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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

翼状片

Pterygium

臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
組織学 17.1:感覚器:眼発生学 19.3:眼:水晶体・角膜・脈絡膜・強膜・硝子体
関連疾患
強膜軟化症輪部幹細胞疲弊症
治療薬
マイトマイシンC
症状
流涙視力低下

🧠 全体像:は「が角膜へ乗り上げてくる」の増殖で、生涯にわたる紫外線曝露の蓄積がその背景にある。⭐ 診断はほぼ見た目で決まる。難しいのは診断ではなく、手術をするかどうかと、手術後の再発である。 だけで切除すると再発率は最大で9割近くに達し、再発の9割は術後1〜3か月に起こる1。だから「切って終わり」にならない疾患であり、⚠️ さらに手術そのものがの項で扱うの最多の原因術式でもある2。切る理由と切らない理由の両方を持って患者に向き合う疾患である。

定義と所見

は組織の三角形の増殖で、輪部を越えて角膜に乗り上げる1。病変は3部分に分けて記載する。

部位 内容
cap 先端の帯。進行の最前線
head 角膜上に乗った周辺部
body 側の主体
  • Stocker線:の角膜側に見える褐色の線1。によるもので、病変が長く同じ位置にとどまっていたことを示す。
  • 進行型と:肉厚で血管に富むものが進行型、薄く血管に乏しいものがとして区別される1。
  • 鼻側に多い。鼻側輪部への光の集中、が耳側から鼻側へ流れること、が鼻側に2本・耳側に1本であることが理由として挙げられている1。
  • 症状は・・・整容上の問題で、にかかるとを来す1。に届く前でも、角膜を引きつれてを作ることで視機能に影響する。

⚠️ 偽翼状片との鑑別

「が角膜にくっついている」という見た目は同じでも、成り立ちがまったく違う病変がある。

項目 (真)
紫外線曝露による慢性の増殖 角膜潰瘍・などの炎症後にが癒着したもの
輪部での付着 から角膜へ連続している 輪部では付着せず、炎症性癒着で角膜に付いている
探針は病変の下を通らない 探針が病変の下を通る1
部位 鼻側(次いで耳側)の水平方向 どのにも生じる1
経過 進行性 非進行性1

⭐ がこの鑑別の実務である。 は輪部で角膜に固定されていないため、細い探針を病変の下へ通せる。はから角膜まで連続した組織なので通らない。誤ってにの手術を行っても、原因である基礎の角膜病変は残る。

そのほかの鑑別として、は輪部近くの黄色い沈着で角膜には乗り上げず通常無症候、は2.5%でし軽度の疼痛を伴う点で分かれる1。⚠️ (OSSN)を見落とさない。 ・・病理で除外する1。な外観、急速な増大、白色の角化を伴う病変を「だろう」と処理しない。

紫外線曝露と地理的分布

  • は赤道の南北37度の「」で高く、報告により0.3〜29%と大きく異なる1。
  • 住民ベース研究20件・900,545人のでは10.2%(95%信頼区間6.3〜16.1%)で、地理的緯度が低いほど、また高齢ほどが高いという傾向が認められた3。
  • は男性で2.32(95%信頼区間1.66〜3.23)、屋外活動で1.76(同1.55〜2.00)だった3。
  • 危険因子は日光紫外線への曝露時間が最大で、乾燥・環境での慢性刺激、風、高温乾燥気候が続く1。

⭐ とは、同じ曝露の急性の顔と慢性の顔である。 溶接・雪面や水面の反射・高地での作業といった急性のを繰り返す環境は、そのままの危険因子でもある。急性の眼痛が治まったあとにの指導をするのは、その場の再発予防ではなく数十年後のとを減らすためである。

病態

紫外線はを傷害する。輪部はを供給する幹細胞のある場所なので、ここが壊れるとの再生との侵入を防ぐ堤防が失われる。損傷は血管新生と細胞増殖を招き、のとその阻害因子がの分解と組織に関与すると考えられている1。

💡 はに由来し、実質はが移入して作る(発生学 19.3)。で置き換わっていくのは、この本来の角膜組織である——単に「膜が被さる」のではなく、まで壊されながら侵入していく。切除後に角膜が透明に戻らないことがあるのはこのためである。

