Biophysics

Biophysics · 01.04

放射線の減弱則

Attenuation law

応用トピック
線量測定の基礎概念

🧠 減弱は、放射線が物質中を進むたびに「今残っている量の一定割合」が失われる過程である。 そのため強度は距離に対して直線的ではなくに低下する。失われる主因は吸収と散乱であり、μ\muが両者をまとめて表す。

減弱とは

減弱とは、放射線が物質と相互作用することにより、元の方向へ進む一次放射線の強度が低下する現象である。

放射源からの距離によるの変化を扱うのに対し、ここでは物質を通過する間に放射が失われる過程を扱う。

主な原因は次の2つである。

  • 吸収: 放射線のエネルギーが媒質へ移り、入射放射線が消失する。
  • 散乱: 放射線の進行方向が変わり、測定している一次ビームから外れる。

💡 検出器へ直進する一次ビームを考えると、散乱された放射線はエネルギーを完全に失っていなくても「ビームから除かれた」と数える。したがって減弱は吸収だけを意味しない。

微小厚さでの減少

厚さdxdxの薄い層を通過するとき、強度IIの減少量dIdIは、現在の強度IIと厚さdxdxに比例する。

減弱係数が放射の種類やエネルギーに依存する理由は、電磁スペクトルと物質との相互作用を対応させると理解しやすい。

dI=μIdxdI = -\mu I\,dx

μ\muで、単位はm⁻¹またはcm⁻¹である。負号は、進むにつれてIIが減少することを表す。

この微分方程式を厚さ0からxxまで積分すると、が得られる。

I(x)=I0eμxI(x) = I_0 e^{-\mu x}
  • I0I_0:物質へ入る前の強度
  • I(x)I(x):厚さxxを通過した後の強度
  • μ\mu
  • xx:物質中を通過した距離
flowchart TD
  A["入射強度 I₀"] --> B["厚さdxの層へ入射"]
  B --> C["一部が吸収"]
  B --> D["一部が散乱"]
  C --> E["一次ビームから除去"]
  D --> E
  E --> F["残った強度が次の層へ進む"]
  F --> G["反復すると I = I₀e⁻ᵘˣ"]

なぜ指数関数になるのか

各層が「一定量」ではなく「その時点で残っている放射線の一定割合」を除去するからである。最初の層では入射量が多いため多く失われ、後の層では残量が少ないため失われる絶対量も小さくなる。

媒質による吸収を濃度から定量する場合は、Lambert–Beerの法則へこの考え方を発展させる。

厚さ 残存強度
x=0x=0 I0I_0
x=1/μx=1/\mu I0/e0.368I0I_0/e\approx0.368I_0
x=2/μx=2/\mu I0/e20.135I0I_0/e^2\approx0.135I_0
x=3/μx=3/\mu I0/e30.050I0I_0/e^3\approx0.050I_0

半価層

強度を半分にする物質の厚さをという。I/I0=1/2I/I_0=1/2を減弱則へ代入すると、

HVL=ln2μ\mathrm{HVL} = \frac{\ln 2}{\mu}

HVLが小さいほど、その物質による減弱が強い。nn枚のHVLを通過すると、強度は(1/2)n(1/2)^nになる。

μ\muが大きいほど減弱は強く、HVLは小さくなる。μ\muとHVLは反比例する。

減弱係数を決める因子

μ\muは一定の物質定数ではなく、次の条件によって変化する。

  • 放射線の種類とエネルギー
  • 物質の密度
  • 物質を構成する
  • 起こりうる吸収・散乱過程

密度の影響を分離して物質を比較するときは、μ/ρ\mu/\rhoを用いる。

μρ[m2/kg or cm2/g]\frac{\mu}{\rho}\quad [\mathrm{m^2/kg}\ \text{or}\ \mathrm{cm^2/g}]

複数過程・複数層の減弱

独立した相互作用が複数あるとき、全減弱係数は各過程の係数の和になる。

μtotal=μ吸収+μ散乱\mu_{\text{total}} = \mu_{\text{吸収}} + \mu_{\text{散乱}}

異なる物質層を順に通過する場合は、それぞれの指数因子を掛け合わせる。

I=I0eμ1x1eμ2x2=I0e(μ1x1+μ2x2)I = I_0 e^{-\mu_1x_1}e^{-\mu_2x_2} = I_0 e^{-(\mu_1x_1+\mu_2x_2)}

適用条件と限界

単純な指数減弱則は、細い単色ビーム(narrow, 単一エネルギービーム)と均一な物質を仮定する。広いビームでは散乱線が検出器へ入り、測定強度が単純式より大きくなることがある。異なるエネルギーを含むX線では、低エネルギー成分が先に吸収されて平均エネルギーが上がるも起こる。

⚠️ 距離によると、物質内でのな減弱は別の法則である。測定配置によっては両方を考慮する必要がある。

まとめ

  • 減弱は吸収と散乱による一次放射線強度の低下である。
  • 微小層で失われる量が現在の強度に比例するため、I=I0eμxI=I_0e^{-\mu x}となる。
  • μ\muが大きいほど減弱は強く、HVLは小さい。
  • 全減弱係数は、独立した吸収・散乱過程の係数の和として表せる。
  • 単純な指数則は単色・細いビーム・均一媒質で最もよく成り立つ。