神経解剖学

神経解剖学 · 13

視床の微細構造(顕微鏡解剖)

Fine structure (microscopy) of the thalamus

応用トピック
視床障害

🧠 視床は「」——どの核も必ず「どこから受け取り()→どこへ送るか(=投射先の皮質野)」という一本の矢印で規定される。 が・・という大枠を作るが、暗記すべきはではなくこの入出力の矢印である。(VPL/VPM・膝状体)は後方に、運動系(VA/VL)は前方寄りに、辺縁系・系(MD、pulvinarなど)はさらに外側・後方に配置される、と地理的にも整理できる。

間脳の構成と視床の位置

視床は大脳と中脳の間、に位置する。左右のはで隔てられる。

は5つの部分からなる。

部位 位置・境界
視床 の最大部分。最上部に位置する
視床下部 視床の下方。両者の境界は。下垂体はを介して視床下部とつながるが、下垂体自体はに属さない
、、三角の白質、(灰白質)、、からなる
とからなる。ともに視床のに位置する
視床と視床下部の間に位置する。とからなる

視床核群の全体構成

は視床を・・の3つに分ける。

  • :、、からなる
  • :のみからなる。(負の情動)、、視床下部からを受け、へ線維を送る。情動記憶・・意欲に関与する
  • :最大かつ最も複雑な群で、背側部と腹側部に分かれる
    • 背側部:最前方から外側背側核(LD)→外側後核(LP)→最後方の
    • 腹側部(背側部の下方):最前方から(VA)→(VL)→・

そのほかの構成要素は以下の通り。

  • 外側:が視床全体を覆う
  • 内側:が覆う
  • 内:。最大のものは
  • 視床尾側極:とが付着する。これらはとともにを構成する

💡 MGBとLGBの覚え方。 (MGB)はから入力を受ける聴覚の、(LGB)は網膜から入力を受ける視覚のである。「Medial=聴(音)、外側=視(光)」と対にして覚えるとよい。

前頭断でみる視床

の中には線維も走行する。は視床下部のからへ向かうで、内を通る。

では以下が観察できる。

  • 外側:VA/VLと(RT)の間にがある。RTのさらに外側にがあり、これが視床の境界となる
  • の内側:と(左右の視床を隔てる)がある

では、、、LP、MD、、、VPL、VPM、CM、(PF)、、、、が観察できる。

視床核の機能分類

視床核は入出力パターンにより4つに分類される(下表の特殊核//という枠組みはな分類であり、近年は各核が皮質のどの層から駆動性入力を受けるかに着目した「/」という区分へ整理し直す報告がある。のように感覚器からの情報を初めて中継する核が一次、のように大脳皮質第5層から別のへの情報を中継する核がにあたり、いずれのも皮質第6層からの修飾性入力を受ける点は共通する1)。

分類 該当する核 特徴
特殊核・感覚中継 VPL, VPM, MGB(聴覚), LGB(視覚) 体性感覚・を含む特定の入力を受け、大脳皮質の特定部位へ投射
特殊核・運動中継 VA, VL 運動系からの入力を受け、特定の皮質運動野へ投射
特殊核・辺縁系中継 AV, AD, AM() 辺縁系機能に関連する入力を受け、特定部位へ投射
MD, LD, LP, 大脳皮質からの比較的特異的な入力を受け、皮質のへ投射
、大部分の 上行性入力を受け、皮質へびまん性に投射(特定部位ではなく広範囲)
皮質に投射しない核 (標的は他の視床核)、・下核 —

⭐ 大脳皮質のすべての領域は視床からの入力を受けるが、1つのが2つ以上の視床核から入力を受けることはない。 異なる視床核は皮質の異なる部位へ投射する——「視床核↔皮質野」は一対一対応。

主要な・の対応をまとめる。

主なの起始 核 主な遠心性投射先
() (A)
(小脳)、 (VA)、(VL)
脊髄(脊髄視床路)、後索核(経由)
・()、からの上行線維
核 (DM = MD)
脊髄(脊髄視床路)、 ・
大脳皮質 外側後核(LP)、 大脳皮質
視床 視床
(MGB)
網膜(視神経・) (LGB) 有線皮質()

感覚中継核:VPL・VPM・VPMpc

VPL()

  • 身体からのを大脳皮質へ中継する
  • として脊髄視床路(脊髄由来)と(後索核=+由来)の両方から入力を受ける
  • どちらの経路も(触覚・・振動覚・痛覚・温度覚)の情報を運び、VPLへ集約される
  • VPLは、すなわちへ投射する

VPM()

  • 頭部からのを大脳皮質へ中継する
  • とから入力を受ける
  • 同じくのへ投射するが、VPLより外側の領域に投射する

VPMpc(VPMの小細胞亜核, parvicellular subdivision)

  • 味覚入力を皮質へ中継する
  • が舌からの情報を3種類の脳神経を介して集める
  • はへ投射し、傍核がVPMpcで終止する
  • 一般感覚経路との違い:傍核は視床下部・へも別経路を送る点が味覚経路の特徴
  • VPMpcの投射はの、(一次味覚野)近傍で終止する

運動中継核:VA・VL

運動系からの入力を受ける特殊核。

  • (VA):主に大脳基底核(, pallidum)から入力を受ける。へ投射し、運動の開始・企画に関与する
  • (VL):小脳()から入力を受ける。()へ投射し、運動の修飾・協調に関与する

VA・VLの詳細な神経回路(大脳基底核の・)は別項で扱う。

視床後部:MGB・LGB・視床枕

  • MGB():から入力を受ける(→→→)。(, Brodmann 41-42)へ投射する
  • LGB():網膜(視神経・)から入力を受ける。有線皮質(striate cortex、、, Brodmann 17)へ投射する
  • :MGB・LGB・/の両方からを受け、後頭皮質(Brodmann 17, 18, 19、主に18-19=)へ投射する

