医療統計学・医療情報学・遠隔医療

医療統計学・医療情報学・遠隔医療 · 03

データの可視化

Data Visualization

🧠 図は数字の飾りではない。要約統計量は分布の形を隠すので、「する前に形を見る」ための唯一の手段が図である。だから作図は解析の最後ではなく、解析の最初にある。図を描かずに得た p値は、どんなに小さくても信用してはいけない。

図の選び方

必要な図は、の個数と尺度でほぼ決まる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variables'>変数</span>はいくつか"] --> B["1<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variables'>変数</span>"]
  A --> C["2<span class='jp-term jp-term-diagram' title='variables'>変数</span>"]
  B --> D["カテゴリカル<br>→ 棒グラフ<br>(度数 or 相対度数)"]
  B --> E["数値<br>→ ヒストグラム<br>→ 箱ひげ図"]
  C --> F["カテゴリカル × カテゴリカル<br>→ 分割表<br>→ 積み上げ棒・モザイク図"]
  C --> G["カテゴリカル × 数値<br>→ 群別の箱ひげ図"]
  C --> H["数値 × 数値<br>→ 散布図"]

💡 分析には な記述と な記述の2通りがあり、前者は表と数字、後者は図である。両方を作るのが原則で、片方だけでは足りない。表は正確だが形が読めず、図は形が読めるが値が読めない。

カテゴリカル変数:棒グラフ

名義・順序の度数分布は棒グラフで示す。度数分布そのもの——つまりばらつきの姿——を最もよく表す図である。

  • 縦軸は絶対度数でも相対度数(%)でもよい。群の大きさが違う複数群を比べるなら相対度数にする
  • 順序なら、横軸はその自然な順序で並べる。名義なら度数の大きい順か、慣行の順に並べる
  • 図から最頻値がひと目で読め、さらに 最頻値がどれくらい「代表として妥当か」も読める。A型42%・O型40%のように2つが拮抗していれば、最頻値だけを報告するのは誤解を招く

⚠️ 円グラフ、とくに立体(3D)の円グラフは避ける。 人間は角度の比較が苦手であり、立体化すると手前の扇形が遠近法で拡大されて、面積の比が実際の比と一致しなくなる。カテゴリの大小を伝えたいなら棒グラフのほうが確実である。

2つのカテゴリカル変数

表現 内容
行と列にカテゴリを取り、セルに度数を入れる。解析的な記述の基本形
積み上げ棒グラフ 一方のを棒に、他方を棒の内訳に取る。割合の比較に向く
モザイク図 積み上げ棒の棒の幅も度数に比例させたもの。面積がセル度数を表すので、周辺度数と条件付き割合が同時に読める

💡 モザイク図の利点は、行の合計がまったく違う群を並べても誤解が生じない点にある。積み上げ棒(幅が一定)では「n = 20 の群」と「n = 2000 の群」が同じ大きさに描かれてしまう。分割表の解析は 比率の比較 で扱う。

数値変数:ヒストグラム

数値では値の種類が多すぎて、値ごとの度数を数えても 0 か 1 にしかならない。そこで を人工的に作って度数を数える。この図がヒストグラムである。

⚠️ を作った時点で情報は失われる。それでもヒストグラムを描くのは、分布の形(対称か、歪んでいるか、峰はいくつか、外れ値があるか) が他のどの手段よりも早く分かるからである。

階級幅をどう決めるか

観点 内容
統計的な基準 データ数とばらつきから幅を決めるがある(Sturges の、Freedman–Diaconis の規則など)。統計ソフトの既定値はこれを使っており、通常は変更しないほうがよい
見た目の基準 人間は 5・10・15… のような丸い数を好む
物理的な下限 測定できる最小の差より細かいを作っても意味がない

⚠️ 幅を変えるとヒストグラムの見え方は劇的に変わる。 幅を狭くしすぎると凸凹だらけになって形が読めず、広くしすぎると峰が1つに潰れて二峰性を見落とす。「思ったような形にならないから幅を変える」のは、のデータの細工である。幅を変えたなら、その旨と理由を書く。

💡 情報を失わずに数値の分布を描く方法もある——各値のをそのまま描けばよい(経験分布関数)。ただし読み取りに慣れが要るため、入門段階ではヒストグラムを使う。

数値データに棒グラフを使わない

連続について「群ごとの平均を棒の高さにし、エラーバーを付ける」図は生物医学論文で非常に多いが、使うべきではない1。

問題 内容
分布の形が完全に消える 平均と1つのばらつき指標しか描いていないので、・二峰性分布・外れ値1個に引っ張られた分布が、すべて同じ棒になる1
棒が「0から連続している」とさせる 棒の面積は量を表す記号なので、原点から始まらない量(体温、pH、心拍数)に使うと意味が壊れる
エラーバーの正体が不明 SD・SE・95% CI のどれかで幅が数倍違う。図の説明に書かれないことが多い
n が見えない 3例の平均も300例の平均も同じ高さの棒になる

