微生物学

微生物学 · 1/14

抗菌薬の併用

Antibiotics in combinations

🧠 抗菌薬を2剤以上併用するときに問うべきは「1+1が2より大きいか、小さいか、ただの1のままか」の1点。 併用の目的(を狙う・スペクトラムを広げる・耐性化を防ぐ)と、実際に生じる相互作用の結果(・拮抗・)は別の話——目的通りにが出るとは限らず、むしろ拮抗して片方の薬の効果を打ち消してしまうこともある。

抗菌薬を併用する目的

複数の抗微生物薬を同時に投与する際は、薬剤どうしの相互作用に特に注意が必要である。また、体内に存在する他の物質(食物やアルコールなど)との相互作用が起こることもある。

抗菌薬を併用することで、目的とする効果をより確実に達成しやすくなる。時に(複数菌種による感染)が存在し、それぞれ抗菌薬感受性パターンが異なることもある。併用によって狙う効果は主に3つ。

  • を得る——以下のような場合:
    • 原因菌のにより多くの抗菌薬を要する
    • 患者が重症の(全身性)感染症を有する
    • 患者がにある
  • を拡大する——以下のような場合:
    • 病原体がまだ同定されていない(では、考えられる原因菌をできるだけ広くカバーする必要がある)
    • 患者が混合(多菌種)感染を有する
  • 耐性機構の誘導を防ぐ——特に長期治療において重要

⚠️ 「併用すれば耐性が出にくい」は、場面を選ぶ根拠である。 耐性抑制がはっきり成り立つのは、結核やのように治療が長期にわたり、単剤では体が確実に選択されてしまう場面である。一方、通常の細菌感染では話が違う——敗血症を対象に69試験7863例を統合したでは、同じβ-ラクタムどうしを比べた試験でアミノグリコシドを足しても総死亡(RR 0.97、95%CI 0.73〜1.30)も(RR 1.11、95%CI 0.95〜1.29)も改善せず、耐性出現率にも差がなかった。逆に腎毒性は併用で有意に多かった(単剤のRR 0.30、95%CI 0.23〜0.39)1。「β-ラクタム+アミノグリコシド」はの古典例として重要だが、それが臨床転帰の改善につながるという証拠は限定的で、目的(でのスペクトラム拡大なのか、なのか)を意識せずに足さない。

併用効果の3分類

2剤(薬剤AとB)を併用したときの結果は、以下の3パターンに分類される。

分類 定義 イメージ
AとBが互いに目立った影響(増強も減弱も)を及ぼさない。併用の効果は、最も効果の強い単剤と同程度にとどまる。 A+B ≒ 最強の単剤
拮抗 AとBの相互作用により、一方または両方の効果が減弱する。併用の効果は、最も弱い単剤の効果よりもさらに劣る。 A+B < 最弱の単剤
AとBの相互作用により、一方または両方の効果が増強する。併用の効果は、両薬剤の効果の単純な合計よりもさらに大きくなる。互いの効果を高め合う。 A+B > Aの効果+Bの効果
flowchart TD
    A["抗菌薬A+抗菌薬Bを併用"] --> B{"相互作用の方向は?"}
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unrelated'>無関係</span><br>効果は最強の単剤どまり"]
    B --> D["拮抗<br>効果は最弱の単剤より低下"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synergy'>相乗</span><br>単剤の合計を超える効果"]

⚠️ 併用は必ずしも「足し算」ではない。 とを組み合わせると、が細菌の増殖を止めてしまい、の細菌を狙うの効果がかえって弱まる拮抗的な組み合わせになりうる——併用を決める前に、それぞれの薬剤の作用機序(・など)を踏まえて組み合わせの相性を考える必要がある。古典的な拮抗例がペニシリン+テトラサイクリンで、大腸菌を用いた系統的な検討でもテトラサイクリンやアミノグリコシドとβ-ラクタムの組み合わせで拮抗が頻繁にみられた。ただしこの「静菌+殺菌は禁忌」というドグマは絶対ではない——拮抗の程度は薬剤の組み合わせごとに大きく異なり、リネゾリド+リファンピシンのように・で実際に臨床で使われている組み合わせもある2。

