スコア体系ノート一覧へ

Scores · Published

ASA身体状態分類

ASA physical status classification

別名
ASA-PSASA分類ASA physical statusASA-PS分類
臓器系
全身
科目
SurgeryIntensive Therapy and Anesthesiology
トピック
外科学 G/04:術前管理麻酔科学 B-14:周術期管理とリスク評価

🧠 全体像:は、麻酔を受ける患者の術前の全身状態(の重さ)を、IからVIの6段階で伝えるための共通言語である。手術の難しさや術式のリスクを測るではなく、「この患者は麻酔と手術にどれだけの余力を持っているか」を麻酔科医・外科医・施設の間で同じ言葉で話すために使う。境目の判断は主観に左右されやすく、ASAは例示を足して整えてきた。

目的と適用場面

内容
目的 麻酔前のを評価して記録・伝達し、周術期リスクを見積もる材料の1つとする1
対象 麻酔を受けるすべての患者(成人・小児・産科)。緊急手術には「E」を付す
使う場面 術前外来・、麻酔記録、手術台帳、術後合併症や死亡率の層別、研究の背景因子の記載
割り当ての時点 術前評価のどの時点で暫定的に付けてもよいが、最終的な割り当ては麻酔当日に麻酔科医が患者を評価して行う1
評価しないもの 手術の種類・侵襲度、、体力低下そのもの(これらはASA区分と組み合わせて周術期リスクを見積もる)1

分類は1941年に統計の収集のために考案され、1960年代にDrippsらの提案で大きく改められた。2014年にはASAが各区分の例を承認し、現在の文書は成人・小児・産科それぞれの例を載せている231。

構成要素と区分

⭐ 点数を足す形式ではなく、患者1人に1つの区分を与える順序分類である。区分の定義は次のとおり。

区分 定義 成人の例(抜粋)
I 正常な健康人 健康、非喫煙、飲酒なしまたは最小限
II 軽度のをもつ患者。実質的な機能制限も臓器障害も伴わない軽症のみ 現喫煙者、、妊娠、肥満(BMI 30以上40未満)、良好にコントロールされた糖尿病や高血圧、軽症の肺疾患
III 重度のをもつ患者。実質的な機能制限があり、中等症から重症の疾患が1つ以上 コントロール不良の糖尿病や高血圧、COPD、病的肥満(BMI 40以上)、活動性肝炎、、植込み型、の中等度低下、定期透析中の、発症から3か月を超えた心筋梗塞・・TIA・の既往
IV 生命を常に脅かす重度のをもつ患者 発症から3か月未満の心筋梗塞・・TIA・、進行中の、重度の弁機能不全、の高度低下またはNYHA IV度の心不全、ショック、敗血症、DIC、ARDS、定期透析を受けていない、
V 手術なしでは生存が期待できないの患者 腹部・破裂、大量外傷、を伴う、重い心疾患や多臓器障害を伴う
VI のため摘出が行われる、と宣告された患者 —

出典は現行の声明と、2014年版を再掲した表である12。例は「これらに限らない」参考であり、例に載っていない病態は定義の文言に照らして割り当てる。施設が独自の例を補ってよい。

修飾語「E」と妊娠の扱い

項目 内容
E(緊急手術を示す記号) 区分の後ろに付ける(例:IIIE)。治療の遅れが生命または身体部位へのを著しく増す場合を指す
合併症のない妊娠 妊娠は疾患ではないが、妊婦の生理学的状態が非妊時と大きく異なるため、ASA IIを割り当てる

区分の決め方

重いほうから順に当てはめると迷いにくい。

flowchart TD
    A["麻酔前の患者を評価する"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organ donation'>臓器提供</span>のため摘出される<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain death'>脳死</span>患者か"}
    B -->|"はい"| C6["ASA VI"]
    B -->|"いいえ"| D{"手術なしでは生存が期待できない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moribund'>瀕死</span>か"}
    D -->|"はい"| C5["ASA V"]
    D -->|"いいえ"| E{"生命を常に脅かす重度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic disease'>全身疾患</span>があるか"}
    E -->|"はい"| C4["ASA IV"]
    E -->|"いいえ"| F{"実質的な機能制限があるか<br>または中等症以上の疾患が1つ以上あるか"}
    F -->|"はい"| C3["ASA III"]
    F -->|"いいえ"| G{"機能制限を伴わない軽症の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='systemic disease'>全身疾患</span>があるか<br>(喫煙・妊娠・肥満などを含む)"}
    G -->|"はい"| C2["ASA II"]
    G -->|"いいえ"| C1["ASA I"]

