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Disease Atlas · 耳鼻咽喉科 · 腫瘍

頭頸部パラガングリオーマ

Head and neck paraganglioma

別名
頭頸部傍神経節腫頸動脈小体腫瘍頸静脈球腫HNPGL
臓器系
耳鼻咽喉科腫瘍内分泌・代謝
科目
Internal MedicinePathology
トピック
内科学 S-14:褐色細胞腫・傍神経節腫病理学 C/88:副腎の機能異常・腫瘍
上位概念
褐色細胞腫・パラガングリオーマ
関連疾患
頭蓋底腫瘍
症状
耳鳴難聴嗄声嚥下障害Horner症候群
検査値
メタネフリン分画
画像所見
ソマトスタチン受容体イメージング
禁忌薬
オピカポン

🧠 全体像:は、・という同じ腫瘍群に属しながら、のから生じるためほとんどカテコールアミンを分泌しないという点で副腎と正反対の顔を持つ1。したがって臨床像は「」ではなく・・という局所占拠の症候であり、治療の中心は内分泌管理ではなく切るか・照射するか・待つかの判断になる。学習の核心は3つ——①が原則だが例外があるので生化学評価を省かない、②**SDHx(とくにSDHD)のが高頻度で、SDHDは父由来伝達でほぼ全員が発症する、③手術は治すが脳神経を犠牲にしうるので、まず観察という選択が正当な戦略になる**。

発生母地:交感神経性と副交感神経性の分かれ道

はに沿って全身に散在する。このうち胸腹部・骨盤のは交感神経性で、カテコールアミンを分泌する腫瘍を作る。これに対し頭頸部のはで、生じる腫瘍は通常である1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraganglion'>傍神経節</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic nervous system (ANS)'>自律神経系</span>に沿って散在)"] --> B["交感神経性<br>副腎髄質・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='para-aortic'>傍大動脈</span>・骨盤"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parasympathetic'>副交感神経性</span><br>頭頸部"]
    B --> D["カテコールアミン分泌<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='paroxysmal hypertension'>発作性高血圧</span>・頭痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpitations'>動悸</span>・発汗"]
    C --> E["通常は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-functional'>非機能性</span><br>局所占拠による症候"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck mass'>頸部腫瘤</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulsatile tinnitus'>拍動性耳鳴</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower cranial nerve palsy'>下位脳神経麻痺</span>"]

💡 「副腎外の=カテコールアミンを出す」と覚えていると、頭頸部で必ず外す。 分泌の有無を決めるのは副腎の内か外かではなく、交感神経性かかである。

局在と症候

本論文の緒言は、の局在をが最も多く、次いで・・迷走神経・喉頭の順と整理している1。

局在 典型的な現れ方
・迷走神経 に沿った無痛性で緩徐に増大する。扁桃の膨隆を来すこともある。増大するとを巻き込み、10%の患者で・嚥下障害が生じる
・難聴で発症する。増大により他のや頭蓋底のを来しうる
喉頭 呼吸困難・嗄声・喘鳴

⭐ を訴える患者では、が鑑別の一角を占める。 という性質は血管性・血流豊富な病変を示唆するもので、非のとは辿るべき道筋が違う。

Shamblin分類(頸動脈小体腫瘍)

は、頸動脈への巻き込みの程度でShamblinが分類した1。

型 内容
I型 小型で限局し、頸動脈に癒着しない。を押し広げることがある
II型 より大きく(4 cm超)、頸動脈に癒着または部分的に取り囲み、神経構造に近接する
III型 より大きく、頸動脈を密に取り囲むか完全に取り込む。頭蓋底に達することがある

💡 この分類は「手術の難しさ」をそのまま段階化したものであり、術前に神経・のリスクを見積もるために使う。

遺伝:SDHx、とりわけSDHD

家族性のの50〜70%はSDHDとSDHBのに関連する1。総説が集計した検査成績のうち、のみを対象とした最大規模の研究(598例)では183例(30.6%)にSDHxのが見つかり、頻度はSDHD・SDHB・SDHCの順だった2。変異を示唆する危険因子は若年発症・の家族歴・多発性・転移例・性別だが、これらを1つも持たない患者にも変異は見つかる2。

⚠️ SDHDは効果()を示す。 父からを受け継いだ場合は生涯に90〜100%が発症するのに対し、母から受け継いだ場合のはきわめてまれである3。したがってを読むときは「男性を介した伝達かどうか」を見る。母由来のバリアント保有者は発症しにくいが、その人の息子に伝わればまた発症しうるため、保因者として追い続ける意味がある。

