スコア体系ノート一覧へ

Scores · Published

IgA腎症Oxford分類

Oxford classification of IgA nephropathy

別名
MEST-Cスコアオックスフォード分類Oxford分類
臓器系
腎・泌尿器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 N-01:糸球体疾患
適用疾患
IgA腎症

🧠 全体像)は、IgA腎症の腎生検ですでに診断が確定した後に、5つの組織所見(M・E・S・T・C)を数え上げて予後を層別化する採点システムである。診断そのもの(IgA腎症であること)はを示す免疫染色で決まり、この分類はではない。 2009年の初版はM・E・S・Tの4項目()で、(C)は2016年の改訂で追加された。5項目のうちM・S・Tは治療の有無にかかわらず予後との関連が比較的一貫しているが、EとC(特にC1)は、免疫を受けていない集団でのみ独立した予後不良因子として現れる——原コホートの多くが非ランダムに免疫を併用していたためのが疑われており、この2項目は「病変があるから治療する」ではなく「治療で修飾されうる」として読む必要がある。

目的と適用場面

内容
目的 腎生検の組織所見を予後関連因子に絞って標準化し、施設間で数値化・比較可能にする
対象 免疫染色でIgA腎症の診断が確定した腎生検標本(診断確定の後に用いる)
使う場面 後、進行リスクの層別化・臨床データとの統合による
前提条件 評価に足る糸球体数が必要。生検が適格とみなされる基準として糸球体8個以上が必要とされる1

2009年の初版は所見のみからM()・E()・S()・T()の4項目()を採用した。その後の複数の後ろ向き検証コホートを統合した解析で(C)が予後との独立した関連を示したことを受け、2016年の改訂でCが追加され、5項目のとなった1

構成要素と配点

⚠️ M・Eはでの検証で、局所病理医がM1を中央判定病理医の2倍、E1を3倍の頻度で陽性と判定するなど、判定の不一致が明らかになった項目である1。多施設のカッパ係数でもEとSは低い(0.19〜0.39程度)と報告されている2。数え方に迷ったら1項目だけで判断せず、他項目・臨床像と合わせて解釈する。

M:メサンギウム細胞増多

に隣接しない部分で、最も細胞成分の多い領域に3個を超える細胞を認める糸球体を「あり」の糸球体と数える3

スコア 基準
M0 を示す糸球体が全体の50%以下
M1 50%を超える

E:管内細胞増多

内の細胞数が増加し、内腔が狭小化している所見の有無で判定する3

スコア 基準
E0 該当する糸球体がない
E1 1個以上の糸球体で認める

S:分節性硬化

の一部分(分節)にみられる硬化性病変、または係蹄がへ癒着した所見。糸球体全体が硬化するは含めない3

スコア 基準
S0 該当する糸球体がない
S1 1個以上の糸球体で認める(の有無を付記することが推奨される1

T:尿細管萎縮・間質線維化

糸球体単位ではなく、生検で採取された皮質全体の面積に対するの割合で判定する3

スコア 基準
T0 皮質面積の25%以下
T1 26〜50%
T2 50%を超える

C:半月体

を有する糸球体の割合で判定する。2009年の原法には含まれず、2016年の改訂で追加された項目1

スコア 基準
C0 を有する糸球体がない
C1 1個以上、全体の25%未満
C2 25%以上

解釈とカットオフ

  • M・S・Tは治療の有無にかかわらず予後との関連が比較的一貫している。 特にTはまでの時間と最も強く相関し、生検時点での慢性化の進み具合を反映する。
  • E1は、免疫を受けていない集団に限って腎機能悪化の独立した予測因子となる。 E1と判定された症例はなど免疫を受ける傾向が強く、治療を受けたE1症例は未治療のE1症例より腎予後が良い——つまりE1は「免疫に反応しうる」として解釈する1
  • C1(が1個以上あるが25%未満)も同様に、免疫を受けていない集団でのみ予後不良と独立して関連する。 一方、C2(25%以上)は、治療の有無にかかわらず予後不良との関連が保たれる、より進行した病変とみなされる1
  • 生検時点の臨床データ(蛋白尿・など)とを組み合わせると、その後2年間の臨床経過を追跡した場合と同等の予測力が得られると報告されている。本分類は単独で読む採点ではなく、臨床指標と統合して初めての精度が上がる設計である1

