法医学

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法医DNA鑑定

Forensic DNA analysis

前提:正常
PCRおよびリアルタイムPCRの機能と応用

🧠 全体像:法医鑑定の目的は疾患遺伝子の解析ではなくであり、の大きい多型マーカーを対象とする。その中心が(STR)である。核(nDNA)を第一選択とし、量・質が不十分な場合はする(mtDNA)に加え、SNPやInDelなど短い断片で解析できるマーカーを状況に応じて用いる。

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)とDNA分析

  • は分析に不可欠な技術であり、特定の配列を高感度に増幅できる。ただし増幅効率は量・分解の程度・阻害物質の影響を受け、分解検体では得られる増幅産物の長さそのものが制限される。1
  • 使用するが、増幅される配列の境界を決定する。

💡 法医鑑定の目的は、疾患のを調べる臨床遺伝学とは根本的に異なり、にある。そのため対象は個体間差の大きい多型マーカーで、中心はSTRだが、目的や検体の状態に応じてSNP・InDel・microhaplotypeなども用いられる。

⚠️ 「は一切調べない」と単純化しない。近年は次世代シーケンサー(NGS/並列シーケンス)により、STRの長さだけでなく配列多型も読まれるようになっており、対象は長さの多型から配列情報へ広がっている。2

検体の質・量に関する課題

  • などの遺伝学的検査では、血液や唾液など保存状態の良い検体が一般に入手可能である。
  • 一方、生物学的痕跡の検査や遺体の識別では、以下のような問題がしばしば生じる。
    • 量が極めて少量
    • の保存状態不良
    • 阻害物質の混入

DNAの所在:核DNA(nDNA)とミトコンドリアDNA

  • DNAは核とミトコンドリアの両方に存在する。
  • 法医遺伝学では核との両方を鑑定に利用できる。
  • 第一選択はnDNAだが、量・質が不十分な場合はmtDNAに加え、SNP・InDel・miniSTRなど短い断片を標的とする手法を状況に応じて用いる。1
flowchart TD
    A["検体から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>鑑定を行う"] --> B{"nDNAの量・質は十分か"}
    B -->|"十分"| C["核<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>(nDNA)で鑑定"]
    B -->|"不十分"| D["mtDNA、SNP、InDel、miniSTRなど<br>短い断片を標的とする手法へ"]

💡 mtDNAは母系にのみ遺伝し、1細胞あたりのがnDNAよりはるかに多いため、高度に腐敗・した検体でも検出できることがある。ただしmtDNAは母系の間で共通のため、はnDNAより劣る。

💡 二者択一とは限らない。 並列シーケンスにより、・STR・SNP・mtDNAを一反応で同時に判定する系が実用化されている。370本の検討では、mtDNAの読み取り深度が毛根側から遠位へするのに対し、核の深度はに沿って比較的一定だった——検体の部位によって、どちらが取れるかが変わる。3

DNA鑑定の用途

用途 用いる
nDNA
刑事事件における被害者の識別 主にnDNA、必要に応じてmtDNAを併用
刑事事件における加害者の識別 主にnDNA(必要に応じて補助マーカーを追加)
遺体の識別 nDNA(不十分な場合はmtDNA)

短鎖タンデム反復とその他のマーカー

  • は、現代の法医鑑定の中心をなすマーカーである。キャピラリー電気泳動(CE)による長さの判定が長く標準だが、近年はNGS/並列シーケンスによる配列ベースの解析へ広がっている。2
  • 特殊な場合には、上のSTRであるX-STR・Y-STR(gonosomal STR)に加え、X-InDelやY-SNP/Y-InDelなどのマーカーを調べる。
  • 保存状態が不良な検体には、より短い断片で解析可能なやInDelが利用できる。SNPは対立遺伝子多様性が高く短い増幅産物で済むため、した鋳型ではSTRより有利である。1
  • は、STRとSNPの中間的な性質を持つマーカーで、低変異率・短い増幅産物・スタター(分裂ピーク)が出ない・CEと互換という利点がある。人為的に分解させた検体では、検出できた対立遺伝子数がSTRキットを大きく上回った。4
マーカー 特徴
STR 現代法医鑑定の中心。が高い
X-STR/Y-STR 上のSTR。性別に関連したや、混合試料の解析で使用
SNP 短い断片で解析でき、保存不良検体や血縁解析の補強に有用
Indel多型 STRとSNPの中間的性質。低変異率・短い増幅産物・スタターがない

