外科学

外科学 · A/05

術前管理

The preoperative management of surgical patients

前提:病態
血液凝固に作用する薬II:抗凝固薬
前提:正常
血液凝固・線溶・生理的抗凝固機構

ポッドキャスト

🧠 術前管理は「適応の確認」→「リスク評価」→「身体の最適化」→「準備手技」の4段階として覚える。 手術とは「生体の統合性をに分断・再建する行為」——だからこそ実施前に「本当にこの患者に適応があるか」を何度も確認し、評価(ASA分類など)で患者を層別化し、・腸管処置・・といった準備を術式と患者に応じて選んで行う。⚠️ も準備手技も「全例に一式」ではなく、とASA区分で絞るのが現在の考え方である。近年はこれにERAS(enhanced recovery after surgery、術後)とという「手術前から始める回復」の発想が加わっている。

1. 手術の定義と術前評価の基本ステップ

手術=・診断的を問わず、生体の解剖学的統合性を直接的または間接的に分断・再建する処置全般。

術前評価・準備の必須ステップ(10項目):

  1. 患者の確認(correct patient)
  2. 手術適応の確認
  3. 病歴・
  4. :心肺の状態、内服中/既往の薬剤歴を含む
  5. 診断情報・追加検査の収集
  6. その手術に特有の準備
  7. 患者への説明と:起こりうる合併症も含めて説明
  8. → 周術期リスクの推定(患者側因子・術式側因子)
  9. 薬剤処方、予防的抗菌薬投与、血栓塞栓症予防
  10. リハビリテーション・回復計画の立案
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical interview (history-taking)'>問診</span>・外科診察<br>(anamnestic data collection, surgical examination)"]
  A --> B["手術適応"]
  B --> C["検査:血液検査・画像検査・内視鏡など"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anesthesiologic examination'>麻酔科診察</span>"]
  D --> E["周術期リスクの推定<br>(estimation of perioperative risk)"]
  E --> F["患者関連因子<br>(patient-related factors)"]
  E --> G["術式関連因子<br>(procedure-related factors)"]

2. 手術のための準備(16項目)

# 項目 内容
1 患者の不安軽減
2 栄養 (1500〜2000 kcal/日、/)、
3 衛生的準備 シャワー/消毒洗浄。除毛は必要な場合のみ、クリッパー(電気バリカン)で行う(下記⚠️)
4 既存薬の取り扱い 、インスリン治療、心臓薬など
5 、迷走神経・交感神経反射の減弱、分泌抑制・胃酸pH低下、の予防

⚠️ 「術前にする」は現在は誤り。 19試験・準6試験(計8919例)のレビューでは、剃刀によるは除毛しない場合と比べてをおそらく増やし(1.82、95%信頼区間1.05〜3.14、7試験1706例、確実性は中等度。では1000人あたり17件多い)、クリッパーと比べても感染(1.64)と皮膚損傷(1.74)をおそらく増やす。一方、クリッパーによる除毛と除毛しない場合の差はほとんどない(0.95、95%信頼区間0.65〜1.39、確実性は低)。したがって除毛は本当に必要なときだけ行い、行うならクリッパーを使う。1

💡 剃刀が不利なのは、微小なが細菌の増殖の場になるためと説明される。だから「感染予防のために剃る」という発想自体が逆に働く。

術前絶食

健常な患者がに麻酔・処置を受ける場合の目安。2

摂取物 摂取してよいのは何時間前まで
揚げ物・脂肪食・肉を含む食事 6時間では足りず、8時間以上を要しうる
軽食、非ヒト乳(など) 6時間前まで
6時間前まで
母乳 4時間前まで
(アルコールを除く) 2時間前まで

⚠️ の下限はASAの勧告では2時間である。 授業や施設の手順では「2〜3時間前まで」と幅をもたせて教えることがあるが、2時間より延ばすことを支持する勧告ではない。を必要以上に延ばしても誤嚥のリスクは下がらず、脱水・低血糖を招く。

