組織学

組織学 · 12.1

泌尿器:腎臓

Urinary system — Kidney

応用トピック
単純・複雑性腎嚢胞と常染色体優性多発性嚢胞腎小児・思春期の高血圧小児の血尿小児ネフローゼ症候群と腎炎症候群

🧠 は「ろ過する部分(糸球体)」と「を作り替える長い管(尿細管)」の2部構成、と覚える。 糸球体で血液が大まかにろ過されができ、続く・・・集合管という長い管を通る間に、必要なものを再吸収し不要なものを分泌して最終的な尿の組成に仕上げる——「ろ過は一度きり、仕上げは長い道のり」というイメージで捉える。

ネフロンの構成

は腎臓の機能単位で、と尿細管からなる。

💡 数は「100万個」と一律に覚えると実態を外す。 平均は確かにあたり約90万〜100万個だが、個々の腎の実測値は約20万個から250万個超まで10倍以上ばらつく1。ヒトの新生は在胎36週前後で終了し、以後は一生新しく作られないため、この差の大半は出生の時点で決まっている(生後3か月未満の小児でもすでに25万〜110万個の幅がある)。出生体重と数は正相関し、数と血圧はする——が成人期の高血圧・腎疾患のリスクになる理由を、組織学の側から説明する数値である。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal corpuscle'>腎小体</span>:糸球体+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Bowman capsule'>ボーマン嚢</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal convoluted tubule (PCT)'>近位曲尿細管</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loop of Henle'>ヘンレのループ</span>:下行脚・上行脚"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distal convoluted tubule (DCT)'>遠位曲尿細管</span>"]
  D --> E["集合管"]

腎小体:糸球体とボーマン嚢

は糸球体(糸球体、の房, 06-3-capillaries-sinusoids)と、それを包むからなる。

構成要素 特徴
内皮、からへ(動脈が動脈のままを作る特殊な血管配置)
臓側葉のした上皮細胞、がを取り囲みを形成。スリットにはが架かる
に富む厚い基底膜(02-4-basement-membrane)、ろ過障壁の中心
の間を支持、貪食・収縮能をもつ

⭐ 障壁は内皮・・の間のという3層からなり、この構造の破綻(基底膜の異常など)が・血尿を来す——02-4-basement-membraneで触れたはこのの異常の代表例。

💡 「」は単なる隙間ではなく、という分子の網が張られている。 その中心分子がネフリンで、型の1241アミノ酸の膜貫通として1998年にフィンランド型先天性(NPHS1)の産物として同定され2、翌年に免疫金標識で間のスリットそのものに局在することが示された3。ネフリンが欠損すると子宮内からとが失われ、大量のを来す。⭐ 3層のうちサイズ選択性の最終関門を担うのはこのであり、内皮の窓(〜70〜100 nm)も基底膜も単独ではを止められない、という順序で理解すると障害=ネフローゼという対応が腑に落ちる。

尿細管:再吸収と分泌が起こる長い管

部位 上皮 特徴的な構造・機能
明瞭な(, 02-2-apical-specializations)、豊富な(01-1-plasma-membrane)でNa⁺・水・グルコース・アミノ酸の大部分を再吸収
下行脚は、上行脚太い部分は を形成し尿の濃縮に関与
を欠く、Na⁺再吸収・K⁺分泌をアルドステロンの調節下で行う
集合管 〜円柱上皮、明瞭な細胞境界(「電柱状」の外観)。主細胞との2種が混在する 主細胞が(ADH)の作用で水を、アルドステロンの作用でNa⁺・K⁺を調節し、が酸塩基を調節

💡 集合管は1種類の細胞でできていない。 明るく境界のはっきりした主細胞(とをもち、ADHとアルドステロンに応答して水・Na⁺・K⁺を扱う)と、暗く染まる(ミトコンドリアに富み、を担う)が混在する。はさらに2型に分かれ、に液胞型H⁺-ATPase・基底外側膜にband 3(Cl⁻/HCO₃⁻交換体)をもつA型()と、band 3陰性でH⁺-ATPaseの局在が逆になるB型(排泄)がある——皮質集合管のではA型46%・B型を含むband 3陰性群53%と、ほぼ半々で分布する4。⚠️ アルドステロンの主たる作用部位はそのものより、この〜集合管の主細胞である。

