医療心理学

医療心理学 · 18

障害とともに生きる人々とスティグマ

People Living with Disabilities: Stigma and Adaptation

🧠 障害の医学的重症度と、その人の生活の困難さは別物である。困難を作るのは機能障害そのものより、周囲の反応=である。理解の軸は3つの分類——Goffman の3類型、Mankoff の ascribed/achieved、Schneider & Conrad の適応型。

Goffman のスティグマ論

=もともとは奴隷や犯罪者に押された烙印を指すギリシャ語。Goffman はこれを社会学的概念として定式化し、「損なわれたアイデンティティ(spoiled identity)」の管理の問題としてとらえた1。

スティグマの3類型

類型 内容
身体的な(physical) 身体の「醜悪さ(abominations of the body)」——身体的な変形、障害、外見上の差異
道徳的/性格的な(moral / character) 個人的性格の「」——精神疾患、依存症、犯罪歴、失業、など
部族的/集団的な(tribal) 人種・民族・宗教・国籍など、家族や集団を通じて伝わるとみなされるもの

⚠️ 「」なは Goffman の類型に含まれない。貧困や失業が化されることは事実だが、Goffman の枠組みではそれは道徳的・性格的(「怠惰」という性格の欠点として帰属される)として扱われる。

また 「」は独立した類型名ではなく、部族的の内容にあたる。3類型の名称と、その中に入る具体例を混同しないこと。

discredited と discreditable

Goffman のもう一つの重要な区別1。

内容 課題
信用を失った者(discredited) が既に他者に見えている(利用、顕著な変形) 緊張の——相互作用の気まずさをどう扱うか
信用を失いうる者(discreditable) がまだ見えていない(てんかん、、精神疾患の既往) 情報の——誰にいつ何を告げるか

💡 多くの疾患は discreditable である。だから患者にとっての中心的な課題は「隠すか、明かすか」になる。これが次の Schneider & Conrad の適応型に直結する。

Schneider & Conrad の適応類型

てんかん患者の研究に基づく情報管理の方略2。彼らはな3つの型と、な型を区別した。

類型 内容
状況に応じて開示を調節する——必要な相手(家族、親しい同僚、医療者)には告げ、そうでない相手には告げない。最も均衡した適応とされる
徹底的に隠す。発覚の不安が持続し、機会を自ら狭めうる
積極的に公開し、啓発する側に回る。解放されたように見えるが、なおを意識した立場である(だから「準」)
上の3つと異なり非な型——に圧倒され、社会生活が大きく縮小する

⚠️ 「」という類型は存在しない。均衡した適応として挙げられるのは実用的・秘匿的・準解放的の3つであり、この3つはいずれも「」に分類される情報管理の方略である。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stigma'>スティグマ</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='latent'>潜在性</span><br>stigma potential"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stigma'>スティグマ</span>は<br>他者に見えているか"}
  B -->|"見えている<br>discredited"| C["緊張の管理<br>tension management"]
  B -->|"見えていない<br>discreditable"| D["情報の管理<br>information control"]
  D --> E["実用的<br>状況に応じて開示"]
  D --> F["秘匿的<br>徹底して隠す"]
  D --> G["準解放的<br>公開し啓発する"]

Mankoff の類型——ascribed と achieved

Mankoff は逸脱への反応を論じるなかで、本人の行為によらず与えられるものと、本人の行為の結果とみなされるものを区別した3。

類型 内容 例
本人の行為によらず、生まれつき、あるいは外から与えられたもの 、先天的な障害、人種、民族
本人の行為や選択の結果とみなされるもの 依存症、犯罪歴、(にそう見なされる限りでの) 感染など

⚠️ 「described」「deceived」という類型は存在しない。対になる語は ascribed(帰属的)と achieved(達成的)である。

💡 臨床的含意:achieved と見なされたのほうが、道徳的非難(「自分のせいだ」)を伴いやすく、より強く働く。喫煙者の肺がん、依存症、性感染症などで患者が感じる責めの感覚はここに由来する。がラベリングによってこれを強めうることに注意する(→ Becker のラベリング理論4、および 異文化間医療)。

スティグマ化された人の情動反応

・攻撃性(aggressivity)・受容(acceptance)のいずれも起こりうる——一つに決まった反応はない。

反応 内容
恥・自己非難 をする(セルフ)。抑うつ、引きこもりへ
攻撃性 外向きの怒り。医療者への敵意として現れることもある
受容 を自分の一部として統合する。準解放型の公開・啓発につながりうる

💡 要点:反応が一つに定まらないからこそ、「この患者は攻撃的だから困難な患者だ」ではなく、「への反応として攻撃性が出ている」と読むのが医療心理学的な見方である。

スティグマの過程としての定式化

Link と Phelan は、を次の要素が権力の行使のもとで共起する過程として定式化した5。

  1. 差異のラベル付け(labeling)
  2. ラベルとステレオタイプの
  3. 「私たち」と「彼ら」の
  4. 地位の喪失と
  5. これらすべてが成り立つには権力が必要である

💡 含意:は個人の偏見の問題であるだけでなく、構造的・制度的な問題である。だから対策も個人の態度変容だけでは足りない。

障害のとらえ方——医学モデルと社会モデル

モデル 障害の所在 帰結
医学モデル 個人の身体の中。治すべき欠損 介入対象は個人。治らなければ「どうしようもない」
社会モデル 機能障害のある人と、態度的・環境的障壁との相互作用の中6 介入対象は環境と態度。障壁を除けば参加できる

WHO の ICF(2001)は両者を統合した生物心理社会モデルに立ち、3水準を区別する7。

水準 内容 例()
心身機能・身体構造の 身体の機能・構造の問題 下肢の麻痺
行為の遂行の困難 歩行ができない
生活場面への関与の問題 就労できない、投票所に行けない

