組織病理学

組織病理学 · H2-035

びまん型胃腺癌

Adenocarcinoma ventriculi (diffuse type)

描出疾患
胃癌

🧠 全体像:(diffuse-type gastric adenocarcinoma)は、接着性を失った低結合性癌細胞が孤立性・小に胃壁へ浸潤する腫瘍である。細胞内粘液で核が偏在するを伴い、広範な線維化により(linitis plastica)を形成しうる。

全体では前庭・や側にも多く、隆起、潰瘍、粘膜の平坦化・肥厚、びまん性胃壁肥厚など多様な肉眼像をとる。では明瞭な腫瘤を作らずへ広がる場合がある。

発症と浸潤

flowchart TD
    A["CDH1など細胞接着経路の異常"] --> B["E-cadherin機能低下"]
    B --> C["腫瘍細胞が結合性を失う"]
    C --> D["孤立性に粘膜・胃壁へ浸潤"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='signet ring cell'>印環細胞</span>・低結合性癌"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial fibrosis'>間質線維化</span>"]
    F --> G["胃壁肥厚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linitis plastica'>革袋胃</span>"]

標本の要点

所見 読み方
細胞内粘液が核を辺縁へ
孤立性浸潤 腺管を作らず胃に散在
筋層浸潤 と病期に関わる
胃壁硬化・収縮の原因
併存しうるが、の定義所見ではない

💡 Laurén「」と「低結合性癌」は別枠組みの対応関係で、はその分類。 分類は形態からという枠を立てており、Laurénのがおおむねこれに対応する。はPCCと並ぶ別カテゴリーではなく、PCCの型である。しかも閾値は動いている——国際胃癌学会(IGCA)欧州支部の2019年Delphi合意は、低結合性細胞の90%超が形態を示すものだけをと呼び、それ未満は「成分を伴う低結合性癌」と「低結合性癌NOS」に細分することを提案した1。標本でをいくつか見つけたことと、と診断することは同じではない(割合を数える)。同合意は、西欧で遠位・胃癌が減るぶん/低結合性癌の相対比率が上がっていることも背景に挙げている1。

腸型との比較

項目
構築 低結合性細胞、 腺管形成
前駆背景 明瞭でないことが多い H. pylori、萎縮、、異形成
分子 CDH1異常など 多段階の多様な遺伝子異常
肉眼 壁肥厚・ 潰瘍性・隆起性腫瘤など

を「H. pyloriと」と断定しない2。遺伝性胃癌では生殖細胞系列CDH1などを評価し、家族歴に応じて遺伝カウンセリングを行う3。

💡 断定しない根拠。 日本人1,526例を平均7.8年追跡した前向き研究では、胃癌を発症した36例(2.9%)は全員H. pylori感染者で、非感染280例からは1例も出なかった。その内訳は23例に対し13例である2。で異なるのは「萎縮→→異形成という前駆段階を経ないことが多い」点であって、感染とという意味ではない。

⚠️ (HDGC)は予防的が関わる。 常染色体優性の症候群で、胃癌に加え乳腺の小葉癌がする。大半はCDH1の不活化、少数はCTNNA1による。国際胃癌連鎖コンソーシアム(IGCLC)の2020年改訂では、主に年齢制限を緩めるかたちで遺伝学的検査の基準が拡大され、病的CDH1バリアント保因者の胃癌リスク管理としては予防的が引き続き第一の推奨とされた。一方で、手術を先送りしたい人や胃癌リスクが明確に定まらない人には、専門施設でのを安全に提示しうるという立場が示されている3。

診断と治療

病期、、、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18.2などを必要に応じて評価し、手術と薬物療法を組み合わせる。CLDN18.2は近年加わった標的で、腫瘍細胞の75%以上が中等度以上の膜性CLDN18染色を示すものを陽性とし、陰性の進行例で+mFOLFOX6が無増悪生存(中央値10.61か月 vs 8.67か月、HR 0.75、95%CI 0.60–0.94)とを延長した4。形態だけで予後を固定せず、、リンパ節、、遠隔転移を重視する。

まとめ

  • 胃癌は低結合性の孤立細胞浸潤が中心である。
  • と胃壁線維化を確認する。
  • 遺伝性CDH1関連病変とを区別する。

出典

  1. 1.Consensus on the pathological definition and classification of poorly cohesive gastric carcinoma(Gastric Cancer (International Gastric Cancer Association / Japanese Gastric Cancer Association)・2019)遠位・腸型胃癌が減る一方でLaurénびまん型=WHO低結合性癌(印環細胞癌を含む)の比率が相対的に増えている。国際胃癌学会欧州支部のDelphi合意は、低結合性癌のうち低結合性細胞の90%超が印環細胞形態を示すものだけを印環細胞癌と分類し、それ未満は印環細胞成分を伴う低結合性癌と低結合性癌NOSに細分することを提案した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer(New England Journal of Medicine・2001)日本人1,526例(H. pylori感染1,246例・非感染280例)を平均7.8年追跡し、胃癌は感染者36例(2.9%)にのみ発生し非感染者では0例。内訳は腸型23例・びまん型13例で、びまん型胃癌もH. pylori感染者から発生する閲覧 2026-08-24
  3. 3.Hereditary diffuse gastric cancer: updated clinical practice guidelines(The Lancet Oncology / International Gastric Cancer Linkage Consortium・2020)遺伝性びまん性胃癌は常染色体優性の症候群で、びまん型胃癌と小葉癌(乳腺)の高頻度を特徴とし、大半はCDH1の不活化生殖細胞系列バリアント、少数はCTNNA1による。IGCLCの2020年改訂では主に年齢制限の緩和により遺伝学的検査基準が拡大され、病的CDH1バリアント保因者のリスク管理としては予防的胃全摘が引き続き推奨される一方、手術を先送りしたい人やリスクが明確でない人には専門施設での内視鏡サーベイランスを提示しうる閲覧 2026-08-24
  4. 4.Zolbetuximab plus mFOLFOX6 in patients with CLDN18.2-positive, HER2-negative, untreated, locally advanced unresectable or metastatic gastric or gastro-oesophageal junction adenocarcinoma (SPOTLIGHT): a multicentre, randomised, double-blind, phase 3 trial(The Lancet・2023)CLDN18.2陽性(腫瘍細胞の75%以上が中等度以上の膜性CLDN18染色)かつHER2陰性の進行胃・食道胃接合部腺癌565例の第3相試験で、ゾルベツキシマブ+mFOLFOX6は無増悪生存(中央値10.61 vs 8.67か月、HR 0.75, 95%CI 0.60-0.94)と全生存(HR 0.75)を有意に延長した閲覧 2026-08-24