医療統計学・医療情報学・遠隔医療 · 12
交絡・バイアスと重回帰
Confounding, Bias and Multiple Linear Regression
🧠 全体像:知りたいのは「その説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) だけを動かしたら、アウトカムall-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes)all-or-none outcomes(アウトカム) はどれだけ変わるか」である。ところが現実の患者は説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) 以外でも互いに違う。この「他の違い」が推定値を歪めるのが交絡confounding交絡(confounding)confounding(交絡)であり、対処は層別か重回帰、あるいは最初から違いを消してしまう無作為化randomized無作為化(randomized)randomized(無作為化)である。ただし「変数variables 変数(variables)variables(変数) を入れれば入れるほど正しくなる」わけではない——因果経路の途中にある変数 variables 変数(variables) variables(変数) を入れると、測りたい効果そのものを削ってしまう。
何を推定したいのか
医学の問いはたいてい因果的である。
- 危険因子は疾患を起こすか、どれくらい起こすか
- 治療は疾患に効くか、どれくらい効くか
問いは2つに分解できる。① そもそも効果はあるか(効果 ≠ 0 か)、② あるならどれくらいか。①は②に含まれるので、実務上は「効果量とその不確実性を推定する」という一つの作業になる。
線形回帰では、その効果量が傾きである(相関と単回帰)。
説明変数がカテゴリでも回帰は使える
2値のカテゴリ変数 variables 変数(variables) variables(変数) (男/女、治療/対照)は、片方を0、他方を1と符号化 encoding 符号化(encoding) encoding(符号化) すれば、そのまま回帰に入る。数学も誤差の計算もすべて同じである。
このとき
- 切片 = 0 とした群の平均
- 傾き = 2群の平均の差
⭐ したがって、2値説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の傾きの推定・信頼区間confidence interval信頼区間(confidence interval)confidence interval(信頼区間)・仮説検定は、対応のない t 検定(平均の差)とまったく同じことをしている(平均の比較とt検定)。
例:睡眠時間(分/日)を性別(女=0、男=1)で回帰すると
読み方:女性の平均睡眠時間は約389分、男性はそれより平均106.3分長い。
💡 この見方が重要なのは、「群間比較」と「連続変数 variables 変数(variables) variables(変数) の効果」を1つの枠組みに統一できるからである。統一できるからこそ、両方を同時にモデルに入れる(=重回帰)ことができる。
交絡とは何か
交絡confounding交絡(confounding)confounding(交絡)とは、あるアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) に現れた効果を、ある説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の効果だと見なしたのに、実はそうではない(あるいはその大きさではない)状態をいう。観察された効果 ≠ 本当の効果。
⭐ 交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) には3つの条件がすべて必要である。
flowchart TD
Z["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confounding factor'>交絡因子</span> Z<br>例: 性別"] -->|"条件①: Z は X と関連する"| X["説明<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variables'>変数</span> X<br>例: 身長"]
Z -->|"条件②: Z は X とは独立に<br>Y の危険因子である"| Y["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-or-none outcomes'>アウトカム</span> Y<br>例: 睡眠時間"]
X -.->|"条件③: Z はこの矢印の<br>途中にはいない<br>(実際の効果は弱い/無い)"| Y
| 条件 | 内容 | 満たさないと |
|---|---|---|
| ① | 曝露(説明変数 variables変数(variables) variables(変数))と関連している | 交絡confounding 交絡(confounding)confounding(交絡) しない |
| ② | 曝露とは独立にアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) の危険因子である | 交絡confounding 交絡(confounding)confounding(交絡) しない |
| ③ | 曝露からアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) への因果経路の上にない | 中間変数mediator 中間変数(mediator)mediator(中間変数) であり、調整すると効果を削る |
⚠️ 「交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) とは、説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) とアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) の両方に影響する変数 variables 変数(variables) variables(変数) である」と説明されることがあるが、正確には③の条件が要る。③を落とすと、「Xの結果でありYの原因でもある変数 variables変数(variables) variables(変数)」——つまり中間変数 variables 変数(variables) variables(変数) ——まで交絡因子 confounding factor 交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子) に見えてしまい、調整してはならないものを調整することになる1。