⚠️ この表の適用範囲は「健常な患者の」に限られる。 妊娠・肥満・糖尿病・・・イレウス/腸閉塞・救急・など、や胃内容量に影響しうる状況では、この表をそのまま当てはめられない。摂取した量と種類の両方を見て個別に判断する。2

なお、2023年には炭水化物を含む・チューインガム・小児の時間を対象とするモジュラー更新が出ており、2017年版と並行して掲げられている。3

続き(7〜16項目)

  1. 消化管の:機械的(下剤による排便処置、)と、のによる腸内除菌。⚠️ 全術式に行うものではなく、大腸手術など術式に応じて選択する。 大腸切除8442例の後ろ向き解析では、(0.57)・(0.40)・(0.71)の減少と独立に関連したのはを併用した群だけで、機械的のみの群はいずれとも独立には関連しなかった(観察研究であり残余は否定できない)4
  2. 恒常性の:、体液・電解質バランス、血液性状(・凝固能の補正)
  3. :留置
  4. による減圧:誤嚥リスク増大時(絶食が不十分な場合など)
  5. :外科的適応(、大腸切除)/麻酔科的適応(腎機能・循環のモニタリングが容易になる)
  6. :腹部救急、大腸切除、上部消化管悪性腫瘍で必須。、手術、形成外科手術、でも考慮
  7. —機械的:、四肢の自動/、段階的圧迫ストッキング、
  8. の薬理学的予防(下表)
  9. の薬理学的予防=の:作用機序は()阻害によると、ADP依存性のの阻害。継続・は、冠動脈疾患やなどの原疾患と手術の出血リスクを踏まえて個別に判断する5
  10. 臨床検査評価:既往疾患がある特殊症例で実施(→ 5節。検査は一律ではなくとASA区分で選ぶ)
機序 備考
未分画ヘパリン に結合し、トロンビン・Xa・IXa・XIIaを阻害
(enoxaparinなど) トロンビンよりXa阻害が優位 吸収が均一・が長く扱いやすい
Xa阻害薬・トロンビン直接阻害薬(fondaparinux、rivaroxabanなど) 直接阻害 適応は術式と患者背景により異なる。HIT既往では非ヘパリン系薬を選択する
(warfarinなどクマリン誘導体) (II・VII・IX・X)の合成を阻害 慢性の薬剤であり、一般外科の初期予防薬としてLMWH・と並列には扱わない

⚠️ HIT既往ではヘパリン系薬剤を避け、非ヘパリン系薬剤を選択する。 薬剤選択は術式、腎・肝機能、出血リスクを踏まえて判断する。一般外科の予防では、術式と出血リスクに応じて機械的予防とLMWHまたはを組み合わせる。6

3. 手術リスク

= + ——患者のとのバランスで決まり、術式侵襲、出血リスク、、患者背景、ASA分類を総合して評価する。

リスク区分 生理学的負荷 予測出血量 代表例
低リスク 最小限、輸血・侵襲的モニタリング・がほぼ不要 < 200 mL 乳房手術、修復、
中等度(、心肺への影響) < 1000 mL 、、腸切除
高リスク 顕著な周術期生理学的負荷、輸血・大量輸液・侵襲的モニタリング・を要することが多い > 1000 mL 大動脈/心臓手術、消化管切除、

患者側リスク因子

分類 因子
急性(全身性)因子 、脱水、炎症(感染・膿瘍形成・発熱)、/尿路系/消化管/軟部組織/体腔の異常、敗血症、傍在性の毒性状態、血栓塞栓症、急性臓器不全(心・肺・腎・肝)、急性内分泌代謝異常(膵=糖尿病、甲状腺、副腎)
慢性(全身性)因子 (貧血)、高齢(65歳以上)、/肥満、免疫学的障害(アレルギー)、心血管疾患、、慢性、、悪性腫瘍、アルコール・
妊娠 急性/慢性の全身性リスク因子+外科的問題、生理学的の低下(呼吸・循環・代謝)、症状、胎児の脆弱性、胎児が罹患しうる可能性