💡 要点:同じ impairment でも、環境(スロープ・支援技術・雇用主の態度・法制度)によって participation restriction は大きく変わる。は身体の性質ではなく、身体と社会の関係の性質である。だからが権利として要請される6。

幸福についての知見

障害とともに生きることを考えるうえで、幸福を左右するものが必ずしも金銭ではないという点は重要である。笑い・運動・身体接触といった、金銭を要さない要素が幸福に寄与することは繰り返し報告されている。

⚠️ 「金銭は幸福に影響しない」という要約は現在は支持されない。所得と幸福の関係が一定水準で平坦化するという知見(Easterlin のパラドックス、および感情的幸福が一定所得で飽和するという報告)は広く引かれてきたが、先行研究間の不一致を解消するために行われた共同解析では、大多数の人では高所得帯でも幸福が上昇を続け、平坦化するのは不幸な少数の層に限られることが示された8。

💡 したがって正確な言い方は「所得の寄与は存在するが、笑い・運動・関係といった要素に比べて限界効用が小さく、また所得だけでは説明されない」である。重い障害があっても良い生活が可能であるという主題は、この形でこそ支持される。

医療者としての実践的含意

  • 障害の重症度と生活の困難さを同一視しない。困難の多くは環境と態度から来る
  • discreditable な疾患をもつ患者にとって、最大の課題は「誰に告げるか」である。はその決定を代行せず、守秘を徹底する(→ 秘密保持は bioethics 科目の主題)
  • 患者の攻撃性や過度の秘匿を「困難な患者」の性格と読まず、への反応と読む
  • ⚠️ のラベル付け自体がを生成しうる——「怠けている」「不摂生の結果」といった道徳的評価は achieved を強化する4
  • 人を中心に置く言葉遣い(people-first language):「障害者」ではなく「障害とともに生きる人々(people living with disabilities)」

まとめ

  • Goffman の3類型:身体的/道徳的(性格の欠点)/部族的(集団的)。「経済的」は含まれない(貧困は道徳的として扱われる)。「人種的」は部族的の内容。
  • discredited(既に見えている→緊張の管理)と discreditable(まだ見えていない→情報の管理)。多くの疾患は後者。
  • Schneider & Conrad の適応型:な3型=実用的(状況に応じて開示)・秘匿的(隠す)・準解放的(公開し啓発)、非な型=衰弱的。「二分的」は存在しない。
  • Mankoff:ascribed(など、本人の行為によらない)と achieved(行為の結果とみなされる)。described・deceived は存在しない。achieved のほうが道徳的非難を伴いやすい。
  • 化された人の情動反応は恥・攻撃性・受容のいずれも起こりうる。攻撃性を性格と読まない。
  • Link & Phelan:ラベル付け→ステレオタイプ→分離→地位喪失と差別、+権力。は構造的問題である。
  • 医学モデル vs 社会モデル、ICF の3水準(impairment・・)。は身体と社会の関係の性質であり、だからが権利として要請される。
  • 幸福:笑い・運動・接触といった金銭を要さない要素が寄与する。ただし「金銭は幸福に影響しない」は現在支持されない——大多数では高所得帯でも幸福は上昇を続ける。

出典

  1. 1.Stigma: Notes on the Management of Spoiled Identity(Prentice-Hall(著者 Erving Goffman)・1963)スティグマを「損なわれたアイデンティティ」の管理としてとらえ、身体的な醜悪さ・個人的性格の欠点・部族的(集団的)スティグマの3類型に分けたこと。および「信用を失った者(discredited)」と「信用を失いうる者(discreditable)」の区別閲覧 2026-08-17
  2. 2.In the Closet with Illness: Epilepsy, Stigma Potential and Information Control(Social Problems(著者 Joseph W. Schneider, Peter Conrad)・1980)てんかん患者の適応様式の類型——適応的な型として実用的(pragmatic)・秘匿的(secret)・準解放的(quasi-liberated)という情報管理の方略があり、非適応的な型として衰弱的(debilitated)があること閲覧 2026-08-17
  3. 3.Societal Reaction and Career Deviance: A Critical Analysis(The Sociological Quarterly(著者 Milton Mankoff)・1971)逸脱を、本人の行為によらず与えられる「帰属的(ascribed)」なものと、本人の行為の結果とみなされる「達成的(achieved)」なものに区別し、社会的反応の働き方が両者で異なることを論じたこと閲覧 2026-08-17
  4. 4.Outsiders: Studies in the Sociology of Deviance(Free Press(著者 Howard S. Becker)・1963)ラベリング理論——逸脱は行為そのものではなく、社会がその行為にどう反応しラベルを貼るかによって作られること閲覧 2026-08-17
  5. 6.Convention on the Rights of Persons with Disabilities (CRPD)(United Nations・2006)障害を個人の属性ではなく、機能障害のある人と態度的・環境的障壁との相互作用から生じるものとしてとらえる社会モデルの立場と、合理的配慮(reasonable accommodation)の要請閲覧 2026-08-17
  6. 7.International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF)(World Health Organization・2001)障害を心身機能・身体構造の障害(impairment)・活動制限(activity limitation)・参加制約(participation restriction)の相互作用としてとらえ、環境因子と個人因子を含む生物心理社会モデルに立つこと閲覧 2026-08-17
  7. 8.Income and emotional well-being: A conflict resolved(PNAS(著者 Matthew A. Killingsworth, Daniel Kahneman, Barbara Mellers)・2023)所得と情動的幸福の関係は、大多数では高所得帯でも上昇を続け、平坦化するのは不幸な少数の層に限られること(先行研究間の不一致の解消)閲覧 2026-08-17