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Disease Atlas · 眼科 · 外傷

外傷性虹彩括約筋断裂

Traumatic iris sphincter tear

別名
虹彩括約筋断裂外傷性散瞳外傷性瞳孔散大Traumatic mydriasis
臓器系
眼科
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)Microscopic Anatomy and Embryology (Microscopic Anatomy)Neurology
トピック
発生学 19.2:眼:網膜・虹彩・毛様体組織学 17.1:感覚器:眼神経内科 G1-01:瞳孔支配の障害
関連疾患
眼球破裂隅角後退緑内障毛様体解離
症状
瞳孔不同散瞳羞明前房出血
検査値
眼圧

🧠 全体像:の切り分けは「明暗で差がどう変わるか」と「点眼薬にどう反応するか」で進むが、この疾患はその手順の末端で止まる。した側が明所で縮まないところまでは動眼神経麻痺やと同じで、そこから先の薬理学的検査に反応しないという一点でと分かれる。⭐ 筋そのものが切れているのだから、その筋を刺激する薬も、その筋を麻痺させる薬の解除も効かない。 そして薬理学的検査に反応しない群には薬剤性も含まれるので、最後の線引きは薬ではなくでに切れ込みを見つけることが引く。

鈍的外傷のどこに位置するか

が眼球に加わると、前後方向に圧迫された分だけが外へ広がる。この間には0〜1ミリ秒のうちに80〜100 mmHgを超えて一過性に跳ね上がる1。はこの急激な拡張と減圧をまともに受け、伸展が集中する場所によって損傷の型が変わる。

型 損傷部位 結果
(本ノート) の括約筋の1 ()、不整な瞳孔
がから1 周辺にD字型の、・
は保たれたままが分離1 でのみ見え、遠隔期の緑内障の温床
の全層または21 で光が漏れる

⭐ 「」は所見の名前であって、その中身が括約筋である。 した部位は収縮できないので瞳孔は開いたまま戻らず、の分布に応じて瞳孔が不整な形に固まる。の平滑筋は周囲間葉ではなくのが作る特殊な筋で(発生学 19.2)、他の平滑筋のように損傷後に再生してくることを期待できない。

瞳孔不同の切り分けにどう乗るか

は「明暗で差の大きさが変わるか」から始まり、明所で差が開けば大きいほうの瞳孔が異常である。ここまでは本症も副交感神経障害も同じ経路をたどる。

病態 明所での差 高濃度1% 決め手
動眼神経麻痺 拡大 消失 する3 ・を伴う
拡大 緩慢・緊張性 する(低濃度でも)3 、
薬剤性 拡大 消失 しない3 曝露歴。瞳孔は円形を保つ
拡大 部分的・不整 しない(部は収縮できない)2 の切れ込みと外傷歴

⚠️ 「でしない=薬剤性」と短絡しない。 高濃度はである括約筋にする薬なので、括約筋そのものが切れていれば当然しない。薬剤性と同じ結果になる。ここで検査を終えると外傷歴の乏しい例(本人が覚えていない、就寝中の受傷)を薬剤性と取り違える。

⚠️ は「消失」ではなく「不整」になることが多い。 括約筋は全周が一様に切れるのではなく、切れていない部分は収縮する。瞳孔の一部だけが動き、輪郭が歪みながら反応する所見は本症に特徴的で、円形のまま反応しない薬剤性と区別できる。