💡 IIとIIIの境目は「実質的な機能制限があるか」である。 疾患の名前ではなく、その疾患が日常の活動をどれだけ妨げているかで決める。同じ糖尿病でも、良好にコントロールされていればII、コントロール不良ならIIIの例に挙がる。

解釈とカットオフ

区分が上がるほど術後の死亡は増える。米国2州19施設・732,704例の麻酔で、術後48時間死亡率を区分別に見た実測は次のとおり4。

区分 の48時間死亡率 緊急手術(E)の48時間死亡率
1 0.001% 0%
2 0.002% 0.033%
3 0.028% 0.155%
4 0.304% 3.280%
5 6.232% 19.911%

この実測は2009〜2014年の1つの施設群の値で、全体の48時間死亡率は緊急手術が1.27%、が0.03%だった。ASA区分ごとの値は集団や時代で変わるため、「ASA IVなら死亡率○%」と一般化せず、区分が上がると桁が変わる程度に読む。

区分の目安 臨床での使い方
I・II III以上に比べ、広範なや手厚い麻酔管理を一般には要さない1
III以上 一般により広範なと調整された診療、手厚い麻酔管理を要する1
V・VI Vは手術が救命の前提となる状態(腹部・破裂、大量外傷など)、VIはのための摘出

限界と使ってはいけない場面

⚠️ 評価者によって区分がずれる。 8つの仮想症例を使った調査(イタリアの麻酔科医601名)のはFleissのκ=0.38と低く、経験年数が長い群ほど正答数が少なかった2。同じ患者でも、IとIIの境(喫煙・飲酒・肥満をどこまで許すか)、IIとIIIの境(機能制限の有無)で割れやすい。

⚠️ 例を参照すると割り当ては改善する。 10の仮想症例では、定義のみの正答数(麻酔科群5.8/10、非麻酔科群5.4/10)が、ASA承認の例を加えると7.7/10・8.0/10に上がった3。定義の文言だけで決めずに、例を見て照合する。

⚠️ 術式のリスクは含まれない。 同じASA IIIでも、小手術と大血管手術では危険度が違う。手術の種類、、体力低下を併せて周術期リスクを見積もる1。心血管・呼吸器の個別のリスク指標は、ASA区分の代わりにはならない。

⚠️ 術前外来で付けた区分は暫定である。 最終的な割り当ては麻酔当日に麻酔科医が行う。術前外来から当日までに状態が変われば区分も変わる。

⚠️ 診療の算定など管理上の用途に頼りすぎない。 評価者間の一致が限られるため、ASA区分を事務的な用途で使うことにはが慎重な見方を示している(上記の調査論文のによる)2。臨床では、区分を伝える際に根拠となったも一緒に書く。

まとめ

  • は、術前の全身状態を6段階(I〜VI)で伝える共通言語で、手術の侵襲やリスクを測るではない。
  • I:正常な健康人、II:機能制限を伴わない軽症、III:実質的な機能制限のある重度の、IV:生命を常に脅かす重度の、V:手術なしでは生存できない、VI:のための。緊急手術は「E」を付す。合併症のない妊娠はII。
  • 区分が上がるほど術後48時間死亡率は桁で上がるが、値は集団で変わる。
  • 評価者間のばらつきが大きいので、ASAの承認例と照合して割り当てる。最終的な割り当ては麻酔当日に麻酔科医が行う。
  • IIとIIIの境は疾患名の重さではなく「実質的な機能制限の有無」で決める。

