医療コミュニケーション

医療コミュニケーション · 17

障害のある人とのコミュニケーション

Communicating with People with Disabilities

🧠 障害とは「その人の中の欠損」ではなく、持続的・確定的な機能の障害が環境的・な障壁と組み合わさって社会への平等な参加が妨げられている状態である。だから障害は医学の問題であるだけでなく社会と人権の問題であり、の仕事は「治す」ことだけでなくアクセシビリティ(平等なアクセス)を確保することでもある。そして実務上の核心はただ一つ——障害の種類ごとに有効な意思疎通の経路が違うので、その人に最も有効な方法を本人に確認すること。

障害の定義

とは、持続的または確定的な身体的・感覚的・知的・心理社会的な機能障害(dysfunction)であって、他の(環境的・な)障壁とあいまって、社会への平等な参加を制限または妨げるものである。この定義は3つの要素に分解できる。

# 要素 内容
1 持続的または確定的 一時的な不調は障害ではない
2 機能障害の4領域 身体的・感覚的・知的・心理社会的
3 他の障壁との相互作用 環境的・な障壁とあいまって、社会への平等な参加を制限・妨害する

⚠️ 決定的なのは要素3である。機能障害だけでは障害にならない——参加が妨げられて初めて障害になる。だから同じ機能障害でも、環境が変われば障害の程度は変わる(をなくす/通訳を置く/ウェブサイトをアクセシブルにする)。ここが「障害は社会と人権の問題でもある」という一文の中身である。

💡 の World report on disability(2011)も同じ構造をとる——障害は健康状態と、個人因子・環境因子との相互作用から生じる1。ICF はこれを//の三層で記述し、環境因子を独立の軸として立てる2。

規模の数字は更新されている。2011年の報告は「世界人口の約15%、約10億人」としていたが、 の現行の推計は 約13億人(人口の約16%、6人に1人)である3。引用するときは2011年版の数字を現行として使わない。💡 増加の主因は人口の高齢化と疾患の増加であり、「障害のある人は少数の例外」という前提が成り立たないことをこの桁が示している。

障害の4つのモデル

障害を何として見るかには、歴史的に4つの枠組みがある。自分がどのモデルで患者を見ているかが、そのまま言葉づかい・態度・診療の選択に出るので、モデルを名指しできることには実務的な意味がある。

モデル 障害を何と見るか 誰が変わるべきか 帰結
道徳モデル(moral model) 罪・恥・因果応報・神の意志 本人と家族(隠す) 最も強い。隔離・遺棄
医学モデル(medical model) 個人の身体にある病理・欠損 本人(治療・リハビリで正常に近づける) 治療対象としては前進だが、本人を「患者」の役割に固定し、社会は無責任のまま
社会モデル(social model) 障害を作るのは社会の障壁(物理的・制度的・態度的) 社会(障壁を除去する) アクセシビリティという発想の源
人権モデル(human rights model) 障害のある人は権利の主体であり、平等なアクセスは施しではなく権利 社会(法的義務として) 法制度・の根拠

⚠️ 医学モデルだけで見ていると、「歩けるようにする」ことばかりを目標にして、「歩けないままで社会に参加する」手段(・環境整備)を軽視してしまう。治療の目標設定そのものが偏る点が危険である。

は患者の側にあるのではなく、医療者の側にもある。米国の調査では、82.4%が「重度障害のある人の生活の質は障害のない人より低い」と考えており、障害のある患者に同等のケアを提供できる自信があると答えたのは40.7%にすぎなかった4。医療者の態度そのものがバリアとして働く。→ 心理社会的な議論は 医療心理学 第18章:障害と・社会学 第3章:社会階層と健康格差 を参照。

障害の種類

以下の分類が、この後の「意思疎通の経路をどう選ぶか」の骨格になる。

種類 含まれるもの
身体障害 の障害(四肢・体幹・など)
・失明
聴覚障害 難聴・ろう
盲ろう と聴覚障害の重畳
ディサースリア()・・
知的障害 との
自閉症 との質的な差異
重症重複障害 複数の重い障害が重畳した状態

障害をめぐる用語

障害にまつわるは、かつて障害のある人に対して使われてきた言い回しによく表れている。だからこそ、今日適切とされる用語を知っておくことが臨床の一部になる。原則は3つで、各国のインクルーシブ言語ガイドラインに共通する5。