細隙灯所見

  • の切れ込みと扇形のくぼみ:をで追い、括約筋のを探す1。させる前の観察で最も見つけやすい。
  • 不整な瞳孔形:の分布に対応して瞳孔が非円形になる2。
  • :で、が損なわれた領域から光が漏れる2。
  • 前房出血:の血管損傷を伴えば同時にみられる2。
flowchart TD
    A["外傷後に瞳孔が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dilation (mydriasis)'>散大</span>している"] --> B{"眼球輪郭の不整・涙滴状の瞳孔・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='shallow anterior chamber'>浅前房</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Seidel sign'>Seidel徴候</span>陽性があるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='globe rupture'>眼球破裂</span>として扱う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='tonometry'>眼圧測定</span>・眼球の操作をせず<br>眼カップで保護し緊急手術へ"]
    B -->|"なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='slit-lamp'>細隙灯</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary margin'>瞳孔縁</span>を観察する"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pupillary margin'>瞳孔縁</span>に切れ込みがあるか<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='transillumination defect'>透見欠損</span>があるか"}
    E -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='traumatic iris sphincter rupture'>外傷性虹彩括約筋断裂</span>"]
    E -->|"なし・円形の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>"| G["薬剤性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mydriasis'>散瞳</span>・動眼神経麻痺・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Adie tonic pupil'>Adie緊張性瞳孔</span>を薬理学的検査で鑑別"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iris root'>虹彩根部</span>・隅角・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lens'>水晶体</span>・<br>眼底の併存損傷を評価する"]
    H --> I["受傷4〜6週後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonioscopy'>隅角鏡検査</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='angle recession'>隅角後退</span>を確認する"]

⚠️ 涙滴状に変形した瞳孔は括約筋の所見ではなく、のである。 眼球輪郭の不整・・陽性とともに破裂を示唆し、これがあるときは・・眼球の操作・での圧迫を行わない1。瞳孔の形が崩れているという一点は両者に共通するので、「の外傷だろう」と決める前に破裂を除外する順序を崩さない。

併存する損傷こそが予後を決める

括約筋そのものは視力を奪わない。同じ一撃で起きた他の損傷を取りこぼさないことが管理の本体になる。

  • 前房出血:同時に生じやすく、・再出血・の管理が優先される。
  • :の分離で、に対する病理学的特異性が高い所見である1。⚠️ 180度を超えるは長期の緑内障リスクを4〜6倍にする1。急性期は前房出血のためを行えないので、受傷4〜6週後に改めてを行い、以後はを3〜6か月ごとに監視する1。
  • ・:のによる深度の左右差やを探す1。外傷はの原因として最多であり、を診たら必ずの位置を確認する。
  • ・:で評価する2。

⭐ この疾患の外来管理は「瞳孔を治すこと」ではなく「を数十年追うこと」である。 患者の訴えはとだが、視力を奪いにくるのは何年も後のである。

対応

  • ⚠️ の創は自然には治らない。 縫合の支持がなければ癒合せず、治癒は縫合部の近傍でのみととして起こる2。「様子をみれば瞳孔の形が戻る」という説明はできない。
  • 薬物では戻せない。 括約筋が損なわれた部位は収縮できないため、の効果は乏しい2。
  • 非対応:中央が透明で周辺が不透明なコンタクトレンズを用いると、ピンホール効果でとが軽減する2。整容上の目的にも使える。
  • 手術:括約筋・欠損の縫合にはMcCannel縫合とその変法であるSiepser slipknot、瞳孔全体を絞るにはlasso法やの環状縫合、には、広範な欠損にはが用いられる2。
  • 合併症:・・・・前房出血の・・の偏位が術後に起こりうる2。

まとめ

  • はによるの実体で、の急激な拡張がの括約筋に放射状の裂隙を作る。
  • の切り分けでは「明所で差が拡大する大きい瞳孔」の群に入るが、高濃度に反応しない点で動眼神経麻痺・と分かれる。薬剤性も同じ結果になるので、最後の線引きはでのの切れ込みが引く。
  • は消失ではなく不整になることが多い。切れていない部分だけが収縮するためで、円形のまま反応しない薬剤性と区別できる。
  • (のからの、D字型の)と(は保たれが)は損傷部位が異なる別の型である。
  • ⚠️ 涙滴状の瞳孔は本症ではなくので、疑えば・眼球の操作をしない。
  • 併存する前房出血・・網膜損傷を必ず評価し、受傷4〜6週後にを行う。180度を超えるは長期の緑内障リスクを4〜6倍にする。
  • の創は縫合なしには治らず、でも戻らない。対応はコンタクトレンズによる・の軽減と、McCannel縫合・Siepser slipknot・・人工による外科的再建である。