医学で最も頻出する交絡因子 confounding factor 交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子) は性別と年齢。だから研究では常に記録する。
教科書的な例:身長と睡眠障害
ある研究で「身長が高いほど睡眠障害が多い」という関連が観察された。もっともらしい説明は作れる(ベッドが短い、体を丸めて寝る)。しかし実際には——
- 睡眠障害は男性に多い
- 男性は身長が高い
男女を分けて見ると、身長の効果はほとんど消える。性別が交絡因子 confounding factor交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子)である。
中間変数を調整するのは「交絡の調整」ではない
これが実務で最も重い誤りである。
flowchart TD
A["運動(曝露 X)"] --> B["血圧が下がる(中間<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variables'>変数</span> M)"]
B --> C["心血管イベントが減る(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-or-none outcomes'>アウトカム</span> Y)"]
A -->|"血圧を介さない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct effect'>直接効果</span>"| C
D["⚠️ 血圧で調整すると<br>A→B→C の経路が閉じる"] --> E["残るのは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct effect'>直接効果</span>だけ<br>『運動は効かない』と見える"]
運動が心血管イベントに与える全体の効果を知りたいのに血圧で調整すると、血圧を介した経路(まさに運動が効いている主要な仕組み)が推定から抜け落ちる。結果として効果は過小評価され、極端な場合は消える。これをover-adjustment(過剰調整)という1。
⚠️ 同様に、曝露とアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) の共通の「結果」(コライダー、collider)を調整してはならない。共通結果で条件づけ conditioning 条件づけ(conditioning) conditioning(条件づけ) ると、もともと無関係 unrelated 無関係(unrelated) unrelated(無関係) だった2変数 variables 変数(variables) variables(変数) の間に見せかけの関連が生じる。実習資料の「従属変数 variables 変数(variables) variables(変数) の結果である変数 variables 変数(variables) variables(変数) はモデルに入れない」という注意はこれを指している。
💡 判定の順序は「統計的にどうか」ではなく「因果の向きから見てどこにあるか」である。 変数variables 変数(variables)variables(変数) がXの前にあるなら交絡因子 confounding factor 交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子) 候補、XとYの間にあるなら中間変数 variables変数(variables) variables(変数)、XとYの後にあるならコライダー。データだけを見てもこの3つは区別できない——領域知識が要る。
Simpson のパラドックス
⭐ 層別すると、全体で見えた関連の向きが逆転しうる。 交絡confounding 交絡(confounding)confounding(交絡) の最も劇的な形である。
1973年カリフォルニア大学バークレー校の大学院入試2。全体では
| 出願者 | 合格率 | |
|---|---|---|
| 男性 | 8442 | 44% |
| 女性 | 4321 | 35% |
一見、女性に不利に見える。ところが学科ごとに見ると、大きい6学科は次のようになる。
| 学科 | 男性 出願 | 男性 合格率 | 女性 出願 | 女性 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| A | 825 | 62% | 108 | 82% |
| B | 560 | 63% | 25 | 68% |
| C | 325 | 37% | 593 | 34% |
| D | 417 | 33% | 375 | 35% |
| E | 191 | 28% | 393 | 24% |
| F | 373 | 6% | 341 | 7% |
ほとんどの学科で女性の合格率は男性と同等か高い。逆転の原因は、女性が合格率の低い学科(C〜F)に集中して出願していたことである。学科が交絡因子 confounding factor交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子)であり、①女性であることと関連し、②学科自体が合格率を決め、③性別→合格の因果経路上にはない。
⚠️ 「層別したほうが常に正しい」わけではない。 層別変数 variables 変数(variables) variables(変数) が中間変数 variables 変数(variables) variables(変数) やコライダーなら、層別したほうが誤る。ここでも判断は因果構造から行う。
バイアス —— 標本の作り方や測り方から生じる歪み
交絡confounding 交絡(confounding)confounding(交絡) は「集団の中に他の違いがある」問題だが、バイアスbiasバイアス(bias)bias(バイアス)は「そもそも集めたデータが歪んでいる」問題である。全数を調べても(=標本誤差が0でも)残る。
選択バイアス
