生理学

生理学 · 2.1

心臓における興奮の発生と伝導。ペースメーカー電位の機序。ペースメーカー活動と興奮伝導の調節。

Impulse generation and conduction in the heart. Mechanism of pacemaker potential. Control of pacemaker activity and impulse conduction.

応用トピック
徐脈性不整脈上室性不整脈心房細動電気的および薬理学的カルディオバージョン心室性不整脈不整脈のアブレーション治療ペースメーカーの適応と種類ICDとCRT:適応と種類院内における一次救命処置と二次救命処置周停止期不整脈の診断と治療心房細動徐脈患者の鑑別診断と管理頻脈患者の鑑別診断と管理心臓の刺激生成・伝導障害薬物中毒―ジギタリス・オピオイド・ベンゾジアゼピン・パラセタモール電撃傷の内科的管理低体温症の内科的管理小児の不整脈(徐脈・頻脈)薬剤性有害反応:徐脈・房室ブロック
症状
徐脈

🧠 (sinoatrial node, SA結節)のは「funnyチャネルが緩徐に脱分極→T型が起爆→L型が本格的に脱分極させる」という3段ロケットだと捉える。交感神経はこのロケットのを速め(If↑)、副交感神経はブレーキ(GIRK経由の過分極)をかける——この単純な図式に、の「速い応答(心筋)vs遅い応答(結節)」という対比を重ねれば全体が繋がる。

心臓の2種類の活動電位

心臓は収縮細胞(, cardiac myocyte)とから成り、は右房のSA結節に存在する。

速い応答 遅い応答
存在部位 心房・心室筋 (SA・AV結節)
相 0()→1(部分再分極)→2()→3(完全再分極)→4(静止電位) 相1・2(部分再分極・)を欠く
静止電位(相4) より負 より浅い
の傾き(slope of upstroke) 緩やか
振幅 大きい 小さい
伝導 速く、ブロックされにくい 遅く、ブロックされやすい

ペースメーカー電位の機序

SAは——刺激なしに自発的に脱分極してAPを発生する性質——を持つ。関与する電流とチャネルは以下の通り。

電流 チャネル イオン 方向 機能
I_f(funny current) HCN4(HCN1、hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated channel) Na⁺ 内向き(inward) 約−50mV以下の過分極+↑で活性化。電位を作る
I_Ca,T T型VDCC(transient-type voltage-dependent Ca²⁺ channel) Ca²⁺(一部Na²⁺) 内向き 約−60mVでの初期の一過性脱分極
I_Ca,L L型VDCC(long-lasting-type) Ca²⁺ 内向き 約−30mVでの持続的脱分極
I_K 各種 K⁺ 外向き(outward) 再分極
I_K,ACh GIRK1/GIRK4(G protein-gated inwardly rectifying K⁺ channel) K⁺ 外向き ACh刺激による過分極
flowchart TD
  A["相4:再分極直後(約-60mV以下)"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='HCN channel'>HCNチャネル</span>開口→If(Na+流入)で緩徐な脱分極"]
  B --> C["約-45mV到達→T型VDCC開口→初期脱分極(一過性)"]
  C --> D["約-25mV到達→T型VDCC不活性化+L型VDCC開口"]
  D --> E["L型VDCC駆動のCa2+流入で本格的脱分極(約+20mVまで)"]
  E --> F["各種<span class='jp-term jp-term-diagram' title='voltage-gated'>電位依存性</span>K+チャネル開口→IK(外向き)で再分極"]
  F --> A

⭐ は「過分極で開く」という一見な性質を持つ。 名前どおりhyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated チャネルで、不活性化しない点も骨格筋・心筋のNa⁺チャネルと対照的。濃度が上がるとより浅い電位でも開きやすくなり、これが交感神経刺激で心拍数が上がる分子基盤になる。

💡 電位の起源はIf単独ではなく、膜電位クロック(Ifなどのイオンチャネル群)と細胞内Ca²⁺クロック(からを介して自発的・周期的に生じるCa²⁺遊離)が相互作用する「coupled-clock system」として説明されるようになった。 動物(主にウサギ)の単離細胞を用いた研究のレビューでは、両クロックが膜電位・細胞下Ca²⁺濃度・PKAおよびCaMKIIを介したリン酸化で協調し、頑健で安定したを作り出すと総括されている1。ただしIfが形成と自律神経による調節の主要な担い手であること自体は今も支持されている2。

⭐ はを選択的に遮断する薬剤である。 ウサギ細胞の膜電位固定法実験で、は開いたf-channel()を電流依存性・に遮断し、自発拍動頻度が高いほど遮断効果(=心拍数減少効果)が強まることが確認されている()3。この選択性のため、副作用の少ない薬として臨床(治療など)で用いられている2。

GIRK

副交感神経はM2受容体(Gi)を介してGIRKを開口させ、を過分極させる。これにより電位が閾値に到達するまでの時間が延び、心拍数が低下する。

ペースメーカー活動の調節

1. 自律神経系による調節

交感神経(, positive chronotropy) 副交感神経(, negative chronotropy)
受容体 β1(Gs) M2(Gi)
機序 ↑→PKA↑→HCN活性化→If↑・I_Ca,L↑ ↓→If↓、Gβγ→GIRK開口→過分極(I_K,ACh↑)
結果 脱分極が速くなり閾値到達までの時間短縮→心拍数↑ 過分極+Ca²⁺電流減少で閾値到達が遅れる→心拍数↓
支配部位 ・ =SA結節(心拍数↓)、=AV結節(↓)