# 原則 意味
1 人が先(person-first) 「障害者」ではなく「障害のある人」。障害でその人を名指ししない
2 中立に述べる 悲劇の言葉を使わない(「〜に苦しんでいる」「〜の犠牲者」「〜に縛られている」)
3 障害のない人を「正常」と呼ばない 「健常者」ではなく「障害のない人」
避ける 使う
the disabled / the blind / the deaf(総称の定冠詞) 障害のある人/のある人/ろう者
wheelchair-bound(に縛られた)
suffers from …(〜に苦しむ)/victim of … 〜がある(has …)/〜のある人
mentally handicapped / retarded 知的障害のある人
deaf and dumb(ろうあ)/dumb・mute ろう者/聴覚障害のある人
cripple / invalid / spastic 身体障害のある人/のある人
normal / healthy(対比語として) 障害のない人
fits(発作をこう呼ぶ) (seizure)

⚠️ 言い換えを機械的に適用すると失礼になる例がある。ろう者コミュニティの多くは「Deaf(大文字)」を文化的・言語的アイデンティティとして自ら用いており、これを「聴覚障害のある人」に一律に置き換えると当事者の自己規定を否定することになる。同じことが自閉症についても言える——自閉症の当事者コミュニティの多くは「人が先」ではなく「アイデンティティが先」(identity-first、英語では autistic person)を選好している。自閉症を取り除くべき欠損ではなく自分の在り方の一部と捉える立場からは、「人が先」の言い方が障害を切り離すべき付属物として扱っていると読めるためである。💡 したがって原則1は絶対規則ではない。迷ったら本人がどう呼ばれたいかを尋ねる——これが最も安全な原則であり、原則1〜3よりもに置かれる。

意思疎通の一般原則

障害のある人のあいだでの形は大きく異なりうる。したがって共通原則は「型」ではなく、その個人に最も有効な方法へ到達するための手続きとして働く。

# 原則
1 本人に話しかける。付き添い者・介助者・通訳に向かって話さない
2 手助けは申し出てから行う。黙ってを押す・腕を引くのは介入である
3 ユーザーとは目の高さを合わせる(座る/しゃがむ)
4 時間をかける。代わりに文を言い終えない、急がせない
5 その人に最も有効な方法を本人に確認する
6 ・白杖・補助犬は身体の延長として扱う(勝手に触らない)
7 知的障害があっても、まず本人に説明する(分かる形にして伝える。説明を省く理由にしない)
flowchart TD
  A["障害=持続的な機能障害<br>×<br>環境的・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='social'>社会的</span>障壁"] --> B["医学の問題だけではない<br>社会と人権の問題"]
  B --> C["アクセシビリティの確保<br>(権利であって施しではない)"]
  A --> D["障害の種類ごとに<br>有効な意思疎通の経路が違う"]
  D --> E["聴覚障害<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='written communication'>筆談</span>・読話・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sign language'>手話</span>・誘導ループ"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual disturbance'>視覚障害</span><br>言葉での描写・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='braille'>点字</span><br>音声合成・誘導帯"]
  D --> G["盲ろう<br>手のひら書き<br>ロルム式・触<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sign language'>手話</span>"]
  D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='speech disorders'>言語障害</span><br>時間・閉じた質問<br>文字盤"]
  D --> I["自閉症・知的障害<br>重症重複障害<br>AAC・PECS・ブリス言語"]
  E --> J["共通原則:本人に話しかける<br>手助けは申し出てから<br>最も有効な方法を本人に確認"]
  F --> J
  G --> J
  H --> J
  I --> J

聴覚障害

言語獲得前と言語獲得後の聴覚障害

聴覚障害がいつ生じたかによって、その人の第一言語が何であるかが変わる。ここが意思疎通の経路選択を左右する最大の分岐である。

発症時期 話し言葉を獲得する前(先天性・乳幼児期) 話し言葉を獲得した後
第一言語 (音声言語は第二言語) 音声言語
書記言語の扱い 書記言語も第二言語になる。医学用語の書面は理解が難しいことがある が有効(は保たれている)
が不明瞭になりやすい は保たれる
読話 を第一言語とするので依存しないことが多い 読話が使えることが多い
アイデンティティ ろう文化に属することが多い(障害ではなく言語的少数者と自認) 「聞こえを失った」という喪失体験として経験されやすい

⚠️ 「紙に書けば通じる」はのろう者には多く当てはまるが、言語獲得前のろう者には当てはまらないことがある。書記言語が第二言語だからである。したがってしたことは説明したことにならない——通訳が必要かを本人に確認する。聴覚障害のある患者の経験を調べた研究では、通訳が手配されず家族が通訳に使われる/で済まされる/結果として重要な情報が伝わらない、という失敗が繰り返し報告されている6。