研究に組み入れられた人と、そうでない人(あるいは群間)で、アウトカムall-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes)all-or-none outcomes(アウトカム) に影響する性質が違うときに生じる。
| 例 | 何が起きたか |
|---|---|
| 新薬群とプラセボ群で女性の割合が違う | 性別がアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) に効くのに、割付allocation 割付(allocation)allocation(割付) が偏っている |
| 追跡脱落loss to follow-up追跡脱落(loss to follow-up)loss to follow-up(追跡脱落) | 発症した人ほど脱落する。しかも脱落しやすさが曝露群 exposed group 曝露群(exposed group) exposed group(曝露群) で違う |
| 対照群の取り方 | 骨折患者を外傷科から、対照を内科から集める。内科の患者には糖尿病など別の疾患が多い |
情報バイアス
集めた情報そのものが誤っているときに生じる。
| 例 | 何が起きたか |
|---|---|
| 想起バイアスrecall bias想起バイアス(recall bias)recall bias(想起バイアス) | 小児がんの子の親は、健康な子の親より過去の感染症をよく覚えている |
| 測定バイアスmeasurement bias測定バイアス(measurement bias)measurement bias(測定バイアス) | 群によって測定機器・測定者・診断基準diagnostic criteria 診断基準(diagnostic criteria)diagnostic criteria(診断基準) が違う |
| Hawthorne 効果 | 観察されていることを意識して、被験者study participant / subject 被験者(study participant / subject)study participant / subject(被験者) の行動が変わる |
⚠️ Hawthorne 効果を「小児・高齢者など特定の集団がより多く検査される」と説明することがあるが、正確には Hawthorne 効果は「研究に参加し観察されていると知っていることによって、被験者study participant / subject 被験者(study participant / subject)study participant / subject(被験者) の行動そのものが変化する」現象である3。特定集団がより多く検査されるために疾患が多く見つかることは、発見(監視)バイアス biasバイアス(bias) bias(バイアス)という別の現象である。両者を混同すると対策も間違える——前者への対策は盲検化 blinding盲検化(blinding) blinding(盲検化)、後者への対策は群間で同一の検査プロトコルを使うことである。
なお、バイアスbias バイアス(bias)bias(バイアス) の体系的な一覧は Catalogue of Bias(Oxford, 2017–)にまとめられている。
研究デザインが、防げる誤りを決める
flowchart TD
A["臨床研究"] --> B["観察研究"]
A --> C["介入研究"]
B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cross-sectional study'>横断研究</span><br>曝露と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-or-none outcomes'>アウトカム</span>を同時に測る"]
B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='case-control study'>症例対照研究</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-or-none outcomes'>アウトカム</span>で選び、過去の曝露を遡る"]
B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cohort study'>コホート研究</span><br>曝露で選び、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='all-or-none outcomes'>アウトカム</span>を追う"]
C --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='randomized controlled trial (RCT)'>無作為化比較試験</span>(RCT)<br>介入を割り付ける"]
D --> H["⚠️ 時間の情報がなく<br>因果の向きが決まらない"]
E --> I["稀な疾患に効率的<br>後ろ向き"]
F --> J["前向きなら時間性が担保される"]
G --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='randomized'>無作為化</span>により、測っていない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='confounding factor'>交絡因子</span>も期待値として均等化される"]
| デザイン | 何で選ぶか | 向き |
|---|---|---|
| 横断研究cross-sectional study横断研究(cross-sectional study)cross-sectional study(横断研究) | 集団全体を一時点で | なし |
| 症例対照研究case-control study症例対照研究(case-control study)case-control study(症例対照研究) | アウトカムall-or-none outcomesアウトカム(all-or-none outcomes)all-or-none outcomes(アウトカム)の有無 | 後ろ向き |
| コホート研究cohort studyコホート研究(cohort study)cohort study(コホート研究) | 曝露の有無 | 前向き(曝露時点で結果未発生)/後ろ向き |
