病態生理学

病態生理学 · 1-21

クッシング症候群の発症機序・症状・診断

Pathogenesis of Cushing's syndrome; symptoms & diagnosis

応用トピック
Cushing症候群副腎の外科的疾患内分泌疾患 症例1
疾患
クッシング症候群偽性クッシング状態周期性クッシング症候群
症状
線状皮膚萎縮体重増加
検査値
高血糖低用量デキサメタゾン抑制試験

🧠 = コルチゾール作用の慢性過剰。 「・・・・高血糖・骨折・易感染」はすべてコルチゾールの作用過剰で説明できる。臨床で最も多い原因は内因性の腫瘍ではなく外因性(医原性)のグルココルチコイド投与であり、での使用歴確認が診断の出発点になる。内因性を疑う場合の診断は①複数のでコルチゾール過剰を確認 → ②を測定して依存性/非依存性を判定 → ③画像・で局在診断という三段構え。なお「クッシング病」は全体の同義語ではなく、下垂体産生腺腫による一亜型を指す。

糖質コルチコイド生理(復習)

  • 抗炎症/免疫抑制
  • /↑
  • ↑
  • ↑
  • インスリン抵抗性↑ → グルコース↑
  • にに作用
  • GFR↑
  • 骨形成抑制
  • CNS覚醒
  • :
    • Na⁺/↑
    • K⁺/H⁺分泌↑

クッシング症候群の分類

⭐ 頻度としては外因性(医原性)が内因性のすべての原因を合わせたものより多い。まずで使用歴(経口・注射・吸入・外用・関節内)を確認するのが診断の出発点であり、これを飛ばすと不要な内因性精査に進んでしまう。

分類 原因
外因性(医原性)— 最多 経口・注射・吸入・外用・関節内グルココルチコイドの(喘息・・移植後免疫抑制など) 抑制
内因性・依存性 産生 = クッシング病(内因性の中で最多、約70%) 高値/不適切に正常
内因性・依存性 (など、内因性の約15%) 高値
内因性・非依存性 ・、両側性副腎過形成 低値(抑制)

💡 「」は全体の同義語ではなく、あくまで下垂体産生腺腫による内因性の一亜型を指す用語。両者を混同しない。

主要症状

  • () → 、
  • 高血圧
  • 薄く脆い皮膚
  • 筋力低下
  • 頻回骨折
  • 小児
  • 易感染
  • 精神/

代謝異常

💡 コルチゾールは「体の中心に脂肪を集め、四肢の筋と皮膚を削る」ホルモン。

  • 脂質:
    • (分化+)
    • 四肢は薄い()
    • (FFA→肝→TAG//↑)
  • 糖質: インスリン抵抗性+高血糖。
  • 蛋白質: による:
    • 筋力低下
    • 結合組織↓(状)
    • ↑

臓器/系統の病態

  • 💡 腎: 過剰コルチゾールが 11β-HSD2(通常コルチゾール→コルチゾンに不活化)を飽和 → コルチゾールがを活性化 → Na/、。
  • 循環/高血圧: として作用、CO+TPR↑、Na貯留 → 心血管↑。
  • 血管: 血管収縮↑、NO↓ → 加速AS。
  • 皮膚: 菲薄化・(、コラーゲン↓)、創傷治癒遅延/真菌感染、/。
  • 筋: 筋障害/萎縮。
  • 骨: 骨粗鬆症/骨折(破骨細胞↑、骨芽細胞↓)。
  • 生殖: 無月経、精子形成↓(アンドロゲンが //↓)。
  • 免疫: 感染感受性↑。

診断

診断は①コルチゾール過剰の生化学的確認(スクリーニング)→ ②を測定して依存性/非依存性を判定 → ③局在診断という順序を必ず守る。随時コルチゾールや画像検査だけでいきなりスクリーニングしない。

① スクリーニング:コルチゾール過剰の確認

まず使用歴を除外したうえで、以下から患者背景に合う検査を1つ選んで始める。異常なら内分泌医のもとで2つ目の検査を行い(1回の異常値だけでは確定しない)、2つとも異常なら原因検索へ進み、2つとも正常ならそれ以上の精査は不要、結果が食い違うときは追加検査で判断する1。唾液・尿のコルチゾールは分泌の変動を考えて2回以上測る1。