SDHD保有者は主にを発症するが、約20%は頭頸部以外(副腎髄質・・心臓/胸部・骨盤)のを併存する3。頭頸部だけを診ていると取りこぼす。

生化学評価:「非機能性が原則」でも省かない

は機能性であることがまれで、152例182腫瘍の単一施設シリーズでは、臨床的に意義のあるカテコールアミン分泌腫瘍と判定されたのは7.7%だった。別の報告では血漿が基準値上限の2倍を超えるのは2.3%とまれである3。それでもSDHD関連の評価では、臨床評価に加えて血漿または尿のと血漿の測定が推奨される3。

⚠️ を加えるのはドパミン産生を拾うためである。・だけでは、ドパミンしか出していない腫瘍が「」と読まれてしまう。

画像

目的 使うもの
・局所の広がり (MRAを含む)が最も感度が高い放射線学的手法
全身検索・ 。の・に対する感度はほぼ100%に達する

いずれもSDHD関連のコンセンサスによる3。⭐ 転移性・SDHB変異例・頭頸部という3つの場面では、ではなくが選ばれるという位置づけが、この腫瘍群の機能画像の使い分けの中心にある。

治療:まず待つという選択

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='head and neck paraganglioma'>頭頸部パラガングリオーマ</span>の新規診断"] --> B{"差し迫った<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic indications'>治療適応</span>があるか<br>(増大の持続・重要構造の圧迫)"}
    B -->|"いいえ"| C["経過観察で腫瘍の挙動を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='grasp'>把握</span>する"]
    C --> D{"増大または新たな圧迫が出現"}
    D -->|"いいえ"| C
    D -->|"はい"| E["介入を検討"]
    B -->|"はい"| E
    E --> F["外科的切除"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stereotactic radiosurgery, SRS'>定位放射線手術</span><br>(一次治療または手術の補助)"]

新規診断の頸静脈・迷走神経・で差し迫った適応が無ければ、まず経過観察を行って腫瘍の挙動をすることが推奨される。増大の持続や頭頸部の重要構造の圧迫があれば、外科的切除を含む介入に進む。は一次治療としても手術の補助としても推奨される3。

なぜ待つのかは実データで裏づけられている。72例(手術49例・経過観察23例)を比較した研究では、音声・平衡感覚のスコア(VHI p=0.001、DHI p=0.020)と医の診察で捉えた軽度の障害(p=0.007)に有意差があり、いずれも手術群に不利だった。解析からは34 mmを超えるの手術が神経損傷を伴いやすいことが示唆された。著者らは、それでも小さい病変では手術がなお第一選択としている1。

💡 「待つ」は放置ではない。 腫瘍の増大速度を測るための観察であり、動かないと分かれば侵襲を避けられ、動くと分かれば小さいうちに切れる。

転移能

⚠️ SDHD保有者の転移リスクが全体で約5%、SDHDのでは4%(SDHBでは13%)である3——HNPGL全体の値ではない。局在別に見ると2〜19%と幅があり、SDHB関連病変の転移リスクが最も高い1。

⚠️ ・全般と同じく、「良性/悪性」ではなくへの転移の有無で判定する枠組みが適用される。組織像で安心してよい病変は無い。

サーベイランス

SDHD関連では、新規病変・転移・進行の検出のために少なくとも2〜3年ごとのと、年1回の血圧測定・臨床評価・生化学検査が推奨される3。治療後の画像は3〜6か月の時点で行いうる。

まとめ

  • はのに由来し、通常はである点で交感神経性のと対照的である。
  • 局在はが最多で、・・迷走神経・喉頭が続く。無痛性、・難聴、が代表的な現れ方である。
  • はで頸動脈への巻き込みの程度を段階化する。
  • 家族性の50〜70%はSDHD・SDHBに関連し、SDHDは父由来伝達で生涯90〜100%が発症する一方、母由来ではきわめてまれである。
  • が原則でも生化学評価は省かず、に血漿を加えてドパミン産生を拾う。
  • 画像は(MRAを含む)が局所評価の基本で、全身検索にはを用いる。
  • 差し迫った適応が無ければまず経過観察し、増大や圧迫が出たときに手術またはへ進む。転移リスクはSDHD保有者で全体約5%、局在別には2〜19%と幅がある。

