分子細胞生物学

分子細胞生物学 · 50

G2期およびM期における細胞周期の調節

Regulation of the cell cycle in the G2 and M phases

応用トピック
がん治療における放射線療法化学療法の基礎同時化学放射線療法の基礎

🧠 G2/の物語は(49-regulation-of-the-cell-cycle-in-the-g1-phase-transition-to-s-phase)と同じ「サイクリン+Cdk、阻害の解除で発動」という構造の繰り返しだが、主役がMPF(Cdk1-サイクリンB)に代わる。 MPFはCAKによる活性化リン酸化とWee1による阻害性リン酸化の“綱引き”の末にCdc25が阻害を解除して初めて発動し、しかも一度発動すると自分でCdc25を刺激しWee1を抑制するという正のフィードバックで一気に有糸分裂へなだれ込む。そしてAPCがMPF自身とを分解することで、有糸分裂は後戻り不能な形で後期へと進む——「作る」フェーズから「壊して進める」フェーズへの切り替えがこの経路の本質である。

前回の続き:細胞周期の主要ステップ

(この単元は49-regulation-of-the-cell-cycle-in-the-g1-phase-transition-to-s-phaseの続きである。前回の要点:刺激→G1サイクリン・Cdk誘導→pRbリン酸化によるE2F解放→SPF(S Cdk2-サイクリンA)活性化→前の起動→の倍加開始、という流れであった。)

8. MPF(M期促進因子)は複製と細胞成長の完了まで不活性のままである

  • G2期の間、サイクリンB(G2/のサイクリン)の増加が、対応するCdk1(G2/のCdk)の蓄積をもたらす→Cdk(1)-サイクリンB複合体=MPF
  • これらの複合体中のCdkは、CAK(Cdk活性化キナーゼ)により活性化部位の残基がリン酸化される
  • 同時に、Wee1が+残基の阻害性リン酸化によりこれをに保つ

⚠️ 正確にはWee1が付けるのはTyr15だけで、Thr14は主にMyt1が付ける。 Cdk1(Cdc2)を抑えているのはThr14とTyr15の2箇所のリン酸化であり、Wee1がTyr15特異的なのに対し、のMyt1(Wee1ファミリー)がThr14に特異的な主要キナーゼで、Thr14とTyr15の両方をリン酸化できる1。Cdc25はこの2つをまとめて外す。

9. DNAが完全に倍加され細胞サイズが適切になるG2期末に、MPFが活性化される

  • ホスファターゼCdc25がCdkをする→阻害性を除去する→活性型MPF→有糸分裂を引き起こす
  • 活性化されたMPFは正のフィードバック効果を持つ:Cdc25の刺激+Wee1の抑制
flowchart TD
  A["G2期:サイクリンB蓄積→Cdk1と結合"] --> B["CAKがCdkの活性化部位をリン酸化"]
  B --> C["Wee1が阻害性リン酸化によりMPFを不活性に保つ"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>倍加完了・細胞サイズ十分"]
  D --> E["Cdc25がCdkを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dephosphorylation'>脱リン酸化</span>→阻害性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phosphate group'>リン酸基</span>を除去"]
  E --> F["活性型MPF"]
  F -->|"正のフィードバック"| G["Cdc25を刺激・Wee1を抑制"]
  G --> F
  F --> H["有糸分裂の誘発"]

💡 このMPF活性化の仕組みは、G1/S移行における「CKIの分解によるSPF解放」(49-regulation-of-the-cell-cycle-in-the-g1-phase-transition-to-s-phase参照)と同じ論理構造——阻害性修飾の除去によって初めて次の相へ進む——を持つ。違いは、MPFの場合その活性化自体が正のフィードバックループを形成し、いったんスイッチが入ると後戻りなく一気に有糸分裂へなだれ込む点である。

10. MPFは後期まで有糸分裂を指揮する

  • APC/C(後期促進複合体/サイクロソーム、anaphase-promoting complex/cyclosome)が活性化される。APC/C自身がであり、APC2(カリン)とAPC11(RING)のが最小の触媒モジュールを成す23
  • APC/Cは単独では働かず、Cdc20(fizzy)またはCdh1という(基質アダプター)と組んではじめて基質を認識する。有糸分裂で後期を起こすのはAPC/C^Cdc20である4
  • APC/CはMPFの失活(=サイクリンBの分解)と、後期における細胞周期の継続を引き起こす

