内科学

内科学 · S-13

骨軟化症とくる病

Osteomalacia and Rickets

前提:病態
カルシウム・リン代謝と骨格系への影響
前提:正常
カルシウム代謝と骨・成長の生理学
薬剤
ブロスマブ
疾患
X連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症くる病・骨軟化症ビタミンD依存性くる病腫瘍性骨軟化症低ホスファターゼ症
症状
O脚・X脚
検査値
アルカリホスファターゼビタミンD代謝物血清リン
画像所見
偽骨折

🧠 全体像:くる病(rickets)は、は形成されたのである。単なる骨密度低下である骨粗鬆症と異なり、ビタミンD・Ca・リン代謝異常と上昇を伴う。

病態と鑑別

flowchart TD
    A["ビタミンD欠乏・Ca不足"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal calcium absorption'>腸管Ca吸収</span>低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parathyroid hormone'>PTH</span>上昇"]
    C --> D["腎リン排泄増加"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcium-phosphate product'>Ca×リン積</span>低下"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='osteoid'>類骨</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth plate'>成長板</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defective mineralization'>石灰化障害</span>"]
病態 主な部位 代表所見
くる病 小児の O脚・、、、手関節拡大、
成人骨の びまん性の、の筋力低下、、
骨粗鬆症 全身の骨(石灰化は正常で骨量が減る) 無症状、または椎体・・の

原因は日光・摂取不足、吸収不良、胆汁うっ滞、腎肝疾患、、、関連疾患、ビタミンD作用異常などである。

診断

25(OH)D、補正/イオン化Ca、リン、ALP、PTH、クレアチニン、肝機能、尿Ca・リンを測定する。栄養性では25(OH)D低値、リン低値、・高値が典型で、Caは正常のこともある。

💡 25(OH)Dの「欠乏」「不足」の線引きは学会ごとに違い、近年は枠組みそのものが揺れている。 重度のビタミンD欠乏(25(OH)D <30 nmol/L=約12 ng/mL)を是正すべきことには合意があり、多くのガイドラインは高齢者の骨の健康のために >50 nmol/L(約20 ng/mL)を勧めてきた。一方、ベースラインが >50 nmol/L の充足した成人に補充しても癌・心血管イベント・転倒・2型糖尿病への進展は減らないことが無作為化試験(VITAL・ViDA・D2d、合計3万人超)で示されている1。米国内分泌学会の2024年版は2011年版を置き換え、30 ng/mL(75 nmol/L)という目標値も、充足・不足・欠乏を定義する具体的な25(OH)D値も「もはや支持しない」(原文は “no longer endorses”)と本文に明記した——検討した集団で、別の便益に結び付く25(OH)Dの閾値を支持するの証拠が見つからなかったことを理由としている。健常成人へのルーチンの25(OH)Dスクリーニングも提案していない(GRADEのsuggest against=条件付き、確実性は非常に低い)2。⚠️ ただしこれは「が確立していない人での」についての判断で、指針自身が「ビタミンD治療・25(OH)D測定の適応が確立した人には当てはまらない」「ビタミンD代謝に不利に働く基礎疾患のある人へ外挿してはならない」と書いている。 くる病・を疑う患者、吸収不良・肝腎疾患・副甲状腺疾患のある患者では、従来どおり25(OH)Dを測る。

⭐ 一方、日本の国内標準はいまも具体的な数値基準を置いている。 日本内分泌学会・日本学会(厚生労働省難治性疾患克服研究事業の研究班との合同)の判定指針は、血清25(OH)Dが 30 ng/mL以上 を充足、20 ng/mL以上30 ng/mL未満 を不足、20 ng/mL未満 を欠乏と判定する3。米国内分泌学会2024年版が判断しているのは上に引いたとおり「治療・測定の適応が確立していない人での」の範囲であり、国内の判定指針が骨・ミネラル代謝の評価のために置いている区分とは射程が異なる。国内の症例で25(OH)Dの値を読むときは判定指針の区分を使い、国際的な議論を引くときはどちらの枠組みの話かを分けて書く。

X線ではの、小児の・像・拡大を確認する。は骨量を示すがを確定せず、は診断困難例に限る。

治療

栄養性ではビタミンDと十分なCaを補い、Ca・リン・・と症状を追う。吸収不良や肝腎疾患では製剤・用量を調整する。リン補充はなど適応を確認して行い、単純なビタミンD欠乏へルーチンで追加しない。は原因腫瘍切除、などは専門的治療を行う。

💡 が原因のには、そのものを止める薬がある。 抗抗体は、1〜12歳の性くる病61例の第3相試験で、経口リン+の従来治療を続ける群に比べ40週時点のくる病重症度(RGI-C総合スコア)を有意に改善した(最小二乗平均 +1.9 対 +0.8、差1.1、95%CI 0.8〜1.5、P<0.0001)4。有症状の成人134例のでも、がを超えた者が94.1%(7.6%)、24週時点で活動性骨折・の43.1%が完全治癒した(7.7%、16.8)5。「リンを足す」だけが唯一の道ではなくなった。

