Immunology

Immunology · 11.4

免疫付与とワクチン接種 II

Immunization and vaccination II

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W10Seminar / 演習
応用トピック
感染症予防と予防接種アウトブレイク(集団発生)調査

🧠 11-3-immunization-and-vaccination-iの理論を、実臨床(B型肝炎の血清学)・集団レベル()・最新技術(COVID-19ワクチン)の3つの応用編として読む。 B型肝炎の血清学パターン(急性・治癒・ワクチン接種済み)は「抗体の種類・標的が病歴を語る」ことを示し、の閾値、そしてmRNA/ワクチンという新技術が、この100年来の理論の上に構築されていることがわかる。

症例:B型肝炎ウイルスの血清学

HBVは主に肝細胞に感染する部分二本鎖DNAウイルスで、環境中でも7日間感染性を保つ。世界で約3.5億人が感染(アジアで10%超、米欧で0.5%未満)。性交渉・血液/針刺し・(唾液)・歯ブラシ/髭剃りの共有・分娩時感染で伝播し、は60〜150日と長い。

血清パターンの鑑別

病態 HBsAg 抗HBc IgM 抗HBc IgG 抗HBs IgG
A) 急性感染 陽性 陽性(早期の形質芽球応答)
B) 治癒・免疫獲得 陰性 陽性(長寿命形質細胞/記憶細胞) 陽性
C) ワクチン接種済み・免疫獲得 陰性 陰性 陽性

ワクチン接種者と自然感染治癒者は「抗HBc抗体の有無」で区別できる。 ワクチンはHBs抗原に対してのみ免疫を誘導し、HBc抗原に対する免疫は誘導しない——だからワクチン接種のみで免疫を得た人は抗HBc抗体が陰性のままだが、自然感染を経て治癒した人は抗HBc IgGが陽性になる。同じ「抗HBs抗体陽性=免疫あり」でも、抗HBc抗体の有無が「ワクチンによる免疫か、自然感染による免疫か」を教えてくれる。

HBV感染の自然史(リスクのカスケード)

急性感染は30〜50%が無症状、50〜70%で黄疸・腹痛・嘔吐・感が出現。への進展はまれ(1〜2%、HDVでより高率)だが致死率80%。急性感染から慢性化する確率は新生児で90%(未熟な免疫系のため)、小児期(1〜5歳)で25〜50%、成人で5〜10%(60歳以上でより高率)。から肝硬変へは5年ごとに4〜5%、肝硬変からまたは他の致死的肝疾患へと進展しうる。

): 医療従事者向け、HBs抗原を用いる。は小児95%、40歳以上90%、60歳以上75%——30歳以上の反応者では免疫が成立する。

受動免疫(曝露後予防): B型肝炎免疫グロブリンは3〜6か月間有効。HBs抗原状態不明の血液や既知のHBs抗原陽性血液に曝露した医療従事者、または既知の者に使用。HBV陽性母体から出生する乳児(母子感染リスク85%超!)にはと受動免疫を同時併用する。

予防接種の実施における実務上の論点

①ブースター接種のタイミングを早めてはいけない

正しいタイミングでのは、すでに安定した免疫学的記憶が確立した状態への追加刺激になる。早すぎるはまだにある段階への刺激にすぎず、免疫学的記憶の安定化には時間を要するため、この過程を尊重しない早期追加接種は本来の効果を得られない。

②発熱・感染症罹患中のワクチン接種は禁忌

⚠️ 発熱時のワクチン接種は「環境」がエフェクター/記憶細胞バランスを歪める。 健常時のワクチン接種では、抗原が最小限の環境で提示され、大きな集団がゆっくり縮小しながら記憶細胞を形成する。発熱・感染中はが過剰な環境となり、この正常なバランスが崩れる——これが発熱時接種を避けるべき理由。

③乳児・高齢者でのワクチン接種の困難

集団 課題
乳児 母体由来の受動免疫が残存——弱く短い自己免疫応答(例:Hib、、サルモネラ)。母体抗体は生ワクチン病原体の増殖を阻害し、エピトープを覆ってBを妨げる
高齢者 数が少なく、新規/既知病原体いずれに対してもIgG抗体の数・多様性が減少。形質細胞形成条件が限定的で、プールが優位になる

💡 これが「生ワクチンは生後9か月未満、は生後6週未満で使わない」という規則の根拠。 母体抗体が完全に消失する前にを接種すると、母体抗体が病原体の増殖・を妨げてしまう。乳児・高齢者への対策としては、の最適化(B細胞活性化・リンパ節への遊走促進)、抗原量の増加(B細胞活性化・形成の増加)、反復接種・のリンパ節遊走、記憶細胞の分化・生存)が有効な戦略になる。