出典

  1. 1.Pros and cons of surgical versus conservative management for head and neck paraganglioma: a real-world data analysis(Endocrine(Canu L, Zanatta L, Sparano C, et al.)・2025)単一施設の72例(手術49例=群A、経過観察23例=群B)の後ろ向き横断研究で、VHIとDHIのスコアおよび耳鼻咽喉科医の診察による軽度の神経学的障害の頻度に群間の有意差が認められたこと(VHI p=0.001、DHI p=0.020、診察 p=0.007)、家族性の症例では多発性の頭頸部パラガングリオーマ・複数の分泌性病変・手術回数の多さが有意に多かったこと、ROC解析から34 mmを超える頸動脈小体腫瘍の手術は神経損傷を伴いやすいと示唆されたこと、小さい病変では手術がなお第一選択と考えられると結論していることを確認した。加えて本論文の緒言が、頭頸部パラガングリオーマは副交感神経節由来で通常は非機能性であること、局在は頸動脈小体が最も多く次いで頸静脈球・鼓室神経叢・迷走神経・喉頭の順であること、転移リスクが局在により2〜19%であること、家族性の50〜70%がSDHDとSDHBの生殖細胞系列バリアントに関連しSDHB関連病変の転移リスクが最も高いこと、頸動脈小体・迷走神経パラガングリオーマは胸鎖乳突筋に沿った無痛性で緩徐増大する頸部腫瘤として現れ増大により下位脳神経を巻き込んで10%の患者に発語・嚥下障害を生じること、鼓室パラガングリオーマは拍動性耳鳴・難聴で発症し増大で他の脳神経障害や頭蓋底骨破壊を来しうること、喉頭パラガングリオーマは呼吸困難・嗄声・喘鳴を生じうること、手術の成功率が90〜97%・死亡率0〜2.7%であること、放射線治療(分割外部照射または定位放射線手術)の局所制御率が88〜100%であることを、いずれも他文献を引用するかたちで整理していることを確認した。Shamblin分類の3型の内容は本論文のTable 1から引用した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Algorithm of genetic diagnosis for patients with head and neck paraganglioma-update(Frontiers in Neurology(Radomska K, Leszczyńska Z, Becht R, et al.)・2024)頭頸部パラガングリオーマの遺伝学的検査に関する文献を集約した総説で、SDH複合体の変異が最も多くそのなかでSDHDが最頻でありSDHB・SDHC・SDHAF2がこれに次ぐこと、生殖細胞系列変異を示唆する危険因子が若年発症・PPGLの家族歴・多発性・転移例・性別であること、ただし危険因子を持たない患者にも変異が見つかる群が残ること、家族歴の無い患者にVHLの遺伝学的検査を行う根拠は乏しいと結論していることを確認した。総説が集計した表のうち、頭頸部パラガングリオーマのみを対象とした最大規模の研究(Neumann 2009、598例)では183例(30.6%)にSDHx遺伝子の生殖細胞系列変異が見つかり頻度はSDHD・SDHB・SDHCの順であったこと、Boedecker 2007の195例では53.8%に変異が見つかり父からの伝達が発症リスクを高め母からの伝達では一般集団並みであったことは、いずれも総説が引用する個別研究の値である。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Clinical consensus guideline on the management of phaeochromocytoma and paraganglioma in patients harbouring germline SDHD pathogenic variants(The Lancet Diabetes & Endocrinology(Taïeb D, Wanna GB, Ahmad M, et al.)・2023)生殖細胞系列SDHD病的バリアント保有者は主に頭頸部パラガングリオーマを発症し、約20%で頭頸部以外(副腎髄質・傍大動脈・心臓/胸部・骨盤)のパラガングリオーマを併存しうること、父由来に伝達された場合は生涯に90〜100%が発症する一方で母由来の伝達では腫瘍形成がきわめてまれであること、頭頸部パラガングリオーマは機能性であることがまれで単一施設シリーズでは7.7%が臨床的に意義のあるカテコールアミン分泌腫瘍と判定され血漿ノルメタネフリンが基準値上限の2倍を超えたのは2.3%であったこと、評価には臨床評価に加えて血漿または尿のメタネフリンと血漿3-メトキシチラミンの測定を推奨すること、頭頸部パラガングリオーマの病期診断ではMRI(MRAを含む)が最も感度の高い放射線学的手法でありソマトスタチン受容体PETは副交感神経性の原発巣・転移巣に対する感度がほぼ100%に達すること、新規診断の頸静脈・迷走神経・頸動脈小体パラガングリオーマで治療の差し迫った適応が無い場合はまず経過観察を行い腫瘍の挙動を把握すること、増大の持続や頭頸部の重要構造の圧迫があれば外科的切除を含む介入を行うこと、定位放射線治療を一次治療または手術の補助として推奨すること、転移リスクが全体で約5%・SDHD傍神経節腫のプール解析で4%であること、新規病変・転移・進行の検出のため少なくとも2〜3年ごとに全身MRIを行い年1回の血圧測定・臨床評価・生化学検査を行うことを推奨していることを確認した。閲覧 2026-09-03