⚠️ 迷走神経は心室を支配しない。 そのため副交感神経刺激は心室の収縮力低下(, negative inotropy)をもたらさない(1-10-parasympathetic-and-sympathetic-efferent-mechanisms参照)。

💡 副交感神経の効果は交感神経より強い(vagal dominance)。 β1遮断薬は心拍数を約10bpmしか下げないが、M2遮断薬は心拍数を約50bpm上げる。両方を投与すると固有の頻度である約100bpmに収束する——これは(約70bpm)が常に副交感神経による抑制を受けていることを意味する。

2. 循環ホルモン

甲状腺機能亢進症→頻脈、甲状腺機能低下症→徐脈。循環血中エピネフリンは交感神経と同様の機序で頻脈をもたらす。

SA結節が機能しない場合

の他の細胞もを持つため、自発的脱分極能力を持つ。最も脱分極速度(固有頻度, intrinsic rate)が高い部位がの役割を引き継ぐ。優先順位はAV結節>()>脚(bundle branch、Tawara束)>>の順で、ほど固有頻度は低い。

心臓内の興奮伝導

により、脱分極した領域から静止電位のままの領域へ興奮が伝わる。駆動する内向き電流は速い組織(心筋)ではNa⁺、遅い組織()ではCa²⁺。

を決める2因子:

  1. 内向き電流の大きさ: 大きいほど速い。
  2. 抵抗: (, intercalated disc)による低抵抗、太い細胞径(・プルキンジ線維)ほど速い。
組織
SA結節 <0.01 m/s
1.0–1.2 m/s
AV結節 0.02–0.05 m/s(最も遅い)
1.2–2.0 m/s
2.0–4.0 m/s(最も速い)
心室筋 0.3–1.0 m/s

⭐ AV結節の(約100ms、SA結節から心室最遠部までの総時間の約半分)は「バグ」ではなく設計。 によると、貫通部の細い線維という2要因によりに遅延させ、によるの時間を確保している。

伝導経路: SA結節→AV結節→→→→心室筋。最後に脱分極するのは心室の(房室溝付近)。

の条件: ①APがSA結節由来 ②規則的な60〜100回/分 ③正しい順序とタイミングで心筋が興奮すること。

不応期

種類 機序
内向き電流チャネルが脱分極により不活性化されたまま→再興奮不可
チャネルが不活性化から回復しつつある→強い刺激でAP再発生可

神経性調節と伝導

交感神経(, positive dromotropy) 副交感神経(, negative dromotropy)
機序 AV/SA結節のCa²⁺電流↑(促進)、短縮 Ca²⁺電流↓+K⁺電流↑(過分極)
効果 ↑、の回復が速まり再発火しやすくなる ↓。強いではAV結節が過分極しすぎて伝導が途絶することもある

まとめ

  • SA結節のはHCN(If)→T型VDCC→L型VDCCの順で駆動され、で再分極する。
  • 交感神経(β1-Gs-↑-If↑)は心拍数を上げ、副交感神経(M2-Gi-GIRK開口)は心拍数を下げる。迷走神経の効果の方が強い(vagal dominance)。
  • はNa⁺/Ca²⁺電流の大きさと細胞径・抵抗で決まり、AV結節が最も遅く(遅延)、が最も速い。
  • は(チャネル不活性化)と(回復途上)に分かれる。

出典

  1. 1.A coupled SYSTEM of intracellular Ca2+ clocks and surface membrane voltage clocks controls the timekeeping mechanism of the heart's pacemaker(Circulation Research・2010)動物(主にウサギ)の単離洞房結節細胞を用いた研究を総括したレビューで、ペースメーカー細胞の自動能は表面膜のイオンチャネル群による「膜クロック」と、筋小胞体からリアノジン受容体を介して自発的・周期的に生じる細胞内Ca2+遊離による「Ca2+クロック」の2つの機構が、膜電位・細胞下Ca2+・PKAおよびCaMKIIを介したリン酸化で相互作用し協調する「coupled-clock system」として説明されると総括したこと閲覧 2026-08-26
  2. 2.The role of the funny current in pacemaker activity(Circulation Research・2010)レビューで、If電流が洞房結節ペースメーカー細胞の相4脱分極の傾きひいては自動能頻度を決める主要な電流であり、cAMPを介したβ交感神経・M2副交感神経による自律神経調節の基本機序であること、選択的にf-channelを遮断する薬剤イバブラジンが安定狭心症治療薬として臨床使用されていること、HCN4の機能喪失変異がヒトの遺伝性洞性徐脈の原因となることを確認したこと閲覧 2026-08-26
  3. 3.Current-dependent block of rabbit sino-atrial node I(f) channels by ivabradine(Journal of General Physiology・2002)ウサギ洞房結節細胞の膜電位固定法実験(動物データ)で、イバブラジンは開いたf-channel(HCNチャネル)を電流依存性・使用依存性に遮断すること、この性質により自発拍動頻度が高いほど遮断による心拍数減少効果が増強されることを確認したこと閲覧 2026-08-26