組織学

組織学 · 11.3

呼吸器:胸膜

Respiratory system — Pleura

🧠 胸膜は「肺を包む袋を裏返して2枚重ねにしたもの」と覚える——(肺に密着)と(胸壁の内側)は連続した1枚のがで折り返しているだけで、本質的には同じ膜。 2枚の間の潜在的な空間()に薄い液体の層があることで、肺が胸壁に対して滑らかに滑りながらできる、という仕組みまで一気通貫で理解できる。

臓側胸膜と壁側胸膜

胸膜は(、, 02-1-classification)とその下の結合組織からなる漿膜で、肺の表面と面を覆う。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visceral pleura'>臓側胸膜</span>:肺の表面を直接覆う"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary hilum (hilum of the lung)'>肺門</span>で折り返り連続"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal pleura'>壁側胸膜</span>:胸壁内面・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiphrenic'>横隔膜上</span>面・縦隔を覆う"]
  A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pleural cavity'>胸膜腔</span>:臓側・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal pleura'>壁側胸膜</span>の間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='potential space'>潜在腔</span>、少量の漿液を含む"]
  C --> D
覆う対象 肺実質の表面 胸壁内面・面・縦隔
でと連続する1枚の膜 同上

胸膜腔と呼吸運動

・の間のは正常では潜在的な空間(ほぼ密着した状態)で、少量の漿液に満たされる。健常者で胸腔洗浄により実測すると、片側の胸水量は8.4±4.3 mL(体重あたり両側合計で0.26±0.1 mL/kg)にすぎず、細胞成分もマクロファージ(中央値75%)とリンパ球(同23%)が主体で、は1%程度しか含まれない1。

⚠️ この漿液は「が分泌したもの」ではない。 胸水はの間質からへ受動的に濾過されて生じる(産生側の機序はこれ一つ)。除去側には複数の経路が関与しうるが、量的に最も重要で、かつ産生量の変動に追随できる唯一の系はのリンパ管である2。リンパ排出の不全が胸水貯留の主要な機序になるのはこのためで、「が出す潤滑油」と覚えると胸水の病態が説明できなくなる。この薄い液層がとして働き、の際に肺が胸壁に対して滑らかに滑ることを可能にすると同時に、内の陰圧が肺の虚脱を防ぎ、胸壁の動きに肺を追従させる。

⭐ に空気が異常に入り込む病態(気胸, pneumothorax)や、液体が過剰に貯留する病態(胸水, pleural effusion)は、いずれもこの本来「潜在的で薄い」空間が病的に拡大することで、陰圧が保たれなくなり肺の虚脱・を来す——組織学的な構造(+少量の漿液)を理解しておくと、これらの病態がなぜ呼吸機能を障害するのか説明がつく。

💡 「とはなぜ2枚の別々の膜ではなく1枚の連続した膜なのか」という理解は、発生学的に肺が体腔(原始)の中へ外側から押し入るように成長した結果、風船を指で押し込んだときのように、もとは1枚の膜が押し込まれた面(臓側)と押し込まれていない面(壁側)に分かれて見えるようになった、というイメージで捉えると自然に理解できる。

まとめ

  • 胸膜はと結合組織からなる漿膜で、肺を覆うと胸壁内面を覆うはで連続する1枚の膜である。
  • は潜在的な空間で、片側8.4±4.3 mLという少量の漿液が時のとして働く。
  • 胸水はの間質からの受動的な濾過で生じ、のリンパ管によって除去される(の分泌産物ではない)。
  • 気胸・胸水はこのが病的に拡大し陰圧が保たれなくなることで肺の虚脱・を来す。

出典

  1. 1.Volume and cellular content of normal pleural fluid in humans examined by pleural lavage(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine・2000)健常者に対する胸腔洗浄(生理食塩水150 mLの注入と回収、尿素を希釈指標に使用)で初めて正常胸水を実測した結果、右側胸膜腔の胸水量は平均8.4±4.3 mL、体重あたりでは両側合計0.26±0.1 mL/kgであった。細胞成分はマクロファージ(中央値75%)とリンパ球(中央値23%)が主体で、中皮細胞は中央値1%、好中球・好酸球はほぼ認められなかった閲覧 2026-08-24
  2. 2.Pleural function and lymphatics(Acta Physiologica・2013)胸水の産生は壁側胸膜の間質から胸膜腔へ受動的に濾過される単一の機序によって起こる。除去には複数の機序が関与しうるが、量的に最も重要で、かつ胸水量と排出必要量の変動に対応できる唯一の系は胸膜リンパ管である。リンパ管機能の不全が臨床的に重篤な胸膜疾患・呼吸器疾患の発症に関与する閲覧 2026-08-24