| RCT | 介入を無作為に割り付ける | 前向き |
⭐ 無作為化randomized 無作為化(randomized)randomized(無作為化) の本質は「測っていない交絡因子 confounding factor 交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子) まで均等化できる」ことである。 重回帰で調整できるのは記録した変数 variables 変数(variables) variables(変数) だけなので、観察研究には常に残余交絡 residual confounding 残余交絡(residual confounding) residual confounding(残余交絡) が残る。
⚠️ ただし「無作為化randomized 無作為化(randomized)randomized(無作為化) すればバイアス bias バイアス(bias) bias(バイアス) は消える」と説明されることがあるが、正確には無作為化randomized 無作為化(randomized)randomized(無作為化) が対処するのは割付 allocation 割付(allocation) allocation(割付) 時点の交絡 confounding 交絡(confounding) confounding(交絡) だけである。割付allocation 割付(allocation)allocation(割付) 後に生じる追跡脱落による選択バイアス selection bias選択バイアス(selection bias) selection bias(選択バイアス)、および情報バイアスinformation bias情報バイアス(information bias)information bias(情報バイアス)は無作為化 randomized 無作為化(randomized) randomized(無作為化) では防げない——前者には ITT 解析、後者には盲検化 blinding 盲検化(blinding) blinding(盲検化) が要る。また n が小さければ、無作為化randomized 無作為化(randomized)randomized(無作為化) しても偶然 chance 偶然(chance) chance(偶然) の不均衡は残る。
層別か、重回帰か
観察研究で交絡 confounding 交絡(confounding) confounding(交絡) を扱う方法は2つある。
| 方法 | やり方 | 限界 |
|---|---|---|
| 層別stratification層別(stratification)stratification(層別) | 交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) のカテゴリで分けて、層ごとに効果を推定 | 層の数が爆発する。連続変数 variables 変数(variables) variables(変数) だと層に切れない。層あたりの n が減って推定が不安定 |
| 重回帰multiple regression重回帰(multiple regression)multiple regression(重回帰) | 交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) 候補を説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) として同じモデルに入れる | 記録した変数 variables 変数(variables) variables(変数) しか調整できない。関数形の仮定が要る |
⚠️ どちらの方法でも、交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) を測っていなければ手の打ちようがない。 だから「性別と年齢は必ず記録する」という運用が要る。
重回帰
前提(この講義の範囲で置く簡略化):
- 数値の説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) とアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) は線形関係にある
- 説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の間に交互alternating 交互(alternating)alternating(交互) 作用がない
💡 交互作用interaction 交互作用(interaction)interaction(交互作用) とは、ある説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の効果が、別の説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の値によって変わることをいう(例:薬の効果が年齢によって違う)。「効果が他の変数 variables 変数(variables) variables(変数) の値に依存しない」のは交互alternating 交互(alternating)alternating(交互) 作用が無いという仮定のほうである。この仮定は緩めることもできる(モデルに積の項を入れる)が、この講義では扱わない。
係数の意味
⭐ は「他の説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の値が変わらないとき、 が1単位増えるとYが平均してどれだけ変わるか」である。
式で見ると、 だけを1増やして他をそのままにしたときの差がちょうど になる。
💡 「他を一定に保つ」とは、この引き算で が相殺 cancellation 相殺(cancellation) cancellation(相殺) されることを指しているだけである。 実際に患者の だけを動かせるという意味ではない——モデルに が入っていなければ、 は引き算で消えず、 の中に混ざったまま残る。これが残余交絡 confounding 交絡(confounding) confounding(交絡) である。
交絡が数字に現れるところ
実習の睡眠データ(n = 130、睡眠時間は分/日、身長は cm)。
| モデル | 式 | 身長の傾き | 有意性 |
|---|---|---|---|
| 身長のみ | 4.418 分/cm | 有意 | |