💡 とその他の尿細管を光顕で見分ける決め手は「明瞭なの有無」——は吸収の主力部隊としてが発達し、以降はを欠くため管腔がより明瞭に開いて見える。

傍糸球体装置

が自身ののに接する部位に形成される特殊な構造で、血圧・の調節に関わる。

構成要素 機能
のした細胞群、尿細管内のNaCl濃度を感知
の平滑筋が、レニンを分泌
糸球体外 極周囲細胞・Lacis細胞とも呼ばれ、と輸入/が作る三角形の隙間を埋める。からの信号をへ伝えるとされ、糸球体内と連続する

💡 は「の細胞」と言い切らないほうが正確。 は上行脚太い部分の終端にあり、そこから先がである(の始まりを定義するのが)。教科書が「のした部分」と書くのはこの両者をまとめた広義の用法で、曲部そのものを指しているわけではない。また、を・の2つで覚えると糸球体外が抜け落ちる——古典的には3成分で数える。

まとめ

  • はを行うと、を作り替える尿細管(PCT・・DCT・集合管)からなる。
  • 障壁は内皮・基底膜・のの3層からなる。
  • は明瞭なをもち大部分の再吸収を担い、以降はを欠く。
  • 障壁のサイズ選択性の要は間ので、その中心分子ネフリンの欠損は先天性を来す。
  • 集合管は主細胞(ADH・アルドステロン応答)と(A型=、B型=排泄)の2種からなる。
  • は(NaCl感知)・()・糸球体外の3成分からなりに関与する。
  • 数はあたり平均約90万〜100万個だがが10倍以上あり、在胎36週以降は新生しない。

出典

  1. 1.Human nephron number: implications for health and disease(Pediatric Nephrology・2011)複数の実測研究の総括として、片腎あたりの糸球体(ネフロン)数の平均は約90万〜100万個だが、個々の腎では約20万個から250万個超まで分布する。ヒトのネフロン新生は在胎36週前後で終了し以後は新生しないため、この差の大半は出生時にすでに決まっている。生後3か月未満の小児15例の実測でも約25万〜110万個の幅があり、出生体重とネフロン数は正相関、ネフロン数と血圧は逆相関する閲覧 2026-08-24
  2. 2.Positionally cloned gene for a novel glomerular protein--nephrin--is mutated in congenital nephrotic syndrome(Molecular Cell・1998)フィンランド型先天性ネフローゼ症候群(NPHS1)の原因遺伝子として同定されたNPHS1の産物ネフリンは、1241アミノ酸残基の免疫グロブリンスーパーファミリー型の膜貫通接着分子であり、腎糸球体に特異的に発現する。腎の濾過障壁の形成・機能に決定的な役割をもつ閲覧 2026-08-24
  3. 3.Nephrin is specifically located at the slit diaphragm of glomerular podocytes(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America・1999)免疫金標識電子顕微鏡により、ネフリンが足細胞の足突起間のスリット(スリット膜)に局在することが示された。ネフリン遺伝子が変異するフィンランド型先天性ネフローゼ症候群ではスリット膜と足突起が失われ、子宮内から大量のタンパク尿を来す。スリット膜でネフリンがジッパー状に会合するモデルが提唱された閲覧 2026-08-24
  4. 4.Subtypes of intercalated cells in rat kidney collecting duct defined by antibodies against erythroid band 3 and renal vacuolar H+-ATPase(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America・1989)ラット集合管の免疫組織化学により、間在細胞が2群に分かれることが示された。髄質集合管ではほぼすべての間在細胞が基底外側膜にband 3(Cl⁻/HCO₃⁻交換体)、頂端膜に液胞型H⁺-ATPaseをもつ。皮質集合管ではこの型(酸排泄型=A型)が46%、band 3陰性でH⁺-ATPaseが基底外側または細胞質に分布する型(重炭酸排泄型=B型を含む)が53%を占めた閲覧 2026-08-24