組織学

組織学 · 0.1

組織学的手法・顕微鏡:組織標本の作製

Techniques & microscopy — Tissue preparation

🧠 標本作製は「固定→→→染色」という4段階の、と丸ごと1本の流れとして覚える。 どの段階も目的は一貫していて、生きた組織を「壊さず・支えられる状態で・薄く・見える形」にすることにある。各段階で使う薬剤・機器を覚えるより先に、この4段階の目的(保存・支持・可能化・可視化)を押さえるのが近道。

光学顕微鏡標本作製の4段階

ヒトまたは動物の正常組織を採取してから、で観察できる標本になるまでには、以下の4段階を経る。

flowchart TD
  A["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='sample collection'>試料採取</span><br>1cm³未満の組織片"]
  A --> B["② 固定<br>組織を永久的に保存し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autolysis'>自己融解</span>を防ぐ"]
  B --> C["③ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='embedding'>包埋</span><br>脱水→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraffin'>パラフィン</span>に置換し力学的支持を与える"]
  C --> D["④ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='sectioning'>薄切</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='microtome'>ミクロトーム</span>で2〜10μmに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sectioning'>薄切</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='staining'>染色</span>=次節"]
段階 目的 具体的な処理
① 観察対象の組織を得る 正常なヒト・動物組織、1cm³未満に切り出す
② 固定 組織を永久的に保存し、などの変性過程を止める (加熱・・凍結)、(アルデヒド類・アルコール・)
③ 軟らかい組織に力学的な支持を与え、可能にする アルコールで脱水→でアルコールを置換→に
④ 半透明で薄いを得る で2〜10μmに

固定

固定の目的は、組織を永久的に保存すること、およびのような変性過程の進行を防ぐ/止めることにある。

  • :加熱・・凍結
  • :アルデヒド類(+ホルマリン, formaldehyde/formalin)、、

⚠️ 固定が不十分だと組織はで構造が崩れ、逆に固定が強すぎたり時間が長すぎたりするとが失われ、後の免疫染色(00-3-immunolabeling-molecular)に支障が出る——固定は「保存」と「その後の解析可能性の維持」のでもある。

💡 固定条件はではなく数値で標準化されている。 乳癌の・検査では、10%中性緩衝ホルマリンでの固定時間を6〜72時間の範囲に収めることが推奨され、この窓を外れた検体は判定に注釈が要る1。さらに、摘出してから固定液に入れるまでの時間(冷虚血時間)も2010年のASCO/CAP改訂で管理項目として明文化された(実測では冷虚血時間3時間までならの免疫染色・in situ は劣化しない)2。⭐ ガイドライン本文は「組織採取から固定までをできるだけ短く」と書くだけで上限を数値で断定していないが、固定開始が1時間を超えて遅れた検体は6時間未満・72時間超の固定と並んで「となりうる」例に挙げられている3。実務で使われる「冷虚血時間1時間以内」という目安はこの記載に由来する、という位置づけで覚える。標本の質は「どれだけ強く固めたか」ではなく「いつから何時間固めたか」で決まる、と押さえておく。

包埋〜薄切

固定された組織はそのままでは軟らかすぎてできないため、脱水でアルコールに置換し、続いてでアルコールを除去したうえでにする。パラフインブロックになった組織をで2〜10μmの薄い切片に切り出すことで、光を透過する半透明な標本が得られる。

💡 切片作製の途中で組織中の脂質はアルコール・によって溶け出してしまう。そのため通常のH&E標本でが「のような薄い輪」に見えるのは標本作製上のであり、では脂肪滴で満たされている(脂肪染色には別途 00-5-other-methods の+脂溶性色素が必要)。

まとめ

  • 光顕標本作製は→固定→→の4段階からなり、続いて染色を行う。
  • 固定の目的は組織の永久保存との阻止で、と(アルデヒド・アルコール・)がある。
  • は脱水・置換・により力学的支持を与え、で2〜10μmにする。
  • 固定は時間管理が本体で、免疫染色を前提とする検体ではホルマリン固定6〜72時間・冷虚血時間の短縮が推奨される。
  • 法では脂質が処理中に失われるため、脂肪染色にはなど別法が必要になる。

出典

  1. 1.The effects of under 6 hours of formalin fixation on hormone receptor and HER2 expression in invasive breast cancer: a systematic review(American Journal of Clinical Pathology・2014)乳癌のER・PR・HER2免疫染色で推奨される固定時間は6〜72時間であり、6時間未満の短時間固定の影響を検討した系統的レビュー閲覧 2026-08-24
  2. 2.Delay to formalin fixation 'cold ischemia time': effect on ERBB2 detection by in-situ hybridization and immunohistochemistry(Modern Pathology・2013)ASCO/CAPの2010年改訂ガイドラインが冷虚血時間(摘出から固定までの時間)を管理項目として明文化した。実測では冷虚血時間3時間までならHER2のIHC・in situ ハイブリダイゼーションに有意な劣化を生じない閲覧 2026-08-24
  3. 3.American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists guideline recommendations for immunohistochemical testing of estrogen and progesterone receptors in breast cancer(Archives of Pathology & Laboratory Medicine・2010)乳癌のER・PgR免疫染色における検体取り扱いとして、組織採取から固定までの時間はできるだけ短くすること、10%中性緩衝ホルマリンで6〜72時間固定すること、冷虚血時間・固定液の種類・ホルマリンに入れた時刻を記録することを求めている。判定不能(uninterpretable)となりうる状況の例として、6時間未満または72時間を超える固定と並んで「固定開始が1時間を超えて遅れた検体」が挙げられている閲覧 2026-08-24