⚠️ 「APCがMPFを分解する」は正確には「サイクリンBを分解する」である。 壊されるのは複合体まるごとでもCdk1でもなく、サイクリンの側である。サイクリンのN末端にある破壊ボックスがユビキチン依存性分解の目印になっており、この領域をなタンパク質に融合するだけでその融合体も分裂期に分解されるようになる5。APC/CはとサイクリンBの両方をする2。Cdk1タンパク質そのものは分解されず次の周期でも使い回される——「錠は残り、鍵だけが壊される」。

💡 本文の見出しは「後期まで」、上の表は「中期まで」となっているが、両者は同じ一点を指している。 APC/Cは分裂期に入った時点で活性化しており、サイクリンAはただちに分解される(の支配を受けない)。一方サイクリンB1の分解はによって中期から後期への移行まで遅らされる4。つまりMPF活性は中期いっぱい保たれ、中期→後期の移行でサイクリンBが壊されて消える。「中期まで指揮し、後期に入るところで自分が壊される」と読めばよい。

11. APCが制御権を握り、細胞が2つに分裂する

  • APC/Cはの結合の分離過程を開始する
  • APC/Cは阻害性タンパク質をして分解の標的とする(外部のを借りるのではなく、APC/C自身がそのである)2
  • は通常と呼ばれるプロテアーゼに結合しこれを阻害しているが、の分解によりが解放される
  • は間のタンパク質を切断し、それらを分離させる。はカスパーゼに近縁ので、切断部位はのScc1サブユニット(での名称)である——中期停止細胞でScc1を人工的に切断してやるだけでは分離して両極へ移動する6
flowchart TD
  A["活性型MPF(Cdk1-サイクリンB)"] --> B["APC/C+Cdc20の活性化"]
  B --> C["サイクリンBの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ubiquitination'>ユビキチン化</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proteasomal degradation'>プロテアソーム分解</span>=MPF失活"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='securin'>セキュリン</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ubiquitination'>ユビキチン化</span>・分解"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='separase'>セパラーゼ</span>が解放される"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sister chromatid'>姉妹染色分体</span>間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cohesin'>コヒーシン</span>を切断"]
  F --> G["後期:染色分体の分離"]
  H["未結合の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centromere / kinetochore'>動原体</span>→MCC(Mad2/BubR1/Cdc20)"] -->|"Cdc20の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='substrate recognition site'>基質認識部位</span>を塞いで阻害"| B

⭐ (49-regulation-of-the-cell-cycle-in-the-g1-phase-transition-to-s-phase参照)は、全ての染色体のに微小管が正しく結合するまでMad・Bubタンパク質がAPCを抑制することで、この後期への移行を制御している。微小管が結合していない染色体が1つでもあれば、APCは活性化されずは分解されない——分離は起こらない。

💡 その抑制の実体は「MCC」という複合体である。 未結合のが触媒となって分裂期複合体(MCC=Mad2+Mad3/BubR1+Cdc20)が組み立てられる。MCCはCdc20を取り込んだうえでCdc20上のデグロン(基質認識)部位を物理的に塞ぐことでAPC/Cを阻害する3。つまりはAPC/Cのを消すのではなく、Cdc20の「基質を見つける目」を覆っている。

Cdk-サイクリン複合体の周期における役割(総括)

相/移行期 キナーゼ サイクリン 主な機能
G1 Cdk4,6 分裂促進刺激に応じたpRbの進行的リン酸化——通過まで
G1/S Cdk2 サイクリンE pRbのリン酸化(正のフィードバック)、p27^KIP1のリン酸化を介したSPF活性化
S Cdk2 サイクリンA SPF:複製の開始・維持、前成分のリン酸化
G2/M, M Cdk1 サイクリンB MPF:中期まで有糸分裂を指揮(中期→後期移行でサイクリンBが分解されて終わる)、・ヒストン・ラミン・微小管タンパク質・GM130のリン酸化、最終的にAPC/Cの活性化
全相 Cdk7 サイクリンH(+MAT1) CAK:一般的なCdk活性化キナーゼ

