分子細胞生物学

分子細胞生物学 · 17

PCRおよびリアルタイムPCRの機能と応用

Function and application of PCR and real-time PCR

応用トピック
法医DNA鑑定腫瘍の分子病理

🧠 (、polymerase chain reaction)は「変性→→伸長」という3段階の温度サイクルをに繰り返すだけの単純な原理でありながら、を2ⁿ倍(40サイクルなら2⁴⁰倍)に増幅する。旧来のが増幅産物を「反応が終わった後」に電気泳動で見るのに対し、は蛍光シグナルを「反応の最中」に追跡する——この「後で見る」から「今見る」への転換が、定性的検出から定量的解析への飛躍を可能にした。

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)とは

は分子生物学で用いられる技術で、の1コピーまたは少数コピーのセグメントを数桁にわたり増幅し、特定の配列の数千〜数百万コピーを生成する。これにより電気泳動(可視化用)または即座のによって特定の遺伝子を検出できるようになる。

大部分の法はに依存する——を反復的な加熱・冷却サイクルに曝すことで、異なる反応を可能にする。

標的領域に相補的な配列を含むプライマーとポリメラーゼ(この方法の名前の由来)が選択性と反復増幅を可能にする。が進行するにつれ、生成された自体が複製の鋳型として使われ、連鎖反応が始動し、元の鋳型がに増幅される。つまり各サイクルで、存在する全ての分子が(05-principles-of-the-semiconservative-dna-replication-replication-fork-leading-and参照)を行う。

ほぼ全てのは熱安定性ポリメラーゼ——Taqポリメラーゼ(細菌から最初に単離された酵素)を用いる。このポリメラーゼはを鋳型とし、プライマーにより合成を開始させ、遊離ヌクレオチドから新しい鎖を酵素的に組み立てる。

前述の通り、ポリメラーゼは新規鎖の合成を開始できない(既存鎖の伸長のみ継続可能)ため、複製したい鋳型を指し示すためにプライマー分子を用いる。で用いられるプライマーは人工のである(細胞内の複製で使われる天然のプライマーはが作るで、そこが違う)。プライマーはゲノム中の相補領域に結合する——これによりどの領域を増幅したいかを選択する。

PCR手順(熱サイクル)

のは3つの段階に分けられる:

flowchart TD
  A["1. 変性(denaturation、94〜96℃、約45秒)"] --> B["水素結合が切断→鋳型となる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-stranded DNA'>一本鎖DNA</span>"]
  B --> C["2. <span class='jp-term jp-term-diagram' title='annealing'>アニーリング</span>(annealing、50〜65℃、30〜60秒)"]
  C --> D["フォワード・リバース2種のプライマーが各ssDNA鋳型の3'側に結合"]
  D --> E["3. 伸長(elongation、約72℃、Taqポリメラーゼの至適温度)"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>ポリメラーゼが5'→3'方向へ遊離ヌクレオチドを付加し新鎖合成"]
  F --> A

1. 変性(95℃)

が95℃(45秒)で熱変性する——相補塩基間の水素結合が切断され、の一本鎖鋳型が得られる。

2. アニーリング(55℃前後)

反応温度が50〜72℃(30〜60秒)まで下げられ、プライマーが各ssDNA鋳型へできるようになる。2種のプライマー(それぞれ標的を含む2つのssDNA相補鎖に対応、フォワード+リバース)が必要である。プライマーは各鎖の3′端に結合する短い一本鎖配列で、増幅されるべき領域の境界を示す(ポリメラーゼの開始点)。プライマーの鎖へのを可能にする——塩基間の安定なH結合を達成する——ために十分低い温度であることが重要である。

3. 伸長(72℃)

プライマーの伸長は72℃で起こる(熱安定性Taqポリメラーゼの至適温度に対応)。ポリメラーゼによる増幅:中の遊離ヌクレオチドを(5′→3′方向に)付加することで、鋳型鎖に相補的な新しい鎖を合成する。増幅産物の量はプライマー・ヌクレオチド・ポリメラーゼの寿命によって決まる。

各サイクル後、配列は倍加する。の計算式は2ⁿ(nはサイクル数)。通常このは約40回(40サイクル)繰り返されるため、2⁴⁰個のコピーが得られる。

⭐ 第2サイクル(およびそれ以降)で合成が行われる際、元の鋳型鎖上のプライマー位置で止まらない。 元の長い鋳型鎖の数は直線的に増加する(各サイクルで2本の新しい元の長鎖が生じる)が、新規合成鎖の数はに増加する。

反応混合物

成分 内容
鋳型 1〜100 ng、調査/増幅対象の
プライマー(×2) 増幅されるセグメントを決定する
dNTP(デオキシリボ三リン酸) 新鎖の構成要素(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)
ポリメラーゼ 新しい鎖を合成(熱安定性——変性しない)
緩衝液 依存性ポリメラーゼに最適な環境を提供(最後に添加)

応用

  • 遺伝子変異/多型の調査→(リスク因子)の同定、遺伝性疾患の診断(または)
  • 「外来」ゲノムの同定:細菌・ウイルス→感染症の診断
  • 犯罪学:、遺伝子(犯人の同定)
  • 遺伝子調節の調査→、(m)の定量的決定
  • 遺伝子の機能/調節の解析、質の産生→医薬品(・レポーターベクター、19-generation-and-application-of-recombinant-dna-reporter-and-expression-vectors参照)

