Medical Microbiology

Medical Microbiology · 1/1

医学微生物学:意義・分野・簡単な歴史

Medical microbiology: significance, sub-fields and brief history

🧠 微生物学の歴史は「観察→培養→病因証明→治療」という一直線の物語として覚える。 Leeuwenhoekが初めて微生物を「見て」、Kochが病原体と疾患のを「証明する型(4原則)」を作り、Ehrlichが「毒性を病原体だけに選択的に向ける」という思想(chemotherapeutic index、1/12)を打ち立て、Flemingがそれを現実の薬(ペニシリン)に変えた。はバラの偉人紹介ではなく、この1本の流れの上に並んでいる。

微生物学の意義

微生物 とは肉眼では見えないほど微小な生物の総称で、のあらゆる場所に存在し、その環境に有益・有害・のいずれかの影響を与え続けている。

物質循環における役割

  • CO2固定:無機炭素(CO2)をに変換する過程。プランクトン性藻類やが担う。

  • 分解:複雑な有機物を他の生物が利用できる炭素の形に分解する。

  • :大気中の窒素をアンモニア(NH3)に変換し、植物や動物が利用できる形にする細菌の働き。植物としてを行う細菌も存在する。

  • :植物・藻類・で起こり、大気中に酸素を供給する光合成の型。

産業・農業利用

  • 発酵:酵母はワイン・ビール・パンを、はヨーグルト・チーズ・サワー・バターミルクを生む。

  • 医薬品産業 =微生物が産生し他の微生物を殺す・増殖を抑える物質で、感染症治療に用いられる。天然には Penicillium(カビ)や Streptomyces桿菌(細菌)が産生する。

  • :微生物遺伝学を応用して有用物質を生産する技術。

  • モデル生物としての研究大腸菌(細菌)や Saccharomyces(酵母)が細胞生物学の基礎研究に利用されてきた。

宿主との共生

  • 有益 =ヒトの体表面に常在する微生物群(LactobacillusBifidobacterium など)。感染から宿主を守り、栄養・健康を促進する。

  • 有害:植物・動物・ヒトの病原体。

微生物学のサブフィールド

微生物は大きく4つのグループに分けられる。

分野 細胞の型 大きさ 特徴
細菌 原核生物、・ミトコンドリア・・小胞体を持たない単細胞生物 0.5〜20 μm以上 無性分裂で増殖。形態は球菌(coccus、対→diplococci、鎖状→streptococci、房状→staphylococcus)、桿菌、、らせん菌(spirochete、多数のコイルを持つ極めて細い菌)、など
ウイルス 最小の感染性粒子。タンパク質のに核酸(RNAまたはDNA)が包まれる 20〜400 nm 宿主細胞に完全依存(蛋白質合成・酵素を欠く)。宿主の酵素系をウイルス複製に転用する
寄生虫 真核生物、単細胞・多細胞の両方がある 様々 原虫、蠕虫(helminth:虫体・虫卵)を含む。 も便宜上ここに分類されるが、実体は感染性の異常質のみで、宿主の染色体DNAにコードされる点で他の寄生虫と本質的に異なる
真菌 真核生物、核・ミトコンドリア・・小胞体を明確に持つ 3〜5 μm 単細胞(酵母、)・糸状形(カビ、無性+)・二形性真菌のいずれかの形をとる

💡 は「生物」ではなく「異常な構造を持つタンパク質」である。 (核酸)を持たず、正常タンパク質を異常なに連鎖的に変換させることで増える。分類上は寄生虫の項に置かれることが多いが、他の微生物とは全く異なる感染様式を持つ点に注意する。

医学微生物学の歴史

人物(年・国) 業績
Antoine van Leeuwenhoek(1676年、オランダ) 「微生物学の父」。顕微鏡を改良し、微生物を初めて観察・した
Edward Jenner(1796年、イギリス) ワクチン)の開拓者。史上初のワクチン
Ignaz Philipp Semmelweis(1847年、ハンガリー) 消毒法の初期の先駆者。塩素水による手洗いを導入し、 によるを予防した
Louis Pasteur(1870年、フランス) ワクチン接種・微生物発酵・の原理を発見。酵母・糖・アンモニウム塩を用いた培養で初めて細菌を実験室で培養。・鶏のワクチンを開発。発酵が細菌の増殖によることを実証した
(1880年、ドイツ) 近代細菌学の創始者。結核・の原因菌を同定。病原体と疾患のを証明するの4原則 を確立
Dimitry Ivanovsky(1892年、ロシア) ウイルスのを発見し、ウイルス学の創始者となった。モザイクウイルスを発見
Paul Ehrlich(1909年、ドイツ) 近代免疫学の創始者。グラム染色の前身となる染色技術を考案。梅毒に対する初の治療薬(Salvarsan、606号)を開発(毒性は残るが実用に耐えるほど低毒性だった最初の化合物)。 の概念を確立し、化学療法の理論的基盤を築いた。ジフテリア理論も提唱
Sir Alexander Fleming(1928年、スコットランド) (benzylpenicillin) を発見

の4原則 ——ある微生物が特定の疾患の原因であることを証明するための古典的基準。

  1. 病原体は疾患のあるすべての宿主に存在しなければならない。

  2. 病原体は宿主から分離され、純粋培養で増殖できなければならない。

  3. 純粋培養で増殖させた病原体を健康な宿主に接種すると、同じ疾患を引き起こさなければならない。

  4. 接種した新しい宿主から病原体が再分離され、元の病原体と同一であることが示されなければならない。

💡 Ehrlichのは、現代のの思想的原点。 「病原体には効くがヒト細胞にはできるだけ効かない」薬を数値化しようとした発想が、後の抗菌薬・抗がん薬開発全体の設計原理になっている。詳細は1/12 を参照。

まとめ

  • は、物質循環(CO2固定・分解・)、産業・農業利用(発酵・・モデル生物研究)、宿主との vs 病原体)の3方向に分けて理解する。
  • サブフィールドは細菌(原核生物)・ウイルス(最小の感染性粒子)・寄生虫(真核生物:原虫・蠕虫・)・真菌(真核生物)の4つ。
  • 歴史はLeeuwenhoek(観察)→Jenner(ワクチン)→Semmelweis(消毒)→Pasteur(培養・ワクチン・)→Koch(病因証明の4原則)→Ivanovsky(ウイルス学)→Ehrlich(化学療法・)→Fleming(ペニシリン)という発見の連鎖として整理できる。
  • の4原則は病原体と疾患のを証明する古典的基準として、現在も微生物学の基礎に位置づけられる。
  • Ehrlichのは、後の抗菌薬・抗がん薬に共通する「」というの出発点である。