まとめ

  • 法医鑑定の目的はであり、の大きい多型マーカー(主にSTR)を対象とする。NGSの普及により、STRの長さだけでなく配列多型も読まれるようになっている。
  • 核(nDNA)を第一選択とし、量・質が不十分な場合はmtDNAに加え、SNP・InDel・miniSTRなど短い断片を標的とする手法を用いる。両者を一反応で同時に判定する系も実用化されている。
  • STRが解析の中心であり、STR(X-STR/Y-STR)、SNP、InDel多型は検体の状態や目的に応じて使い分ける。分解検体ではSNPやInDelのほうが検出できる対立遺伝子が多い。日常業務はSTR-CE、複雑な事案にNGSやSNPアレイという併用が現実的な形とされている。

出典

  1. 1.Analysis of Human Degraded DNA in Forensic Genetics(Genes・2025)死後はDNA修復が止まり、細胞内ヌクレアーゼと微生物によってDNAが断片化すること。保存の程度は温度・湿度・紫外線・pH・化学物質・微生物活動といった環境因子に強く依存すること。分解検体ではPCRで得られる**増幅産物の長さが本質的に制限される**ため、短い断片を標的にする必要があり、**一塩基多型(SNP)**は対立遺伝子多様性が高く短い増幅産物で済むためSTRより断片化した鋳型に適していること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Implementation of NGS and SNP microarrays in routine forensic practice: opportunities and barriers(BMC Genomics・2025)キャピラリー電気泳動によるSTR型判定が長く標準とされてきた一方、多重化能・分解検体や混合試料の解釈・複雑な血縁関係の解決に限界があること。次世代シーケンサーは**STRの配列決定**とSNP型判定を可能にし、識別力・分解DNAでの成績・混合試料の分離を改善すること。SNPマイクロアレイは拡張血縁鑑定・法科学的遺伝系図・表現型予測に費用対効果が高いが低品質検体や混合試料には不向きであること。日常業務はSTR-CE、複雑な事案にNGSやSNPアレイという併用が現実的であること閲覧 2026-08-21
  3. 3.Concurrent genotyping of mitochondrial DNA and nuclear DNA in rootless hair shafts and blood samples for enhanced analysis(Forensic Science International - Genetics・2025)毛幹のように核DNAが高度に断片化した検体では、キャピラリー電気泳動によるSTR型判定が難しいこと。大規模並列シーケンスにより、アメロゲニン・STR・SNP・ミトコンドリアDNA超可変領域を**一反応で同時に判定**する系が実用化されていること。毛幹370本と血液180検体の検討で、ミトコンドリアDNAの読み取り深度は毛根側から遠位へ向かって漸減する一方、核DNAの深度は毛幹に沿って比較的一定であったこと閲覧 2026-08-21
  4. 4.Development and validation of a forensic multiplex InDel assay: The AGCU InDel 60 kit(Electrophoresis・2022)挿入/欠失多型(InDel)が短鎖タンデム反復と一塩基多型の両方の性質を併せ持ち、個人識別の補完的または独立の系として機能すること。常染色体InDel 57座位・Y染色体InDel 2座位を含む多重系の検証で、125 pgのヒトDNAからも完全なプロファイルが得られ、**人為的に分解させた検体では検出できた対立遺伝子数がSTRキットを大きく上回った**こと閲覧 2026-08-21