⭐ 代わりに使うのは、個々のデータ点を描く図(ドットプロット、付き散布図) か、n が多ければ箱ひげ図である1。

⚠️ 軸の細工も同じ系統の問題である。y軸を0からではなく途中から始めれば、わずかな差を巨大な差に見せられる(「新薬でIQが上がった」という類の図がこれである)。軸の範囲・目盛り・エラーバーの定義の3つは、図を見たら必ず確認する。

箱ひげ図

数値の分布を、分位数だけで描く図である。

部分 表すもの
箱の中の線(「目」) 中央値(まれに平均のことがある。その場合は明記される)
箱(「胴体」) Q1 から Q3、つまり IQR。ここに中央の50%が入る
ひげ 「Q1 − 1.5×IQR」以上・「Q3 + 1.5×IQR」以下に収まる実データの最小値と最大値
ひげの外の点 外れ値として個別に描かれる

⚠️ ひげの端は「最小値・最大値」ではなく「1.5×IQR の範囲内にある実データの最小・最大」である。ここを取り違えると範囲を読み違える。

外れ値の定義と扱い

外れ値(outlier)の作図上の定義は、次の2本の境界の外側に出た値である。

x<Q1−1.5 IQRorx>Q3+1.5 IQRx < Q_1 - 1.5\,\mathrm{IQR} \qquad \text{or} \qquad x > Q_3 + 1.5\,\mathrm{IQR}

⚠️ これは「その値が誤りである」という意味ではない。 1.5 IQR1.5,\mathrm{IQR} は慣習的な閾値にすぎず、からのデータでも約0.7%の点がこの外に出る。したがって n が大きければ外れ値が出るのは当然である。

⭐ 外れ値を見つけたときの正しい手順:

  1. その点の識別子(行番号) を確認する。図に表示される番号は値ではなく行番号なので、元のデータ表を引ける
  2. 元データに戻り、入力ミス・単位の間違い・記録の異常でないかを確かめる
  3. 誤りなら訂正する。誤りでないなら残す
  4. どうしても除外するなら、除外した事実と理由を報告し、除外した場合としない場合の両方の結果を示す

「外れ値だから消す」は、を都合よく変える最も簡単な手段である。理由を書かない除外は改竄と区別がつかない。

💡 片側にだけ外れ値が並ぶのは、外れ値ではなく歪みの表れである。やのように右に長い裾をもつでは、上側に多数の点が出る。この場合に必要なのは点の除外ではなく、か中央値・IQR での要約である(→ 確率と分布)。

群別の箱ひげ図

横軸に因子(カテゴリカル)、縦軸に数値を取ると、群間の分布を並べて比較できる。この図で見えるのは「差がありそうか」までで、差がの範囲かどうかは別問題である(→ 仮説検定の論理)。

散布図

2つの数値の関係を見る基本の図である。横軸に説明(独立)、縦軸に目的(従属)を取る。

拡張 何が分かるか
群分け(点の色・形を因子で変える) 群ごとに関係が違うかどうか。群を混ぜると見かけの関係が逆転することがある(→ と重回帰)
周辺箱ひげ図(軸の外側に置く) 各の単独の分布。散布図だけでは各軸の歪みが見えない
対数軸 右に歪んだ(コレステロール、、酵素活性など)で有効。片側に偏っていた外れ値が対称に散らばるようになれば、そのは対数に近い

💡 散布図で見るべきなのは相関係数ではなく、関係の形である。直線的か、曲がっているか、群に分かれていないか、1点だけ極端に離れていないか——相関係数はこれらをすべて1つの数に潰してしまう(→ 相関と線形回帰)。

パーセンタイル曲線

小児科でに使う図で、年齢を横軸に、測定値を縦軸に取り、各年齢での分位数を線で結んだものである2。身長・体重・・ で用いる。

読み方は分位数の定義そのままである。「13歳女児の身長の25曲線が151 cm を通る」とは、13歳女児の25%が身長151 cm未満という意味である。

💡 曲線は、実質的には「年齢ごとの IQR や 90%範囲」を連続的に描いたものである。平均 ± SD ではなく分位数を使うのは、分布の形を仮定せずに済むからであり、成長データのように年齢とともに分布の広がりも歪みも変わる対象に適している。