⚠️ を除外する。 腫瘍が無くても軸の生理的な活性化でを来し、上記のが偽陽性になりうる。2008年のEndocrine Societyガイドラインは、臨床像も一部似うる状態として妊娠、うつ病などの精神疾患、、グルココルチコイド抵抗症、病的肥満、コントロール不良の糖尿病を、臨床像は似にくいがが上がりうる状態として身体的ストレス(・痛み)、・、激しい慢性運動、を挙げる1。も軸の機能的な活性化の原因に挙げられる2。臨床像がな場合は経過を追って反復評価する。

② ACTH依存性/非依存性の判定

コルチゾール過剰が確認できたら、血漿ACTHを測定する。

  • 低値(抑制)→ 非依存性(副腎自体の自律産生)→ 副腎
  • 高値/不適切に正常 → 依存性 → +異所性検索

③ 局在診断

依存性が疑われる場合はを撮る。ただしに写った病変が偶発的なで、の出どころは別(異所性)ということもあるため、病変の大きさで次の一手が変わる。2021年のPituitary Societyの合意では、10 mm以上の病変がありの結果もに合致すればIPSSは不要(臨床像も必ず考慮する)、6 mm未満の病変は全例でIPSSを行い、6〜9 mmは意見が分かれるが多数がIPSSで確かめることを勧めた3。は小さく画像陰性のことも多い。

flowchart TD
  Q["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clinical signs'>臨床所見</span>から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing syndrome'>クッシング症候群</span>を疑う"] --> EX["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exogenous glucocorticoid'>外因性グルココルチコイド</span>使用歴を確認"]
  EX -->|"あり"| EXY["外因性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing syndrome'>クッシング症候群</span>"]
  EX -->|"なし"| SCR["初回検査を1つ選ぶ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='late-night salivary cortisol'>深夜唾液コルチゾール</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='24-hour urinary free cortisol'>24時間尿中遊離コルチゾール</span>・1mg DST・2mg 48時間DST"]
  SCR -->|"異常"| SCR2["内分泌医のもとで2つ目の検査"]
  SCR -->|"正常"| NEG["それ以上の精査は不要<br>(周期性が疑われる・所見が増えてきたら再検査)"]
  SCR2 --> J{"2つの検査の結果"}
  J -->|"2つとも正常"| NEG
  J -->|"食い違う"| PC["追加検査・経過観察<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudo-Cushing state'>偽性クッシング状態</span>・周期性の分泌を考える)"]
  J -->|"2つとも異常"| A["血漿<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>を測定"]
  A -->|"低値"| AD["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>非依存性 → 副腎<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>"]
  A -->|"高値/不適切に正常"| PIT0["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenocorticotropic hormone'>ACTH</span>依存性 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary MRI'>下垂体MRI</span>"]
  PIT0 -->|"10mm以上の腺腫で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dynamic (stimulation) testing'>動的検査</span>・臨床像と矛盾しない"| PIT["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary adenoma'>下垂体腺腫</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing disease'>クッシング病</span>)"]
  PIT0 -->|"6mm未満・画像陰性・6〜9mmの多く"| IPSS["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior petrosal sinus sampling, IPSS'>下錐体静脈洞サンプリング</span>(IPSS)"]
  PIT0 -.->|"補助"| HD["高用量DST+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CRH stimulation test'>CRH刺激試験</span><br>食い違えばIPSSへ"]
  HD -.-> IPSS
  IPSS -->|"中枢/末梢比が刺激前2以上・刺激後3以上"| PIT
  IPSS -->|"下回る"| ECT["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic ACTH syndrome'>異所性ACTH症候群</span>"]
  • 治療: はコルチゾール値・作用の正常化と、高血圧・異常・骨粗鬆症といった併存症の是正の両方にある。原因病変の外科的切除が第一選択(、片側、異所性腫瘍切除など)で、寛解しない場合の(薬物療法、両側、腫瘍への放射線治療)は患者ごとに選ぶ4。外因性の場合は原疾患の必要性と()軸抑制からの回復を見ながら緩徐にする(急な中止は避ける)。

