組織病理学

組織病理学 · H1-055

肺結核(Ziehl-Neelsen染色)

Tuberculosis pulmonis (ZN)

描出疾患
結核

🧠 全体像:では、に富む細胞壁をもつ抗酸菌(acid-fast bacilli)が青い肺組織を背景に赤色の細い桿菌として残る。と赤い抗酸菌は肺結核を強く支持するが、肉芽腫だけでも抗酸菌陽性だけでもの確定にはならない。

標本の要点

項目 所見
臓器 肺
染色
背景 で青く染まる肺組織・気管支上皮
病変
目的構造 青い背景内に散在する赤色の細い桿菌
解釈 抗酸菌陽性。の確定には・培養が必要

染色原理

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carbol fuchsin'>カルボールフクシン</span>を加温して浸透"] --> B["抗酸菌の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mycolic acid'>ミコール酸</span>に富む細胞壁へ保持"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid-alcohol'>酸アルコール</span>で脱色"]
    C --> D["抗酸菌は赤色を保持"]
    C --> E["背景組織は脱色"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methylene blue'>メチレンブルー</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counterstain'>対比染色</span>"]
    F --> G["赤い桿菌と青い背景"]

「」は、で処理してもを保持する性質を指す。

観察の順序

  1. 低倍率で青く染まる肺胞・気管支上皮と、結節状のを確認する。
  2. 肉芽腫の壊死部や細胞内を高倍率で系統的にする。
  3. 青い背景に対して鮮明な赤色を示す、細くわずかに湾曲した桿菌を探す。
  4. 、染色むら、組織片の縁を桿菌と誤認しない。
観察対象 読み方
肺実質 青いとが背景の向きを示す
気管支上皮 青いで上皮構造を確認できる
結核を示唆するだが、菌の存在とは別に評価する
赤色桿菌 抗酸菌に合致する直接所見

HE染色との役割分担

染色・検査 主にわかること 限界
HE染色 、、巨細胞、リンパ球、線維化 菌体を安定して同定できない
組織内の抗酸菌 陽性でもとを区別できない
を迅速に検出し、一部も評価 陰性でも病変量が少ない組織結核を完全には除外できない。塗抹陰性・培養陽性例での感度は67%1
培養 と薬剤感受性 結果まで時間を要する

⚠️ は病原体確認ではない。また、陽性は「抗酸菌が存在する」ことを示すが、形態だけでMycobacterium tuberculosisと断定しない。逆に染色陰性でも菌量の少ない結核を除外できない。

💡 染色陰性になる理由は標本の作り方にもある。 ホルマリンももの感度を大きく下げることがガラス標本上の実験で示されており、肉芽腫30検体ではで推定したが鏡検でのよりかなり多かった2。組織学的に活動性に見えるのに菌が見えない、という食い違いは珍しくない。説明のつかない皮膚肉芽腫31例の検討でも、の感度は72.7%・特異度95.0%で、染色陰性の3例(9.7%)が培養陽性だった3。陰性は「菌がいない」ではなく「この切片では見えなかった」と読む。

現在の結核診断では、臨床的に疑う場合、塗抹鏡検だけに依存せず、を中心に培養・を組み合わせる。は結核が疑われる者の初期検査を塗抹顕微鏡ではなく推奨としている4。ただしそのでさえ、塗抹陰性・培養陽性例に対する感度は67%(Xpert MTB/RIF、培養基準の全体感度85%・特異度98%)で、培養とを省けない1。

の構築は H1-054:肺結核(HE染色) で確認する。

まとめ

  • では、抗酸菌は青い背景上の赤い細い桿菌として見える。
  • 肺実質、気管支上皮、と、菌体の直接像を分けて観察する。
  • 肉芽腫は、赤色桿菌は抗酸菌の直接所見であり、両者の意味は異なる。
  • の確定と評価には・培養を組み合わせる。

出典

  1. 1.Xpert MTB/RIF and Xpert MTB/RIF Ultra for pulmonary tuberculosis and rifampicin resistance in adults(Cochrane Database of Systematic Reviews・2019)培養を基準としたXpert MTB/RIFの統合感度は85%(95%CrI 82〜88%)、特異度98%(97〜98%)(70研究・37,237例)。塗抹陽性例では感度98%(97〜98%)だが塗抹陰性・培養陽性例では67%(62〜72%)にとどまる。Xpert Ultraは感度88%(85〜91%)/特異度96%(94〜97%)でXpert MTB/RIFの83%/98%と対比される。核酸増幅検査の陰性は結核を否定しないため培養と薬剤感受性検査が要る閲覧 2026-08-24
  2. 2.Sensitivity of acid-fast staining for Mycobacterium tuberculosis in formalin-fixed tissue(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine・2002)抗酸菌病巣の組織切片では、組織学的に活動性に見えても菌がほとんど、または全く見えないことが多い。ガラス標本上の実験で、ホルマリンとキシレンのいずれもが抗酸菌染色の感度を大きく下げることが示された。パラフィン包埋肉芽腫30検体で抗酸菌鏡検とリアルタイムPCRを比較すると、PCRで推定した菌数は鏡検での計数よりかなり多く、ホルマリン固定パラフィン包埋組織の抗酸菌鏡検では菌が見落とされたり過小評価されたりすることが示唆される閲覧 2026-08-24
  3. 3.Utility of acid-fast staining for detection of mycobacteria in cutaneous granulomatous tissue reactions(American Journal of Clinical Pathology・2014)説明のつかない皮膚肉芽腫性反応の生検31例で抗酸菌染色と抗酸菌培養またはPCRを対比した後方視的検討。抗酸菌染色の感度は72.7%、特異度95.0%、陽性的中率88.9%、陰性的中率86.4%。染色陰性でも3例(9.7%)は培養陽性だった。抗酸菌染色は培養と併せて行うべきである閲覧 2026-08-24
  4. 4.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 3: diagnosis(World Health Organization・2025)結核が疑われる者の初期診断検査としてWHO推奨迅速分子検査(mWRD)を用いることを推奨する。塗抹顕微鏡検査を初期検査の位置に置かない閲覧 2026-08-24