ろう者・難聴者との意思疎通の方法

方法 要点
(通訳を介する) 言語獲得前のろう者には第一言語であり、最も確実
には有効。言語獲得前には第二言語なので限界がある
読話(lipreading) 補助であって主たる経路ではない。同口形異音が多く、取れる情報は部分的
補聴器・+誘導ループ 残存聴力を活用する7
図・模型・パンフレット 視覚的に示す(解剖・手技の説明で有効)
文字による(画面・アプリ) 補助として有効

誘導ループ

とは、音声信号を電磁誘導によって直接補聴器に送る設備である(部屋や窓口に敷設したループアンテナ)。補聴器を T コイル(テレコイル)モードにすると、マイクを経由せずに音声だけを受け取れる。

💡 なぜこれが効くのか。補聴器は音を増幅するが、周囲の雑音も一緒に増幅してしまう。誘導ループは背景雑音と反響を飛ばしてを改善する——だから待合室・受付・講堂のような騒がしい場所で決定的な差になる7。

読話を成立させる条件

読話が成立するかどうかは、聞き手の能力ではなく話し手が作る条件に大きく依存する。以下は医学教育向けのガイドが挙げる条件と一致する8。

すること しないこと
正面を向いて、相手の目の高さで話す 背を向けて話す・歩きながら話す
自分の顔に光が当たるように立つ(窓を背負わない) 逆光に立つ(顔が影になり口が見えない)
口を覆わない 手・マスク・書類で口を隠す。噛みながら話す
普通の速さ・普通の声で、はっきり話す 大声で叫ぶ・不自然に誇張して口を動かす・極端にゆっくり話す(かえって読みにくい)
短い文にし、通じなければ言い換える 同じ文をただ繰り返す
静かで明るい部屋を選ぶ 騒がしい廊下で説明する
話題が変わるときに予告する 文脈なしに話題を飛ばす
重要事項は書いて渡す(薬名・用量・受診日) 口頭のみで済ませる

💡 読話で完全に理解できる語は限られる8。だから読話は原理的に「補助」でしかなく、重要情報は必ず別経路(筆記・通訳)で二重化する。

手話通訳を介するときの規則

# 規則
1 患者を見て、患者に話しかける。通訳に向かって話さない8
2 一人称で話す。「彼に伝えてください」ではなく「〜ですね」と直接言う
3 通訳が患者の視界に入り、かつ自分の顔も見える配置にする(三角形に座る)
4 通訳が訳し終える時間を待つ(訳出には遅れがある)
5 一度に一人が話す。区切って話す
6 専門の通訳を手配する。家族(とくに子ども)を通訳に使わない——守秘の破綻と情報の取捨選択が起こる6
7 通訳にもがあることを患者に伝えて安心させる
8 診察時間を長めに確保する

手話とろう文化

は、手型・位置・動き・掌の向き・表情とが意味を担う体系的な自然言語である。表情は感情の表出ではなく文法要素として働く(疑問・条件・否定)。この性質を誤解したままに接すると、通訳の必要性そのものを見誤る。

よくある誤解 正しい理解
「ろう者は全員を使う」 ろう者のかなりの割合はの使い方を学んでいない。とくにのろう者は音声言語のまま生活する
「は世界共通」 各国に独自のがあり、方言さえある
「は音声言語を手で表したもの」 は独自の文法・語順・をもつ。その国の音声言語の逐語的な写しではない
「は身振りの集まり」 手型・位置・動き・掌の向き・表情が意味を担う体系である

ろう文化(deaf culture)とは、を第一言語とする人々が形成する言語的・文化的共同体である。障害ではなく言語的少数者として自らを位置づける立場をとることが多い。

⚠️ そのため「治す」(など)という提案が、当事者には文化の消滅として受け取られることがある。このを知らずに医学モデルだけで話すと信頼を失う。

💡 はの一部だがそのものではない。固有名詞や薬剤名を伝えるときに使われる補助的な体系である。

視覚障害

# 実践
1 入室時に名乗る。退室時にも声をかけて去る。で入ってで出ると、部屋に誰がいるのか分からない
2 手技の前に、これから何をどこに触るかを言葉で予告する(突然触れない)
3 視覚に依存した指示を避ける。「これをここに」ではなく「机の右手前にある白い紙に」
4 空間と配置を言葉で描写する(部屋の構造・椅子の位置・)
5 誘導は腕を貸す形で——本人が自分の肘や肩に手を置く。押したり引いたりしない
6 白杖・補助犬に勝手に触らない・気を散らさない
7 普通の声量で話す(は聴覚障害ではない)
8 書面情報を代替形式で提供する——・大きな活字・音声・電子ファイル