まとめ

項目 要点
本態 コルチゾール作用の慢性過剰。・・・高血糖・骨粗鬆症・易感染はすべてその作用で説明できる
原因 最多は外因性(医原性)。内因性では依存性の(、約70%)が最多。ほかに依存性のと、非依存性の・癌・過形成がある
代謝・臓器 脂肪は体幹へ集まり四肢は細る。で筋力低下・。の飽和でコルチゾールがを刺激し、Na貯留・
①確認 外因性を除外 → ・・1 mg DST・2 mg 48時間DSTから1つ → 異常なら2つ目。2つとも異常で原因検索、2つとも正常なら終了、食い違えば追加検査。に注意
②病型 血漿が低値なら非依存性(副腎)、高値〜不適切に正常なら依存性()
③局在 で10 mm以上かつもに合致すればIPSS不要、6 mm未満はIPSS。IPSSの中枢/末梢比が刺激前2以上・刺激後3以上なら下垂体性
治療 原因病変の切除が第一選択。寛解しなければ薬物療法・両側・放射線治療。外因性は原疾患を見ながら緩徐に

出典

  1. 1.The Diagnosis of Cushing's Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2008)全文(PMC2386281、pmc.ncbi.nlm.nih.gov のHTML)で確認した。外因性グルココルチコイド使用を除外したうえで検査を開始すること、初回は患者に合った診断精度の高い検査1つ(尿中遊離コルチゾール〔2回以上〕・深夜唾液コルチゾール〔2回〕・1 mg一晩デキサメタゾン抑制試験・2 mg/日48時間デキサメタゾン抑制試験)を用いること(3.4)、異常であれば内分泌医のもとで2つ目の検査を行い、2つとも異常なら原因検索へ、2つとも正常ならそれ以上の精査は不要、結果が不一致なら追加検査を行うこと、1 mg DST後の血清コルチゾール 1.8 µg/dL(50 nmol/L)超をクッシング症候群を示唆する基準とすること。Table 2はクッシング症候群が無くても高コルチゾール血症を来す状態として、臨床像が一部似うるもの(妊娠、うつ病などの精神疾患、アルコール依存、グルココルチコイド抵抗症、病的肥満、コントロール不良の糖尿病)と、似にくいもの(身体的ストレス、低栄養・神経性やせ症、激しい慢性運動、視床下部性無月経、CBG過剰)を挙げる。多嚢胞性卵巣症候群はTable 2に無い。閲覧 2026-09-24
  2. 2.How to rule out non-neoplastic hypercortisolemia (previously known as pseudo-cushing)(Pituitary・2022)全文(PMC9587923、Europe PMC)の序論で、HPA軸の機能的な活性化を起こす病態の例として精神疾患・アルコール依存・肥満・多嚢胞性卵巣症候群が挙げられていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Consensus on diagnosis and management of Cushing's disease: a guideline update(Pituitary Society・2021)著者最終稿(PMC8743006、pmc.ncbi.nlm.nih.gov のHTML)で確認した。下錐体静脈洞サンプリングで中枢/末梢のACTH勾配が刺激前2未満・刺激後3未満なら異所性腫瘍を示唆すること(偽陰性・偽陽性の報告あり)、下垂体MRIで6 mm未満の病変は全例でIPSSを行い10 mm以上ならIPSSは不要とする合意があり、6〜9 mmは意見が分かれるが多数がIPSSを勧めたこと、高用量デキサメタゾン抑制試験とCRH刺激試験がともに陽性ならクッシング病を予測する非侵襲的な代替になるが不一致ならIPSSが必要であること、デスモプレシン試験・CRH試験が下垂体性と異所性の鑑別に有用とされていること。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Treatment of Cushing's Syndrome: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2015)抄録の結論で、クッシング症候群の治療目標がコルチゾール値・作用の正常化と併存症の是正であること、原因病変の外科的切除が一般に第一選択であること、薬物療法・両側副腎摘除・(コルチコトロフ腫瘍に対する)放射線治療といった二次治療は個々の患者に合わせて選ぶことを確認した。閲覧 2026-08-14