組織学

組織学 · 3.8

結合組織:造血

Connective tissue — Hemopoiesis

🧠 造血は「1つの幹細胞から2系統の分かれ道」として覚える。 造血幹細胞はとという2つの大枝に分岐し、そこからさらに各血球系列へ枝分かれしていく——この「幹→2大系統→各血球」という樹形図の形をまず頭に入れる。ただしこの二分岐樹は今では暗記のためのであって実際の分化そのものではない——単一細胞解析により、分岐の順序・の分かれ方・段階のの3点が描き替えられている(後述の💡)。

造血の場:出生後は骨髄

出生後、造血の主座は骨髄、特ににある。骨髄は(03-6-bone)のの間隙を占め、(03-4-ct-proper-types)をとして造血細胞が発育する。

💡 には造血の場が卵黄嚢→肝臓→脾臓→骨髄と移り変わる(発生学的な詳細は embryology の対応トピックを参照)。出生後は骨髄が主座となり、加齢とともに一部のは脂肪に置き換わるになるが、造血の需要が高まるとが再び化しうる。

造血幹細胞から各血球系列への分化

flowchart TD
  A["造血幹細胞"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myeloid progenitor'>骨髄系前駆細胞</span>"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphoid progenitor'>リンパ系前駆細胞</span>"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythroid'>赤血球系</span>→赤血球"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulocytic'>顆粒球系</span>→好中球・好酸球・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basophil'>好塩基球</span>"]
  B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='monocytic'>単球系</span>→単球→マクロファージ"]
  B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='megakaryocytic'>巨核球系</span>→血小板"]
  C --> H["T細胞・B細胞・NK細胞"]
  A -->|"単一細胞解析で判明した直接経路"| G
系列 由来 成熟した血球
赤血球(03-7-blood)
好中球・好酸球・
単球→組織でマクロファージ(03-1-cells)に分化
の細胞質がし血小板を放出
T細胞・B細胞・NK細胞

⭐ 単球とマクロファージは同一系列の異なる成熟段階(03-1-cellsで既出)、は分裂せず細胞質をさせて血小板を作るという2点は、血球系列の中でも特に問われやすい例外的な成熟様式。

💡 この二分岐樹は「まず覚える」であって、単一細胞解析はこの形を3点で描き替えている。 共通・という枠組みは、どの血球がどの系列に属するかの対応づけとしては今も有効なので、暗記の骨格としてはそのまま残してよい。そのうえで次を重ねる。

  • 分岐の順序が違う。 造血幹細胞画分の中にFlt3を高発現する集団があり、これは顆粒球・単球・B細胞・T細胞をすべて作れる一方で、とを作る能力を先に失っている(赤芽球・の制御遺伝子が下がり、IL-7受容体が上がっている)。つまり最初の分かれ目は「 対 リンパ系」ではなく、赤血球・が先に落ちて、残りがに傾いた前駆細胞(LMPP)になるという順序である1。
  • は造血幹細胞から直接分岐しうる。 マウスの単一細胞移植で、表現型上は造血幹細胞に見える画分の中に、長期の骨髄能を保ちながらだけ(MkRP)/・赤血球だけ(MERP)/だけ(CMRP)を作る自己複製性前駆細胞が見つかった。造血幹細胞はでこれらを直接生み出せる=前駆細胞の段階を飛ばすバイパスがあり、これは骨髄破壊後の速い応答に効いていると考えられる2。ヒトでも同じ向きで、胎児肝には骨髄球系・・が混じり合った少能性前駆細胞が多数いるのに対し、成人骨髄では少能性の中間段階がほとんど無く「」と「」の2階層しかなく、・はから直接立ち上がる(成人の2層階層モデル)3。
  • 段階は不連続な箱ではなく連続体。 ヒト造血幹細胞を・単一細胞トランスーム・機能アッセイで同時に測ると、定常状態の個々の造血幹細胞は複数方向へ徐々に系列傾向を獲得していき、離散的な前駆細胞集団を順番に通過しない。単一系列に限定された細胞は「低度にプライムされた未分化な造血幹・前駆細胞の連続体(CLOUD-HSPC)」から直接現れる4。だから教科書の樹形図の「節」は、実在する所というより連続体を切り分けた目印だと捉える。

⚠️ 「組織のマクロファージ=血中の単球が定着したもの」も、定常状態では成り立たない。 上の表の「単球→組織でマクロファージに分化」という経路は炎症時やには当てはまるが、パラビオーシスと運命追跡では定常状態の組織マクロファージへの単球の寄与はごくわずかで、肺マクロファージを枯渇させた後の回復も大半はその場での自己増殖(M-・GM-依存性)による。組織と血中単球は、定常状態では独立に維持される2つの列として扱うのが現在の理解である5(骨の破骨細胞が前駆細胞由来で、出生後は血中単球の反復融合で維持されるのも同じ話の一部)。