環境と技術による支援

手段 内容
(Braille) 触読の文字体系。のある人全員がを読めるわけではない(後天性では習得しないことが多い)
誘導帯(guide strip) 床面の凹凸のある帯で経路を示す(点状ブロック=、線状=誘導)。その上に物を置かない・駐輪しない
音声合成装置(speech synthesizer) 文字情報を音声に変換する。スクリーンの出力部
アクセシブルなウェブサイト スクリーンで読める構造——画像に代替テキスト、見出し構造、キーボード操作可能、十分な。国際標準は WCAG9

⚠️ 「のある人向けに別サイトを用意する」という発想は誤りである。分離した専用サイトは更新が遅れ内容が劣化するので、維持すべきなのは誰もが使える一つのウェブサイトである9。💡 これが「分離ではなく普遍的設計(ユニバーサルデザイン)」という考え方であり、社会モデル・人権モデルの実装にあたる。

盲ろう

盲ろう(deafblindness)は「聴覚障害+」の単純な足し算ではない。視覚と聴覚のどちらも代償に使えないため、触覚が主たる経路になるという点で質的に別の状況である。意思疎通の方法は一つではなく、複数の体系が実際に使われている。

方法 内容
手のひらに文字を書く 指で大文字を一字ずつ手のひらに書く。特別な習得が不要で、初対面でも使える
ロルム式盲ろう者手指ベット(Lorm Deafblind Manual Alphabet) 手のひらと指の特定の位置を触る・なでる・押すことで各文字を表す体系(Hieronymus Lorm が考案)。習得すれば手のひら書きより速い
触(tactile sign language) 相手の手の上に自分の手を置いてを触読する(を知る盲ろう者に有効)
ディスプレイ・文書(残存能力に応じて)
残存感覚の活用 残存視力があれば大きな文字・強い、残存聴力があれば補聴器+静かな環境
通訳・介助者(通訳介助員) 通訳と移動介助と状況説明を担う
# 実践上の注意
1 触れる前に予告する——合図(例:肩や手の甲に軽く触れる)を決めておく。予告なしに触ると驚かせる
2 本人がどの方法を使うかを最初に確認する(方法は人によって全く違う)
3 時間を十分にとる(伝達速度が遅い)
4 周囲で起きていることを説明する(誰が入室したか、何が始まるか)

身体障害

# 実践
1 ユーザーとは目の高さを合わせて話す
2 は身体の一部として扱う。同意なく押さない・もたれない
3 物理的アクセシビリティを事前に確保する——・診察台の高さ・トイレ・体重計
4 を手伝う前に、どう手伝ってほしいかを尋ねる(本人が最も安全な方法を知っている)
5 診察時間を長めにとる(着脱衣・に時間がかかる)
6 身体障害を知的障害と混同しない(言語が不明瞭でも理解力は保たれていることが多い)

⚠️ 「診察台に上がれないから診察しない」は医療の不平等そのものである。設備上のが、そのまま検診や診察の未実施に転化しやすいことが調査でも指摘されている4。

言語障害

種類 何が障害されているか 意思疎通の要点
ディサースリア(dysarthria、) 発音の運動が障害される。言語の理解と語の選択は保たれている 急がせない・言い終えるのを待つ。聞き取れたところまでを言い直して確認する。分かったふりをしない。通じなければ筆記・文字盤に切り替える
(aphasia) 言語そのものの障害(産生・理解・呼称・のいずれか) 短く単純な文、一度に一つの話題。「はい/いいえ」で答えられる閉じた質問。図・絵・・ジェスチャーを併用。理解が保たれている場合は子ども扱いしない
(muteness / mutism) がない(、または選択性など心理的要因) 筆記・文字盤・機器を用意する。返答を待つ時間を与える。代弁者に話を移してしまわない