⭐ 日本にもの診療ガイドラインがある(2026年1月公開)。 厚生労働科学研究費の難治性疾患政策研究班と日本内分泌学会・日本学会・日本学会が合同で作成した診療ガイドラインは、小児・成人のいずれについてもの使用を「強い推奨」(エビデンスの確実性B)とし、小児では従来治療(製剤+経口リン製剤)との比較でも「強い推奨」を与えている。対して従来治療そのものへの推奨は小児・成人とも「弱い推奨」(エビデンスの確実性C)にとどまり、成人では・・の増悪への留意を明記している。成人への投与には「の認定を受けているなど投与可能な場合」という条件が付いている。⚠️ 妊娠中・授乳中の患者については、妊娠実験動物で有害事象が報告されヒトへの投与データが無いことから「を投与しないことを提案する」(弱い推奨、エビデンスの確実性D)とし、この時期は製剤+経口リン製剤の従来治療を提案している6。

💡 は根治しうるが、原因腫瘍が見つからない。 燐酸尿性は小さく(韓国の47例では大きさの中央値1.9 cm)全身どこにでも生じ、下肢が最多(57.5%)だった。ガリウム系画像(68Ga-DOTA系)が主力で初回検査での局在成功率は77.3%だが、初回陰性の5例中4例(80%)は1〜2年後の再検で陽性になった。切除しても26.7%(12/45)は遺残のためを要した7。一度の陰性で探索を打ち切らない。

まとめ

  • くる病は、はのである。
  • 25(OH)DだけでなくCa、リン、、、腎機能を統合する。
  • 25(OH)Dの「充足・不足・欠乏」は、米国内分泌学会2024年版が数値基準を引っ込めた一方、日本の判定指針は30/20 ng/mLの区分を保っている。どちらの枠組みで語っているかを明示する。
  • リンは原因を確認せず機械的に補充しない。
  • では国内ガイドラインがを小児・成人とも強い推奨とし、従来治療は弱い推奨である。妊娠中・授乳中はを投与しないことが提案されている。