まとめ

  • G2期にはサイクリンBの蓄積によりCdk1と結合しMPF(Cdk1-サイクリンB)が形成されるが、CAKによる活性化リン酸化とWee1による阻害性リン酸化により当初は不活性に保たれる。
  • 倍加完了・細胞サイズ十分の条件が満たされるとCdc25がCdkの阻害性を除去し活性型MPFが生じ、これがCdc25刺激・Wee1抑制という正のフィードバックにより有糸分裂を一気に進行させる。
  • 活性化MPFはAPC/C(後期促進複合体/サイクロソーム)を活性化する。APC/C自身がで、Cdc20と組んでとサイクリンB(=MPFのサイクリン側)を・分解する。の分解により(カスパーゼ近縁の)が解放され、のScc1サブユニットを切断することでが後期に分離する。
  • はMCC(Mad2・Mad3/BubR1・Cdc20)がCdc20のを塞ぐことでAPC/Cを抑え、サイクリンB1の分解=後期の開始を全染色体が両極に結合するまで遅らせる。

出典

  1. 1.Myt1: a membrane-associated inhibitory kinase that phosphorylates Cdc2 on both threonine-14 and tyrosine-15(Science・1995)Cdc2のスレオニン14とチロシン15のリン酸化が酵素活性を阻害し、有糸分裂の早期開始を防ぐ。チロシン15をリン酸化するのはWee1だが、スレオニン14に特異的なキナーゼは膜結合性のMyt1(Wee1ファミリーの一員)であり、Myt1はスレオニン14とチロシン15の両方を効率よくリン酸化する閲覧 2026-08-22
  2. 2.APC2 Cullin protein and APC11 RING protein comprise the minimal ubiquitin ligase module of the anaphase-promoting complex(Molecular Biology of the Cell・2001)APC(後期促進複合体)はセキュリンと分裂期サイクリンのユビキチン化・分解を仲介することで姉妹染色分体の分離開始と有糸分裂からの退出を制御する。APC自身がユビキチンリガーゼであり、APC2(カリン)とAPC11(RING)のヘテロ二量体がUbc4またはUbcH10と組んでヒトのセキュリンとサイクリンB1をユビキチン化するのに十分な最小モジュールである閲覧 2026-08-22
  3. 3.Structure of the mitotic checkpoint complex(Nature・2012)紡錘体形成チェックポイントは、未結合の染色体が組み立てを触媒する分裂期チェックポイント複合体(MCC=Mad2・Mad3/BubR1・APC/C共役因子Cdc20)によって課される。APC/Cは染色体分離を開始するE3ユビキチンリガーゼであり、MCCはCdc20上のデグロン認識部位を塞ぐことでAPC/Cを阻害する閲覧 2026-08-22
  4. 4.Anaphase-promoting complex/cyclosome-dependent proteolysis of human cyclin A starts at the beginning of mitosis and is not subject to the spindle assembly checkpoint(The Journal of Cell Biology・2001)APC/CはCdc20(fizzy)またはCdh1によって活性化される。APC/CまたはCdc20に対する抗体の顕微注入は細胞を中期で停止させサイクリンAとB1を安定化する。APC/Cは分裂期に入ると活性化されただちにサイクリンAを分解するが、サイクリンB1の分解は紡錘体形成チェックポイントによって中期から後期への移行まで遅らされる閲覧 2026-08-22
  5. 5.Cyclin is degraded by the ubiquitin pathway(Nature・1991)有糸分裂からの退出を決めるのはサイクリンの分解である。サイクリンN末端側の領域を別のタンパク質に融合すると、その融合タンパク質も分裂期に分解されるようになる。サイクリンはユビキチン依存性のタンパク質分解によって壊され、後期はサイクリンがユビキチン結合系に認識されることで引き起こされうる閲覧 2026-08-22
  6. 6.Cleavage of cohesin by the CD clan protease separin triggers anaphase in yeast(Cell・2000)姉妹染色分体接着は多サブユニットのコヒーシン複合体に依存する。中期から後期への移行時にコヒーシンのScc1サブユニットが限定分解されることが分離に必須であり、これを担うセパリン(セパラーゼ)はカスパーゼに近縁のシステインプロテアーゼで、単独でScc1を切断できる閲覧 2026-08-22