外科学

外科学 · S-01

副腎疾患と外科的帰結

Disease of the adrenal glands, surgical consequences

前提:病態
副腎の機能異常・腫瘍
前提:正常
副腎皮質の機能副腎髄質の機能
疾患
クッシング症候群原発性アルドステロン症
検査値
低用量デキサメタゾン抑制試験

🧠 全体像:副腎腫瘤では「ホルモンを作るか」「悪性を疑うか」「片側か両側か」を術前に整理する。を見落として穿刺・手術すると致命的を起こし、コルチゾール産生腫瘍を摘出すると術後副腎不全を起こし得る。

機能解剖

部位 主な産生物 代表的病態
皮質 コルチゾール、アルドステロン、アンドロゲン Cushing症候群、、
髄質 アドレナリン、ノルアドレナリン

褐色細胞腫

発作性または、、頭痛、発汗を典型とし、不安、振戦、体重減少、を伴う。またはで生化学的に評価し、陽性後に・で局在を調べる。遺伝性の割合ができないため遺伝学的評価を検討する。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pheochromocytoma'>褐色細胞腫</span>を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metanephrine'>メタネフリン</span>で生化学的確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で局在・進展評価"]
    C --> D["α遮断+十分な塩分・補液"]
    D --> E["必要時のみβ遮断を追加"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adrenalectomy'>副腎摘除</span>"]
    F --> G["血圧・血糖・副腎機能を監視"]

⚠️ β遮断をα遮断より先に開始すると、α刺激が無拮抗となりを起こし得る。腫瘤生検の前にもを除外する。

💡 術前α遮断がなければ転帰が悪化するというエビデンスは、実は確立していない。 非研究15件・3542例の更新では、α遮断の有無で術中の血行動態指標(最高・最低血圧、高血圧・低血圧エピソード数、最高心拍数)に差はなく、術後も入室・・・死亡率に差はなかった。α遮断群はむしろ術後の遷延性低血圧・使用が多かった1。それでも現行の専門学会指針はの全例に術前α遮断を推奨しており、無作為化試験がない現状では、この個々の観察研究の結果だけを根拠に省略してよいことにはならない。

皮質ホルモン産生腫瘍

コルチゾール過剰

、、幅広い紫紅色、、高血圧、異常、骨粗鬆症を認める。1 mg夜間などで確認し、低値なら副腎性を支持する。片側はの対象となり、術後は軸の回復までグルココルチコイド補充が必要になり得る。

原発性アルドステロン症

高血圧と低K血症が典型だが、K正常例も多い。でスクリーニングし、後にを行う。手術を考える場合、若年で典型的な例外を除き、で片側性を確認する。片側性なら、両側性なら拮抗薬が基本である。2025年のEndocrine Society指針も、手術を希望しスクリーニング結果から片側性の確率が中等度なら追加でアルドステロン抑制試験を行ったうえで、片側性の確率が高い例も含めてとで左右差を確認するよう提案している2。

副腎偶発腫

1 cm以上の偶発副腎腫瘤では、画像による悪性リスクとを評価する。

評価 現行の考え方
で均一、10 以下 脂質豊富な良性腺腫を強く支持し、大きさにかかわらず追加画像は通常不要
11〜20 、4 cm未満、均一・ 追加画像で性状を確定するか、選択例で約12か月後再画像
4 cm以上かつ不均一、または20 超 悪性リスクが高く、多職種で病期評価と手術を検討
ホルモン評価 1 mg。10 超などを否定できない場合は。高血圧・低K血症なら

「4〜6 cmなら一律手術」という旧来の単純基準は用いず、均一性、、ホルモン活性、増大、年齢・併存症を統合する。

副腎皮質癌と転移

急速増大、不均一、壊死・出血、局所浸潤、20 超、複数ステロイド過剰はを疑わせる。

⭐ では「良性・悪性」という二分自体が2017年の分類(第4版)以降使われなくなった。 どの・もをもちうるうえ転移挙動を予測できる明確な組織所見がなく、転移がなくても重要構造への局所浸潤で致死的になる腫瘍があるためで、2022年の第5版でもこの考え方が踏襲されている3。したがって「病理で良性と確認された」という記載は転移が起こらないことを保証しない。なら被膜を破らないを専門施設で行う。肺、乳房、腎、悪性黒色腫などの副腎転移は多くがで、孤立性・制御・全身状態を満たす選択例で切除を検討する。

副腎摘除と周術期管理

良性・小型の片側病変はが基本だが、浸潤性癌では開腹を選ぶ。出血、周囲臓器損傷、血圧変動、に注意する。

  • 両側後:生涯のグルココルチコイド+補充と教育。
  • コルチゾール産生腫瘍摘除後:周術期ステロイドと軸回復の確認。
  • 摘除後:低血圧、低血糖を監視。

まとめ

  • 副腎腫瘤は機能性と悪性リスクを術前に評価する。
  • ではα遮断を先行し、β遮断単独を避ける。
  • は大きさだけで手術を決めず、・均一性・ホルモン活性を統合する。
  • 術後副腎不全を予測し、必要なステロイド補充を準備する。

出典

  1. 1.Preoperative α-blockade versus no blockade for pheochromocytoma-paraganglioma patients undergoing surgery: a systematic review and updated meta-analysis(International Journal of Surgery・2023)非無作為化研究15件・3542例を対象とした更新メタ解析で、術前α遮断の有無で術中の最高・最低収縮期血圧、高血圧・低血圧エピソード数、最高心拍数など解析した血行動態指標のいずれにも差がなかったこと。術後はα遮断群のほうが遷延性低血圧・昇圧薬使用が多かった(リスク比4.21)一方、ICU入室・在院日数・心血管合併症・死亡率には差がなかったこと。大規模無作為化比較試験による検証が今後も必要と結論したこと。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Primary Aldosteronism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2025)手術を希望しスクリーニング結果から片側性の確率が中等度と判断される場合はアルドステロン抑制試験を経て副腎静脈サンプリングへ進み、片側性の確率が高くアルドステロン抑制試験を要しない場合も副腎静脈サンプリングとCTで副腎の左右差を評価するよう提案したこと。副腎腺腫を伴う原発性アルドステロン症の全例に1 mg一晩デキサメタゾン抑制試験を行うよう提案したこと。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Overview of the 2022 WHO Classification of Paragangliomas and Pheochromocytomas(Endocrine Pathology(Mete O, Asa SL, Gill AJ, Kimura N, de Krijger RR, Tischler A.)・2022)WHO内分泌・神経内分泌腫瘍分類第4版(2017年)以降、褐色細胞腫・パラガングリオーマはもはや良性・悪性に分類されないこと。理由はどの病変も転移能をもちうるうえ転移挙動を予測できる明確な組織所見が存在しないためであり、転移がなくても重要構造への局所浸潤によって致死的となる腫瘍もあること。閲覧 2026-08-26