内科学

内科学 · S-64

電撃傷の内科的管理

General Medical Aspects of Electrical Injuries

前提:正常
心臓における興奮の発生と伝導。ペースメーカー電位の機序。神経筋接合部と骨格筋の生理学。
疾患
横紋筋融解症

🧠 全体像:は皮膚の小さな接触痕に比して深部筋・神経・血管損傷が大きいことがある。まず電源遮断と救助者の安全を確保し、心停止・不整脈、熱傷、、、外傷を系統的に評価する。

損傷を決める因子

  • 電圧、交流/、電流量、接触時間、皮膚抵抗、経路
  • 交流はで離脱不能を起こしやすく、胸郭を横切る経路は心臓リスクが高い
  • は深部壊死、は表在熱傷・眼障害を起こす
  • は瞬間的で、心停止、麻痺、鼓膜・眼・神経障害を起こす

⚠️ 「は、交流は」は誤った定説である。 死の主機序はの誘発であり、窒息や中枢神経損傷を主機序とする説も含めて1世紀近い誤解が残っている。心臓は交流にきわめて感受性が高く、ペーシングに要する電流の8分の1でが誘発されうる。の電流なら通常1〜2秒でに至るため、「が長いほど危険」という単純な関係でもない。ただし(最大500 MV)は別で、急性・慢性の作用により以外の心停止を来しうる。1

障害 所見・評価
心臓 心停止、、、;12誘導ECG
皮膚・深部組織 /、深部筋壊死、進行する浮腫
腎・代謝 myoglobin尿、、高K;、電解質、尿検査
神経 意識障害、痙攣、末梢神経障害、遅発症状
外傷 筋収縮・による脊椎、骨折、、

初期対応

flowchart TD
    A["電源遮断・現場安全"] --> B["反応・呼吸・脈拍を確認"]
    B -->|"心停止"| C["CPR+AED/ALS"]
    B -->|"循環あり"| D["ABCDE+外傷固定+12誘導ECG"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high'>高電圧</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss of consciousness'>意識消失</span>/胸痛/ECG異常/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='severe burn'>重症熱傷</span>"}
    E -->|"あり"| F["入院モニタリング+熱傷・外傷科への相談"]
    E -->|"なし"| G["創・神経・筋損傷を評価"]

電源遮断前に患者へ直接触れない。標準蘇生、酸素化、外傷対応を行う。、、胸痛、胸郭、ECG異常、不整脈、重大な基礎心疾患では継続を行う。一方、曝露後に無症候で診察・ECGが正常なら、遅発性を理由に全例を長時間入院させる必要はない。

💡 「遅発性が怖いから全例モニター」を支える実データが無い。 21施設で胸郭を横切る・・・1000 V以上のいずれかをもつ134例を24時間モニターした前向き研究では、初回心電図異常は11%にみられたが、致死的となりうる遅発性不整脈を起こした患者は一人もいなかった。そこから「1000 V未満・なしで、胸郭やがあっても、無症候で初回心電図が正常ならは要らない」とされた。2 268例の後ろ向き解析でも、入院時に軽微な不整脈(・・単発)を小児28.7%・成人24.2%に認めたが、入院中に介入を要する不整脈を起こした患者はいなかった。3

深部組織損傷

十分な輸液で尿量を確保し、、K、腎機能、尿色を追う。四肢の強い疼痛、、神経血管障害はとして術を検討する。熱傷面積だけで重症度を過小評価せず、傷はへ相談する。創処置と破傷風予防も行う。

⚠️ ・が見つからないことのほうが多い。 的検索では、損傷例の約3分の2で体表に典型的なを認めない。「が無いからしていない」とは言えず、経路は曝露状況と接触部位から推定する。4

まとめ

  • 救助者の安全と電源遮断なしに接触しない。
  • 小さな皮膚創でも深部筋壊死、、を検索する。
  • ECGと曝露リスクでモニタリングを層別化し、低リスク全例を不必要に入院させない。

出典

  1. 1.The electrophysiology of electrocution(Heart Rhythm O2・2023)感電死の機序は心室細動の誘発であり、窒息や中枢神経損傷を主機序とする説は1世紀近い誤解の産物であること、「直流は心室細動ではなく心静止を起こす」というのは今も残る誤った定説であること、心臓は交流にきわめて感受性が高くペーシングに要する電流の8分の1で心室細動が誘発されうること、致死量の電流であれば通常1〜2秒で心室細動に至り通電が長いほど危険になるわけではないこと、落雷(最大500 MV)は別で急性・慢性の神経学的作用により他の心停止調律を来しうることを確認した閲覧 2026-08-25
  2. 2.Cardiac monitoring of high-risk patients after an electrical injury: a prospective multicentre study(Emergency Medicine Journal・2007)21施設の救急部で2000年10月〜2004年11月に、胸郭を横切る通電・強直・意識消失・1000 V以上のいずれかの危険因子をもつ電撃傷患者134例を前向きに登録して24時間の心電図モニタリングを行った研究で、初回心電図の異常は15例(11%)にみられたが、モニタリング中に致死的となりうる遅発性不整脈を発症した患者は一人もいなかったこと、したがって1000 V未満の電撃傷で意識消失が無ければ、胸郭を横切る通電や強直があっても、無症候で初回心電図が正常な患者に心電図モニタリングは要らないと結論したことを確認した閲覧 2026-08-25
  3. 3.Cardiac monitoring in patients with electrical injuries. An analysis of 268 patients at the Charité Hospital(Deutsches Ärzteblatt International・2013)2001〜2008年にシャリテ病院へ電撃傷(ICD T75.4)で入院した小児・成人268例の後ろ向き解析で、全例が通常12時間を超える心電図モニタリングを受けたこと、入院時に軽微な不整脈(洞頻脈・洞徐脈・単発の期外収縮)を小児33例(28.7%)・成人33例(24.2%)に認めたが、入院経過中に介入を要する不整脈を発症した患者は一人もいなかったこと、症例数が確定的な結論を出すには不十分としつつ、無症候で他に損傷が無く心電図変化も無い患者は経過観察目的の入院を要さないとする先行研究群の所見と一致することを確認した閲覧 2026-08-25
  4. 4.Advances in forensic diagnosis of electric shock death in the absence of typical electrical marks(International Journal of Legal Medicine・2021)電撃損傷例の約3分の2で体表に典型的な電撃痕を認めないこと、電撃痕が無い症例での感電死の判定が法医実務の難問であり、主要臓器の組織所見を探すより採取部位の選定が重要であること(手から足への通電経路であれば前腕掌側と内果の採取が有用)を確認した閲覧 2026-08-25