造血の調節因子

各系列の分化・増殖は特異的なサイトカイン・によって調節される。

  • :腎臓が産生し、の分化を促進
  • :主に肝臓が産生し、の分化・を促進
  • :顆粒球・の分化を促進

骨髄が働かなくなるとどうなるか

骨髄のはたらきが強く抑えられると、赤血球・白血球・血小板のすべてが同時に減っていく。すると体は酸素を十分に運べなくなって疲れやすくなり、感染に対する防御が弱まって熱を出しやすくなり、出血が止まりにくくなる、という3つの困った状態が一度に起こる。これは、造血のもとをたどればすべてが同じ1種類の幹細胞から枝分かれして生まれているため、その大元が傷つけば下流の血球すべてに影響が及んでしまうという、造血の仕組みそのものに由来する弱点だといえる。抗がん剤治療の副作用として血球減少がしばしば問題になるのも、盛んに分裂する造血幹細胞・前駆細胞が薬剤の影響を受けやすいためである。

まとめ

  • 出生後の造血の主座は骨髄(特に)で、をとして造血細胞が発育する。
  • 造血幹細胞はとに分岐し、そこから赤血球・顆粒球・単球・・リンパ球の各系列へ分化する(系列の対応づけとしては今も有効な枠組み)。
  • ただし単一細胞解析では、赤血球・の分離が最初に起こること、が造血幹細胞から直接うること、分化が離散的な段階ではなく連続体であることが示されており、二分岐樹は暗記のとして位置づける。
  • 定常状態の組織は血中単球からではなく、その場での自己増殖で維持される。
  • 単球とマクロファージは同一系列の異なる成熟段階、は細胞質をさせて血小板を産生する。
  • ・・などが各系列の分化を調節する。
  • 骨髄機能の抑制は単一の幹細胞に由来する全系統に及ぶため、貧血・易感染性・が同時に現れうる。

出典

  1. 1.Identification of Flt3+ lympho-myeloid stem cells lacking erythro-megakaryocytic potential a revised road map for adult blood lineage commitment(Cell・2005)造血幹細胞画分(Lin−Sca-1+c-kit+)のうちFlt3を高発現する細胞(CD34+Flt3+)は顆粒球・単球・B細胞・T細胞をすべて作れる一方、赤血球系と巨核球系の分化能を先に失っており、赤芽球・巨核球の発生制御遺伝子が発現低下しIL-7受容体遺伝子が上昇している。成人の最初の分岐が「共通リンパ系前駆細胞と共通骨髄系前駆細胞への厳密な分離」であるという従来モデルは改訂を要する閲覧 2026-08-24
  2. 2.Clonal analysis unveils self-renewing lineage-restricted progenitors generated directly from hematopoietic stem cells(Cell・2013)マウス単一細胞移植で、表現型上の造血幹細胞画分の中に長期骨髄再構築能をもちながら巨核球系のみ(MkRP)、巨核球・赤血球系のみ(MERP)、骨髄系のみ(CMRP)に限定された自己複製性前駆細胞が存在した。娘細胞対解析では造血幹細胞が対称分裂で造血幹細胞を、非対称分裂でこれら骨髄系限定前駆細胞を直接生み出しており、多能性前駆細胞の段階を順に通らずに系列決定が起こる「骨髄系バイパス」経路がある閲覧 2026-08-24
  3. 3.Distinct routes of lineage development reshape the human blood hierarchy across ontogeny(Science・2016)ヒトCD34陽性単一細胞から骨髄球系・赤血球系・巨核球系の運命を分離する分取法により、胎児肝には3系列が混在する少能性前駆細胞が多数存在するのに対し、成人骨髄では少能性の中間段階がほとんど存在せず多能性と単能性の2階層が優位で、赤血球系・巨核球系は多能性細胞から直接立ち上がることが示された(成人の two-tier 階層モデル)閲覧 2026-08-24
  4. 4.Human haematopoietic stem cell lineage commitment is a continuous process(Nature Cell Biology・2017)フローサイトメトリー・単一細胞トランスクリプトーム・機能アッセイを単一細胞レベルで統合すると、定常状態のヒト造血幹細胞は複数方向へ段階的に系列傾向を獲得し、離散的に階層化された前駆細胞集団を順に通過しない。単一系列に限定された細胞は「低度にプライムされた未分化な造血幹・前駆細胞の連続体(CLOUD-HSPC)」から直接出現する閲覧 2026-08-24
  5. 5.Tissue-resident macrophages self-maintain locally throughout adult life with minimal contribution from circulating monocytes(Immunity・2013)パラビオーシスと運命追跡により、定常状態の組織マクロファージへの血中単球の寄与は有意でないことが確認された。肺マクロファージ枯渇後の回復も大半がM-CSF・GM-CSF依存性のその場での確率的増殖による。組織常在マクロファージと循環単球は定常状態では独立に維持される単核食細胞系列として扱うべきである閲覧 2026-08-24