| 性別のみ | — | 有意 | |
| 身長+性別 | 1.193 分/cm | 有意でない |
⭐ 身長の傾きが 4.418 から 1.193 へ、7割以上縮んだ。 これが交絡 confounding 交絡(confounding) confounding(交絡) の姿である。粗い(crude)推定では「身長10 cm あたり44分」に見えたものが、性別を考慮すると「身長10 cm あたり12分」になり、しかもその推定は0と区別できない。見えていた効果の大部分は、実は性別の効果が身長に乗っていたものだった。
同じことは出生体重と成人体重でも起きる:性別を入れないと出生体重1 g あたり0.0091 kg、性別を入れると0.0056 kg。
⚠️ 「身長が10 cm 高いと睡眠時間が44.2分増える」と書かれることがあるが、観察研究の回帰係数は関連の記述であって介入の効果ではない。正確には「身長が10 cm 高い人は、平均して睡眠時間が44.2分長かった」。この差が重要なのは、まさにこの44.2分が交絡 confounding 交絡(confounding) confounding(交絡) 由来だったからである。
傾きの単位に注意。この実習では relevance の閾値を「10 cm あたり30分=3 分/cm」と定めている。結果を見るときに「傾きが30を超えているから relevant」と書くと単位が10倍ずれる。傾きは常に「Yの単位 / Xの単位」で読む。
「有意でない」を「効果がない」と読まない
上の表で身長の傾きは有意でない(95%CI が0を含む)。しかし点推定値 point estimate 点推定値(point estimate) point estimate(点推定値) は 1.193 分/cm、つまり10 cm で約12分である。CI の上端が臨床的に無視 neglect 無視(neglect) neglect(無視) できない値なら、「身長は関係ない」とは結論 conclusion 結論(conclusion) conclusion(結論) できない——結論 conclusion 結論(conclusion) conclusion(結論) できるのは「このデータでは身長の独立した効果を示せなかった」までである(統計的議論の組み立てとよくある誤り)。
「他を一定に保つ」が保証すること、しないこと
| licenses(言ってよい) | does not license(言ってはならない) |
|---|---|
| モデルに入った他の変数 variables 変数(variables) variables(変数) の値が同じ2人を比べたときの、Yの平均差 mean difference平均差(mean difference) mean difference(平均差) | 「その患者のX₁を実際に変えたらYがそれだけ変わる」——因果の主張には、調整集合が正しいという別の前提が要る |
| モデルの範囲内での比較 | データに存在しない変数 variables 変数(variables) variables(変数) の組合せへの外挿(身長210 cm の女性など) |
| 測定した交絡因子 confounding factor 交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子) の影響を除いた比較 | 測っていない交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) の影響も除いたという主張(残余交絡 confounding交絡(confounding) confounding(交絡)) |
| 変数variables 変数(variables)variables(変数) が正確に測れている場合の調整 | 交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) を誤差込みで測っているときの完全な調整——測定誤差 measurement error 測定誤差(measurement error) measurement error(測定誤差) があると調整は不完全にしか効かない |
⚠️ モデルの表に並ぶ係数を、どれも同じ意味で読んではならない。 主たる曝露の係数を推定するために入れた共変量(例:上のモデルの SEX)の係数は、その共変量自身の因果効果としては解釈できない。共変量にとっての正しい調整集合は、主たる曝露にとっての調整集合とは違うからである。これを Table 2 fallacy という4。表に載っているというだけの理由で全部を「調整済み効果」と読むのは誤りである。
どの変数を入れ、どれを入れないか
| 入れる | 入れない |
|---|---|
| アウトカムall-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes)all-or-none outcomes(アウトカム) に影響する変数 variables変数(variables) variables(変数) | 中間変数 variables変数(variables) variables(変数)(曝露の結果でありアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) の原因) |
| 説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の一つに影響する変数 variables変数(variables) variables(変数) | コライダー(アウトカムall-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes)all-or-none outcomes(アウトカム) の結果である変数 variables変数(variables) variables(変数)) |
| 性別・年齢(ほぼ常に) | 同じものを二重に測っている変数 variables 変数(variables) variables(変数) (身長の cm と m など。多重共線性を起こす) |
