Medical Microbiology

Medical Microbiology · 1/11

消毒の原理と実際

Principles and practice of disinfection

🧠 消毒は「ゼロにする」ではなく「安全な水準まで減らす」こと。 がすべての微生物・芽胞を殺し尽くす「完全ゼロ」を目指すのに対し、消毒は病原性を発揮できない水準までを減らせば十分——芽胞やが生き残っても許容されることがある。この「どこまでやるか」の違いを軸に、対象が生体表面か無生物表面かでを区別し、物理的・化学的な各手段を「何に・どう作用するか」で整理する。

基本用語

用語 定義
消毒 環境中の病原性微生物の数を、感染を起こせない水準まで減らす操作。すべての微生物を破壊するわけではない点でと異なる。
無生物表面(器具・環境)の微生物を殺すための。生体組織に直接使うには毒性が強すぎる。
皮膚・粘膜など生体表面の病原性微生物数を減らすための

💡 の違いは「毒性の許容範囲」にある。 同じでも、生体組織にとって安全な濃度まで薄めて使えば、そのままの高濃度で無生物にしか使えなければになる——後述のと同じ発想が、抗菌薬に限らず「消毒」というレベルでも成り立つ。

消毒の効果を決める3要素

消毒効果は以下の3つで決まる。

  • 薬剤を作用させる時間
  • 使用する薬剤の濃度
  • 対象となる

この関係は次の式で表される:C ⁿ × t = K(C = 薬剤濃度、t = 病原体を殺すのに要する時間、K・n = 定数)。濃度を上げれば必要時間は短くなり、逆に低濃度では長時間の接触が必要になる——にある「希釈倍率と」の指定は、すべてこの関係に基づく。

物理的消毒法

方法 内容
加熱 を減少させる。などの液体を62℃・30分加熱後、急速冷却する。や芽胞は生き残る。(tyndallisation, 分割加熱法):85℃・30分の加熱と37℃での培養を数サイクル繰り返す。:常圧下100℃で20〜30分。
放射線 紫外線(DNAのである波長253.7 nm付近を使用)。UV照射による最も重要な障害はの形成。UVはエネルギーが低く透過力に乏しいため、病室・手術室の表面消毒など限られた用途に使われる。

化学的消毒法

分類 作用機序 代表例・特徴
蛋白質変性、脂質構造の破壊 エタノール80%・プロパノール60%・70%を使用。エタノールは皮膚消毒に用いるで、皮膚表面の脂質も除去する。70%希釈が100%よりも効果が高い点が重要。はより効果的だが毒性も強い。手術時・日常の手指消毒に使われるが、がなく持続しないのが欠点。
蛋白質変性、細胞膜障害 など。
高濃度では蛋白質変性、ヒト組織にも毒性 ・銀の可溶性塩。皮膚に用いる場合は低濃度とし、と結合して作用する。=Credé eye-drop)は新生児の予防に使われた(の項も参照)。
遊離を酸化してS-S結合を形成 pH6未満のヨウ素/溶液。(2%ヨウ素+2.4%ヨウ化ナトリウムのアルコール水溶液)は皮膚消毒に使用。はヨウ素との混合物。塩素溶液・・有機酸・無機クロラミンは遊離塩素の放出により消毒作用を発揮し、水と反応して強いであるを生じる。3%溶液は弱いで、創部洗浄やコンタクトレンズ消毒に用いる。
蛋白質の (37%溶液=ホルマリン)は粘膜を刺激し、で炎症やアレルギー性湿疹を起こしうるが、細菌・真菌・ウイルスに効く広域も同様に用いられる。
長鎖の脂溶性疎水部と極性親水部を持つ表面活性物質。性・非イオン性のいずれかを形成する グラム陽性菌には有効だがグラム陰性桿菌にはやや効果が劣る。毒性が低く、無臭で皮膚への刺激が少なく、洗浄効果もあるのが利点。化合物は細胞を障害し、窒素・リン含有化合物の細胞外漏出を起こす。性化合物は膜のリポ蛋白構造全体を広範に破壊する。

まとめ

  • 消毒は病原体を「安全な水準まで減らす」操作であり、すべての微生物を殺す異なる。
  • は無生物表面用、は生体表面用——同じでも毒性の許容範囲で使い分けられる。
  • 効果は濃度・時間・の3要素で決まり、CⁿXt = Kの関係で表される。
  • 物理的方法には加熱()と放射線(UV、形成)がある。
  • 化学的方法にはアルコール・があり、それぞれ蛋白質変性・膜障害・酸化など異なる機序で作用する。
  • 点眼やなど、の一部は新生児の眼感染予防などのにも応用される。