組織病理学

組織病理学 · H1-049

大葉性肺炎

Pneumonia lobaris

描出疾患
市中肺炎

🧠 全体像:は、一つの内で細菌性炎症が肺胞間を連続的に広がり、広い範囲の肺胞が同じのフィブリン・好中球性滲出物で満たされる形態パターンである。低倍率では均一な充実化、高倍率では肺胞構築を残した内滲出を捉える。

標本の要点

項目 所見
臓器 肺
染色 ・染色(HE)
分布 内の広い連続領域
フィブリンと好中球を主体とする滲出物
基本構築は保たれるが毛細血管うっ血を伴う
付随所見 、炭粉沈着

病変の広がり

flowchart TD
    A["細菌が肺胞へ到達"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>が炎症反応を開始"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular permeability'>血管透過性</span>上昇と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutrophil migration'>好中球遊走</span>"]
    C --> D["フィブリン・好中球・赤血球が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar space'>肺胞腔</span>へ滲出"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pores of Kohn'>肺胞孔</span>などを介して連続的に波及"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lobe'>肺葉</span>の広い範囲が充実化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enzymatic degradation'>酵素分解</span>とマクロファージによる除去"]
    G --> H["肺胞構築を保って消散"]

観察の順序

  1. 低倍率で、肺胞のが失われた領域が広く連続することを確認する。
  2. は残っているが、が細胞性滲出物で埋まることを見る。
  3. 高倍率でと多数の好中球を識別する。
  4. 胸膜表面のと、間質の黒色炭粉を確認する。
所見 読み方
肺胞内フィブリン に網状・糸状の好酸性物質が広がる
好中球 をもつ細胞が内に多数集まる
マクロファージ 消散期に増え、滲出物を処理する
病変がへ達した結果として表面にフィブリンが付着する
炭粉沈着 黒色粒子をもつマクロファージで、肺炎の原因所見ではない

古典的な病期

病期 主な肉眼・組織所見
うっ血期 重く赤色で、毛細血管うっ血、浮腫、少数の好中球・細菌を認める
赤血球、好中球、フィブリンが肺胞を満たし、赤く硬い
灰白色肝変期 赤血球が崩壊し、フィブリンと好中球が残って灰白色・硬い
消散期 滲出物がされ、マクロファージやで除去される

この四段階は典型例を理解するための古典的モデルであり、抗菌薬治療下の実例が明瞭な順序をすべて示すとは限らない。に比べれば内のはそろうが、実験的の観察では肝変は側から末梢へ絶えず進行する連続過程で、進行の先端では程度に差が生じ、消散期には器質化が加わりうる1。

気管支肺炎との違い

項目
分布 内で連続的・比較的均一 気道中心性で斑状
低倍率 広い充実化 正常部と病変部が混在
滲出物 フィブリンと好中球が目立つ 好中球・壊死物・浮腫液が目立つ

肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は古典的な原因菌だが、この形態だけで原因菌を確定できない。系統的な微生物検査を行った成人入院でも病原体が同定できたのは38%で、肺炎球菌は5%にとどまり(9%)や(6%)より少なかった2。小児では、充が定型を示すは12%にすぎない一方、は96%で、充が無ければ定型細菌性は考えにくいという方向にしか使えない3。

まとめ

  • は内の広い連続領域を侵す炎症パターンである。
  • 肺胞内のフィブリンと好中球、保たれた、を確認する。
  • 古典的には、うっ血、、灰白色肝変、消散の四段階で整理する。
  • とは、病変のと気道中心性の有無で区別する。

出典

  1. 1.Studies on experimental pneumonia: II. Pathology and pathogenesis of pneumococcus lobar pneumonia in monkeys(The Journal of Experimental Medicine・1920)実験的肺炎球菌大葉性肺炎の病理は人の大葉性肺炎と同一で、肝変は肺門側から始まって末梢へ絶えず進行する連続過程である。消散にはしばしば肺の粗大構築の器質化を伴い、肺胞滲出物の器質化も程度はさまざまに起こりうる——つまり四病期は連続する過程を便宜的に区切ったものである閲覧 2026-08-24
  2. 2.Community-Acquired Pneumonia Requiring Hospitalization among U.S. Adults(The New England Journal of Medicine・2015)培養・血清・抗原・分子診断を系統的に行った成人入院市中肺炎2259例でも病原体が同定できたのは38%にとどまり、肺炎球菌は5%(ライノウイルス9%、インフルエンザウイルス6%より少ない)。古典的原因菌という位置づけと実測の検出頻度は一致しない閲覧 2026-08-24
  3. 3.Association of Radiology Findings with Etiology of Community Acquired Pneumonia among Children(The Journal of Pediatrics・2023)小児市中肺炎2212例で、胸部X線の充実像が定型細菌性肺炎を示す陽性的中率は12%(95%CI 10-15%)にすぎず、陰性的中率は96%(95-97%)。充実(大葉性)パターンから起因菌は決められないが、充実像が無ければ定型細菌性は考えにくい閲覧 2026-08-24