出典

  1. 1.Blunt Eye Trauma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)鈍的外力が眼球の前後方向の圧迫とそれに続く赤道部の拡張を生じ、0〜1ミリ秒の間に眼圧が80〜100 mmHgを超えて一過性に上昇すること、前眼部損傷の内訳が外傷性虹彩炎・虹彩括約筋断裂による外傷性散瞳(虹彩麻痺)・虹彩離断(虹彩根部の離断でD字型を呈しグレア・羞明・単眼複視を来す)・隅角後退(毛様体筋線維の分離で鈍的外傷に病理学的特異性が高い所見)・前房出血・水晶体亜脱臼・外傷性白内障であること、隅角後退が180度を超えると長期の緑内障リスクが4〜6倍になること、隅角鏡検査は受傷4〜6週後に行い以後は眼圧を3〜6か月ごとに監視すること、眼球破裂を示唆する所見が眼球輪郭の不整・涙滴状の瞳孔・浅前房・Seidel徴候陽性・疼痛と視力低下を伴う眼球変形であること、破裂が臨床的に明らかなときはSeidel試験・眼圧測定・眼球の操作・Bスキャンでの圧迫を行わないこと、男性が鈍的眼外傷の70〜85%を占め小児が25〜30%を占めることを確認した。2026年2月21日最終更新。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Traumatic Iris Reconstruction(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)外傷性の虹彩損傷が括約筋断裂・虹彩擦過・虹彩根部の断裂・虹彩離断・虹彩透見欠損・無虹彩に分かれること、鈍的外力による急激な赤道部の拡張と減圧が虹彩括約筋断裂を生じ根部への円周方向の伸展が虹彩離断を生じること、虹彩括約筋断裂が瞳孔括約筋の放射状の裂隙であるのに対し虹彩離断は虹彩根部の毛様体からの離断、隅角後退は虹彩根部が保たれたまま毛様体に生じる断裂であること、細隙灯検査で瞳孔縁の切れ込み(notching)・不整な瞳孔形(括約筋損傷による外傷性散瞳)・実質が損なわれた領域の透見欠損・前房出血がみられること、前房出血・水晶体亜脱臼や外傷性白内障・隅角後退・網膜裂孔や網膜剥離が併存しうること、症状が羞明・グレア・整容上の問題・コントラスト感度低下・単眼複視・瞳孔不同であること、中央が透明で周辺が不透明なコンタクトレンズがピンホール効果でグレアと羞明を軽減すること、括約筋が損なわれた部位は収縮できないためピロカルピンの効果が乏しいこと、虹彩の創は縫合の支持なしには自然治癒せず縫合部の近傍でのみ線維芽細胞浸潤と瘢痕化により治癒すること、修復術としてMcCannel縫合・Siepser slipknot・Pallin法・lasso法(外傷性散瞳の瞳孔形成)・虹彩離断へのマットレス縫合・人工虹彩インプラントがあること、術後合併症に角膜浮腫・続発緑内障・虹彩後癒着・硝子体脱出・前房出血の再燃・網膜剥離・眼内レンズの偏位があることを確認した。2023年6月11日最終更新。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Anisocoria(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)低濃度ピロカルピン点眼が2週間以上経過した除神経性の散大瞳孔で縮瞳を来しAdie瞳孔の確認に使えること、高濃度(1〜2%)ピロカルピンで縮瞳しなければ薬剤性散瞳と判定できること、動眼神経麻痺では眼球の外転・下方偏位や高度の眼瞼下垂を伴うのに対しAdie瞳孔には脳神経麻痺そのものがなく眼球運動・眼瞼が正常であることを確認した。閲覧 2026-08-03