組織病理学

組織病理学 · H2-020

アスペルギルス症(Grocott染色)

Aspergillosis (Grocott)

描出疾患
アスペルギルス症

🧠 全体像:Grocottは真菌の細胞壁を黒く強調し、壊死や炎症に埋もれた菌糸を見つけやすくする。では、細い隔壁菌糸と鋭角の二分岐、さらに血管侵襲の有無を読む。

染色の特徴

項目 での見え方・意味
黒色に染まる
菌糸 HE染色より輪郭と分岐を追いやすい
隔壁 保存が良ければ確認できる
壊死組織 背景の中から少量の菌体を検出しやすい
血管壁 菌糸が壁を貫く所見を評価できる
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Grocott methenamine silver stain'>Grocott染色</span>で黒色菌糸を検出"] --> B["菌糸幅・隔壁・分岐を評価"]
    B --> C["細く比較的均一・隔壁あり・鋭角二分岐"]
    C --> D["Aspergillusを強く疑う"]
    D --> E["血管壁侵入を検索"]
    E --> F["血栓・壊死・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic infarction'>出血性梗塞</span>を評価"]
    F --> G["培養・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymerase chain reaction'>PCR</span>・抗原検査と統合"]

類似する糸状菌との鑑別

特徴 Aspergillus Mucorales 注意点
菌糸幅 比較的細く均一(3〜5 μm) 幅広く不均一(6〜16 μm、最大25 μm) 壊死や切断方向で見え方が変わる
隔壁 明瞭 または隔壁が乏しい 古い組織では隔壁を追いにくい。標本の折れ込みが偽の隔壁に見えることがある
分岐 鋭角の二分岐が典型 直角に近い不規則分岐が典型 角度は組織の圧や標本作製で変わり見分けにくい。菌糸の太さと分岐の不規則さのほうが当てになる1
血管侵襲 起こす 強く起こす どちらも緊急性が高い

は真菌を強調するが、Aspergillus属に特異的ではない。形態が典型的でも、可能な限り培養や分子検査で同定し、抗真菌薬感受性や臨床背景を合わせる2。実測でも、を使ったかどうかで形態同定のは変わらなかった(P=.34)ため、を足すことはの代わりにならない3。

💡 形態診断が入れ替わった実例。 ホルマリン固定組織102検体をITS2標的のリアルタイムで再検討したでは、組織学的にと診断されていた5検体からFusarium oxysporumまたはF. solaniのが増幅され、逆にとされた検体からAspergillus flavus・Scedosporium apiospermum・Syncephalastrumが検出された2。

⚠️ 取り違えは治療を変える。 では疑った時点で画像評価と外科的介入が強く推奨され、初期治療は高用量(静注・は中等度の推奨)で、中心のの初期治療とは別物になる1。形態の読みは薬剤選択に直結するが、では分岐角や隔壁より菌糸の太さと不規則な分岐のほうが信頼でき、それでも形態だけでの鑑別精度を示したデータは無い。で最も多いのはをAspergillusと取り違えることで、培養または分子学的手法での確認が強く推奨される1。

病変の読み分け

  • 空洞内に密な菌糸塊があり壁侵入に乏しい場合はを考える。
  • 壊死巣や膿瘍様病変に菌糸が入り込む場合は組織侵襲を考える。
  • 血管壁内の菌糸はを強く支持する。
  • 侵襲性病変では肺から血行性に播種しうるため、脳なども評価する。

HE染色でのと病型の整理は肺のHE染色を参照する。

まとめ

  • はを黒く染め、菌糸の隔壁と分岐を見やすくする。
  • 鋭角二分岐菌糸はAspergillusを支持するが、単独では確定所見ではない。
  • 血管侵襲を必ず検索し、培養・分子検査・抗原検査と統合する。

出典

  1. 1.Global guideline for the diagnosis and management of mucormycosis: an initiative of the European Confederation of Medical Mycology in cooperation with the Mycoses Study Group Education and Research Consortium(European Confederation of Medical Mycology・2019)ムーコル症では疑った時点での画像評価と外科的介入が強く推奨され、初期治療は高用量リポソーマルアムホテリシンBが強く推奨される(イサブコナゾール静注とポサコナゾールは中等度の推奨)。アスペルギルス症のボリコナゾール中心の初期治療とは異なる。PMCの著者稿全文(PMC8559573)で、組織内のムーコル目菌糸は幅6〜16 μm(最大25 μm)で隔壁がないか乏しく不規則に分岐し、Aspergillus属の菌糸は幅3〜5 μmであること、標本の折れ込みが偽の隔壁に見えうること、古典的な「90度対45度」の分岐角は組織の圧と標本作製の影響で判別しにくく菌糸の幅と不規則な分岐のほうが信頼できること、形態での鑑別精度のデータは無く誤診で最も多いのがムーコル目をAspergillus属と取り違えることで、培養または分子学的・組織内同定法での確認が強く推奨されることも確認した閲覧 2026-09-27
  2. 2.Discrimination of Aspergillosis, Mucormycosis, Fusariosis, and Scedosporiosis in Formalin-Fixed Paraffin-Embedded Tissue Specimens by Use of Multiple Real-Time Quantitative PCR Assays(Journal of Clinical Microbiology・2016)ホルマリン固定パラフィン包埋組織102検体をITS2標的のリアルタイム定量PCRで再検討したところ、組織学的にアスペルギルス症とされた5検体からFusarium oxysporumまたはF. solaniのDNAが、ムーコル症とされた検体からAspergillus flavus・Scedosporium apiospermum・Syncephalastrumが検出され、糸状菌の組織形態は容易に混同されうる閲覧 2026-08-24
  3. 3.Challenges and pitfalls of morphologic identification of fungal infections in histologic and cytologic specimens: a ten-year retrospective review at a single institution(American Journal of Clinical Pathology・2009)培養陽性かつ同時に外科病理が行われた47例のうち形態から正しく同定できたのは37例(79%)で、10例(21%)は誤同定だった。精度は特殊染色を使ったかどうか(P=.34)で変わらず、Grocott染色を足しても形態同定の限界は解消しない閲覧 2026-08-24