⚠️ 実習資料の「従属変数 variables 変数(variables) variables(変数) に影響する変数 variables 変数(variables) variables(変数) と、説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の一つに影響する変数 variables 変数(variables) variables(変数) をすべて入れる」という規則は、そのまま適用すると中間変数 variables 変数(variables) variables(変数) まで拾ってしまう。正確には「曝露の前にあり、曝露とアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) の両方に影響する変数 variables 変数(variables) variables(変数) を入れる」である1。
重回帰の出力をどう読むか
import statsmodels.formula.api as smf
model = smf.ols("SLEEPING ~ HEIGHT + SEX", data=df).fit()
print(model.summary()) # 係数・SE・t・p・95%CI が一覧で出る
print(model.conf_int()) # 信頼区間だけ取り出す
+ は「交互alternating 交互(alternating)alternating(交互) 作用を仮定しない」ことを表す(交互alternating 交互(alternating)alternating(交互) 作用を入れるなら HEIGHT * SEX)。
出力の中央に、説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) ごとに1行ずつ次の5つが並ぶ。
| 列 | 中身 | どう使うか |
|---|---|---|
| coef | 傾きの点推定値 point estimate点推定値(point estimate) point estimate(点推定値) | 効果量。単位とともに読む |
| std err | その標準誤差 | 推定の精度。単独では使わない |
| t / z | 検定統計量 | ほぼ見ない |
| P>|t| | p値 | 最後に見る |
| [0.025 0.975] | 95%信頼区間 | 効果の不確実性の幅。0を含むか、上端下端は臨床的にどうか |
💡 出力を読む順序
- 主たる説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) の coef — 効果量そのもの。単位を付けて言葉にする(「身長1 cm あたり睡眠1.19分」)
- 臨床的relevance — 事前に決めた閾値(この実習では3 分/cm)と比べる
- 95%信頼区間 — 下端・上端それぞれで臨床的な意味を考える。0を含むかは最後の判断材料
- p値 — 最後。有意でも臨床的に無意味な傾きはある
補助的に見るもの:
- 切片 — 説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) がすべて0のときのYの期待値。身長0 cm は存在しないので、この切片自体に意味はない。切片のp値もほとんど意味がない
- R² — 当てはまりの目安。説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) を増やせば必ず上がるので、モデル選択の根拠にしない(調整済み R² でもこの目的には弱い)
- 他の共変量の coef — Table 2 fallacy に注意
アウトカムが2値のとき —— ロジスティック回帰
アウトカムall-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes)all-or-none outcomes(アウトカム) が「生存/死亡」「疾患あり/なし」のような2値なら、傾きをそのまま「Yの平均変化」とは読めない。オッズoddsオッズ(odds)odds(オッズ)の枠組みに移す。
- オッズoddsオッズ(odds)odds(オッズ) … 起こる確率が、起こらない確率の何倍か
- ロジットlog oddsロジット(log odds)log odds(ロジット) … オッズodds オッズ(odds)odds(オッズ) の自然対数
線形になるのはロジットのほうである。
ロジスティック回帰の効果量は オッズ比odds ratio, OR オッズ比(odds ratio, OR)odds ratio, OR(オッズ比) (OR) で示され、「他の変数 variables 変数(variables) variables(変数) が同じなら、その説明変数 variables 変数(variables) variables(変数) が1単位増えるとオッズ odds オッズ(odds) odds(オッズ) が何倍になるか」を表す。
例:性別で調整したうえで、身長1 cm 増えるごとに睡眠障害のオッズ odds オッズ(odds) odds(オッズ) は 1.27倍。
⚠️ 1単位で OR = 1.27 でも、10単位で にはならない。 ロジットが線形なのだから、オッズodds オッズ(odds)odds(オッズ) は掛け算で積み上がる。
線形なのはロジット(対数オッズ oddsオッズ(odds) odds(オッズ))のほうであって、オッズodds オッズ(odds)odds(オッズ) でも確率でもない。
オッズ比odds ratio, OR オッズ比(odds ratio, OR)odds ratio, OR(オッズ比) をリスク比 risk ratio リスク比(risk ratio) risk ratio(リスク比) として読まない。 アウトカムall-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes)all-or-none outcomes(アウトカム) が稀なときだけ両者は近い(疫学指標・ROCROC(receiver operating characteristic)・尤度比)。
モデルの妥当性 —— 診断プロット
| 条件 | どこから分かるか |
|---|---|
| 観測の独立性、単純無作為抽出 random sampling無作為抽出(random sampling) random sampling(無作為抽出) | 研究デザインstudy design研究デザイン(study design)study design(研究デザイン) |
| 線形性、残差の正規性、等分散性、外れ値の少なさ | 診断プロット |
| プロット | 理想 | 悪い例 |
|---|---|---|
| 残差 対 予測値 | 水平線の周りに一様に散らばる | 曲線状のパターン(線形性が破れている) |
| Scale-Location(残差の平方根) | 一様 | 右に行くほど散らばりが大きい(等分散性が破れている) |
