組織学

組織学 · 4.3

筋組織:平滑筋

Muscle tissue — Smooth muscle

🧠 平滑筋は「横紋筋の対極」として覚える——という規則配列がないから横紋が“ない”(平滑=smooth)。 アクチン・ミオシンは存在するが、Z線の代わりに細胞質内・細胞膜にランダムに散らばるに付着するため、規則的な縞模様を作らない。この「規則配列の有無」が骨格筋・心筋(横紋筋)と平滑筋を分ける唯一にして最大の違い。

平滑筋細胞の基本構造

は:

  • 両端が先細りになったの細胞(分岐することもある)
  • 細胞は不規則に分枝する束にまとまって配列する
  • 比較的小型で、単一の核をもつ(骨格筋の多核、心筋の単核〜2核と対比)
  • 核は細胞がには楕円形、には「にねじれて」見えることがある
骨格筋(04-1-skeletal-muscle) 心筋(04-2-cardiac-muscle) 平滑筋
横紋 あり あり なし
核の数・位置 多核・辺縁性 単核〜2核・中心性 単核・中心性
支配 随意 不随意 不随意
収縮の様式 個々のごとに強い速い収縮 合胞体として同期した収縮 筋全体でまとまった持続的な低強度の収縮(単一ユニット型)〜細胞ごとの独立した収縮(多ユニット型)
収縮の制御分子 (アクチン側) (アクチン側) のリン酸化(ミオシン側)

💡 平滑筋は骨格筋のように個々ので細かく制御されるのではなく、筋層全体がまとまってゆっくり持続的に収縮することに特化している——消化管のや血管ののように、「速い・強い」ではなく「持続的・省エネルギー」な収縮が求められる部位に平滑筋が使われる、という機能的な理由づけができる。

デンスボディと収縮装置

平滑筋にもアクチン・ミオシンの収縮装置は存在するが、骨格筋・心筋のようなZ線に相当する規則的な構造をもたない代わりに、という不定形の構造が細胞質内・細胞膜の内面に散在し、の付着点として働く。

flowchart TD
  A["平滑筋のアクチン・ミオシン"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dense bodies'>デンスボディ</span>にアクチンが付着<br>細胞質内・細胞膜直下に不規則に分布"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contracted state'>収縮時</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dense bodies'>デンスボディ</span>同士が引き寄せられる<br>細胞全体が短縮・ねじれる(横紋のような規則配列は生じない)"]

⚠️ 平滑筋はすべてが「筋層全体でまとまって収縮する」わけではない。 で電気的に連結し筋層が一体で収縮する単一ユニット(内臓型)平滑筋(消化管・尿管・子宮など)に対して、細胞ごとに神経終末の支配を受けて独立に収縮する多ユニット平滑筋(・・・大血管など)があり、後者は骨格筋のに近い細かい制御を受ける。上の表の「筋全体でまとまった収縮」は単一ユニット型の説明である。

💡 横紋筋との違いは配列だけでなく、収縮を「どこで」制御するかにもある。 骨格筋・心筋ではCa²⁺がアクチン側のに結合して制御されるのに対し、平滑筋にはがなく、Ca²⁺-がを活性化してをリン酸化するというミオシン側の制御をとる。収縮力はと酵素の活性比で決まり、RhoA/Rho-が後者を抑えると同じCa²⁺濃度でも収縮が強まる(Ca²⁺感受性増大)1。の維持を少ないATPで長時間続けられるのはこの仕組みによる。

💡 は成体でもしていない。 は・機械的刺激・細胞-基質相互作用・といったに応じて、収縮に特化した表現型と、増殖しを産生する合成型の表現型のあいだを行き来する(の発現には血清応答因子のが要る)2。骨格筋線維やと違って自身が分裂して増えられ、コラーゲン・・を分泌して自らの周囲の基質を作るのもこのためで、動脈硬化巣のやの肥大はこのの現れである。

⚠️ 平滑筋は「筋線維」と呼ばれるが、骨格筋のような明瞭なの規則配列はでもはっきりしない——横紋がない=アクチン・ミオシンがないわけではなく、配列が不規則なだけという点を混同しないよう注意。

まとめ

  • は・単核で、骨格筋(多核)・心筋(単核〜2核)と対比される。
  • 平滑筋には横紋がなく、これはのような規則的なアクチン・ミオシン配列を欠くため。
  • はという不定形構造に付着し、に細胞全体が不規則に短縮・ねじれる。
  • 平滑筋は単一ユニット(内臓型)では筋層全体がまとまって持続的・低強度に収縮するが、多ユニット型では細胞ごとに独立して収縮する。
  • 収縮の制御はではなくCa²⁺-によるのリン酸化で行われ、そのの抑制(Rho-)がCa²⁺感受性を上げる。
  • はしておらず、収縮型と合成型のあいだで表現型を変え、自ら分裂しも産生する。

出典

  1. 1.Ca2+ sensitivity of smooth muscle and nonmuscle myosin II: modulated by G proteins, kinases, and myosin phosphatase(Physiological Reviews・2003)平滑筋の収縮力はミオシン軽鎖キナーゼとミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の活性比で決まる。RhoA/Rho-キナーゼ経路やCPI-17はミオシン軽鎖脱リン酸化酵素を抑制し、同じCa²⁺濃度でも収縮を強める(Ca²⁺感受性増大)閲覧 2026-08-24
  2. 2.Molecular regulation of vascular smooth muscle cell differentiation in development and disease(Physiological Reviews・2004)血管平滑筋細胞は成体でも終末分化しておらず、増殖因子・機械的刺激・細胞間および細胞-基質相互作用・炎症性メディエーターといった局所環境の変化に応じて表現型を大きく変えうる。分化マーカー遺伝子の発現には血清応答因子の共役因子ミオカルディンが必要である閲覧 2026-08-24