医療統計学・医療情報学・遠隔医療

医療統計学・医療情報学・遠隔医療 · 01

変数の型と測定尺度

Variables and Measurement Scales

応用トピック
調査法・データ表の作り方・統計家との協働

🧠 統計が扱うのは「ばらつき」である。だから最初にやる仕事は、値を集めることではなく「このの値どうしで、どの演算に意味があるか」を決めることだ。測定尺度とは、許される演算の階層にほかならない。血液型に平均が無く、体重に平均があるのは、この階層の違いだけで決まる。

なぜ統計を学ぶのか

医学が相手にするのは、似ているのに一つずつ違う個体である。患者も現象も、多くの性質でわずかずつ異なる——そして臨床上の関心は、たいていその差そのものにある。この「似ていること」と「違っていること」を同時に、定量的に掴むためのが統計である。

理由は3つに整理できる。

# 理由 具体的には
1 読んだものを信じてよいか判断できるようになる 論文・添付文書・報道の数字のどこに誤りや細工があるかに気づく
2 自分の研究を設計・評価・解釈できるようになる 学位論文、症例集積、臨床研究
3 統計家に相談しやすくなる 何を訊けばよいかが分かる。相談は解析の後ではなく設計の段階でする

💡 3が実務上いちばん大きい。データを取り終えてから統計家に持ち込んでも、設計の欠陥は事後の解析では埋められない。統計を学ぶ目的は「自分で全部解析すること」ではなく、どこで人に訊くべきかが分かる状態になることである。

記述統計と推測統計

統計の作業は4段階に分かれる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='data collection'>データ収集</span><br>(標本抽出)"] --> B["データの整理<br>(度数分布・要約・図)"]
  B --> C["解析"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conclusion'>結論</span>"]
  A -.- E["記述統計"]
  B -.- E
  C -.- F["推測統計<br>(帰納統計)"]
  D -.- F

前半2つが記述統計、後半2つが推測統計である。両者に鋭い境界があるわけではないが、順序は動かせない。記述統計を飛ばして推測統計に進むのは、常に誤りにつながる。データを整理する過程そのものが、入力ミス・単位の取り違え・欠測の偏りといった誤りを見つける唯一の機会だからである。

💡 整理は「見栄えを整える作業」ではない。正しく整理すると、こちらが探していなかったパターン・関連・異常が向こうから見えてくる。次の解析の着想もそこから出る。

変数とアウトカム

とは、測定または観察できるものすべてを指す。コイン投げ、眼の色、体温、血圧、サイコロの目——どれもである。

ある状況でを測定・観察すると、取りうる値() が定まる。

取りうる値の例
コイン投げ 表・裏
眼の色 茶・青・緑…
血圧 「低い・中等度・高い」とも、75 mmHg・125 mmHg とも表せる

⚠️ 最後の行が重要である。同じ現象でも、その場でどう記録したかでの型が変わる。 血圧を数値で記録すればだが、「正常/高血圧」と記録した時点で名義尺度になり、後から数値に戻すことはできない。したがっての型は「その現象が本来もつ性質」ではなく、測定のしかたが決める。データを取る前にここを決めておく必要がある。

測定尺度の階層

Stevens の分類1では、はまず質的(カテゴリカル) と量的(数値的) に分かれ、さらに4段階の階層をなす。階層を決めているのは「その尺度で意味をもつ演算」である。

尺度 意味をもつ演算 何が加わるか 例
名義尺度 = ≠=\ \neq — 氏名、血液型、眼の色、国籍、性別
= ≠ < >=\ \neq\ <\ > 自然な順序 成績、疾患・外傷の重症度、痛みの強さ、教育レベル、Mohs硬度
間隔尺度 = ≠ < > + −=\ \neq\ <\ >\ +\ - 既知の距離(差に意味がある) 摂氏・華氏温度、暦年、海抜、暦日
= ≠ < > + − × ÷=\ \neq\ <\ >\ +\ -\ \times\ \div 絶対零点(比に意味がある) 絶対温度(K)、身長、体重、血圧、時間の長さ

上の2つが質的、下の2つが量的である。

名義尺度

カテゴリを定義するだけで作られる尺度で、観察でできるのは「2つが同じか違うか」の判定のみである。カテゴリ間に自然な順序はない。

⚠️ 実務上の順序(ベット順、割り当てた通し番号)は付けられるが、その順序には意味がない。この意味で「尺度」という呼び名自体が誤解を招き、本来は「名義体系」と呼ぶべきものである。名義カテゴリの区切りは、コイン投げのように自明なこともあれば、眼の色のように恣意的なこともある。

