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Disease Atlas · 内分泌・代謝 · 先天性疾患

舌性甲状腺

Lingual thyroid

臓器系
内分泌・代謝耳鼻咽喉科
科目
Embryology
トピック
発生学 16.2:頭頸部:舌と甲状腺発生学 16.4:頭頸部:臨床
鑑別疾患
先天性頸部嚢胞(甲状舌管嚢胞・鰓裂嚢胞)
続発疾患
甲状腺機能低下症
症状
嚥下障害
検査値
甲状腺刺激ホルモン
画像所見
甲状腺シンチグラフィ集積パターン

🧠 全体像は、甲状腺が発生の過程でから頸部へ下降しきれず、舌根部に留まってしまったである。単なる「場所を間違えた余分な組織」ではない——70%を超える症例で、このこそが体内で唯一機能している甲状腺組織である1。だから「舌根部の腫瘤だから切除する」という短絡が最も危険で、切除前に他の甲状腺組織の有無を確認しなければ、患者を生涯にわたる症にしてしまうと発生学的に同じ下降路()を共有する“ルート違い”の異常として対で理解する。

発生学

甲状腺は妊娠第4週ごろ、舌の前2/3と後1/3の境界にあたるの部位で、咽頭底の内胚葉が陥入してできるとして発生する。この原基はに沿って尾側へ下降し、舌骨の前方を通過して頸部の置(気管前方)に到達する1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foramen cecum'>舌盲孔</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='median thyroid diverticulum'>正中甲状腺憩室</span>が発生"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglossal duct'>甲状舌管</span>に沿って尾側へ下降"]
    B --> C{"下降は正常に完了するか"}
    C -->|"完了"| D["頸部の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stereotactic'>定位</span>置に甲状腺が定着"]
    C -->|"途中で停止・不完全"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ectopic thyroid'>異所性甲状腺</span>"]
    E --> F["最も多い停止部位:舌根部(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foramen cecum'>舌盲孔</span>付近)=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lingual thyroid'>舌性甲状腺</span>"]
    B --> G["下降路(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglossal duct'>甲状舌管</span>)が退行せず遺残"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglossal duct cyst'>甲状舌管嚢胞</span>"]

甲状腺の下降との退行は同じ発生過程の別々の側面であり、下降そのものが止まれば、下降は完了したのに通り道(管)だけが消え残ればという関係になる。の中で最も頻度が高い部位である。

臨床像

  • 多くは無症候で、他の目的の画像検査や咽頭の診察で発見される。
  • 症候性の場合は舌根部の腫瘤感、嚥下障害、いびき・閉塞性の呼吸症状として現れる。
  • 甲状腺は下降中に大きくなる時期(思春期、妊娠)に反応性に腫大しうるため、これらの時期に症状が顕在化・増悪することがある。
  • 表面が発赤・腫瘤として気づかれることもあり、生検や不用意な切開で予期しない出血を来しうる。

⚠️ 舌根部正中の腫瘤を診た際に、頸部に正常な甲状腺の触知がなければ、まず(=唯一の甲状腺組織かもしれない)を疑う。

診断

診断の中心は機能画像で「これがどれだけの甲状腺機能を担っているか」を確認することであり、単なる腫瘤の形態評価では終わらない。

  1. TSH・遊離T4)で、原発性症の有無を確認する。無症候の症例でもTSH高値を呈することがある。
  2. で頸部正常位置に甲状腺組織があるかをまず確認する。
  3. 放射性ヨードまたはによる取り込みパターン)で、舌根部の腫瘤が機能する甲状腺組織であることを確定し、同時に頸部に他の機能甲状腺組織が残っていないかを評価する1。この所見が、(機能組織を含まない)を鑑別する決め手にもなる。
  4. 手術を計画する場合は、CT・MRIで気道へのや周囲との関係を評価する。