手術:適応と再発

内科的治療(・・点眼・)は症状を和らげるが進行は止めない1。したがって治療の議論は手術の適応から始まる。

手術適応:への進入、慢性の疼痛や炎症、異常な、、整容1。

flowchart TD
    A["角膜に乗り上げる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>の増殖"] --> B{"探針が病変の下を通るか"}
    B -->|"通る・どの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='quadrant (breast quadrant)'>象限</span>にもある・非進行性"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudopterygium'>偽翼状片</span>。原因となった<br>角膜病変の評価へ"]
    B -->|"通らない・輪部から連続"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-conventional'>非典型的</span>な外観・<br>急速な増大・白色角化があるか"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ocular surface squamous neoplasia (OSSN)'>眼表面扁平上皮腫瘍</span>を<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='scrape cytology'>擦過細胞診</span>・病理で除外"]
    D -->|"なし"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual axis'>視軸</span>への進入・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='astigmatism'>乱視</span>・<br>運動制限・慢性炎症があるか"}
    F -->|"なし"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='artificial tears'>人工涙液</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='light protection (shielding)'>遮光</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conservative management'>保存的管理</span><br>進行は止まらないことを説明する"]
    F -->|"あり"| H["切除+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival autograft'>結膜自己移植</span>を基本とする"]
    H --> I["術後1〜3か月を重点的に<br>再発の有無を追う"]

⚠️ 切除法の選択がそのまま再発率を決める。

術式 再発率
(なし) 24〜89%1
+ 5.9〜21%1
5.3〜31.2%(初発で低く再発例で高い)1
0〜15%1
初発2.6〜10.7%、再発例37.5%1

⭐ のまま終える理由はほとんど無い。 単純に切除してを露出させたままにすると、傷害された輪部が再建されないので同じ場所からまたが這い上がる。は、患者自身のと輪部組織をで移して欠損を覆う術式で、この堤防を作り直すところに意味がある。

  • 8か国20試験・1,866人1,947眼のでは、はに比べて術後6か月の再発の相対危険が0.53(95%信頼区間0.33〜0.85)と低かった。術後3か月では0.87(同0.43〜1.77)で差が出ていない4。
  • 再発への手術では6か月の相対危険が0.45(95%信頼区間0.21〜0.99)と、の優位がとくに明らかだった。一方で初発例だけの部分集団では6か月0.58(同0.27〜1.27)で有意にならなかった4。
  • 有害事象としては肉芽腫・と上昇が複数の試験で報告され、の報告はなかった4。
  • ⭐ 再発を見つける時期は決まっている。再発の90%は術後1〜3か月に起こる1。再発の危険因子は男性・40歳未満・アジア/アフリカ/ヒスパニック系・乾燥した環境への持続曝露・である1。

マイトマイシンCの位置づけ

は合成を阻害するで、線維芽細胞の増殖を抑えて再発を減らす目的で術中または術後に用いる。の再発率を24〜89%から5.9〜21%へ下げると報告されている1。

⚠️ ただしの合併症が重い。 高濃度の投与(0.04%を1日3〜4回7日間)は再発を減らす一方で、・・穿孔・を招きうる。全般の合併症として・・・・が挙げられる1。

⚠️ やにしたの効果は、まだ推定できていない。 に組み入れられた試験のうちとしてを用いたものは数が足りず、効果は評価されていない4。「移植もも両方やればさらに良い」という前提は、少なくともこの水準の根拠では支持されていない。

⚠️ 手術誘発性壊死性強膜炎

⚠️ は、と並んで(SINS)の最も多い原因術式である2。創に隣接してが生じるもので、詳細はの項で扱う。や照射といったが・を招きうること1と合わせると、整容だけを理由にした手術の閾値は慎重に置くというになる。全身性の炎症性疾患を持つ患者や、が薄い患者ではとくに慎重に判断する。

まとめ

  • は組織の増殖が輪部を越えて角膜に乗り上げるもので、紫外線曝露の蓄積が最大の危険因子である。鼻側に多い。
  • は10.2%で、緯度が低いほど、また高齢ほど高い。男性(2.32)と屋外活動(1.76)が危険因子である。
  • との鑑別はで行う。は探針が下を通り、どのにも生じ、非進行性で、炎症後の癒着が原因である。非典型例ではを除外する。
  • 病態は紫外線によるの傷害で、のがを壊しながら侵入する。
  • 内科的治療は症状緩和にとどまり進行を止めない。手術適応はへの進入・・運動制限・慢性炎症・整容である。
  • ⚠️ 主問題は再発。は24〜89%と高く、(5.3〜31.2%)・(0〜15%)が基本になる。はに比べて6か月の再発の相対危険0.53で、とくに再発で優位が明らかである。再発の90%は術後1〜3か月に起こる。
  • はの再発を減らすが、・穿孔・の危険を伴う。にした効果は根拠が不足しており評価できていない。
  • ⚠️ はと並ぶの最多の原因術式であり、整容だけを理由にした手術の閾値は慎重に置く。

