組織学

組織学 · 13.2

内分泌:甲状腺と副甲状腺

Endocrine system — Thyroid & parathyroid

応用トピック
甲状腺結節・結節性甲状腺腫の評価と治療

🧠 甲状腺は「ホルモンを“外に貯めてから”使う唯一の」と覚える——濾胞腔内のという細胞外のにとして甲状腺ホルモンを一旦蓄え、必要な時だけ再吸収して血中に放出する。 他の(副甲状腺を含む)が「作ったらすぐとして細胞内に少量ずつ貯める」のとは対照的な、甲状腺だけの例外的な貯蔵様式として位置づける。

甲状腺濾胞とコロイド

甲状腺の実質は濾胞という構造の集まりで、単層のが中心の(を含む細胞外貯蔵物質)を取り囲む。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular cells'>濾胞細胞</span>:ヨウ素を取り込み<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglobulin, Tg'>サイログロブリン</span>を合成・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colloid'>コロイド</span>へ分泌"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colloid'>コロイド</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid follicle'>甲状腺濾胞</span>腔内):<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroglobulin, Tg'>サイログロブリン</span>として甲状腺ホルモンを貯蔵"]
  B --> C["刺激(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>)に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular cells'>濾胞細胞</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colloid'>コロイド</span>を再吸収"]
  C --> D["リソソーム消化によりT3・T4を遊離し血中へ分泌"]

⭐ 甲状腺だけがホルモンを細胞外(濾胞腔の)に大量貯蔵するという点は全体を通じて最も特徴的な例外——他のはホルモンを合成後すぐに細胞内のとして少量ずつ蓄える(13-1-pituitary-hypophysisの好酸性・など)のに対し、甲状腺は数か月分のホルモンを前駆体()の形でに貯めておける。

💡 「数か月分」を裏づけているのは、貯蔵プールの回転の遅さ。 正常なヒトでは、大部分が濾胞内物質として存在する有機ヨウ素プールの回転率は1日あたり約1%——単純に割れば全部入れ替わるのに約100日かかる計算で、これが「数か月分」の実体である1。それを可能にしているのがの濃さで、濾胞腔内の濃度は200〜300 g/Lに達する。⭐ 甲状腺の病気で、ヨウ素の供給や合成が止まっても甲状腺機能低下症の症状が出るまでに時間がかかる(逆に、では貯蔵分が一気に漏れて一過性の中毒症になる)のは、この「大きくて回転の遅い細胞外」から説明できる。

傍濾胞細胞

の間または濾胞の外側に散在する(C細胞)は、カルシトニンを分泌し血中Ca²⁺濃度を低下させる方向に働く。

(C細胞)
由来 内胚葉(正中甲状腺) 内胚葉(第4=)。旧来は神経堤由来とされた
分泌物 T3・T4(甲状腺ホルモン) カルシトニン
貯蔵様式 細胞外() 細胞内(一般的なと同じ)

⚠️ 「C細胞は神経堤由来」は改訂された。 従来の神経堤由来説はウズラ‐ニワトリで鰓後腺へのの運命地図を作った所見に基づくもので、で検証されていなかった。マウスでの追跡ではSox17陽性の前方内胚葉のみがC細胞とその前駆細胞の供給源であり、C細胞は神経内分泌分化に先立って腸管内胚葉派生物と同じくFoxa1/Foxa2をする2。現在は第4内胚葉から生じたのが正中甲状腺へ合流するという像が取られている3。したがってとC細胞はどちらも内胚葉系だが、由来する内胚葉ドメインが違うと整理する。は甲状腺の間質・血管周囲には寄与する。

副甲状腺

副甲状腺は甲状腺の背面に埋め込まれた小さな腺で、2種類の細胞をもつ。

細胞 特徴 機能
主細胞 小型、淡明な細胞質、最も数が多い を分泌し血中Ca²⁺濃度を上昇させる
大型、強い質(ミトコンドリアが豊富)、思春期以降に出現し加齢とともに増加 機能は不明瞭(分泌能をもつとされる)

💡 甲状腺のカルシトニン(Ca²⁺を下げる)と副甲状腺の(Ca²⁺を上げる)は、隣接する2つの腺が血中Ca²⁺濃度を挟み撃ちで調節する拮抗ペア——解剖学的に隣接する2臓器が生理学的に正反対の作用をもつホルモンを分泌するという対比は、の中でも特に覚えやすい組み合わせ。

まとめ

  • はに囲まれた()を細胞外に貯蔵する、で例外的な様式をもつ。
  • (C細胞)はカルシトニンを分泌し血中Ca²⁺を低下させる。その起源は旧来の神経堤由来説から改訂され、第4内胚葉()由来とされる。
  • 副甲状腺の主細胞はを分泌し血中Ca²⁺を上昇させ、は加齢とともに増加する。
  • カルシトニンとは血中Ca²⁺濃度を挟み撃ちで調節する拮抗ペアである。

出典

  1. 1.Thyroid Hormone Synthesis And Secretion(Endotext, MDText.com・2015)サイログロブリンは甲状腺で最も豊富なタンパク質で、濾胞腔内での濃度は200〜300 g/Lに達する。正常なヒトでは、大部分が濾胞内物質として存在する有機ヨウ素プールの回転率は1日あたり約1%である閲覧 2026-08-24
  2. 2.Revising the embryonic origin of thyroid C cells in mice and humans(Development・2015)系譜追跡でSox17陽性前方内胚葉のみがC細胞とその前駆細胞の供給源であり、哺乳類C細胞は神経堤ではなく咽頭嚢内胚葉に由来する(従来の神経堤由来説はウズラ‐ニワトリキメラの所見に基づくもの)閲覧 2026-08-24
  3. 3.Resolving thyroid lineage cell trajectories merging into a dual endocrine gland in mammals(Nature Communications・2026)正中甲状腺原基と後鰓体の内胚葉系譜が合流し、濾胞細胞とC細胞を含む複合内分泌腺を形成する閲覧 2026-08-24