4. 特殊な手術リスク因子

特に注意すべき集団: 妊婦、高齢者、精神科患者、意識障害患者、外国人(言語・文化的障壁)。

  • 高齢者(65歳以上):加齢に伴う臓器/機能の低下。適応は期待される改善とリスク、余命を天秤にかけて判断する。頻度の高い疾患:、胆道手術の1/3、消化管出血、虫垂炎、。
  • 妊娠:呼吸・循環・代謝の生理学的低下、解剖学的変化・症状、胎児の脆弱性。母体の生命が常に最優先(“母体優先”の原則)。可能な限り “wait and see”(経過観察)の方針をとる。
  • :摂取不良(食欲低下:癌・肝硬変・//拒食:うつ・認知症)、消費異常(による急速な腸管内容物の通過、酵素欠乏による消化障害、=による)、需要増大(=、癌、リハビリテーション期)。
  • 肥満( 30以上):(主に、ガス交換悪化・呼吸筋仕事量増加)、低下、、術後離床困難、創傷治癒障害・感染リスク・血栓塞栓症リスクの上昇。
  • 癌患者:化学療法の影響、放射線療法(局所炎症、放射線炎)、低下、。

5. 手術リスクの評価

適応が確定したら、の前に次を行う。

  • 病歴(外科的既往含む)、、アレルギー
  • 血液型・:予測出血量と手配の要否に応じて
  • 臨床検査・生理検査:一律には行わず、とASA区分の組合せで選ぶ(下記)

⚠️ 授業資料は「適応が立ったら計画手術の前にルーチン検査を行う」とし、その筆頭に「臨床検査、血液型・抗体、胸部X線、心電図」を挙げている。この「全例に一式」という読み方は現在の推奨ではない。 英国のガイドラインは、胸部X線を手術前にルーチンに行わない(1.8.1)、安静時心エコーを手術前にルーチンに行わない(1.9.1)と明記し、、糖尿病と診断されていない人の、鎌状赤血球症・形質の検査もルーチンには行わないとしている。残りの検査は、の3段階とASA区分の組合せごとに「行う/考慮する/ルーチンには行わない」で指定される。7

の3段階は、minor(皮膚腫瘤切除、乳房膿瘍など)、intermediate(初回修復、切除、、鏡など)、major or complex(腹式、前立腺切除、切除、甲状腺摘出、人工関節全置換、肺の手術など)。

検査 minor intermediate major or complex
全ASAで行わない ASA 1〜2は行わない/ASA 3〜4は心血管・腎疾患で未検索の症状があれば考慮 全ASAで行う
止血能検査 全ASAで行わない ASA 1〜2は行わない/ASA 3〜4はで考慮 ASA 1〜2は行わない/ASA 3〜4はで考慮
腎機能 ASA 1〜2は行わない/ASA 3〜4はのリスクがあれば考慮 ASA 1は行わない/ASA 2は同リスクで考慮/ASA 3〜4は行う ASA 1は同リスクで考慮/ASA 2〜4は行う
心電図 ASA 1〜2は行わない/ASA 3〜4は過去12か月の記録が無ければ考慮 ASA 1は行わない/ASA 2は心血管・腎疾患・糖尿病の併存で考慮/ASA 3〜4は行う ASA 1は65歳超で過去12か月の記録が無ければ考慮/ASA 2〜4は行う
肺機能・ 全ASAで行わない ASA 1〜2は行わない/呼吸器疾患が既知または疑われてASA 3〜4となっている人は、評価後できるだけ早く上級麻酔科医に相談することを考慮 ASA 1〜2は行わない/ASA 3〜4は同左

💡 「全例にやる」検査が(major or complex 手術のみ)しかないのが要点。止血能検査はどの組合せでも「行う」に入らず、抗凝固薬を内服している人の調整は検査ではなく個別の計画で対応する。7

麻酔科コンサルテーション

  • 病歴・既往検査・手術に必要な検査・の確認
  • 不足している特殊検査(循環器・呼吸器・内分泌・など)の同定
  • 全身状態の評価
  • の定義:術前の調整の要否(例:)、手配の要否、術後の要否
  • 麻酔・を含めた手技についての患者説明

