組織病理学

組織病理学 · H1-050

急性潰瘍性蜂窩織炎性虫垂炎

Appendicitis acuta ulcerophlegmonosa

描出疾患
急性虫垂炎

🧠 全体像:は、が粘膜から筋層・漿膜へ壁に広がる病変である。診断の核はへので、、膿瘍、壊死、のフィブリン化膿性滲出が重症度を示す。

標本の要点

項目 所見
臓器 虫垂
染色 ・染色(HE)
粘膜 、潰瘍、壊死
壁 好中球が境界不明瞭に筋層間へ広がる蜂窩織炎性炎症
漿膜 フィブリンと好中球からなるフィブリン化膿性滲出
重要な合併症 壊疽、穿孔、腹膜炎、膿瘍

発症と進展

flowchart TD
    A["虫垂内腔の閉塞または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal injury'>粘膜障害</span>"] --> B["内圧上昇・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaired venous return'>静脈還流障害</span>"]
    B --> C["粘膜虚血と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacterial growth'>細菌増殖</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophilic inflammation'>好中球性炎症</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscularis propria'>固有筋層</span>へ浸潤"]
    E --> F["壁<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transmural'>全層性</span>の蜂窩織炎性炎症"]
    F --> G["漿膜のフィブリン<span class='jp-term jp-term-diagram' title='suppurative inflammation'>化膿性炎症</span>"]
    F --> H["壊疽・穿孔"]
    H --> I["限局性膿瘍または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='generalized peritonitis'>汎発性腹膜炎</span>"]

やリンパ組織過形成などによる閉塞は重要な機序だが、すべてので明らかな閉塞が確認されるわけではない。病理側の総説は、通説に反して「少なくとも大多数の症例では内腔閉塞が一次的原因である可能性は低い」と評価しており1、成人虫垂炎1552例の無作為化試験でもが確認されたのは414例(27%)だった2。閉塞は「起こりうる引き金の一つ」として位置づける。

観察の順序

低倍率

  1. 虫垂腔、粘膜、、、漿膜の向きを確認する。
  2. 比較的保たれた粘膜と、上皮が失われた潰瘍部を比較する。
  3. 炎症が粘膜だけでなくを越えて広がることを確認する。
  4. 漿膜表面の濃いフィブリン化膿性滲出物を探す。

高倍率

所見 読み方
粘膜 陰窩周囲に多数の好中球を認める
潰瘍 表面上皮が失われ、壊死物と好中球が露出する
蜂窩織炎性炎症 好中球と壊死物が間へ境界不明瞭に浸潤する
フィブリン化膿性滲出 にフィブリン、好中球、壊死物が付着する
壊疽 壁構造と核が広範に消失し、穿孔リスクが高まる

⭐ の組織学的な決め手は、へのである。だけでは、ほかの腸炎や隣接臓器からの二次性炎症と区別できない。病理分類も、内腔内炎症・急性・粘膜+のを、化膿性(蜂窩織炎性)虫垂炎・虫垂炎・とは別の段階として扱い、それぞれ診断的意義が異なるものとして論じている1。

病変名の整理

用語 意味
潰瘍性 が局所的に欠損する
蜂窩織炎性 が組織間隙へ境界不明瞭に広がる
漿膜・周囲脂肪へ炎症が及ぶ
虚血と感染により虫垂壁が広範に壊死する
穿孔性 壁が破綻し、・膿が腹腔へ漏出する

合併症

  • が限局すれば、周囲組織に囲まれた虫垂周囲膿瘍を形成する。
  • 穿孔内容が腹腔へ広がるとを起こし、として緊急対応を要する。
  • へ感染が及ぶと化膿性門脈炎やを生じうる。

💡 この標本があるということはが行われたということ。 単純性虫垂炎では抗菌薬単独のも選択肢で、成人1552例の無作為化試験では30日時点の健康状態でにだった。ただし抗菌薬群の29%が90日以内にを受けており、のある例では41%(なし25%)、も20.2対3.6/100人と跳ね上がる2。の2020年版ガイドラインも、抗菌薬治療を提示できるのは単純性の選択例に限り、を前提としている3。標本でや壊疽・穿孔を確認することは、この判断の裏づけを見ていることになる。

まとめ

  • へのがの診断の核である。
  • 潰瘍、蜂窩織炎性浸潤、フィブリン化膿性を壁の内側から外側へ追う。
  • 壊死と穿孔は腹膜炎・膿瘍へつながるである。
  • だけでを確定しない。

出典

  1. 1.The pathology of acute appendicitis(Annals of Diagnostic Pathology・2000)急性虫垂炎の病理を、内腔内炎症・急性粘膜炎・粘膜および粘膜下層の急性炎症・化膿性(蜂窩織炎性)虫垂炎・壊疽性虫垂炎・虫垂周囲炎という段階に分けて分類し、それぞれの診断的意義を論じる。また、通説に反して、文献上の最良の証拠は少なくとも大多数の症例で内腔閉塞が一次的原因である可能性は低いことを示す閲覧 2026-08-24
  2. 2.A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis(The New England Journal of Medicine・2020)成人虫垂炎1552例の無作為化試験(CODA)。糞石を認めたのは414例(27%)にとどまる。抗菌薬10日間は30日時点のEQ-5Dで虫垂切除に非劣性(差0.01点、95%CI -0.001〜0.03)だったが、抗菌薬群の29%が90日以内に虫垂切除を受けた(糞石あり41%、なし25%)。合併症は抗菌薬群8.1対切除群3.5/100人で、この差は糞石ありの層(20.2対3.6/100人、率比5.69)に由来し、糞石なしの層(3.7対3.5/100人)には認めない閲覧 2026-08-24
  3. 3.Diagnosis and treatment of acute appendicitis: 2020 update of the WSES Jerusalem guidelines(World Society of Emergency Surgery・2020)単純性(非複雑性)急性虫垂炎の選択例では、患者との共同意思決定のうえで抗菌薬による非手術治療を選択肢として提示できる。複雑性(穿孔・膿瘍・汎発性腹膜炎)ではソースコントロールとしての虫垂切除・ドレナージを行う閲覧 2026-08-24