濃度を下げ、実際には抑制されているのに検査上「非抑制」に見える偽の非抑制を起こす1。逆にCYP3A4阻害薬では血中濃度が上がり偽の抑制につながりうる。
  • 吸収不良・不良でも見かけ上の非抑制が起こる。
  • では、コルチゾール分泌の谷の時期に施行すると偽陰性になりうる。症状が強いに合わせて施行する。
  • ・重症疾患やストレス反応を乱し、判定を不安定にする。

⚠️ 判定の前に(吸入・外用・を含む)の使用歴を必ず除外する。 見落とすと、による非抑制を内因性過剰と誤認する。

代替・関連する検査

検査 何がわかるか 使いどころ・限界
夜間最低値の消失 非侵襲的で自宅採取できるが、や睡眠リズムの乱れに弱い
一日の遊離分泌量 不完全採尿・腎機能低下で解釈が難しくなる
ACTH ACTH依存性か非依存性か コルチゾール過剰が生化学的に確定した後の局在診断で用いる。スクリーニングには使わない
下垂体性か異所性か ACTH依存性が確定した後の専用。スクリーニングの代わりにはならない

を評価する場面でも1 mg法を用いるが、判定の考え方がスクリーニング目的とは異なる。 現行のガイドラインでは、コルチゾール50 nmol/L(1.8 µg/dL)以下をの除外とし、これを上回れば追加の層別化なしにとみなす単一に改訂されている2。かつて用いられていた138 nmol/L(5 µg/dL)超で「」とする3区分は、中間域でも罹病・死亡リスクの上昇が示されたため廃止された2

まとめ

  • LDDSTはを疑う患者で「コルチゾール過剰があるか」を見るであり、原因の鑑別を担うHDDSTとは目的が異なる。
  • 正常なHPA軸ではでACTH・コルチゾールが抑制されるが、ではこの負のフィードバックが破綻し抑制されない。
  • が外来で最も使われ、2 mg×2日法()はより煩雑だが判定材料が多い。
  • は1.8 µg/dL(50 nmol/L)未満が標準で、感度95%超・特異度80%。5 µg/dLへ上げると特異度は上がるが感度が下がる。
  • 、経口避妊薬・妊娠による上昇、CYP3A4関連薬剤、など、偽陽性が多いことを前提に解釈し、単回の異常では確定しない。
  • での評価にも同じ1 mg法を使うが、現行ガイドラインでは50 nmol/L超を単一でMACSと判定する運用に変わっている。

出典

  1. 1.The Diagnosis of Cushing's Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2008)1 mgオーバーナイト法のカットオフ1.8 µg/dL(50 nmol/L)で感度95%超・特異度80%、閾値を5 µg/dL(140 nmol/L)へ上げると特異度は95%超に上がる代わり感度が犠牲になるというトレードオフ、偽性クッシング状態(うつ病などの精神疾患・アルコール依存・重度肥満・コントロール不良の糖尿病・妊娠)の一覧、経口避妊薬服用女性の約50%で偽陽性となりコルチゾール結合グロブリン増加が原因であること・検査前6週間の休薬が望ましいこと、フェニトイン・フェノバルビタール・カルバマゼピン・リファンピシンがCYP3A4を介してデキサメタゾンの代謝を促進し血中濃度を下げることを確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.European Society of Endocrinology clinical practice guidelines on the management of adrenal incidentalomas, in collaboration with the European Network for the Study of Adrenal Tumors(European Society of Endocrinology / European Network for the Study of Adrenal Tumors・2023)副腎偶発腫の評価では投与後血清コルチゾール50 nmol/L(1.8 µg/dL)以下を自律性コルチゾール分泌の除外とし、これを上回れば追加の層別化なしに軽度自律性コルチゾール分泌(MACS)とみなす単一カットオフへ改訂されたこと、旧来の138 nmol/L(5 µg/dL)超で「自律性コルチゾール分泌」とする3区分は中間域でも罹病・死亡リスクの上昇が示されたため廃止されたことを確認した。閲覧 2026-08-03