ASA分類

分類 定義
ASA I 正常な健康人
ASA II 軽度のをもつ患者
ASA III 重度のをもつ患者
ASA IV 生命を常に脅かす重度のをもつ患者
ASA V 手術なしでは生存が期待できないの患者
ASA VI 臓器提供のため摘出が行われる、と宣告された患者

⚠️ II と III を分けるのは「実質的な機能制限があるか」である。 ASA II の例は発行元の定義で「実質的な機能制限も臓器障害も伴わない軽症の疾患のみ」とされ、ASA III の例は「実質的な機能制限、中等症から重症の疾患が1つ以上」で始まる。「III は重症だが機能は保たれている」と覚えると向きが逆になる。8

⚠️ この取り違えには出どころがある。 授業資料のASA表は ASA 3 を Severe systemic disease, not incapacitating と書いており、これは2014年に例示つきの定義へ改訂される前の古い書き方である。歴史的な表現として区別して覚える——現行の定義は「重度のをもつ患者」であり、例の筆頭が実質的な機能制限である。

⭐ 「E」を付けると緊急手術を意味する(例:ASA IIE)。ここでいう緊急とは、治療の遅れが生命または身体部位へのを著しく増大させる場合と定義されている。8

💡 合併症のない妊娠は ASA II。 妊娠は疾患ではないが、妊婦の生理学的状態は非妊時と大きく異なるため、という理由が発行元の註に明記されている。8

⭐ ASA分類は周術期の共通言語として頻出。 番号が上がるほど・が上昇するが、主観性があるため、、、機能評価と併用して解釈する。9 身体状態の最終的な割り当ては、麻酔を担当する当日に麻酔科医が患者を評価したうえで行うとされており、術前外来で付けた番号は暫定と考える。ASA III 以上では、一般により広範な麻酔前評価と調整された診療が必要になる。8

臓器系別の特殊検査

: 本人・家族の心疾患歴と治療歴を詳しく聴き、を確認する。診察では頸動脈の拍動と、(重度心不全を示しの上昇を意味する)、での・III音・(いずれもリスク上昇を示唆)を取る。既知の心血管疾患(心筋梗塞既往、/既往、、)があればリスク増大。:失神、不整脈、、。糖尿病は無症候性の心疾患を示唆しうる。

には Dripps分類(死亡リスクのみ評価)、Revised cardiac risk index(術後心筋梗塞リスクを加味)、METs分類(血行動態に基づき、を加味する)を用いる。⭐ 高リスク患者にを追加するのは、その結果がと手術の転帰を変えるときに限る——これが検査を選ぶときの基準になる。

⚠️ 安静時心エコーは手術前にルーチンに行わない。 考慮するのは、があり、かつ心症状(、、失神、胸痛)または心不全の徴候・症状があるときで、そのときも先にを行い、所見を麻酔科医と協議してから依頼する。7

💡 授業資料は「無症状の患者にも心機能のベースライン検査(心電図・心エコー)を行ってよい」という書き方をしているが、上の推奨とは噛み合わない。無症状でベースラインを撮る運用は、現在は支持されていないと理解し、直上の「結果が方針を変えるときに検査する」という基準で読み替える。

: 心機能評価と同等に重要——術後合併症の頻度・重症度が同程度に高い。関連因子:喫煙、()、喘息、、肺疾患、刺激物曝露(・)、高齢、肺合併症の既往、低下、。術式側の因子として、手術部位・手術時間・全身麻酔を用いるかどうかが効く——挿管は院内感染の侵入経路になり、麻酔はを抑制する。代表的な術後合併症:、肺炎、呼吸不全、肺塞栓症、肺疾患の増悪。:禁煙、、気管支拡張療法、抗菌薬、喘息例でのステロイド。はASA分類だけでなく、、、機能評価を含めて行う。

: 急性・慢性腎疾患患者は周術期が高い。()・、、ECG、胸部X線でモニタリングする。代表的な合併症:慢性代謝性アシドーシス(低下による、術後は水素イオン放出増加でさらに悪化しうる)、電解質異常(・、K+過剰は透析やイオンで是正、Ca2+は補充)、(透析によるタンパク喪失)、、欠乏(貧血の原因)、(透析・に伴うを要する)、免疫応答低下(感染リスク増大)。:体重測定、水分管理、電解質モニタリング。