⚠️ 個々の測定値が何かより、同じ子の推移が曲線を横切って動くかのほうが臨床的に重要である。3の子がずっと3に沿って伸びていれば正常でありうるが、50から3へ落ちていれば異常である。1点だけを見る図ではない。

図を仕上げる

書き出し形式

形式 性質
ビットマップ(.png、.jpg など) 画素の集合。拡大すると劣化する。劣化は保存した時点で起きるので、後から .pdf に変換してもは戻らない
ベクター(.pdf、.svg、.eps など) 図形の記述。どこまで拡大しても劣化しない

⭐ ベクター形式だけが無損失なので、多くの医学雑誌はこちらを要求する。例外は写真・顕微鏡像で、これは本質的にビットマップなので高で提出する。

色

  • ⚠️ 色だけで情報を伝えない。 男性の約8%・女性の約0.5%が多様性をもつため、赤と緑の対比は一部の読者に区別できない。形・線種・ラベルを併用する
  • 多様性に配慮した配色(カラーユニバーサルデザインのパレット)を使う3
  • 白黒印刷でも読めるかを確認する
  • 順序のある量には連続的な明度の変化を、順序のないカテゴリにはの違いを割り当てる

実際の作図

import pandas as pd, matplotlib.pyplot as plt

df = pd.read_csv("frmgham2.csv", na_values=["NA"])
df["TOTCHOL"].plot.hist(bins=30)                       # ヒストグラム
df.boxplot(column="AGE", by="CURSMOKE")                # 群別の箱ひげ図
df.plot.scatter(x="DIABP", y="SYSBP", alpha=0.3)       # 散布図(重なりは透明度で処理)
plt.show()

⚠️ n が大きい散布図では点が重なって密度が見えなくなる。透明度(alpha)を下げるか、六角ビン(hexbin)にする。

💡 図を読む順序

  1. 軸 — 何が横軸で何が縦軸か、単位は何か、0から始まっているか、対数軸ではないか
  2. n — 何個の観測から描かれた図か。エラーバー付きの図では特に確認する
  3. エラーバーの定義 — SD か SE か 95% CI か。書かれていなければその図からは何も読めない
  4. 分布の形 — 対称か、歪んでいるか、峰は1つか、離れた点はあるか
  5. 最後に群間の差 — ここまで確認して初めて、群の違いを見る意味が出る

まとめ

  • 図は解析の最後ではなく最初にある。要約統計量は分布の形を隠すので、する前に形を見る
  • 図の選択はの個数 × 尺度でほぼ決まる
  • カテゴリカル:棒グラフ。円グラフ(特に3D)は角度と遠近法で比が歪む
  • 2つのカテゴリカル:分割表+積み上げ棒/モザイク図。モザイク図は群の大きさの違いも面積で表せる
  • ヒストグラムは幅で見え方が変わる。ソフトの既定値を根拠なく変えない
  • 連続に「平均+エラーバー」の棒グラフを使わない。異なる分布が同じ図になる。個々の点か箱ひげ図を使う
  • 箱ひげ図:中央値・IQR・1.5×IQR内の最大最小・外れ値。ひげの端は最大最小値ではない
  • 外れ値の定義(1.5×IQR)は「誤りである」という意味ではない。行番号から元データに戻って確認し、除外するなら理由と両方の結果を示す
  • 片側に偏った外れ値は歪みの表れ。対数軸・で対称になるなら対数を疑う
  • 散布図では相関係数ではなく関係の形を見る。群分け・周辺箱ひげ図・対数軸で情報が増える
  • 曲線は「年齢ごとの分位数」。1点の値より曲線を横切る推移が重要
  • 図はベクター形式で書き出す。色だけで情報を伝えない

出典

  1. 1.Beyond Bar and Line Graphs: Time for a New Data Presentation Paradigm(PLOS Biology(著者 Tracey L. Weissgerber, Natasa M. Milic, Stacey J. Winham, Vesna D. Garovic)・2015)連続変数に棒グラフ(平均+エラーバー)を用いると、まったく異なる分布が同一の図になってしまうため、個々のデータ点を示す図に置き換えるべきであること閲覧 2026-08-17
  2. 2.WHO Child Growth Standards(World Health Organization・2006)小児の身長・体重・BMI のパーセンタイル曲線(成長基準)の国際標準閲覧 2026-08-17
  3. 3.Fundamentals of Data Visualization(O'Reilly Media(著者 Claus O. Wilke)・2019)不確実性の可視化と、色覚多様性に配慮した配色の選び方についての指針閲覧 2026-08-17