順序尺度

カテゴリに自然な順序があるので、「同じ/違う」に加えて「より小さい/より大きい」が言える。しかしカテゴリ間の距離は不均等か、そもそも測れない。順序数(1, 2, 3…)で表記されることが多いため、つい四則演算をしてしまうが、それは許されない。

間隔尺度

値の間の距離が既知なので、順序に加えて差と和に意味が出る。零点は人為的に決められている(摂氏0℃、西暦元年)。

⚠️ 零点が恣意的である以上、比には意味がない。「20℃は10℃の2倍暑い」は誤りである(同じ2つを華氏に直せば68°Fと50°Fで、比は1.36になってしまう)。

比尺度

自然な零点(「無い」という状態)をもつので、掛け算・割り算に意味が出る。「体重80 kgは40 kgの2倍」は正しい。温度がで摂氏が間隔尺度なのは、という物理的な零点があるかどうかの違いである。

💡 臨床上、間隔尺度とを区別する必要はほとんどない。教材でも両者はまとめて「数値」として扱われる。実務で効いてくる分かれ目は「カテゴリカルか数値か」と「順序があるか」の2箇所だけだと覚えてよい。

離散と連続

尺度の水準とは独立に、取りうる値の個数による区別がある。

内容 典型
離散 取りうる値が少数・とびとび カテゴリカル、子どもの、1日の喫煙本数
連続 取りうる値が非常に多い 身長、血圧、血清コレステロール

⚠️ 厳密な連続は測定の世界には存在しない。身長を0.1 cm刻みで記録すればそれは離散値である。だから教材でも「離散/準連続」と書かれる。実務上は「値の種類が十分多ければ連続として扱う」 という運用でよい。

特別扱いされる2つ

種類 位置づけ 注意
名義尺度の特例。カテゴリが2つだけ 生死、陽性/陰性、曝露あり/なし。カテゴリが2つなら「0/1」にして数値的に扱ってよく、その平均は割合を意味する。多カテゴリの名義には成立しない特権である
間隔尺度の特例 日付どうしの差(=日数)はになる。年齢・追跡期間はこの操作で作る

尺度の分類を機械的に当てはめない

「名義尺度だからχ²検定、数値だからt検定」という対応表は便利だが、分類が手法を一意に決めるわけではない2。以下の点で階層は破れる。

破れ方 具体例
同じが問いによって別の尺度になる 郵便番号は普通は名義だが、「地域コードの数値の並びが地理的順序を反映する」場面では順序として使える
数値でコードされたカテゴリカル 性別を1(男)・2(女)と入力した列は、ソフトから見れば数値列である。平均を計算すると1.5前後の無意味な数字が出るが、エラーにはならない。実習のデータ表でも、SEX と EDUC は数値のまま読み込まれるのでカテゴリ型に変換する必要がある
の平均 次項

順序尺度を平均してよいか

Likert 尺度(「1: 全くない〜5: 非常に強い」)や教育レベルの平均が論文に載ることは多い。これはカテゴリ間の距離が等しいという仮定を暗黙に置いており、の定義からは出てこない。

⚠️ 「は平均してはいけない」と一律に説明されることがあるが、正確には「等間隔性を仮定すれば平均できる。その仮定を書かずに平均すると、仮定が読者に見えなくなる」 ということである。実務上の作法は次の通り。

  • カテゴリが少ない(3〜5段階)/段階の間隔が明らかに不均等 → 中央値と度数分布で報告する
  • 段階が多く(7段階以上)、複数項目の合計点である → 数値として扱うことが慣行になっている。ただしその旨を明記する
  • どちらの場合も、が「平均するかしないか」で変わるなら、そのは弱い

データ表の構造

解析の質は、データ表の作り方でほとんど決まる。実習で使うのは Framingham Heart Study3 の抜粋データ表である。

flowchart TD
  A["1行 = 1観察単位<br>(1人、または1人の1時点)"] --> B["1列 = 1<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variables'>変数</span>"]
  B --> C["先頭行 = <span class='jp-term jp-term-diagram' title='variables'>変数</span>名"]
  C --> D["セルには値そのもの<br>(単位・注釈を混ぜない)"]
  D --> E["欠測は決まった記号で統一<br>(例: NA)"]