正中核・髄板内核と上行性網様体賦活系

  • ・は脊髄からの上行性入力を間接的に受ける
  • 脊髄からの入力はまず網様体(medulla・pons・midbrainのいずれか)で中継される
  • これらの核はの一部であり、皮質の広範囲へ投射して皮質のを規定する

⚠️ ・の障害。 これらの核が損傷すると、皮質のが正常な機能に必要な水準に達しなくなる——すなわち意識障害につながりうる。

⚠️ 視床病変による疼痛(視床痛、Dejerine-Roussy症候群)。 視床(VPL/VPMを含む感覚)を含む脳卒中病変の後には、病変に対応する身体領域にの疼痛とを来す中枢性脳卒中後疼痛が生じうる(ヒトの臨床報告に基づく総説)2。歴史的にはDejerine-Roussy症候群として最初に記載された病態であり、視床は単なる感覚のではなく損傷そのものが疼痛の発生源になりうることを示す。

中継細胞の状態依存モード

は大脳皮質へは投射せず、視床のへ投射する点が他の視床核と異なる。

  • 伝達物質はGABA
  • 大脳皮質からの下行性入力と、ARAS()からの入力の両方によって駆動される
  • からの入力はの動作モードをオン/オフに切り替える——覚醒時には情報が伝達され、睡眠時には伝達が遮断される
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensory input'>感覚入力</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thalamic relay cell'>視床中継ニューロン</span>"]
  B --> C["大脳皮質(Glu、興奮性)"]
  C -->|"下行性入力"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticular thalamic nucleus'>視床網様核</span>(reticular nucleus、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>)"]
  E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending reticular activating system, ARAS'>上行性網様体賦活系</span>(ARAS)"] --> D
  D -->|"抑制"| B

シナプスレベルでみる中継回路

視床のは視床核内に存在し、大脳皮質の第4層()で軸索を終止させる。

  • は糸球体と呼ばれる複雑なシナプス構造を介してを興奮させる
    • 糸球体には、入力線維の・の・Golgi II型のが含まれる
    • こののが、との間のを修飾する
  • 各視床核は、自らが投射しているからとして入力を受ける
    • この線維は皮質第6層の細胞に由来し、そのが視床核内のを修飾する
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensory input'>感覚入力</span>"] --> B["糸球体:<br>入力<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axon terminal'>軸索終末</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relay neuron'>中継ニューロン</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dendrite'>樹状突起</span>+<br>Golgi II型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory interneuron'>抑制性介在ニューロン</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dendrite'>樹状突起</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relay neuron'>中継ニューロン</span>の興奮"]
  C --> D["軸索→大脳皮質第4層(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inner nuclear layer'>内顆粒層</span>)で終止"]
  D --> E["投射先皮質・第6層の細胞"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corticofugal fiber'>皮質遠心性線維</span>が同じ視床核へ戻る"]
  F --> B

視床と視床下部の対比

項目 視床 視床下部
核の境界 明瞭に区分された核、機能もはっきりしている 多様な機能を持つニューロンが混在し、明確に分離されていない
主機能 情報を中継(+修飾)し、皮質で終止させる の調節。皮質処理を必要としない
皮質との結合 最大 最小

まとめ

  • 視床はの一部で、により・・(背側・腹側)に大別され、外側に、内側に、内に(最大はCM)を持つ。(MGB・LGB・pulvinar)は尾側極に付着する。
  • 機能的には特殊核(感覚中継=VPL/VPM/MGB/LGB、運動中継=VA/VL、辺縁系中継=AV/AD/AM)、、(・、ARASの一部)、皮質に投射しない核(など)に分類される。
  • どの視床核も「の起始→核→遠心性投射先の皮質野」という一対一対応で整理でき、1つのが複数の視床核から入力を受けることはない。
  • は作動性で、大脳皮質とARASからの入力を統合し、の伝達モードを覚醒/睡眠で切り替えるである。
  • では、は糸球体(+Golgi II型)で修飾を受け、さらに投射先皮質の第6層からのによっても調節される。
  • 視床は境界明瞭なとして皮質と最大の結合を持つのに対し、視床下部は境界不明瞭な中枢として皮質との結合は最小である。

出典

  1. 1.The role of the thalamus in the flow of information to the cortex(Philosophical Transactions of the Royal Society of London. Series B, Biological Sciences・2002)抄録で、外側膝状体が網膜からの情報を初めて中継する「一次中継核(first-order relay)」であるのに対し、視床枕の多くは大脳皮質第5層から別の皮質領域への情報を中継する「高次中継核(higher-order relay)」であること、すべての視床中継核が皮質第6層からの修飾性入力を受けるが高次中継核はさらに皮質第5層由来の駆動性入力も受けること、この皮質-視床-皮質の「再入力」経路が皮質間処理に広く関与しうることを確認した(動物モデルの知見に基づく理論的枠組み)閲覧 2026-08-26
  2. 2.Central post-stroke pain: clinical characteristics, pathophysiology, and management(The Lancet Neurology・2009)抄録で、中枢性脳卒中後疼痛(central post-stroke pain)が脳卒中後に生じる神経障害性疼痛症候群であり、病変部位に対応する身体領域の疼痛と感覚異常を特徴とすること、視床病変を含む中枢神経系の脳卒中後に生じうることを確認した(ヒトの臨床総説。歴史的にはDejerine-Roussy症候群として視床病変後の疼痛が最初に記載された)閲覧 2026-08-26