: リスク因子——貧血、腹水、脳症、、低酸素血症、感染、、門脈圧亢進、ビタミンK非補正性の延長。:(血清ビリルビン・・に基づく)、分類(血清ビリルビン・などに基づき、死亡率・術後合併症の双方と相関)。術後合併症:原疾患の増悪、出血、感染、腎不全、腹水。

糖尿病患者: はインスリン(グルカゴン・エピネフリン・コルチゾール・)をすべて増加させるため、インスリンコントロールの重要性がさらに高まる——通常は持続インスリン注入で管理する。術前評価:正常血糖の確保、合併症(神経障害・腎症)の評価、心血管機能の評価、足部の創傷・潰瘍チェック。糖尿病患者は感染リスクが高いことに注意。

6. 現代的な準備 — プレハビリテーション

ERAS

計画手術における周術期手技の集合:

  • /
  • 手技
  • 至適な
  • 積極的な術後リハビリテーション(早期経口摂取、離床、ドレーン)

💡 ERASの本質はストレス反応の軽減によるの予防。 上記手技はいずれもに対する神経内分泌ストレス応答を減弱させ、結果として術後の臓器機能低下を防ぐ。

プレハビリテーション

患者の身体・栄養・精神状態を改善するための型の術前プログラム。

  • 期間は数週間単位で設定される。大腸癌のを対象としたPREHABは、週3回の高強度運動・栄養介入・心理的支援・必要時の禁煙支援からなる4週間の監督下プログラムを検証し、Comprehensive Complication Index が20を超える重症合併症が群で有意に少なかったと報告している(ITT解析251例。のため早期中止)10
  • 授業では理想を6〜8週間とし、短すぎると効果が不十分、長すぎると遵守率が下がる、というで説明される
  • ⚠️ 上の試験が検証したのは4週間という1つの設定であって、期間どうしを比較したものではない。6〜8週間という目標値も試験で他の期間と比べたものではないので、「6〜8週間が最適だと証明されている」とは読まない
  • 術前・周術期(peri-、ERAS)・術後を含む一連の治療の一部として位置づけられる

⭐ →ERAS→術後リハビリという連続体で「診断から治癒まで」を管理する発想が近年の主流。 手術によるの落ち込みを浅くし、回復を早めることを狙う。ただし効果の大きさはと術式で一定せず、どの要素がどれだけ効くかも確立していない。

まとめ

  • 術前管理は「適応確認→リスク評価→身体の最適化→準備手技」の順に進む一連の。
  • =+で、術式侵襲、出血リスク、、患者背景、ASA分類を総合して層別化する。
  • ASA分類(I〜VI)は周術期リスクの共通言語であり、番号が上がるほど死亡リスクが高い。II と III の境目は実質的な機能制限の有無で、緊急手術には「E」を付ける。8
  • は全例一律ではなく、(minor/intermediate/major or complex)とASA区分の組合せで選ぶ。胸部X線と安静時心エコーはルーチンには行わない。7
  • は健常な患者で、2時間・母乳4時間・軽食および6時間が目安。揚げ物・脂肪食・肉では8時間以上を要しうる。2
  • 除毛は必要なときだけ行い、行うならクリッパーで。剃刀によるはをおそらく増やす。1
  • 予防は、術式と出血リスクに応じて機械的予防と薬理学的予防を組み合わせる。一般外科ではLMWHまたはが中心で、HIT既往では非ヘパリン系薬を選ぶ。
  • 高齢者・妊婦・・肥満・癌患者は特別な周術期リスク因子を持ち、別(心・肺・腎・肝・内分泌)の専門的評価が必要になる。
  • ERASとは、によるストレス応答・機能低下を最小化する現代的なの枠組み。

