組織学

組織学 · 0.3

組織学的手法・顕微鏡:免疫標識と分子的手法

Techniques & microscopy — Immunolabeling & molecular

🧠 は「抗体が特定のタンパク質を見つけ、色や光に変換して教えてくれる」技術、は「が特定の/配列を見つけて教えてくれる」技術——標的がタンパク質か核酸かの違い、と2系統に整理する。 H&Eや(00-2-staining)が分子の「化学的性質」を頼りに染めるのに対し、・は「分子の(何であるか)」をピンポイントで可視化する点が本質的な違い。

免疫組織化学

は、(antigen–antibody reaction)を利用して中の特定のタンパク質(抗原)を可視化する手法である。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary antibody'>一次抗体</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='target antigen'>標的抗原</span>に結合"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='direct method'>直接法</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary antibody'>一次抗体</span>自体に標識(色素・蛍光・酵素)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect method'>間接法</span>:標識した二次抗体(secondary antibody)が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary antibody'>一次抗体</span>に結合"]
  C --> D["シグナル増幅により感度が向上"]
方式 仕組み 特徴
標識済みのが抗原に直接結合 手順は単純だが感度が低い
無標識のに、標識済みの二次抗体が結合 二次抗体が複数結合しシグナルが増幅=感度が高い、現在の主流

標識には主に以下が用いられる。

  • :などが基質を発色させ、で観察(= IHC の狭義)
  • :(など)を用い、・(00-4-microscopy)で観察(=)

⭐ は「その分子が何であるか」を特定できる点でH&Eより遥かに特異的だが、目的の抗原に対する抗体が存在し、かつ固定によってが保たれていることが前提となる——過度なホルマリン固定(00-1-tissue-preparation)はを損なうため、免疫染色を予定する検体では固定条件の調整(抗原 antigen retrieval など)が必要になる。

💡 「1切片あたり1〜数種類」というはすでに外れている(多重染色)。 は色(波長)の数で重なりが決まるため、従来は同時に見られる分子が3〜4種に限られていた。この壁を越えるために、標識を色ではなく別の物理量に置き換える方法が実用化している。希土類金属で抗体を標識し、レーザーで削り取ってにかけるイメージング質量サイトメトリーは、1枚の切片で32種のタンパク質・修飾を細胞内分解能で同時に測れる(を足せば100種超も原理的に可能)1。抗体にバーコードを付けて反復的に読み出す方式も同様に高多重化を実現している。目的は「どの細胞がどの分子をもつか」から「どの細胞がどの細胞の隣にいるか」へ移っている。

in situ ハイブリダイゼーション

を用いて、・細胞内の特定の/配列を直接検出する手法。

  • 標識した相補的な一本鎖プローブを組織に反応させ、標的配列とハイブリダイズ(相補的に結合)させる。
  • 蛍光in situは染色体異常の検出(特定遺伝子座の・転座)などに用いられる。
  • mRNAの発現部位を組織内で直接可視化できるため、「どの細胞がその遺伝子を発現しているか」を空間的にできる。
  • 従来の用ISHは感度・特異度が不足して臨床にはほとんど使われなかったが、分岐型プローブでシグナルを増幅する RNAscope がホルマリン固定切片上での単一の検出を可能にし、位置づけが変わった2。

💡 ISHの延長線上に空間トランスームがある。 ISHは「あらかじめ決めた1つの配列を探しに行く」手法だが、位置バーコード付き逆転写プライマーを並べたアレイの上にを載せると、切片の二次元を保ったままトランスーム全体を-seqで読める3。標的を先に決めずに「どこで何が発現しているか」を網羅的に得る点がISHとの本質的な違いで、Nature Methods はこの空間分解を2020年のMethod of the Yearに選んでいる4。組織学の観察対象が「形態+数分子」から「形態+全遺伝子発現」へ広がりつつある、という位置づけで押さえておく。

💡 がタンパク質、in situ がDNA/RNAをそれぞれ標的とする、という対応を軸に覚えると、「タンパク質発現を見たいのか、遺伝子発現・染色体異常を見たいのか」という目的からどちらの手法を選ぶべきかを即座に判断できる。

まとめ

  • はを利用し、特定のタンパク質をまたはで可視化する。
  • (標識二次抗体を使用)はシグナル増幅によりより高感度で、現在の主流。
  • in situ はで特定の/配列を検出し、は染色体異常の検出などに用いられる。
  • は金属標識・バーコード標識により1切片で数十種の分子を同時に見る多重染色へ、ISHはRNAscopeによる単分子検出と空間トランスームへと拡張されている。
  • IHC=タンパク質標的、ISH=核酸標的という違いが手法選択の軸になる。

出典

  1. 1.Highly multiplexed imaging of tumor tissues with subcellular resolution by mass cytometry(Nature Methods・2014)希土類金属で標識した抗体とレーザーアブレーション+質量分析(imaging mass cytometry)により、組織切片上で32種のタンパク質・修飾を細胞内分解能で同時可視化した。同位体を増やせば100種超も原理的に可能閲覧 2026-08-24
  2. 2.RNAscope: a novel in situ RNA analysis platform for formalin-fixed, paraffin-embedded tissues(Journal of Molecular Diagnostics・2012)従来のRNA in situ ハイブリダイゼーションは感度・特異度が不足し臨床での使用が限られていたが、分岐型プローブによる増幅を用いるRNAscopeはホルマリン固定パラフィン包埋切片上で単一RNA分子レベルの検出を可能にした閲覧 2026-08-24
  3. 3.Visualization and analysis of gene expression in tissue sections by spatial transcriptomics(Science・2016)位置バーコード付き逆転写プライマーを並べたアレイ上に組織切片を載せることで、切片の二次元位置情報を保ったままトランスクリプトーム全体をRNA-seqで定量する空間トランスクリプトミクスを確立した閲覧 2026-08-24
  4. 4.Method of the Year: spatially resolved transcriptomics(Nature Methods・2021)Nature Methods が空間分解トランスクリプトミクスを2020年のMethod of the Yearに選出した閲覧 2026-08-24