薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · B30 Immunosuppressants / 免疫抑制薬 · 必修

ATG(抗胸腺細胞グロブリン)

ATG (antithymocyte-globulin)

分類
Immunosuppressants / 免疫抑制薬Biologics & immunomodulators / 生物学的製剤
商品名(日本)
サイモグロブリン
商品名(EU)
Thymoglobuline
科目
Pharmacology
トピック
B30: Immunopharmacology III (Antibodies and fusion proteins)
影響検査値
血小板減少
対象疾患
移植片対宿主病再生不良性貧血
原因となる疾患
血清病

🧠 全体像:ATGはこの薬効群の中で唯一、動物(現在はウサギが主流、歴史的にはウマ製剤もあった)をヒトTリンパ球で免疫して作らせるという成り立ちを持つ。単一の標的分子を狙うモノクローナル抗体(-mabの薬たち)と違い、T細胞表面の複数の抗原(CD2・CD3・CD4・CD8・CD11a・CD25・HLAクラスI/IIなど)に同時に結合する「霧のような薬で、より強力かつ非選択的なを起こす。この強さゆえに移植免疫・という「T細胞をまとめて叩きたい」場面で使われる。

薬効群の中での位置づけ

標的 薬剤(語尾・由来) 抗体の由来 主な適応
T細胞(複数抗原、 ATG (ウサギ/ウマ) /GVHD予防
CD80/86(T細胞 (-cept) RA・PsA・JIA
α4-integrin (-zumab) ヒト化 MS・Crohn病
TNF-α /ヒト RA・IBD・乾癬

B30の他の薬がすべて単一分子を狙う「精密狙撃」なのに対し、ATGだけが複数抗原を同時に狙う「面制圧」。 モノクローナル抗体は語尾(-ximab/-zumab/-umab/-cept)で由来が読み取れるが、ATGはそもそもモノクローナルではなくであるため、この規則の枠外にある——「例外」として位置づけを理解しておく。

機序

flowchart TD
    A["ヒトTリンパ球(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymocyte'>胸腺細胞</span>)で<br>ウサギ/ウマを免疫"] --> B["T細胞表面の複数抗原<br>(CD2・CD3・CD4・CD8・CD11a・CD25・HLA-I/II等)<br>に対する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polyclonal antibody'>ポリクローナル抗体</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='purification'>精製</span>"]
    B --> C["ATGが循環血中・リンパ組織の<br>T細胞表面の複数抗原に同時結合"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CDC'>補体依存性細胞傷害</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ADCC'>抗体依存性細胞傷害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opsonization'>オプソニン化</span>"]
    C --> F["Fc受容体を介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apoptosis induction'>アポトーシス誘導</span>"]
    D --> G["末梢血・リンパ組織のT細胞が<br>大量に枯渇"]
    E --> G
    F --> G
    G --> H["細胞性免疫が強く抑制される<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transplantation rejection'>移植拒絶反応</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoimmune suppression of hematopoiesis'>自己免疫性造血抑制</span>を止める)"]

💡 でATGが効く理由は「が造血幹細胞を攻撃している」という病態理解に基づく。 特発性の多くは、活性化したが骨髄の造血幹細胞・前駆細胞を自己免疫的に攻撃して破壊する病態であり、ATGはこの攻撃側のT細胞を非選択的に枯渇させることで造血の場を守る。移植領域では逆に、を起こすT細胞、あるいはドナー由来でGVHDを起こすT細胞を標的にする。

薬物動態

項目 値・特徴
IV(緩徐に、通常から)
分布 血漿・リンパ組織
代謝
排泄 でのクリアランス
半減期 数日〜2週間程度(免疫抑制効果自体はされたT細胞が処理されるまで持続し、薬物血中濃度の半減期より長く続く)

以上に重要。 蛋白の急速な投与はを起こしやすいため、ステロイド・抗ヒスタミン薬・と緩徐なが必須になる。

適応

(重症例でと併用する免疫の中心)、・臓器移植におけるの予防/治療、の予防。

用法・用量

IV。体重換算の投与量で、複数日にわたり連日投与するレジメンが一般的(では通常4〜5日間)。としてステロイド・抗ヒスタミン薬(±)を必ず併用し、初回投与は特に緩徐な速度で慎重にモニタリングしながら行う。実際の用量・投与日数は適応・製剤(ウサギ由来かウマ由来か)で異なるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌、ウサギ/ウマ蛋白への過敏症(既知のアレルギーがある場合は特に注意)
  • ⚠️ :投与開始後1〜2週間で発熱・関節痛・皮疹・リンパ節腫脹などのが出ることがある(動物蛋白に対する遅延型免疫反応)
  • ⚠️ 血小板減少:ATGは血小板表面の抗原ともすることがあり、投与中は血算を頻回にモニタリングする
  • 強力な非選択的T細胞抑制のため、投与後は感染・(CMVなど)のリスクが高まる

副作用

頻度 内容
高頻度 (発熱・悪寒)、
注意 血小板減少
重篤・まれ 、アナフィラキシー、重症感染(感染・を含む)

まとめ

  • (ウサギ/ウマ)の。T細胞表面の複数抗原に同時結合し、複数の機序(CDC・ADCC・)でT細胞を強力に枯渇させる。
  • B30の他の薬がモノクローナル抗体・で単一標的を狙うのに対し、ATGだけが「面制圧」型の例外的な存在。
  • では「が造血幹細胞を攻撃している」という病態を是正する治療として使う。
  • 移植領域では・GVHDの予防/治療に用いる。
  • (ステロイド・抗ヒスタミン薬)と緩徐なの予防に必須。
  • 血小板減少のモニタリングと、強力な免疫抑制に伴う感染・への警戒を忘れない。