を行わずに「舌根部の甲状腺様腫瘤=余分な組織」と判断して切除しない。 70%を超える症例で唯一の機能甲状腺である1

治療

は「唯一の甲状腺組織かどうか」と症状の有無で決まる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lingual thyroid'>舌性甲状腺</span>と診断"] --> B{"無症候か"}
    B -->|"無症候・機能正常"| C["経過観察"]
    B -->|"症候性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypothyroidism'>甲状腺機能低下</span>あり"| D["まず甲状腺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hormone replacement therapy (HRT)'>ホルモン補充療法</span>"]
    D --> E{"症状・サイズが改善するか"}
    E -->|"改善"| F["補充療法を継続、手術を回避"]
    E -->|"不十分・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='airway symptoms'>気道症状</span>が強い・出血や<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulceration'>潰瘍化</span>"| G["外科的切除を検討"]
    G --> H{"唯一の機能甲状腺か"}
    H -->|"はい"| I["切除後は生涯にわたる甲状腺ホルモン補充が必須"]
    H -->|"いいえ(他に正常甲状腺あり)"| J["切除のみで補充不要のことが多い"]
  • 無症候例:経過観察でよい。
  • 軽症〜中等症の症候例:まず甲状腺を行う。TSHを抑制することで組織のサイズ縮小が得られ、手術を回避できる可能性がある2
  • 手術適応:ホルモン補充で反応しない、高度の気道閉塞症状、出血、、悪性が疑われる場合に外科的切除(多くは経口的または内視鏡下切除)を行う。切除後、有症状であれば放射性ヨードによるも選択肢になる。
  • ⚠️ 手術の前に、他に機能する甲状腺組織が頸部に存在するかを必ず確認する。 70%を超える症例でこの舌根部組織が唯一の甲状腺であり、確認を怠って切除すると患者は生涯にわたる甲状腺ホルモン補充が必要な症になる1。他に機能組織があると確認できれば、切除のみで補充が不要なこともある。
  • 唯一の機能組織を温存したい場合、切除した組織を頸部する選択肢も報告されている。

甲状舌管嚢胞との関係

同じという発生経路の異常だが、現れ方が対照的である。

項目
異常の本体 甲状腺そのものの下降不全 下降路()の遺残
位置 舌根部(付近) 頸部正中、多くは舌骨近傍
機能甲状腺組織を含むか 含む(70%超で唯一の甲状腺) 通常含まない
嚥下・舌突出での可動性 舌根部に固定 舌骨と連続し上下に動く
術前に確認すべきこと 頸部に他の甲状腺組織があるか( 頸部正常位置に甲状腺があるか(超音波)

の術前評価で頸部超音波を行うのも、この裏返しの関係——嚢胞を切除する前に、そもそも頸部に甲状腺があるか(=唯一の甲状腺が実は舌根部にないか)を確かめるためである。

まとめ

  • は甲状腺の下降不全によるで、最も頻度の高いの部位である。
  • 70%を超える症例で、このが体内で唯一機能する甲状腺組織である。
  • 診断の核心はで機能組織の分布を確認することであり、これがとの鑑別にもなる。
  • 治療は無症候なら経過観察、症候性ならまず甲状腺(サイズ縮小が期待できる)を試み、手術は反応不良・・出血などに限る。
  • ⚠️ 手術前に他の甲状腺組織の有無を確認しないまま切除すると、生涯にわたる甲状腺ホルモン補充が必要な症を招く。

出典

  1. 1.Ectopic Thyroid(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)舌性甲状腺症例の70%を超える例で正常な頸部甲状腺を欠く(=その異所性組織が唯一の機能甲状腺である)こと、手術切除の前に他に機能する甲状腺組織が存在しないことを確認することが不可欠であること、唯一の甲状腺組織であった場合は生涯にわたる甲状腺ホルモン補充が必要になること、鑑別診断には甲状腺シンチグラフィが用いられ甲状舌管嚢胞との鑑別に有用であることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Lingual thyroid gland: it's time for awareness(Endocrinology, Diabetes & Metabolism Case Reports・2020)甲状腺ホルモン補充療法(THRT)による抑制治療が異所性甲状腺組織のサイズ縮小と関連することが報告されており、症状を伴う軽症例では手術を回避できる選択肢になりうること、手術療法は重度の甲状腺機能低下症を来し得ることを確認した閲覧 2026-08-11