分子細胞生物学

分子細胞生物学 · 9

チミンダイマーの形成と修復;ミスマッチ修復(EM学生のみ)

Formation and repair of thymine dimers; mismatch repair (only for EM-students)

疾患
色素性乾皮症

🧠 修復とは「除去して埋め直す」という同じ大枠を使うが、決定的に異なるのは“どちらの鎖を削るべきかをどう見分けるか”という点。 は化学構造そのものが歪んでいるため見つけやすいが、複製直後のはH結合が既に形成された「正常に見える」誤りであり、鋳型鎖と新生鎖を区別する目印(大腸菌ならGATC配列のメチル化状態、真核生物なら新生鎖に残るニック)がなければ、細胞はどちらを「正解」として修復すべきか判断できない。

チミンダイマー

とは、UV光による損傷の結果生じる、中で隣接する2つの塩基が異常にしたものである。UV光は芳香環のC=C二重結合上で局在化した反応により共有結合を誘導する。

  • は複製・転写の両方を阻害する
  • の正常な形状を局所的に歪めるこの塩基を修復するため、細胞はを用いる
  • この修復様式の鍵は、特定のタンパク質が分子の表面を滑るように移動し、の形状の膨らみや不規則性を探索する能力にある
  • この機構は-を修復する。シトシン-シトシン(C-C)やシトシン-(C-T)ダイマーも形成されうるが頻度は低い

チミンダイマーの修復:ヌクレオチド除去修復(原核・真核共通)

flowchart TD
  A["病変(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymine, T'>チミン</span>-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thymine dimer'>チミンダイマー</span>)をXPC-RAD23B複合体が認識"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='double helix'>二重らせん</span>が部分的に巻き戻される"]
  B --> C["特異的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endonuclease'>エンドヌクレアーゼ</span>が病変の両側で損傷鎖を切断"]
  C --> D["損傷塩基を含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>断片が遊離"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>ポリメラーゼI/β(複製と同様の様式で)がギャップを埋める"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligase'>リガーゼ</span>が残ったギャップを封鎖"]

⚠️ XPタンパク質(XPC等)の変異はを引き起こす——機構の欠陥により、UV誘発性のが蓄積し、のリスクが著しく上昇する。損傷の初期認識を担うのはXPCとその相方RAD23Bが作る複合体で、ノート内で「23B」と略しているのはこのRAD23Bのことである。

直接修復

要点:塩基やヌクレオチドを除去せずに修復する。

  • 光回復酵素は吸収した光エネルギーを利用して損傷を可逆化する——UV光により活性化され、間の誤った共有結合を切断する

⚠️ ヒトには光回復酵素が無い。 光回復酵素の活性は細菌から菌類・植物・魚類・有袋類まで広く見られるが、ヒトを含む有胎盤類はこの遺伝子を進化の途中で失っている——遺伝子そのものが検出されず、転写産物も見つからない1。そのため我々はUV損傷に対して、より複雑で効率の劣るだけに頼らざるを得ない2。「原核生物だけの機構」ではなく「有胎盤類が失った機構」と覚えるのが正確で、有袋類の光回復酵素を導入したマウスでは日焼け(紅斑)・過形成・アポトーシスが劇的に減ることからも、失った代償の大きさが分かる2。

💡 ヒトに残っている=MGMT。 O6-メチル-メチルトランスフェラーゼ(MGMT)は、で生じたO6-メチルのを自分自身のへ移し取って塩基を元に戻す。1分子が1回しか働けない「自殺酵素」である。臨床的にはこれがの効き目を打ち消す耐性因子として働く——206例のうち45%はMGMTプロモーターがメチル化して酵素が沈黙しており、この群で併用による明確な生存がみられた(生存期間中央値21.7か月対15.3か月。非メチル化群では差が小さく統計学的に有意でなかった)3。「修復酵素が働くほどが効かない」という逆転の関係を押さえる。