集団免疫

ワクチン接種を拒否する人は、集団全体を危険にさらす——の数理。 ワクチンの効果はに強く依存する。95%を超えるがあれば麻疹の流行は起こらない。しかしが高いこと自体が「自然感染による追加免疫()の機会」を消失させるという新しい状況を生んでいる——かつては流行時の無症状暴露が天然のとして働いていたが、流行がなくなった今、新たな戦略が必要になるかもしれない。

麻疹ワクチンをめぐる事実と俗説: ヨーロッパ(世界)で麻疹の流行がしており、ウクライナだけで2018年12月〜2019年6月に55,300例(成人25,987例、小児29,316例)、2019年にはWHO管内で9万例・37死亡・48か国に及んだ。

⚠️ と自閉症の関連は、5研究・125万人超の児童を対象とした1.0——関連なし。 への申し立ての多くは、DTPワクチンと脳症、と自閉症という、注目を集めやすい主張から生じたものだった。「麻疹ワクチン接種後もまれに麻疹に罹る」という事実が、誤って「ワクチンは無意味」というに利用されがちだが、低下による流行という現実が、ワクチンの重症効果を裏付けている。

COVID-19ワクチンの新技術

SARS-CoV-2の流行は、RNAワクチンワクチンという新しいワクチンプフォームを実用段階へ押し上げた。

フォーム 原理
mRNAワクチン mRNAがタンパクをコードし、で細胞へ送達 Pfizer/BioNTech、Moderna
不活化ウイルスワクチン SARS-CoV-2そのものを不活化 Sinopharm
ワクチン 別のウイルスがタンパク遺伝子を運ぶ Sputnik V、AstraZeneca
組換えタンパクワクチン タンパクそのものを抗原として使用 Nuvaxovid

mRNAワクチンの利点と技術的工夫

💡 mRNAワクチンは「病原体を使わない、しかもDNAに組み込まれないワクチン」。 RNA合成はタンパク質・病原体を用いた製造よりはるかに簡単・安価・迅速。ワクチン中に病原体そのものは存在せず(I型過敏反応のリスクは低い)、マウスでは9週間以上持続するB細胞応答・長寿命形質細胞・の誘導が確認されている。ゲノムへの組み込みリスクがない(RNAであってDNAではない)という点で、実質的に「長期的影響のない遺伝子治療」と表現できる。これまでのところ新しい(例:G614)も、誘導された抗体で認識され続けている。

Pfizer/BioNTechの技術的工夫: された非自己増幅型RNAをで輸送する。mRNAにはメチル(Ψ)(人工的なへの抗ウイルス応答を回避)、GCコドン最適化(翻訳効率化)、ポリA尾部(翻訳の安定化)などの工夫が施されている。LNPはとは異なり、mRNAを保護・輸送し、から細胞質への脱出を助ける——RNAとLNPの両方が様の性質をもつ可能性がある。

ウイルスベクターワクチン:Sputnik Vの2ベクター戦略

Sputnik Vは2種類の異なるを、それぞれ初回接種・追加接種に用いる2ベクター方式のワクチン。(しばしばの原因)は導入遺伝子発現の強力なベクターだが、既存の免疫(への歴)がベクターの効果を弱めうるという弱点がある。

この弱点への解決策が「2つの異なるベクターを使う」という発想。 ガマレヤ研究所は初回接種と追加接種に異なる2種類のを用いることでこの問題を回避した(Sputnik V)。アストラゼネカはチンパンジー由来(ヒトでの既存免疫が少ない)を用いることで同じ問題に対処している。

まとめ

  • HBV血清学は急性感染(HBsAg+/抗HBc IgM+)・自然治癒(抗HBc IgG+/抗HBs IgG+)・ワクチン接種済み(抗HBc陰性/抗HBs IgG+)を明確に区別でき、抗HBc抗体の有無が自然感染とワクチンを見分ける鍵になる。急性感染は新生児で90%が慢性化するなど、年齢依存的にリスクが大きく異なる。
  • の早すぎる接種、発熱時の接種は避けるべきで、乳児(母体抗体の残存)・高齢者(減少)には最適化・増量・反復接種という対策が有効。
  • 95%超で成立するが、流行消失により自然な追加免疫の機会も失われるという新しい課題を生んでいる。と自閉症の関連はで否定されている。
  • COVID-19はmRNA・・不活化・組換えタンパクという4つのワクチンプフォームを実用化させ、mRNAワクチンの(Ψ修飾等)やSputnik Vの2ベクター戦略など、既存の免疫学的原理(11-3-immunization-and-vaccination-i参照)を応用した技術的工夫がその実用化を支えている。