生理学

生理学 · 1.8

平滑筋の生理学。各種平滑筋の機能。

The physiology of smooth muscle. The functions of different types of smooth muscle.

🧠 平滑筋は「を持たない筋肉」だと押さえる。 骨格筋のCa²⁺センサーはだが、平滑筋はがCa²⁺を受け取り、MLCK(myosin light chain kinase、)がをリン酸化して初めて収縮する。この「経由」という1点さえ理解すれば、との違いも、収縮・弛緩のシグナル経路もすべて芋づる式に理解できる。

平滑筋の基本構造

  • 単核・の細胞。骨格筋・心筋と異なり横紋がない——太い・細いフィラメントは存在するが、筋節(、Z線 Z-line)には組織化されていない。
  • はないがは存在する。
  • 消化管、膀胱、尿管、、血管壁などのの壁に存在。

フィラメント構成: 細いフィラメント=アクチン+(なし)。太いフィラメント=ミオシン(myosin、2本+軽鎖2対、軽鎖はMLCKによりリン酸化されうる)。

平滑筋の電気的結合による分類

型 局在 特徴
消化管、 で電気的に密結合し広い領域が一斉収縮。自発的な()を示す
、気道、大血管の中膜 各細胞が個別に神経支配を受け、神経性に厳密に調節される

平滑筋の活動電位

平滑筋膜電位は連続的に変動するを示す。これはが発生させた電気的APがを通じて伝播したもの1。

  • 収縮の閾値: APなしでも収縮が起こりうる電位。
  • : APが発生する電位。
脱分極の程度 結果
を超えない (基礎活動)
を超える (AP頻度↑=収縮力↑)
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cation'>陽イオン</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='leak channel'>リークチャネル</span>開口→脱分極(Na+流入)"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrical threshold'>電気的閾値</span>到達→L型VDCC開口→AP<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spike train'>スパイク列</span>"]
  B --> C["[Ca2+]IC上昇→Ca2+活性化K+チャネル開口"]
  C --> D["緩徐な再分極"]
  D --> E["VDCC閉鎖→[Ca2+]IC低下→Ca2+活性化K+チャネル閉鎖"]

[Ca²⁺]IC上昇の3つの経路

平滑筋の収縮はすべて[Ca²⁺]ICの上昇に依存する。上昇経路は3つある。

経路 局在 トリガー
脱分極(骨格筋と異なりEC Ca²⁺を取り込む)。SRからのCa²⁺誘発性Ca²⁺放出も誘導
(ligand-gated Ca²⁺ channel) 膜電位非依存。ホルモン/NTの受容体を介する
IP₃依存性 SR膜 Gq活性化→PLC→PIP₂→IP₃+

ミオシンのリン酸化と収縮機構

平滑筋はを欠くが、Ca²⁺は依然として鍵となるシグナルであり、を介した経路で収縮を制御する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='agonist'>アゴニスト</span>がGq受容体に結合"] --> B["PLC活性化→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate'>PIP2</span>切断→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inositol 1,4,5-trisphosphate'>IP3</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diacylglycerol'>DAG</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inositol 1,4,5-trisphosphate'>IP3</span>がSRの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inositol 1,4,5-trisphosphate'>IP3</span>受容体に結合→[Ca2+]IC上昇"]
  C --> D["Ca2+-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calmodulin'>カルモジュリン</span>複合体形成"]
  D --> E["MLCK活性化"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myosin light chain'>ミオシン軽鎖</span>リン酸化→ATPase活性上昇"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cross-bridge cycle'>クロスブリッジサイクル</span>開始→収縮"]
  • MLCK(myosin light-chain kinase、): Ca²⁺-に活性化され、をリン酸化して収縮を開始させる。
  • Rho-(Rho-kinase pathway、[Ca²⁺]非依存性、補助的): G12/13受容体がGEF(guanine exchange factor)を介してRho-GTPを活性化→Rho-キナーゼがを阻害→MLCリン酸化レベルが(が減ることで)上昇。MLCKとRho-キナーゼはにCa²⁺感受性を調節する2。

💡 の特徴: 持続的なCa²⁺シグナル、骨格筋よりはるかに少ないATP消費、遅いアクチン-。この「遅いがエネルギー効率の良い」性質が、消化管や血管の持続的なに適している。

⭐ この省エネルギー性の分子的説明が latch state()である。 のリン酸化で生じたの一部は、された後も外れずに「ラッチ」としてし続けるというモデルが提唱されている。ラッチの解離がになるため、ミオシンリン酸化レベル(≒ATP消費)が低い状態でも高い定常張力を維持できる、という形で latch state を説明する3。

平滑筋弛緩の機構

経路 機構
(β2) PKA活性化→MLCKをリン酸化→Ca²⁺感受性低下→収縮しない
cGMP(NO依存性) ①化 ②IP₃受容体リン酸化 ③Ca²⁺流入抑制

アゴニストによる平滑筋調節のまとめ

反応 受容体
NE/E(交感神経) 収縮(優位)/弛緩 α1/β2 IP₃/
アセチルコリン(副交感神経) 収縮(直接)/弛緩(間接、内皮経由) 平滑筋の/内皮の —
II(angiotensin II) 収縮 AT-II受容体 IP₃
収縮 受容体 IP₃
収縮 受容体 IP₃
アデノシン 弛緩

⭐ 「収縮系はIP₃/Ca²⁺、弛緩系はまたはcGMP」という2系統の対比が平滑筋薬理の基本骨格。(、)や・弛緩薬の作用機序はすべてこの枠組みに沿う。

まとめ

  • 平滑筋は横紋を持たず、ではなくがCa²⁺センサーとして働く。
  • (、自発的)と(個別神経支配)の2型に分類される。
  • 収縮はVDCC・チャネル・IP₃受容体経由の[Ca²⁺]IC上昇→→MLCK→リン酸化で起こる。
  • 弛緩は(MLCKリン酸化でCa²⁺感受性低下)またはcGMP(NO経路)で起こる。

出典

  1. 1.W/kit gene required for interstitial cells of Cajal and for intestinal pacemaker activity(Nature・1995)Kit遺伝子変異マウス(W座変異)の解析で、Cajal介在細胞はKit受容体型チロシンキナーゼを発現すること、この細胞の網目が失われると腸管のペースメーカー活動(徐波)も同時に失われることを確認し、Cajal介在細胞が消化管平滑筋の自発的な徐波(ペースメーカー電位)の発生源であることを報告した(マウスのデータ)閲覧 2026-08-26
  2. 2.Ca2+ sensitivity of smooth muscle and nonmuscle myosin II: modulated by G proteins, kinases, and myosin phosphatase(Physiological Reviews・2003)総説で、平滑筋の収縮力はミオシン軽鎖キナーゼとミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の活性比で決まること、RhoA/Rho-キナーゼ経路やCPI-17がミオシン軽鎖脱リン酸化酵素を抑制し同じCa²⁺濃度でも収縮を強める(Ca²⁺感受性増大)ことを確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.Cross-bridge phosphorylation and regulation of latch state in smooth muscle(The American Journal of Physiology・1988)平滑筋のクロスブリッジ相互作用の速度論モデルで、リン酸化されたクロスブリッジのサイクルに加えて脱リン酸化された「ラッチブリッジ」という非サイクル性の結合状態を仮定し、ラッチブリッジの解離が律速段階であることを示した。このモデルは、ミオシンリン酸化レベルが低くても組織の定常張力が高く維持されるという実験的観察(張力のリン酸化に対する双曲線的依存性)と一致し、ミオシンリン酸化が latch state 発生に必要十分であるという仮説を支持した閲覧 2026-08-26