組織病理学

組織病理学 · H2-106A

結節性筋膜炎

Fasciitis Nodularis – SUBCUTANEOUS TISSUE

🧠 全体像:は、急速に増大するため肉腫を疑わせる(とも呼ばれる)が、実際には自然消退しうる良性の線維芽細胞・増殖である。という腫瘍性クローンの証拠を持ちながら、生物学的にはという点が診断・治療の鍵になる。

好発と成因

20〜40歳代の若年成人に多く、四肢・体幹・頭頸部の皮下組織に好発する。大多数の症例でUSP6遺伝子の再構成がみられ(48例中44例=92%)、最も高頻度な融合パートナーはMYH9である1。この遺伝子異常によりUSP6が本来の制御を離れてし、腫瘍性クローンの増殖を引き起こす。

💡 融合の仕組みは「プロモーターの入れ替え」である。 USP6のコード領域はまるごと保たれ、そこにパートナー遺伝子のプロモーターが並置されることでUSP6の発現だけが持ち上がる。したがってパートナーはMYH9に限らず、でUSP6再構成が陽性なのにMYH9-USP6融合がで出ない症例では、で別のパートナー遺伝子が次々と同定されている2。「USP6再構成の有無」で捉え、「MYH9-USP6融合の有無」で捉えないほうが実務に合う。

⚠️ 「反応性病変」という古い位置づけは2011年に覆った。 長らく外傷を契機とする反応性・非腫瘍性の増殖と考えられ病因不明とされてきたが、2011年にMYH9-USP6融合という反復性の体細胞性遺伝子融合が示され、USP6細胞のがヒト病変に類似した像を再現したことで、でありながらクローン性の腫瘍=「」という位置づけに変わった1。実習・試験では旧来の「反応性(偽肉腫性)病変」という説明が問われることがあるが、現在は自然消退する腫瘍性病変と理解する。

組織像

所見 解釈
線維芽細胞・(の) 「」と形容される、活動性の高い増殖細胞集団
疎な粘液様・性基質 細胞密度の高さと相まって急速増殖を思わせる背景
した赤血球 脆弱なからの出血
細胞密度の増加と は多いが異型のないであることが重要
脂肪組織・骨格筋組織 病変がや筋膜に接して発生することを反映する周囲構造

⚠️ が目立つこと自体は悪性の根拠にならない。急速増大・・高いという3点こそが、この病変が繰り返し肉腫とされてきた理由である1。のは数が多くても異型を伴わず、細胞異型・病的・壊死を欠くことが肉腫との鑑別点になる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='USP6 gene rearrangement'>USP6遺伝子再構成</span>(多くはMYH9-USP6)"] --> B["線維芽細胞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibroblast'>筋線維芽細胞</span>の急速な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoplastic proliferation'>腫瘍性増殖</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cultured cell'>培養細胞</span>様の疎な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Growth Patterns'>増殖パターン</span>"]
    C --> D["数週〜数か月で増殖が停止"]
    D --> E["多くは自然消退する"]

臨床像と対応

無症状〜軽度疼痛を伴う急速増大する皮下結節として気づかれることが多く、その急速な経過が臨床的に肉腫を疑わせる最大の理由になる。典型的な臨床像(若年成人、数週間での急速増大、小型病変)と組織像が揃えば、単純切除に加えて、経過観察(自然消退を待つ)も選択肢になりうる。診断に迷う場合はの検索が肉腫との鑑別に有用である。

線維芽細胞・分化を示す軟部腫瘍全般は線維芽細胞・分化軟部腫瘍、軟部腫瘍のは軟部腫瘍の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断を参照する。

まとめ

  • は急速増大する良性の線維芽細胞・増殖で、とも呼ばれる。
  • 大多数(92%)に(多くはMYH9-USP6)を認める腫瘍性クローンであり、かつての「反応性病変」という位置づけは2011年に改まった1。
  • 融合はプロモーター置換型で、MYH9以外のパートナーも多数報告されている2。
  • が多くても異型を欠く点が肉腫との鑑別の要である。
  • 自然消退しうるの経過を理解し、経過観察も肢に含める。

出典

  1. 1.Nodular fasciitis: a novel model of transient neoplasia induced by MYH9-USP6 gene fusion(Laboratory Investigation・2011)抄録で、結節性筋膜炎がそれまで病因不明の自己限定性の偽肉腫性筋線維芽細胞増殖とされ、急速増大と高い核分裂活性のためしばしば肉腫と誤診されてきたこと、USP6遺伝子座の再構成が48例中44例(92%)に認められたこと、融合パートナーがMYH9でMYH9プロモーター領域にUSP6の全コード領域が結合する融合であること、対照腫瘍・対照組織はこの融合を欠いたこと、USP6過剰発現細胞のヌードマウス異種移植がヒト結節性筋膜炎に類似した臨床・組織像を示したこと、自己限定性という性質から本症が反復性の体細胞性遺伝子融合を特徴とする初めてのヒト自己限定性疾患=「一過性腫瘍(transient neoplasia)」のモデルたりうると結論したことを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.USP6 activation in nodular fasciitis by promoter-swapping gene fusions(Modern Pathology・2017)抄録で、結節性筋膜炎のt(17;22)がUSP6のコード領域とMYH9のプロモーター領域を融合させUSP6発現を上昇させること、FISHでUSP6再構成を示しながらRT-PCRでMYH9-USP6融合が検出されない症例が一定数あり、次世代シークエンシングによりそれら7例すべてで新規の融合パートナーが同定されたこと、いずれの融合もUSP6の全コード領域にパートナー遺伝子のプロモーターが並置される構造(プロモーター置換)でUSP6発現亢進を駆動していたこと、本研究が結節性筋膜炎の腫瘍性を裏づけることを確認した閲覧 2026-08-24