スコア体系ノート一覧へ

Scores · Published

Simpson分類

Simpson grade

別名
Simpsonグレードシンプソン分類
臓器系
神経腫瘍
科目
Histopathology
トピック
組織病理 H2-124A:髄膜腫(発生部位・症候とSimpson分類編)
適用疾患
髄膜腫

🧠 全体像は、の外科的摘出に、が術中所見をもとに切除範囲を5段階で記録する分類であり、術前の予測スコアでも組織学的悪性度でもない。原著は1957年で、術後MRIも顕微鏡手術もない時代にの目視だけで硬膜・骨の処理範囲を評価した古典的な体系である。grade が上がるほど再発しやすいという大枠は今も参照されるが、の申告と術後MRI所見が食い違いうること、grade IとIIの差が原著ほど明瞭ではないことなど、現代の視点からの見直しが進んでいる。

目的と適用場面

が評価するのは、の外科的摘出が終わった時点での切除範囲であり、術前の画像から再発を予測するスコアでも、(組織学的悪性度)のようなでもない。摘出直後にが手術記録へ記載し、再発リスクの見積もり、残存・高グレード例へのの追加、術後の画像経過観察の間隔を決める材料として使う。

構成要素と配点

⭐ 配点して合計する「スコア」ではなく、腫瘍・の処理範囲を5段階に分けるカテゴリー分類である。段階を追うごとに残存組織が増える。

grade 切除範囲
I 腫瘍のに加え、まで切除する。腫瘍がの壁から発生する場合は、その静脈洞自体の切除を要する1
II 腫瘍とその肉眼的な進展部分を完全摘出するが、は切除せず凝固するにとどめる1
III 腫瘍を肉眼的に完全摘出するが、への処理(切除・凝固のいずれも)を行わない。(浸潤された静脈洞やの骨)を切除しない場合も含む
IV 部分摘出。硬膜内に肉眼的な残存腫瘤を残す
V 、または生検のみ(腫瘍そのものをほとんど摘出しない)

💡 のちに、腫瘍付着部の周囲およそ2 cmの硬膜まで追加切除する術式をgrade 0と呼ぶ提案がなされた。37例の検討では再発を認めなかったと報告されている——腫瘍は主腫瘍の辺縁から4 cm離れた位置まで進展しうるためである1

⚠️ grade I〜IIIはいずれも「」に含まれ、硬膜・骨の処理範囲だけが異なる。grade IVは部分摘出、grade Vは生検・減圧のみで、腫瘍そのものが残る点でI〜IIIと質的に異なる。この5段階は切除範囲の分類であって、手術の成否や技術の評価ではない——頭蓋底など機能温存を優先する部位では、にIV・Vにとどめることが妥当な選択になる(後述)。

解釈

Simpsonの1957年の検討では、grade Iからgrade IV・Vへと切除範囲が不完全になるにつれて再発が増える傾向が報告されている——再発率はgrade I 9%(90例)・II 19%(114例)・III 29%(24例)・IV 39%(51例)・V 88.9%(9例)である1。「grade が上がるほど再発しやすい」という大枠は現在も踏襲されるが、grade内部の差の大きさは研究によって一致しない。

⭐ 現代の研究では、grade I・II・III(いずれも)の間で再発率に明確な差を認めない報告が複数ある。Sughrue et al.(2010、373例)では5年がgrade I 95%・II 85%・III 88%・IV 81%で、gradeそのものは再発の予測因子にならなかった。Ehresman et al.(2018、572例)でもgrade IとIIの間に差はなく、Otero-Rodriguez et al.(2016)・VoßKMら(2017)も同様にgrade I〜III間の有意差を認めていない1。一方で、grade I〜IIIとgrade IV以上を分ける境界は比較的一貫して再発率の差を示す。

限界と使ってはいけない場面

⚠️ 1957年の分類で、当時は術後MRIも顕微鏡手術もなく、切除範囲の判定はの目視によるものだった。 現在は術後の造影MRIで残存腫瘍をに評価できるため、の申告と画像所見が食い違うことがある。Spille et al.(2021)の検討では、術中所見からSimpson I・IIと判定された症例の約8%で、術後MRIに残存腫瘍を認めたと報告されている1

⚠️ グレードIとIIの再発率の差は、原著が示したほど明瞭ではないという報告が近年相次いでいる。前述のSughrue et al.・Ehresman et al.・Otero-Rodriguez et al.・VoßKMらの研究群はいずれもグレードI〜III間に有意差を認めておらず、グレード単独ではなく「グレードI〜III()かIV以上(部分摘出以下)か」というの方がに有用という見方が広がっている1

⚠️ (組織学的悪性度)とは別の軸であり、混同しない。 は切除範囲だけを表し、の再発リスクは切除範囲と(組織学的悪性度・分子基準)の両方で決まる。グレードIの完全摘出でも組織学的に高グレード(悪性度が高い)なら再発しうるし、グレードIVでも低グレード(悪性度が低い)なら長期に安定することがある。

⚠️ 頭蓋底・静脈・脳神経近接部位では、を確保した完全切除自体が困難で、機能温存を優先してに低いグレードにとどめる判断がありうる。低いグレード=不適切な手術ではない。「グレードIを達成すること」自体を手術の目標に固定しない。

💡 Chotai & Schwartz(2022)は、そのものを臨床の判断基準として使い続けるのではなく、術後MRIによる摘出範囲の評価(全摘出か部分摘出か、部分摘出なら残存体積が4〜5cm³を境に細分)とを組み合わせた層別化へ置き換えることを提唱している1

まとめ

  • は、の外科摘出後にが記録する切除範囲の分類(グレードI〜V)で、術前の予測スコアでも組織学的悪性度でもない。
  • グレードI〜IIIは「」の範囲で硬膜・骨の処理範囲が異なり、グレードIVは部分摘出、グレードVは生検・減圧のみである。
  • グレードが上がるほど再発しやすいという大枠は残るが、現代の研究ではグレードI〜III間の差は原著ほど明瞭でない。
  • 1957年当時のの目視評価に基づくため、現在の術後MRI所見と食い違うことがある。(組織学的悪性度)とは別軸で、部位によっては機能温存を優先してに低いグレードにとどめることが適切な場合もある。

出典

  1. 1.The Simpson Grading: Is It Still Valid?(Cancers (Basel) — MDPI・2022)Simpson原著(1957年)由来のgrade I〜Vの定義(硬膜静脈洞への浸潤時はgrade Iに洞切除を要すること、grade IIは肉眼的進展部分まで含めて摘出し付着硬膜は凝固のみとすること)、 Simpson自身の後方視的検討でgradeが不完全になるほど再発が増えたと報告されていること、 Sughrue et al.(2010)・Ehresman et al.(2018)・Otero-Rodriguez et al.(2016)・VoßKMら(2017)などの現代の後方視的研究でgrade I〜III間に明確な再発率の差を認めなかったという知見、 Spille et al.(2021)でSimpson I・IIと術中判定された症例の約8%に術後MRIで残存腫瘍を認めたという報告、 著者らがSimpson分類を術後MRIによるGTR/STR評価(残存体積4〜5cm³で細分)と分子マーカーを組み合わせた層別化へ置き換えるべきと結論している点を確認した閲覧 2026-08-04