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Lab values · Published

前庭誘発筋電位

Vestibular evoked myogenic potential

別名
VEMPcVEMPoVEMP
臓器系
耳鼻咽喉科神経
科目
Otorhinolaryngology
トピック
耳鼻咽喉科 07:前庭系の解剖・生理と調和性・非調和性前庭症候群
関連疾患
上半規管裂隙症候群

🧠 全体像:VEMPは「音・振動という聴覚系の刺激を使って、()の機能を調べる」という一見ねじれた検査である。蝸牛の検査(聴力検査)でも眼振の検査(カロリックテスト・)でもない、第三の経路——から誘発される筋反射——を利用する。cVEMPは由来で頸部()に、oVEMPは由来で眼窩下のに反応が出る。「c=頸部=」「o=眼=」と対応させて覚えるのが最短で、この対応があるからこそ、を評価するカロリックテストでは拾えないの異常(の反応増強、・での反応低下)を検出できる。

何を測っているか

音・振動による強大な刺激は、蝸牛だけでなく(・)も興奮させる。この興奮は・を介して特定の筋へ短で伝わり、一過性の筋電位変化として記録できる。

flowchart TD
    A["強大な音・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bone conduction (BC)'>骨導</span>振動刺激"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saccule'>球形嚢</span>の興奮"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='utricle'>卵形嚢</span>の興奮"]
    B --> D["下<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vestibular nerve'>前庭神経</span>"]
    C --> E["上<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vestibular nerve'>前庭神経</span>"]
    D --> F["同側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sternocleidomastoid / SCM'>胸鎖乳突筋</span>"]
    E --> G["対側の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior oblique'>下斜筋</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extraocular muscles'>外眼筋</span>)"]
    F --> H["cVEMP:抑制性電位<br>p13-n23"]
    G --> I["oVEMP:興奮性電位<br>n10-p15"]
  • cVEMP(頸部誘発筋電位):→下→同側のという経路の抑制性反射。を緊張させた状態で記録し、正常反応は約13msの陽性波p13、続く約23msの陰性波n23からなる1。
  • oVEMP(眼球誘発筋電位):→上→対側のという経路の興奮性反射。約10msの陰性波n10、続く約15msの陽性波p15からなる。

💡 どちらも「→→脳幹→筋」というの健全性を映す。 蝸牛(聴力検査)・(カロリックテスト、)・(VEMP)という3系統のうち、VEMPだけがと、下()・上()というの枝を区別して評価できる。

基準値と単位

VEMPは連続というより「反応が出るか」「左右差がどの程度か」で解釈する検査である。

項目 内容
cVEMP p13:約13ms、n23:約23ms
oVEMP n10:約10ms、p15:約15ms
正常範囲の考え方 絶対振幅よりも左右の振幅比・閾値差を重視する(施設ごとのを用いる)
記録に必要な条件 cVEMPはの持続的な緊張(など)が前提——弛緩した筋からは反応が出ない

⚠️ 振幅は筋収縮の強さに依存する。 同じ機能でも、強く力を入れて記録すれば振幅は大きくなる。左右差を評価する際は、両側で同じ強さの筋収縮が保たれているかを確認しないと、収縮の左右差を機能の左右差とする1。

高値の意味(反応増強)

病態 機序 手掛かり
による「」が低経路を作り、同じでもより低い閾値・より大きな振幅でが興奮する 罹患側でcVEMP閾値の低下・oVEMP振幅の増大がほぼ全周波数でみられる1。Bárány Societyのではこの反応増強が生理学的検査項目の1つに数えられる2
Ménière病早期・その他の「」病態 やでも同様に反応増強を来しうる 単独では鑑別できず、臨床像・画像とあわせて判断する

低値の意味(反応減弱・消失)