| 残差の正規Q-Qプロット | 点が直線に乗る | 端が大きく直線から外れる |
| 残差 対 レバレッジ(Cook 距離) | 右上・右下の隅に点がない | その点を除くと回帰が大きく変わる(影響力の大きい外れ値) |
💡 Cook 距離は「その1点を計算から外したら、当てはめがどれだけ動くか」を測る指標である。大きい点は、単に外れているだけでなく、傾きを決めてしまっている。Anscombe の四重奏の第4組がまさにこれである(相関と単回帰)。
⚠️ 前提が満たされないときは、変数variables 変数(variables)variables(変数) 変換・別のモデル(ロバスト回帰、一般化線形モデル)という道がある。満たされていないのに気付かずに直線を当てはめることが最悪の選択である。
まとめ
- 交絡因子confounding factor 交絡因子(confounding factor)confounding factor(交絡因子) の条件は3つ:① 曝露と関連する、② 曝露とは独立にアウトカム all-or-none outcomes アウトカム(all-or-none outcomes) all-or-none outcomes(アウトカム) の危険因子である、③ 因果経路の上にない。③を落とすと中間変数 variables 変数(variables) variables(変数) を交絡因子 confounding factor 交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子) と誤認する。
- 中間変数 variables 変数(variables) variables(変数) を調整するのは交絡 confounding 交絡(confounding) confounding(交絡) の調整ではなく、測りたい効果を削る過剰調整である。 コライダーの調整は存在しない関連を作り出す。
- Simpson のパラドックスは、層別すると関連の向きすら逆転しうることを示す(バークレー入試1973)。
- バイアスbias バイアス(bias)bias(バイアス) は標本の作り方(選択)と測り方(情報)から生じ、全数調査でも残る。Hawthorne 効果は「観察されていることによる被験者 study participant / subject 被験者(study participant / subject) study participant / subject(被験者) の行動変化」であって、特定集団が多く検査されること(発見バイアス biasバイアス(bias) bias(バイアス))ではない。
- 無作為化randomized 無作為化(randomized)randomized(無作為化) は測っていない交絡因子 confounding factor 交絡因子(confounding factor) confounding factor(交絡因子) まで均等化する点で層別・重回帰より強いが、追跡脱落と情報バイアス information bias 情報バイアス(information bias) information bias(情報バイアス) は防がない。
- 重回帰の係数は「他の変数 variables 変数(variables) variables(変数) を一定に保ったときの効果量」。モデルに入っている変数 variables 変数(variables) variables(変数) についてしか一定に保てない(残余交絡 confounding交絡(confounding) confounding(交絡))。他の共変量の係数を同じ意味で読むのは Table 2 fallacy。
- 出力は 係数と単位 → 臨床的relevance → 信頼区間confidence interval信頼区間(confidence interval)confidence interval(信頼区間) → p値 の順に読む。「有意でない」は「効果がない」ではない。
- ロジスティック回帰の効果量は OR。10単位の変化は 10×OR ではなく OR¹⁰。
出典
- 1.Overadjustment Bias and Unnecessary Adjustment in Epidemiologic Studies(Epidemiology(著者 Enrique F. Schisterman, Stephen R. Cole, Robert W. Platt)・2009)曝露とアウトカムの因果経路上にある変数(中間変数)や共通結果(コライダー)を調整すると、推定したい効果の一部が消えたり、存在しない関連が生じたりすること閲覧 2026-08-17
- 2.Sex Bias in Graduate Admissions: Data from Berkeley(Science(著者 Peter J. Bickel, Eugene A. Hammel, J. William O'Connell)・1975)全体では男性の合格率が高いのに、学科別に見るとほとんどの学科で女性の合格率が同等以上であった(Simpson のパラドックスの実データ例)。原因は女性が合格率の低い学科に多く出願したこと閲覧 2026-08-17
- 3.Systematic review of the Hawthorne effect: New concepts are needed to study research participation effects(Journal of Clinical Epidemiology(著者 Jim McCambridge, John Witton, Diana R. Elbourne)・2014)Hawthorne 効果とは、観察されていることを被験者が意識することで行動が変わる現象であること。定義が一定せず、研究参加そのものの影響として捉え直す必要があること閲覧 2026-08-17
- 4.The Table 2 Fallacy: Presenting and Interpreting Confounder and Modifier Coefficients(American Journal of Epidemiology(著者 Daniel Westreich, Sander Greenland)・2013)多変量モデルの表に並ぶ係数を、どれも同じ意味の「調整済み効果」として読むのは誤りであること。交絡調整のために入れた共変量の係数は、それ自体の因果効果としては解釈できないこと閲覧 2026-08-17