A/04: 手術適応と手術の種類で決定した適応をもとに本トピックの術前管理が行われ、A/06: と合併症へと続く。

出典

  1. 1.Preoperative hair removal to reduce surgical site infection(Cochrane Database of Systematic Reviews・2021)抄録で確認した。無作為化19試験・準無作為化6試験、計8919例のレビュー。除毛しない場合とクリッパーによる除毛では手術部位感染のリスクにほとんど差がないとされ(リスク比0.95、95%信頼区間0.65〜1.39、3試験1733例、エビデンスの確実性は低)、剃刀による剃毛は除毛しない場合と比べて手術部位感染のリスクをおそらく高める(リスク比1.82、95%信頼区間1.05〜3.14、7試験1706例、確実性は中等度。絶対リスクでは剃刀群で1000人あたり17件多い)。剃刀とクリッパーの比較でも剃刀のほうが手術部位感染をおそらく増やし(リスク比1.64、95%信頼区間1.16〜2.33、7試験3723例、確実性は中等度)、皮膚損傷もおそらく増える(リスク比1.74、95%信頼区間1.12〜2.71、3試験1333例)。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Practice Guidelines for Preoperative Fasting and the Use of Pharmacologic Agents to Reduce the Risk of Pulmonary Aspiration(American Society of Anesthesiologists・2017)発行元PDF(全18頁)の全文で確認した。対象は待機的処置を受ける健常患者に限られ、妊娠・肥満・糖尿病・食道裂孔ヘルニア・胃食道逆流症・イレウスや腸閉塞・救急・経管栄養など胃排出や胃内容量に影響しうる併存状態では適用できないか修正を要するとしている。勧告は、透明飲料は2時間前まで、母乳は4時間前まで、乳児用調製乳は6時間前まで、軽食または非ヒト乳は6時間前まで摂取してよく、揚げ物・脂肪食・肉を摂った場合は8時間以上の絶食が必要になりうる、摂取した量と種類の両方を考慮して絶食時間を決める、というもの。透明飲料にアルコールを含めてはならないとも明記している。閲覧 2026-09-21
  3. 3.2023 American Society of Anesthesiologists Practice Guidelines for Preoperative Fasting: Carbohydrate-containing Clear Liquids with or without Protein, Chewing Gum, and Pediatric Fasting Duration—A Modular Update of the 2017 American Society of Anesthesiologists Practice Guidelines for Preoperative Fasting(American Society of Anesthesiologists・2023)ASAの公式ガイドライン一覧で、2017年版と並んで現に掲載されていることを確認した。題名が2017年版のモジュラー更新であることを示しており、更新の範囲は炭水化物を含む透明飲料(蛋白の有無別)・チューインガム・小児の絶飲食時間である。⚠️ 本文は取得できていないため、更新後の数値そのものは本ノートでは主張していない。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Combined preoperative mechanical bowel preparation with oral antibiotics significantly reduces surgical site infection, anastomotic leak, and ileus after colorectal surgery(Annals of Surgery・2015)抄録で確認した。米国NSQIPの待機的大腸切除8442例の後ろ向き解析で、前処置なし2296例27.2%、機械的腸管前処置のみ3822例45.3%、機械的前処置+経口抗菌薬2324例27.5%。多変量解析で吻合部縫合不全(オッズ比0.57)・手術部位感染(オッズ比0.40)・術後イレウス(オッズ比0.71)の減少と独立に関連したのは経口抗菌薬を併用した群だけで、機械的前処置のみの群はいずれとも独立には関連しなかった。⚠️ 無作為化比較試験ではなく観察研究であり、残余交絡は否定できない。閲覧 2026-09-21
  5. 5.Perioperative Management of Antiplatelet Therapy: A Systematic Review and Meta-analysis(Mayo Clinic Proceedings: Innovations, Quality & Outcomes・2022)抗血小板薬の周術期継続・休薬を血栓リスクと出血リスクで個別化すること閲覧 2026-08-09