限界と使ってはいけない場面

  • ⚠️ 評価者間のにばらつきがある。 特にM・Eは局所病理医と中央判定病理医の間で判定が大きく割れることが示されており、多施設のカッパ係数でもE・Sが低い(0.19〜0.39程度)と報告されている12。1施設内の慣れた判定と他施設の判定を単純に比較しない。
  • ⚠️ EとC1の予後との関連は、免疫を受けたかどうかで大きく変わる。 原コホートおよび大半の検証コホートは非ランダムに免疫が併用された集団であり()、E1・C1が予後不良として現れないことを「病変が軽い」と読み替えてはならない——治療で修飾された可能性を残す1
  • 単独で免疫の適応を決める根拠にはならない。 蛋白尿・eGFR・血圧などの臨床指標と併せて判断する(治療の段階的な組み立てはIgA腎症を参照)。
  • )には、まだ適用しない方針が明示されている。 適用を支持するだけのデータがまだ十分でないためである1
  • (再発IgA腎症)は原コホートの対象外であり、そのままあてはめられるかどうかは別途の検討を要する。
  • 生検時点の断面であり、経過中の変化を反映しない。 評価に足る糸球体数(8個以上)が得られていない生検には適用できない1

まとめ

  • )は、腎生検でIgA腎症の診断が確定した後に組織学的予後を層別化する採点で、そのものではない。
  • M()・E()・S()・T()・Cの5項目からなり、2009年の初版はM・E・S・Tの4項目、Cは2016年の改訂で追加された。
  • 判定には糸球体8個以上を要する。Mは50%、Tは25%と50%の二つの区切り、Cは25%の区切りで段階を分ける。
  • M・S・Tは治療の有無にかかわらず予後と比較的一貫して関連するが、EとC1(特に前者)は免疫を受けていない集団でのみ予後不良因子として現れ、の影響を受けやすい。C2は治療の有無にかかわらず予後不良と関連する。
  • M・Eは評価者間の判定の不一致が知られており、単独ではなく臨床データ(蛋白尿・eGFR・血圧)と組み合わせて解釈する。
  • (IgA血管炎)への適用はまだ推奨されておらず、への適用も原コホートの対象外として別途の検討を要する。

出典

  1. 1.Oxford Classification of IgA nephropathy 2016: an update from the IgA Nephropathy Classification Working Group(Kidney International・2017)MEST-C各項目(M0/M1・E0/E1・S0/S1・T0/T1/T2・C0/C1/C2)の判定区分、生検適格条件(糸球体8個以上)、2009年のMEST(4項目)に2016年改訂でCを追加した経緯、VALIGAコホートでの局所病理医と中央病理医間のM・E判定の不一致、E1・C1の予後予測能が免疫抑制療法の有無で変わること(未治療集団でのみ独立した予測因子)、C2は治療の有無にかかわらず予後不良と関連すること、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病腎炎(IgA血管炎)へは本分類をまだ適用しないという推奨、S1と判定した生検では足細胞肥大・尿細管極病変の有無を併記するという勧告、MESTスコアと生検時臨床データ(蛋白尿・平均血圧)を組み合わせた予後予測(Table 2・Table 3・本文各所)閲覧 2026-08-04
  2. 2.The Use of the Oxford Classification of IgA Nephropathy to Predict Renal Survival(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2011)M1(血管極に隣接しない最も細胞性の高いメサンギウム領域に3個を超える細胞を認める糸球体が50%超)、E1(毛細血管腔内の細胞増加による内腔狭小化)、S1(全節性硬化を除く分節性硬化・係蹄の被膜への癒着)、T1/T2(皮質面積の26〜50%/50%超)という各項目の判定基準を、2009年原法(Cattran 2009・Roberts 2009)に基づく定義として自コホートの生検判定に用いたと方法の節に記載している閲覧 2026-08-04
  3. 3.Reproducibility of Oxford Scoring in IgA Nephropathy: Is the Noise Due to an Educational Gap?(Kidney360・2023)複数の検証コホートのカッパ係数を比較し、日本の多施設研究(411生検・50施設、5名の病理医)ではEが0.37・Sが0.39で一致率が低く、M・Tは0.45で中等度、VALIGA系のコホートではE 0.19・M 0.28が低くS 0.51・T 0.53が中等度と、多施設になるとMEST項目の評価者間一致率が下がると報告している閲覧 2026-08-04