出典

  1. 1.Pterygium(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)翼状片が結膜下組織の三角形の線維血管性増殖で角膜に乗り上げるものであること、有病率が赤道の南北37度の「翼状片ベルト」で高く報告により0.3〜29%と幅があること、最大の危険因子が日光紫外線への曝露時間で乾燥・粉塵による慢性刺激・風・高温乾燥気候が続くこと、紫外線が輪部幹細胞を傷害して血管新生と細胞増殖を招き進行縁のマトリックスメタロプロテアーゼとその阻害因子がBowman層の分解と組織再構築に関与しうること、鼻側優位の理由として鼻側輪部への光の集中・涙液が耳側から鼻側へ流れること・前毛様体動脈が鼻側に2本で耳側に1本であることが挙げられること、症状が眼刺激感・流涙・異物感・整容上の問題であり視軸にかかると視力が低下すること、進行縁に褐色のStocker線がみられること、構成がcap(先端の無血管帯)・head・bodyであり所見から進行型(肉厚で血管に富む)と萎縮型(薄く血管に乏しい)に分けられること、偽翼状片が探針試験で探針が病変の下を通る点・輪部で付着せず炎症性癒着により角膜に付着する点・進行性でなくどの象限にも生じる点で真の翼状片と区別されること、瞼裂斑が輪部近くの黄色の沈着で通常無症候であること、結節性上強膜炎が2.5%フェニレフリンで退色し軽度の疼痛を伴うこと、眼表面扁平上皮腫瘍を臨床所見・擦過細胞診・病理で除外すべきこと、内科的治療(人工涙液・充血除去薬・NSAID点眼・ロテプレドノール)は症状を和らげるが進行を防がないこと、手術適応が視軸への進入・慢性の疼痛や炎症・異常な乱視・眼球運動制限・整容であること、再発率が裸強膜法で補助療法なしなら24〜89%・マイトマイシンC併用で5.9〜21%、結膜自己移植で5.3〜31.2%、輪部結膜自己移植で0〜15%、羊膜移植で初発2.6〜10.7%・再発例37.5%であること、高濃度マイトマイシンC(0.04%を1日3〜4回7日間)は再発を減らすが強膜菲薄化・角膜浮腫・穿孔・続発緑内障の危険を伴い補助療法の合併症として強膜壊死・感染性強膜炎・続発緑内障・虹彩炎・白内障があること、再発の90%が術後1〜3か月に起こり危険因子が男性・40歳未満・アジア/アフリカ/ヒスパニック系・乾燥した粉塵環境への持続曝露・ドライアイであることを確認した。2023年8月25日最終更新。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Update on Therapy for Non-Infectious Scleritis(Clinical Ophthalmology・2026)手術誘発性壊死性強膜炎(SINS)が手術創に隣接して生じること、原因となる術式として翼状片切除と白内障手術が最も多いことを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Geographical prevalence and risk factors for pterygium: a systematic review and meta-analysis(BMJ Open (Liu L, Wu J, Geng J, Yuan Z, Huang D)・2013)20件の住民ベース研究・900,545人を対象としたメタアナリシスで、翼状片の統合有病率が10.2%(95%信頼区間6.3〜16.1%)であったこと、地理的緯度が低いほど、また年齢が高いほど統合有病率が高くなる傾向が認められたこと、片眼性の割合が両眼性より高かったこと、統合オッズ比が男性で2.32(95%信頼区間1.66〜3.23)、屋外活動で1.76(同1.55〜2.00)であったことを確認した。閲覧 2026-09-03
  4. 4.Conjunctival autograft for pterygium(Cochrane Database of Systematic Reviews (Clearfield E, Muthappan V, Wang X, Kuo IC)・2016)8か国20試験・1,866人1,947眼を対象に結膜自己移植と羊膜移植を比較したランダム化比較試験のメタアナリシスで、翼状片再発の相対危険が術後3か月0.87(95%信頼区間0.43〜1.77)・6か月0.53(同0.33〜0.85)であったこと、初発例に限ると3か月0.92(同0.37〜2.30)・6か月0.58(同0.27〜1.27)で有意でなかったのに対し、再発翼状片では6か月0.45(同0.21〜0.99)であったこと、割付の隠蔽が行われていない1件を除く感度分析では6か月の相対危険が0.43(同0.30〜0.62)になったこと、有害事象として肉芽腫・化膿性肉芽腫と眼圧上昇が複数試験で報告され誘発乱視の報告はなかったこと、全体のバイアスリスクは不明であったこと、マイトマイシンCを補助療法として用いた試験数が不十分で結膜自己移植・羊膜移植に上乗せした効果は推定できなかったことを確認した。なお「裸強膜法での再発が80%を超えると報告されている」という記述は本レビューの背景(先行文献の引用)であって本レビュー自身の結果ではない。閲覧 2026-09-03