⚠️ 「話せない」は「分からない」ではない。の不明瞭さから知的能力を推測してはならない——ディサースリアももも、知的能力の指標ではないからである。

自閉症

特徴 意思疎通の要点
との質的な差異 明確・具体的・字義通りに話す。皮肉・比喩・遠回しな言い方を避ける
感覚の過敏/ 強い照明・・接触が苦痛になりうる。静かな部屋・待ち時間の短縮・触る前の予告
予測できないことへの強い不安 手順をあらかじめ順に説明し、その通りに進める(視覚的スケジュールが有効)
(echolalia) 相手の言葉や自分の言葉を反復する。「オウム返し」を理解の証と誤解せず、質問の言い方を変えて確認する
アイコンタクトの回避 目を合わせないことを・不誠実と解釈しない。強要しない

自閉症を欠損ではなく認知の多様性()として捉える立場がある。自閉症の当事者である動物学教授 Temple Grandin は、自閉症を別種の思考様式(視覚的思考)として提示し、「世界にはあらゆる種類の心が必要だ」と論じている。

⚠️ ——自閉症や知的障害などを背景に、記憶・計算・暦算・音楽・描画など特定領域で並外れた能力を示す状態——は稀であり、自閉症の典型像として一般化してはならない。メディアの描写が期待の偏りを作り、実際の患者像との乖離を生む。

知的障害

# 要点
1 説明を省くのではなく、分かる形に変える(平易な語・短文・一度に一つ)
2 本人に向かって話す。付き添い者だけに説明して済ませない
3 確認は「分かりましたか?」ではなく「何をすることになりましたか?」(言い返してもらう=ティーチバック)
4 図・絵・実物・実演を使う
5 同意能力は一律ではない——支援された意思決定(supported decision-making)を試み、代諾に飛ばない

💡 平易な言葉と確認の技法そのものは 第4章:ヘルスリテラシーを高める と共通する。

重症重複障害と拡大・代替コミュニケーション

とは、複数の重い障害(身体・感覚・知的)が重畳し、通常の言語的経路がほぼ使えない状態である。ここで(AAC)が不可欠になる。拡大(augmentative)は残っているを補うもの、代替(alternative)はに代わるものを指す。

技法 内容
文字盤(letter board) 文字・数字・よく使う語を並べた板を指す/視線で示す。時間がかかるので急がせない
絵カード交換式システム(PECS) 絵カードを相手に渡すことで要求や意思を伝える。自閉症児の指導で広く用いられ、「相手に渡す」という自発的な働きかけの形をとるのが特徴
ブリス言語(Bliss-language / Blissymbolics) 意味を表す図形記号(表意記号)の体系。文字を習得していなくても記号の組み合わせで文を作れる
音声発生器(sound generator)/音声出力装置 押した記号・入力した文を音声で出力する機器(音声合成装置と組み合わせる)
ジェスチャー・・・スイッチ入力 残存するに合わせて入力手段を選ぶ(頬・眼球・呼気のわずかな動きでも入力できる)

💡 ブリス言語の創案者 Charles K. Bliss は、これを国際的な普遍表意言語——言語の違いによる誤解とを防ぐ共通の記号体系——として構想した。障害児の手段としての利用は後からの応用である。

💡 Stephen Hawking は AAC の代表例である。重複障害があり、頬の筋肉のわずかな動きでスイッチを操作し、予測入力ソフトと音声合成装置を通じて話していた——残存する最小の運動を入力に変え、音声合成装置で出力するという AAC の構造そのものである。