  6. 6.American Society of Hematology 2019 guidelines for management of venous thromboembolism: prevention of venous thromboembolism in surgical hospitalized patients(American Society of Hematology・2019)術式と出血リスクに応じた機械的・薬理学的VTE予防閲覧 2026-08-09
  7. 7.Routine preoperative tests for elective surgery (NG45)(National Institute for Health and Care Excellence・2016)推奨の章の全文で確認した。1.8.1は「手術前に胸部X線をルーチンに行わない」、1.9.1は「手術前に安静時心エコーをルーチンに行わない」とし、1.9.2は心雑音があり、かつ心症状(息切れ・前失神・失神・胸痛)または心不全の徴候・症状があるときに安静時心エコーを考慮し、その前に安静時心電図を行って麻酔科医と所見を協議するとしている。1.7.1は尿試験紙、1.5.1は糖尿病と診断されていない人のHbA1c、1.4.1は鎌状赤血球症・形質の検査を、いずれもルーチンには行わないとする。残りの検査は手術侵襲の3段階(minor・intermediate・major or complex)とASA区分の組合せごとに、Yes(行う)・Consider(考慮する)・Not routinely(ルーチンには行わない)で指定されており、全血球計算がYesになるのは major or complex 手術の全ASA区分のみ、心電図がYesになるのは intermediate のASA 3〜4と major or complex のASA 2〜4、止血能検査はどの組合せでもYesにならない。閲覧 2026-09-21
  8. 8.American Society of Anesthesiologists Statement on ASA Physical Status Classification System(American Society of Anesthesiologists・2025)ASA公式サイトが本文書を「2025年10月15日改訂」として掲げ、ASA身体状態分類の参照先を本DOIに置いていることを確認した。定義はOpenAlexに収載された抄録の逐語で確認し、ASA I は正常な健康人、ASA II は軽度の全身疾患をもつ患者で例は「実質的な機能制限も臓器障害も伴わない軽症の疾患のみ」、ASA IV は生命を常に脅かす重度の全身疾患をもつ患者、ASA V は手術なしでは生存が期待できない瀕死の患者、ASA VI は臓器提供のため摘出が行われる脳死と宣告された患者。註として、妊娠は疾患ではないが妊婦の生理学的状態は非妊時と大きく異なるため合併症のない妊娠にはASA IIを割り当てること、「E」の付加は緊急手術を意味し、緊急とは治療の遅れが生命または身体部位への脅威を著しく増大させる場合と定義されることが明記されている。前文は、本分類が手術の種類・フレイル・脱調節の程度などの他の因子と併せて周術期リスクの推定に役立つこと、ASA III 以上の患者は一般により広範な麻酔前評価と調整された診療を要すること、身体状態分類の最終的な割り当ては麻酔担当日に麻酔科医が患者を評価したうえで行うことを述べている。⚠️ ASA III の定義行と例の逐語はこの抄録では欠落していたため、ASA公式ページの2024年7月2日アーカイブ(2020年12月13日改訂版)で「重度の全身疾患をもつ患者」「実質的な機能制限、中等症から重症の疾患が1つ以上」を確認した。閲覧 2026-09-21
  9. 9.Reliability of the ASA Physical Status Classification System in Predicting Surgical Morbidity: a Retrospective Analysis(Journal of Medical Systems・2021)ASA分類の予測能と主観性という限界閲覧 2026-08-09
  10. 10.Effect of Multimodal Prehabilitation on Reducing Postoperative Complications and Enhancing Functional Capacity Following Colorectal Cancer Surgery: The PREHAB Randomized Clinical Trial(JAMA Surgery・2023)抄録で確認した。ERASを実装した施設で行われた国際多施設無作為化比較試験で、非転移性大腸癌の待機手術を受ける成人を対象とし、介入は週3回の高強度運動・栄養介入・心理的支援・必要時の禁煙支援からなる4週間の院内監督下プログラムである。主要評価項目はComprehensive Complication Index、CCI 20超の患者数、術後4週の6分間歩行距離。ITT集団251例(年齢中央値69歳、男性138例55%、腫瘍が結腸にあるもの206例82%、腹腔鏡またはロボット支援手術234例93%)でCCI 20超の重症合併症がプレハビリテーション群で有意に少なかった。⚠️ COVID-19により早期中止された試験である。本試験が検証したのは4週間のプログラムであり、最適期間を比較した試験ではない。閲覧 2026-09-21