読み込む前に必ず確認する項目がある。

確認すること なぜ
先頭行は名か データ行として読まれると全列が文字列になる
欠測はどう表記されているか NA・空欄・-・999 が混在していると、999 が数値として平均に入る
セルの区切り文字は何か カンマかセミコロンかタブか
小数点は . か , か ヨーロッパ圏のファイルでは , が小数点のことがある。取り違えると桁が変わる
各列の型は何か 数値でコードされたカテゴリカルを見つける

変数名の付け方

規則 理由
空白と特殊文字を使わない(_ のみ許容) 解析ソフトが列名を分解してしまう
1つのデータ表の中で言語を混ぜない 文字コードの問題と、並べ替えの不整合
アクセント付き文字(é、ő など)を避ける 文字化けの原因になる
元のを書き換えず、新しい列を作る 変換を間違えたときに元に戻せる。実習で SEX を SEX_F として作り直すのはこのため

💡 「1行1観察単位」を守ると、行番号がそのまま観察単位の識別子になる。外れ値の図で示される番号は値ではなく行番号であり、その行を引けば元の患者に戻れる。行を並べ替えたり途中に集計行を挟んだりすると、この対応が壊れる。

実際の計算

読み込んだ直後にやるのは、型の確認とカテゴリ型への変換である。

import pandas as pd

df = pd.read_csv("frmgham2.csv", na_values=["NA"])
df["SEX"] = df["SEX"].map({1: "male", 2: "female"}).astype("category")   # 名義
df["EDUC"] = pd.Categorical(df["EDUC"], categories=[1, 2, 3, 4], ordered=True)  # 順序
print(df.dtypes)

💡 読み込み直後の出力を読む順序

  1. 行数と列数 — 期待した・項目数と合っているか。1行少ないなら見出し行の扱いを疑う
  2. 各列の型 — 数値のはずの列が文字列になっていたら、欠測記号か小数点の取り違え
  3. 欠測の数 — 列ごとに数える。特定の列だけ極端に多いなら、そのは解析に使えないかもしれない
  4. 最小値と最大値 — 年齢が0や999、が0のようなあり得ない値を先に潰す。これは統計ではなく常識で判断する

⚠️ 欠測を「とりあえず0で埋める」ことは絶対にしない。0は「測っていない」ではなく「測ったら0だった」を意味してしまう。欠測は欠測として残し、なぜ欠けたのかを考える(→ 調査票の設計とデータ表の作り方)。

尺度が決めるもの

の型は、この先のすべての章の入口である。

尺度 使える代表値 使える図 2群比較の代表的手法
名義 最頻値 棒グラフ、モザイク図 χ²検定、
順序 最頻値、中央値、分位数 棒グラフ、 順位に基づく検定
間隔・比 上記すべて+平均 ヒストグラム、箱ひげ図、散布図 t検定、回帰

詳細は 記述統計・データの可視化 で扱う。

まとめ

  • 統計が対象とするのはばらつきであり、記述統計(収集・整理)を経ずに推測統計に進んではならない
  • の型は現象ではなく測定のしかたが決める。数値で記録したものはカテゴリに落とせるが、逆はできない
  • 測定尺度の階層は許される演算で定義される:名義(=)→ 順序(<)→ 間隔(+)→ 比(×)
  • 間隔尺度に比の意味はない(「20℃は10℃の2倍」は誤り)。零点が恣意的だからである
  • 分類は手法を一意に決めない。数値でコードされた名義は放置すると平均が計算されてしまう
  • の平均は「等間隔の仮定」を置いた操作である。禁止ではないが、仮定を明示する
  • 二値は名義尺度の特例で、0/1 にした平均が割合になる
  • データ表は「1行1観察単位・1列1・先頭行に名・欠測は統一表記」。読み込み直後に行数/型/欠測/値域の順に確認する

出典

  1. 1.On the Theory of Scales of Measurement(Science(著者 Stanley Smith Stevens)・1946)名義・順序・間隔・比の4尺度という測定尺度の分類の原典閲覧 2026-08-17
  2. 2.Nominal, Ordinal, Interval, and Ratio Typologies are Misleading(The American Statistician(著者 Paul F. Velleman, Leland Wilkinson)・1993)測定尺度の分類だけから使える統計手法を機械的に決めることはできず、同じ変数でも問いによって扱う尺度が変わること閲覧 2026-08-17
  3. 3.The Framingham Heart Study and the epidemiology of cardiovascular disease: a historical perspective(The Lancet(著者 Syed S. Mahmood, Daniel Levy, Ramachandran S. Vasan, Thomas J. Wang)・2014)実習で扱うデータ表の出所である Framingham Heart Study の設計と、そこから得られた心血管疾患の危険因子の概念閲覧 2026-08-17