病態 機序 手掛かり
のどの枝(上・下)が障害されたかで反応が変わる 反応正常・減弱・消失が症例ごとに分かれ、下(経路)の障害程度を反映する1
Ménière病(患側) による機能低下 患側耳のおよそ94%に異常を認めたとする報告があり、無症候のでも約27%に異常があれば将来の両側化を示唆しうる1
腫瘍によるの圧迫・浸潤 異常を伴うことが多いが、単独では診断根拠にならず画像検査を要する1

⚠️ 測定上の注意

  • ⚠️ があると反応そのものが減弱する。 がわずか8.75 dBあるだけでもcVEMP反応は明らかに減弱しうる1。中耳疾患によるを機能低下と取り違えないよう、の結果とあわせて解釈する。
  • ⚠️ cVEMPは筋の持続的な収縮が前提の検査である。 頸部を十分に挙上・緊張させられない患者(頸部の筋力低下、疼痛、高齢者など)では、機能が正常でも反応が小さく・出にくくなる。左右差の評価では収縮の強さを両側でそろえる必要がある1。
  • 刺激音自体が大きいため、対側の反応への混入()や、既存の・難聴による患者の不快感にも配慮する。
  • 単独の検査結果で確定診断や除外をしない。ではVEMPの反応増強は3領域(症状・生理学的検査・画像)のうち生理学的検査の1所見にすぎず、での裂隙確認とあわせて判断する2。

経時変化とモニタリング

VEMPは診断時の一回評価として用いられることが多く、血液検査のようにな数値推移を追う性質の検査ではない。ただし、で手術()を行った前後で反応増強が正常化するかを確認する、あるいはMénière病での反応を定期的に確認し両側化の兆候を追うといった使い方はありうる。

まとめ

  • VEMPは音・振動刺激で(・)を興奮させ、その筋反射をcVEMP(、由来)・oVEMP(、由来)として記録する検査である。
  • 反応増強(閾値低下・振幅増大)はなど「」病態を示唆し、反応減弱・消失は・Ménière病・などで下・上の障害を反映する。
  • (わずかなでも)と不十分な筋収縮は、機能が正常でも反応を減弱させる二大であり、解釈の前にまず除外する。
  • 単独の確定診断ツールではなく、症状・画像所見とあわせて総合的に判断する検査である。

出典

  1. 1.Vestibular evoked myogenic potentials: an overview(Brazilian Journal of Otorhinolaryngology・2009)cVEMPは球形嚢に起源を持ち下前庭神経を介して伝導される抑制性の筋電位で、胸鎖乳突筋から記録し、刺激は約140〜145 dB SPL・持続0.1 msecのクリックまたはトーンバーストで、正常反応は潜時約13msの陽性波p13とそれに続く潜時約23msの陰性波n23の2相性波形をとること、クリック刺激の方がトーンバーストより振幅が大きく潜時が短いこと、わずか8.75 dBの気骨導差でも反応が減弱しうること、上半規管裂隙症候群では罹患側でほぼ全周波数にわたり閾値が低下すること、Ménière病では患側耳の約94%に異常を認め健側(無症候側)でも27%に異常がみられ両側化の予測に有用な可能性があること、前庭神経炎では反応が正常6例・減弱5例・消失11例と下前庭神経の障害程度に応じて多様であること、聴神経腫瘍でも18例中13例に異常を認めたが単独の診断根拠にはならないことを確認した閲覧 2026-09-05
  2. 2.Superior semicircular canal dehiscence syndrome: Diagnostic criteria consensus document of the committee for the classification of vestibular disorders of the Bárány Society(Bárány Society (Journal of Vestibular Research)・2021)上半規管裂隙症候群の診断基準(B項目:生理学的検査)で、音・中耳圧変化により誘発される罹患半規管平面の眼振、純音聴力検査での低音域の陰性骨導閾値と並び、前庭誘発筋電位の反応増強(低い頸部VEMP閾値または高い眼球VEMP振幅)が3つの所見のうちいずれか1つ以上を満たすべき項目として挙げられていることを確認した閲覧 2026-09-05