出典

  1. 1.The health effects of vitamin D supplementation: evidence from human studies(Nature Reviews Endocrinology(Bouillon R, Manousaki D, Rosen C, Trajanoska K, Rivadeneira F, Richards JB)・2022)ビタミンD補充が乳幼児・小児の栄養性くる病を予防し治療できること、重度のビタミンD欠乏(血清25(OH)D 30 nmol/L未満)は是正すべきという点で合意があること、多くのガイドラインが高齢者の骨の健康のために血清25(OH)D 50 nmol/L超を推奨していること、一方でVITAL・ViDA・D2dの各無作為化比較試験(合計3万人超)はベースラインの25(OH)Dが50 nmol/L超の充足した成人への補充が癌・心血管イベント・転倒・2型糖尿病への進展のいずれも予防しないことを示したこと、60件を超えるメンデル無作為化研究の多くも生涯にわたる遺伝的な25(OH)D低値の影響について無効の結果であったこと(多発性硬化症のリスク増加を示した4件を除く)を確認した閲覧 2026-08-25
  2. 2.Vitamin D for the Prevention of Disease: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2024)本文(List of Recommendationsの注記)で確認した。「The Guideline Development Panel did not find clinical trial evidence that would support establishing distinct 25(OH)D thresholds tied to outcome-specific benefits in the populations examined. Hence, the Endocrine Society no longer endorses the target 25(OH)D level of 30 ng/mL (75 nmol/L) suggested in the previous guideline. Similarly, the Endocrine Society no longer endorses specific 25(OH)D levels to define vitamin D sufficiency, insufficiency, and deficiency.」——2011年版の30 ng/mLという目標値も、充足・不足・欠乏を定義する具体的な25(OH)D値も、もはや支持しないと明記している。健常成人へのルーチンの25(OH)Dスクリーニングはsuggest against(条件付き・確実性は非常に低い)。適用範囲についても「These recommendations are not meant to replace the current DRIs for vitamin D, nor do they apply to people with established indications for vitamin D treatment or 25(OH)D testing.」「Importantly, the panel's recommendations should not be extrapolated to those with underlying medical conditions that are known to negatively impact vitamin D physiology.」と明記している。取得経路はacademic.oup.comのHTML(curlは403、WebFetchでは本文が取れた)閲覧 2026-09-05
  3. 3.Assessment criteria for vitamin D deficiency/insufficiency in Japan — proposal by an expert panel supported by Research Program of Intractable Diseases, Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan, The Japanese Society for Bone and Mineral Research and The Japan Endocrine Society [Opinion](日本内分泌学会・日本骨代謝学会(厚生労働省難治性疾患克服研究事業ホルモン受容機構異常に関する調査研究班)・2017)英語版(Endocrine Journal 64巻1〜6頁)の本文で判定基準を確認した。「Serum 25(OH)D level equal to or above 30 ng/mL is considered to be vitamin D sufficient.」「Serum 25(OH)D level less than 30 ng/mL but not less than 20 ng/mL is considered to be vitamin D insufficient.」「Serum 25(OH)D level less than 20 ng/mL is considered to be vitamin D deficient.」——すなわち30 ng/mL以上が充足、20 ng/mL以上30 ng/mL未満が不足、20 ng/mL未満が欠乏である。日本語版(日本内分泌学会雑誌 Vol. 93 Suppl. Mar. 2017、jsbmr.umin.jpのPDF)の「1) 血清25(OH)D濃度が30 ng/ml以上をビタミンD充足状態と判定する」以下の4項目と一致する。発行は日本内分泌学会・日本骨代謝学会と厚生労働省難治性疾患克服研究事業の研究班の合同である閲覧 2026-09-06
  4. 4.Burosumab versus conventional therapy in children with X-linked hypophosphataemia: a randomised, active-controlled, open-label, phase 3 trial(The Lancet(Imel EA et al.)・2019)1〜12歳のX連鎖性低リン血症性くる病61例を対象とした無作為化非盲検第3相試験で、抗FGF23抗体ブロスマブ(0.8 mg/kgを2週ごと皮下注、29例)は経口リンと活性型ビタミンDによる従来治療の継続(32例)に比べ、40週時点のくる病重症度(Radiographic Global Impression of Change 総合スコア)を有意に改善した(最小二乗平均 +1.9 対 +0.8、差1.1、95%CI 0.8〜1.5、P<0.0001)。くる病重症度に加え成長と生化学所見でも改善が大きかった閲覧 2026-08-25
  5. 5.A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Phase 3 Trial Evaluating the Efficacy of Burosumab, an Anti-FGF23 Antibody, in Adults With X-Linked Hypophosphatemia: Week 24 Primary Analysis(Journal of Bone and Mineral Research(Insogna KL et al.)・2018)低リン血症と疼痛のある成人X連鎖性低リン血症134例の二重盲検プラセボ対照第3相試験で、ブロスマブ1 mg/kgを4週ごと皮下投与した群では投与間隔の中間時点の平均血清リンが正常下限を超えた者が94.1%(プラセボ7.6%、P<0.001)、24週時点でベースラインの活動性骨折・偽骨折の43.1%が完全治癒(プラセボ7.7%、治癒のオッズ比16.8、P<0.001)、WOMACのこわばりスコアもプラセボより有意に改善した。血清・尿カルシウム、intact PTH、腎石灰化に意味のある変化はなかった閲覧 2026-08-25
  6. 6.Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of X-linked hypophosphatemia in Japan(X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症診療ガイドライン)(日本内分泌学会・日本小児内分泌学会・日本骨代謝学会(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業)・2026)J-STAGEのPDF全文(日本内分泌学会雑誌 Vol. 101 Suppl. Guideline1、全206頁、2026年1月20日公開)の推奨一覧で確認した。CQ10「小児XLH患者に対してブロスマブは、くる病、低リン血症、低身長を考慮した場合に有用であり、忍容性も高く、使用を推奨する」(エビデンスの確実性B、推奨の強さ 強い推奨)。CQ11 成人XLHについても「指定難病の認定を受けているなど投与可能な場合、使用することを推奨する」(B、強い推奨)。CQ12 小児で従来治療との比較でも「強い推奨」(B)。一方CQ8(小児の従来治療)とCQ9(成人の従来治療)はいずれも「提案する」=弱い推奨(エビデンスの確実性C)で、CQ9は三次性副甲状腺機能亢進症・尿路結石・慢性腎臓病の増悪への留意を明記する。CQ14は「妊娠実験動物においてブロスマブによる有害事象が報告されていること、妊娠・授乳期のヒトにブロスマブを投与したデータがないことから、妊娠中、授乳中のXLH患者に対してブロスマブを投与しないことを提案する」(エビデンスの確実性D、弱い推奨)で、CQ13は同じ時期に活性型ビタミンD製剤+経口リン製剤の従来治療を提案する(C、弱い推奨)閲覧 2026-09-06
  7. 7.Challenges in Evaluation and Management in Tumor-Induced Osteomalacia: A Retrospective Institutional and Literature-Based Scoping Review in Korean Patients(Journal of Bone Metabolism・2025)韓国の腫瘍性骨軟化症47例(男性53.2%、年齢中央値52歳)の検討で、原因腫瘍は下肢に最も多く(57.5%)大きさの中央値は1.9 cmと小さいこと、45例で外科的切除(ラジオ波焼灼を含む)が行われ26.7%(12/45)が遺残腫瘍のため再手術を要したこと、ガリウム系画像が最も多く用いられる局在診断法で初回検査での局在成功率が77.3%であったこと、初回陰性であった5例のうち4例(80%)は1〜2年後の再検査で陽性所見を示したことを確認した。腫瘍が小さく全身に分布しうるため局在は依然として難しく、一度陰性でも画像を繰り返す価値がある閲覧 2026-08-25