💡 の外側には「増幅せずに検出する」「温度を振らずに増幅する」系列が育っている。 ①デジタル(dPCR/ddPCR)——反応液をナノリットルの液滴数万個に分割し、各液滴の陽性/陰性をポアソン分布で数えることで、なしに絶対を出す。と感度は同等だが精度が高く(が37〜86%低下)、日差再現性は約7倍良い1。わずかな割合差の測定と稀少バリアント(血中循環腫瘍など)の定量に向き、阻害物質の影響も受けにくい2。②CRISPRベース検出——Cas13aやCas12aは標的を認識すると周囲の核酸を無差別に切る「コラテラル活性」を示すため、蛍光レポーターと組み合わせると標的の有無が光として読める。等温増幅と繋いだSHERLOCKはアトモル濃度の感度と1塩基の識別能を持ち、試薬をして紙上で再構成できるためコールドチェーン不要の現場検査に使える3。

ゲル電気泳動

電気泳動は高分子(、、タンパク質、炭水化物)をそのに応じて分離する技術である。分離は溶液中の成分がの作用下で異なる速度で移動するという事実に基づく。サイズによる分離:

  • 小さな分子→抵抗が小さい→が大きい→が長い(速い)
  • 大きな分子→抵抗が大きい→が小さい→が短い(遅い)

→ ゲルのが分子の移動速度を決定する。

はUV光を用いて蛍光を発生させ、ゲル内のを可視化できるようにする。は(のため)負電荷を帯びており、正極へ移動する。

リアルタイムPCR

  • では、増幅された産物(、amplicon)はエンドポイント解析で検出される
  • 対照的に、では増幅産物の蓄積が反応進行と同時に測定される——リアルタイムで、つまり中に結果が得られる(後ではなく)

産物のリアルタイム検出は、各反応に含まれる蛍光レポーター分子によって可能となり、産物量の増加とともに蛍光が増加する。モジュールを備えた特殊なサーマルサイクラーが、増幅が進行する際の蛍光シグナルをモニタリングする。測定された蛍光は増幅された産物()の総量に比例し、な蛍光変化から各サイクルで産生された量が算出される。

により鋳型を相対的・の両方で決定できる:

様式 内容
相対的 標的のシグナルを別の試料(無処置対照など)や内部標準遺伝子と比較し、発現量の変化倍率を求める。2^(-ΔΔCt)法が標準4
既知濃度の標準試料から作ったに照らして、入力そのものを決定する4

⚠️ 「相対=定性的」ではない。 相対定量は「どちらが多いか」を見るだけの定性法と誤解されやすいが、2^(-ΔΔCt)法は「対照の何倍」という数値を返す立派な定量法である。絶対定量と相対定量の違いは定量か定性かではなく、基準を外部のに置くか(絶対)、比較対象の試料と内部標準遺伝子に置くか(相対)の違いである4。

応用: 、「」・CNV()解析(反復変異)、SNP、新規多型の同定(「融解曲線解析、melting curve analysis」)。

まとめ

  • は変性(95℃、H結合切断)→(55℃前後、プライマー結合)→伸長(72℃、Taqポリメラーゼによる新鎖合成)という3段階のをn回繰り返し、を2ⁿ倍にに増幅する。
  • 新規合成鎖はに増加する一方、元の長い鋳型鎖は直線的にしか増加しないという非対称性が、産物の大部分を「望む長さの断片」に収束させる。
  • はをサイズ(負電荷・によるの違い)で分離する検出手段であり、遺伝子変異・多型の同定、感染症診断、、など幅広く応用される。
  • は蛍光レポーターにより増幅を反応進行中に定量し、相対的(2^(-ΔΔCt)法で変化倍率を出す)・(でを出す)の両様式——どちらも定量法である——でや、SNPに用いられる。
  • 現在はこの外側に、なしで絶対を数えるデジタルと、等温増幅+Cas13a/Cas12aのコラテラル活性で標的を光として読むCRISPRベース検出が加わっている。

出典

  1. 1.Absolute quantification by droplet digital PCR versus analog real-time PCR(Nature Methods・2013)ナノリットル液滴を用いたデジタルPCR(ddPCR)はリアルタイムPCRと比べて精度が高く(変動係数が37〜86%低下)、日差再現性が7倍向上した。感度は同等で、血清マイクロRNAのがん診断性能はddPCRの方が優れていた閲覧 2026-08-22
  2. 2.The digital MIQE guidelines: Minimum Information for Publication of Quantitative Digital PCR Experiments(Clinical Chemistry・2013)デジタルPCRは核酸の精密な定量を可能にし、わずかな割合の差の測定と稀少バリアントの定量を容易にする。リアルタイムPCRより再現性が高く、阻害物質の影響を受けにくい閲覧 2026-08-22
  3. 3.Nucleic acid detection with CRISPR-Cas13a/C2c2(Science・2017)Cas13aの標的認識後の非特異的RNA分解活性(コラテラル効果)と等温増幅を組み合わせたSHERLOCKは、アトモル濃度の感度と1塩基ミスマッチの識別能でDNA・RNAを検出する。試薬は凍結乾燥して紙上で再構成でき、コールドチェーン非依存の現場検査が可能閲覧 2026-08-22
  4. 4.Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2(-Delta Delta C(T)) Method(Methods・2001)リアルタイムPCRの解析法は絶対定量と相対定量の2つで、絶対定量は検量線によって入力コピー数そのものを求め、相対定量は標的転写産物のシグナルを別の試料(無処置対照など)と比較する。相対定量も2^(-ΔΔCt)法により発現量の変化倍率を数値として出す定量法である閲覧 2026-08-22