ミスマッチ修復

この過程は、複製中にポリメラーゼによって偶発的に導入されたや、1〜数ヌクレオチドの挿入/欠失を排除する(頻繁な原因の1つはオキソ-、01-chemical-structure-of-nucleotides-primary-and-secondary-structure-of-nucleic参照)。

この種の損傷は複製「後」に生じるため機構は使えない——水素結合が既に形成されているからである。細胞にはこのための別の機構、が必要となる。

  • は常に古い鎖(鋳型、template)の情報を反映するよう修正されるため、修復系は鋳型鎖と新生鎖を何らかの方法で識別しなければならない
  • はメチラーゼの作用に基づく——これは全ての(5′)GATC配列内のをメチル化する
  • 鋳型鎖はメチル化されているが、新生鎖はまだメチル化されていない
  • 新生鎖のGATC配列が非メチル化状態であることにより、新生鎖を鋳型鎖から区別できる
  • 半メチル化GATC配列内の複製は、メチル化された鋳型鎖の情報に従って修復される
  • このメチル系は、半メチル化GATC配列から最大1000 bp離れたも効率的に修復する

ミスマッチ修復の機序

flowchart TD
  A["新生鎖に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mismatch (base-pair mismatch)'>ミスマッチ</span>が生じる(新生鎖はまだ非メチル化=半メチル化状態)"] --> B["MutSが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mismatch (base-pair mismatch)'>ミスマッチ</span>を認識"]
  B --> C["MutLがMutSに結合"]
  C --> D["MutHがGATC配列と-CH3(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methyl group'>メチル基</span>)を認識"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endonuclease'>エンドヌクレアーゼ</span>が新生鎖の長いセグメント(約1000 bp、CH3からCH3の間)を除去"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='helicase'>ヘリカーゼ</span>がらせんを巻き戻す"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exonuclease'>エキソヌクレアーゼ</span>が新生鎖の末端から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mismatch (base-pair mismatch)'>ミスマッチ</span>塩基を含む複数ヌクレオチドを切除"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>ポリメラーゼIII/δがギャップを埋める"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligase'>リガーゼ</span>が封鎖"]

⭐ エネルギー的に非常に不利な過程! とは対照的に、は複製後に生じる。

真核生物でもMSH(MutS)・MLH(MutL)タンパク質が同じ役割を担う。

⚠️ 真核生物のはGATCのメチル化ではない。 上のGATC・Dam・MutHの仕組みは大腸菌に固有で、ヒトにはDamメチラーゼもMutHのも存在しない。真核生物では、MutSがを検出し、PCNAに活性化された MLH1-PMS2(酵母Mlh1-Pms1)複合体が新生鎖にニックを入れるという形で鎖を見分ける。目印になるのは、複製直後の新生鎖に一過性に残っている既存のニック(の間の切れ目など)で、PCNAがそこに装着される向きがMLH複合体の切断する鎖を決める4。その後EXO1が切除し、Pol δが埋め直す。このニック生成活性を失わせると、変異率の上昇は認識そのものを失ったMSH2欠失と統計的に区別できないほど大きい——は認識と同じくらい重要な段階である5。

⚠️ に関わるタンパク質の欠陥は特定のを引き起こす:遺伝性非大腸癌(HNPCC/)。 責任遺伝子はMLH1・MSH2・MSH6・PMS2で、PMS2は上で見たニック生成そのものである5。

⭐ (dMMR/MSI-High)は、いまやのである。 修復が効かない腫瘍はを極端に多く溜め込み、その結果として大量のを提示するため、免疫チェックポイント阻害(PD-1阻害)がよく効く。12腫瘍型のdMMR進行癌で53%・21%、しかも原発臓器を問わないという結果が示され6、臓器別ではなくで適応を決める治療(腫瘍型横断的適応)の先駆けとなった。