💡 か拮抗かは、チェッカーボード法で数値化する。 2剤を縦横にしたマイクロプレート上で発育阻止の境界を読み、各薬剤について「併用時の ÷ 単剤時の」を求めて足したものがFIC指数(fractional inhibitory concentration index)である3。慣用的にはFICI ≤ 0.5 で、0.5〜1.0 で相加、1.0〜4.0 で、≥ 4 で拮抗と判定する4。ただしこのは完全には標準化されておらず、E-testなど別法とは検出率がずれるため、in vitroの「」がそのまま臨床の有効性を意味するわけではない。

まとめ

  • 抗菌薬併用の目的は、を狙う・を広げる・耐性誘導を防ぐ、の3つ。ただし耐性抑制が明確に成り立つのは結核・のような長期治療で、通常の敗血症では併用の効果は示されていない。
  • ・拮抗の判定はチェッカーボード法とFIC指数(≤0.5で、≥4で拮抗)で行うが、in vitroの結果は臨床効果とは別物である。
  • 併用の実際の結果は、・拮抗・の3パターンに分類される。
  • はA+Bが単剤の合計効果を上回る場合、拮抗はA+Bが最弱の単剤より劣る場合、はA+Bが最強の単剤どまりの場合をいう。
  • 薬剤どうしだけでなく、食物やアルコールなど体内の他物質との相互作用にも注意が必要。
  • 作用機序の異なる薬剤同士でも、組み合わせ次第では拮抗が生じうるため、機序を踏まえた選択が重要。

出典

  1. 1.Beta lactam antibiotic monotherapy versus beta lactam-aminoglycoside antibiotic combination therapy for sepsis(Cochrane Database of Systematic Reviews・2014)敗血症を対象に69試験7863例を統合した結果、同一のβ-ラクタムどうしを比べた試験では総死亡(RR 0.97、95%CI 0.73〜1.30)にも治療失敗(RR 1.11、95%CI 0.95〜1.29)にも併用の利益はなく、耐性出現率にも差がなく、腎毒性は単剤のほうが有意に少なかった(RR 0.30、95%CI 0.23〜0.39)こと閲覧 2026-08-26
  2. 2.Bactericidal versus bacteriostatic antibacterials: clinical significance, differences and synergistic potential in clinical practice(Journal of Antimicrobial Chemotherapy・2025)静菌薬が増殖を止めることで増殖期を狙う殺菌薬の効果を減じるという拮抗の仮説はin vitroで支持される一方、拮抗の程度は薬剤の組み合わせによって大きく異なり、リネゾリド+リファンピシンのように相加的・相乗的で臨床でも用いられている組み合わせがあること、大腸菌では特にテトラサイクリンやアミノグリコシドとβ-ラクタムの併用で拮抗が頻繁にみられたこと閲覧 2026-08-26
  3. 3.Synergy, antagonism, and what the chequerboard puts between them(Journal of Antimicrobial Chemotherapy・2003)チェッカーボード法から算出する分割阻止濃度(FIC)指数によって2剤併用の効果を相乗・無関係・拮抗に分類するという枠組み閲覧 2026-08-26
  4. 4.Determination of in vitro activities of polymyxin B and rifampin in combination with ampicillin/sulbactam or cefoperazone/sulbactam against multidrug-resistant Acinetobacter baumannii by the E-test and checkerboard methods(Japanese Journal of Infectious Diseases・2013)FIC指数の慣用的な判定基準(相乗 FICI ≤ 0.5、相加 0.5 < FICI ≤ 1.0、無関係 1.0 < FICI < 4.0、拮抗 FICI ≥ 4)と、チェッカーボード法とE-testで相乗の検出率が有意に異なったこと閲覧 2026-08-26