出典

  1. 1.American Society of Anesthesiologists Statement on ASA Physical Status Classification System(American Society of Anesthesiologists・2025)OpenAlexに収載された抄録(定義と例の表を含む全文)で確認した。分類は1961年から継続して使われ、目的は麻酔前の併存疾患を評価して伝えることで、手術の種類・フレイル・体力低下などと合わせて周術期リスクを見積もる。ASA III以上は一般にI・IIより広範な麻酔前評価と調整された診療、より手厚い麻酔管理を要する。定義と例は臨床家への指針で、施設ごとの例を補ってよく、最終的な割り当ては麻酔当日に麻酔科医が患者を評価して行う。IIの冒頭定義は「実質的な機能制限や臓器障害を伴わない軽症のみ」、IIIは「実質的な機能制限があり、中等症から重症の疾患が1つ以上」、IVは「生命を常に脅かす重度の全身疾患」(直近3か月未満の心筋梗塞・脳血管障害・TIA・冠動脈疾患/ステント、進行中の心筋虚血、重度の弁機能不全、駆出率の高度低下またはNYHA IVの心不全、ショック、敗血症、DIC、ARDS、定期透析を受けていないESRD、非代償性肝硬変、高度の認知機能障害)、Vは「手術なしでは生存が期待できない瀕死」、VIは「臓器提供のため摘出が行われる脳死と宣告された患者」。合併症のない妊娠にはIIを割り当て、「E」は遅れが生命または身体部位への脅威を著しく増す緊急手術を示す。抄録中の不等号以降が欠けているため、IIの例の数値範囲とIIIの例の冒頭は2014年版の再掲表(decassai-kja-asa-experience-2019)で補った。閲覧 2026-10-27
  2. 2.Assignment of ASA-physical status relates to anesthesiologists' experience: a survey-based national-study(Korean Journal of Anesthesiology(De Cassai A, Boscolo A, Tonetti T, et al.)・2019)PMC6369346の全文(Europe PMCのfullTextXML)で確認した。分類は1941年に統計の収集・集計のために考案され、1962年にDrippsらの提案で大きく改められ、2014年版(ASA承認の例つき)が最新と述べる。Table 1としてASA承認の定義と例(II:現喫煙者・機会飲酒・妊娠・肥満30<BMI<40・良好にコントロールされた糖尿病/高血圧・軽症肺疾患、III:コントロール不良の糖尿病/高血圧・COPD・BMI 40以上の肥満・活動性肝炎・アルコール依存・ペースメーカー・駆出率の中等度低下・定期透析中のESRDなど)を再掲し、緊急手術には「E」を付ける。イタリアの麻酔科医601名に8つの仮想症例で等級づけさせた調査では、評価者間一致はFleissのκ=0.38にとどまり、平均正答数は研修医が最も多く(3.95)、経験20年以上の群が最も少なかった(3.13)。閲覧 2026-10-27
  3. 3.Adding Examples to the ASA-Physical Status Classification Improves Correct Assignment to Patients(Anesthesiology(Hurwitz EE, Simon M, Vinta SR, et al.)・2017)抄録で確認した。2014年にASAが割り当てを助ける例を承認し、10の仮想症例で定義のみの場合と例を加えた場合を比べると、麻酔科の訓練を受けた臨床家も受けていない臨床家も正答数が有意に増えた(いずれもP<0.001)。定義のみの正答数は麻酔科群5.8±1.6、非麻酔科群5.4±1.7で、例を加えると7.7±1.8と8.0±1.7になり、両群の差は有意でなくなった。全文は購読誌のため未確認。閲覧 2026-10-27
  4. 4.Associations between ASA Physical Status and postoperative mortality at 48 h: a contemporary dataset analysis compared to a historical cohort(Perioperative Medicine(Hopkins TJ, Raghunathan K, Barbeito A, et al.)・2016)PMC5072352の全文(Europe PMCのfullTextXML)で確認した。2009〜2014年の米国2州19施設・732,704例の麻酔で、術後48時間死亡率はASA区分が上がるほど有意に高く(待機・緊急とも傾向検定P<0.0001)、Table 1の区分別48時間死亡率はASA 1 0.001%、2 0.002%、3 0.028%、4 0.304%、5 6.232%、緊急(E)では1E 0%、2E 0.033%、3E 0.155%、4E 3.280%、5E 19.911%だった。全体の48時間死亡率は緊急が1.27%、待機が0.03%。1例の施設群の実測であり、集団や時代によって値は変わる。閲覧 2026-10-27