まとめ

  • はUV光による隣接間の異常な共有結合で複製・転写を阻害し、(XPC-RAD23Bによる認識→切断→ポリメラーゼ充填→封鎖)により修復される——XPタンパク質欠損はを引き起こす。
  • は塩基・ヌクレオチドを除去せずに損傷を可逆化する。光回復酵素は細菌から有袋類まで広く分布するがヒトを含む有胎盤類では失われており、ヒトに残るはMGMT(O6-メチルのを自らのシステインへ移す自殺酵素)である——MGMTプロモーターのメチル化はの45%にみられ、が効くかどうかを分ける。
  • は複製後に生じたエラーを対象とし、大腸菌ではGATC配列のメチル化状態(鋳型鎖=メチル化、新生鎖=非メチル化)を手がかりにMutS-MutL-MutH複合体がを行う——エネルギー的に非常にコストの高い過程である。
  • 真核生物にはDam/MutHが無く、PCNAに活性化されたMLH1-PMS2が新生鎖の既存ニックを目印に自らニックを入れて鎖を識別し、EXO1とPol δが後を継ぐ。
  • 系の欠陥は(。MLH1・MSH2・MSH6・PMS2)の原因となり、生じたdMMR/MSI-High腫瘍は臓器を問わずPD-1阻害に高率で反応する(53%・21%)。

出典

  1. 1.Cloning of a marsupial DNA photolyase gene and the lack of related nucleotide sequences in placental mammals(Nucleic Acids Research・1994)光回復酵素の活性は細菌から有袋類まで広く存在するが、ヒトを含む有胎盤類ではその遺伝子が検出されず転写産物も見つからない閲覧 2026-08-22
  2. 2.Enhanced repair of cyclobutane pyrimidine dimers and improved UV resistance in photolyase transgenic mice(The EMBO Journal・2002)有胎盤類は進化の過程でシクロブタン型ピリミジン二量体の光回復酵素を失い、この損傷にはより複雑で効率の劣るヌクレオチド除去修復だけに頼っている。有袋類の光回復酵素を導入したマウスは紅斑・過形成・アポトーシスが劇的に減る閲覧 2026-08-22
  3. 3.MGMT gene silencing and benefit from temozolomide in glioblastoma(The New England Journal of Medicine・2005)抄録で確認した。膠芽腫206例の45%でMGMTプロモーターがメチル化されており、メチル化例ではテモゾロミド併用群の生存期間中央値が21.7か月、放射線単独群が15.3か月(P=0.007)であった一方、非メチル化例では治療群間の差は小さく統計学的に有意ではなかった(結論では、非メチル化例はそのような利益を得なかったとまとめている)閲覧 2026-09-23
  4. 4.Mlh1-Pms1 ATPase activity is regulated distinctly by self-generated nicks and strand discrimination signals in mismatch repair(Nucleic Acids Research・2025)真核ミスマッチ修復ではMutSホモログがミスマッチを検出し、PCNAに活性化されたMLH1-PMS2複合体が新生鎖にニックを入れる。複製で一過性に生じる既存のニックが鎖識別シグナルとして働く閲覧 2026-08-22
  5. 5.Instability throughout the Saccharomyces cerevisiae genome resulting from Pms1 endonuclease deficiency(Nucleic Acids Research・2024)真核生物のミスマッチ修復はPms1(ヒトPMS2)のエンドヌクレアーゼ活性が新生鎖にニックを入れることで鎖識別を行う。この活性を失うと変異率の上昇はMSH2欠失と統計的に区別できないほど大きい閲覧 2026-08-22
  6. 6.Mismatch repair deficiency predicts response of solid tumors to PD-1 blockade(Science・2017)ミスマッチ修復欠損の進行癌12腫瘍型でPD-1阻害の客観的奏効率53%、完全奏効21%。原発臓器を問わず有効で、腫瘍型横断のバイオマーカーとなる閲覧 2026-08-22