まとめ

  • 障害の定義は3要素——持続的・確定的な/身体的・感覚的・知的・心理社会的な機能障害が/環境的・障壁とあいまって社会への平等な参加を妨げること。機能障害だけでは障害にならない。
  • 障害は医学の問題であるだけでなく社会と人権の問題である。だからアクセシビリティ(平等なアクセス)の確保が中心課題になる。
  • 4つのモデル:道徳(罪・恥)→ 医学(個人の病理を治す)→ 社会(障壁を除去する)→ 人権(平等は権利)。医学モデルだけで見ると「治す」に偏り、環境整備を軽視する。
  • 障害の種類:身体障害//聴覚障害/盲ろう/(ディサースリア・・)/知的障害/自閉症/重症重複障害。
  • 現行の規模の推計は約13億人(人口の約16%、6人に1人)。2011年報告の「約15%・10億人」を現行として引かない。
  • 用語は人が先(「障害のある人」)。suffers from・wheelchair-bound・the disabled を避け、障害のない人を「正常」と呼ばない。ただし絶対規則ではない——ろう者の「Deaf」、自閉症当事者の identity-first(autistic person)のように、当事者が自己規定として別の語を選ぶ場合がある。迷ったら本人に尋ねるのが最の原則。
  • 言語獲得前のろうはが第一言語で書記言語も第二言語(は万能でない)、は音声言語が第一言語で・読話が有効。
  • 誘導ループは電磁誘導で音声を直接補聴器(T コイル)に送り、背景雑音を排除する設備である。
  • 読話を助ける条件:正面から/顔に光を当てて/口を覆わず/普通の速さと声で/短く言い換える。叫ばない・誇張しない。読話は補助にすぎず、重要情報は必ず書面でも渡す。
  • 通訳を介するときは、患者を見て患者に一人称で話す。通訳に向かって話さない、家族(特に子ども)を通訳に使わない。
  • では入退室で名乗る/触る前に予告する/視覚依存の指示を避ける/腕を貸す形で誘導する/書面を・大活字・音声・電子で提供する。声を大きくする必要はない。
  • 環境・技術:/誘導帯/音声合成装置/アクセシブルなウェブサイト(WCAG)。別サイトではなく誰もが使える一つのサイトを維持する。
  • 盲ろうでは手のひらに文字を書く/ロルム式手指ベット/触/通訳介助員。触れる前の合図を決めておく。
  • 「話せない」は「分からない」ではない。ディサースリア・・は知的能力の指標ではない。
  • AAC は文字盤/PECS(絵カードを渡す)/ブリス言語(表意記号、当初は国際普遍言語の構想)/音声発生器。Stephen Hawking がその実例。
  • はろう者全員が使うものではなく、世界共通でもない(国ごとに存在し方言もある)。独自の文法をもつ自然言語で、表情が文法要素として働く。ろう文化は自らを言語的少数者と位置づける。
  • 最後に一つだけ残すなら——その人に最も有効な方法を、本人に確認する。

出典

  1. 1.World report on disability 2011(World Health Organization / World Bank・2011)障害は健康状態と環境的・社会的障壁の相互作用から生じるという定義、医学モデルと社会モデルの対比、アクセシビリティが権利の問題であること閲覧 2026-08-17
  2. 2.International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF)(World Health Organization・2001)機能・活動・参加と環境因子を分けて記述する生物心理社会的枠組み。「障害=機能障害+活動制限+参加制約」の三層構造閲覧 2026-08-17
  3. 3.Global report on health equity for persons with disabilities(World Health Organization・2022)世界で約13億人(人口の約16%、6人に1人)が重大な障害をもつという現行の推計。障害のある人が受ける健康格差と、その多くが保健システム側の障壁に由来すること閲覧 2026-08-17
  4. 4.Physicians' Perceptions of People with Disability and Their Health Care(Health Affairs(著者 Lisa I. Iezzoni, Sowmya R. Rao, Julie Ressalam ら)・2021)医師の82.4%が重度障害のある人の生活の質は障害のない人より低いと考えており、40.7%しか障害のある患者に同等のケアを提供できる自信がないと答えたこと(医療者側の態度がバリアになる実証)閲覧 2026-08-17
  5. 5.Inclusive language: words to use and avoid when writing about disability(UK Department for Work & Pensions, Office for Disability Issues・2018)避けるべき語と推奨される語の対応表(the disabled → disabled people、wheelchair-bound → wheelchair user、suffers from → has など)閲覧 2026-08-17
  6. 6.Communicating about Health Care: Observations from Persons Who Are Deaf or Hard of Hearing(Annals of Internal Medicine(著者 Lisa I. Iezzoni, Bonnie L. O'Day, Mary Killeen, Heather Harker)・2004)聴覚障害のある患者が医療現場で経験する意思疎通の失敗——家族が通訳に使われる、筆談で済まされる、手話通訳が手配されないことによる情報の欠落閲覧 2026-08-17
  7. 7.Deafness and hearing loss(World Health Organization・2025)難聴の程度分類と世界的な有病、補聴器・人工内耳・手話などの対応手段閲覧 2026-08-17
  8. 8.Communication with deaf and hard-of-hearing people: a guide for medical education(Academic Medicine(著者 Steven Barnett)・2002)読話が成立する条件(顔を光の側に向ける、口を覆わない、正面から普通の速さで話す)と、読話で伝わる語は限られること。手話通訳を介するときは患者を見て話すこと閲覧 2026-08-17
  9. 9.Web Content Accessibility Guidelines (WCAG)(World Wide Web Consortium (W3C), Web Accessibility Initiative・2023)アクセシブルなウェブサイトの国際標準(知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢)。分離した専用サイトではなく誰もが使える一つのサイトを維持するという原則の根拠閲覧 2026-08-17