分子細胞生物学

分子細胞生物学 · 80

in vitro転写・翻訳

In vitro transcription and translation

🧠 この実験は「生きた細胞を使わずにタンパク質を作る」というの実演であり、真核生物の通常のmRNA成熟過程(・スプライシング・)を、それぞれ人工的な代替物で置き換えるという発想で成り立つ。 キャップの代わりにGAAトリプレット+モザイクウイルス配列、ポリA鎖の代わりに長い3’、スプライシングの代わりにあらかじめイントロンを除いたcDNAを使う——生細胞が担っていた「」の役割を、化学的に安定な代替配列に肩代わりさせることで、試験管の中だけで転写と翻訳を完結させる。

転写

真核生物におけるmRNA成熟には、、スプライシング、が含まれる(16-processing-of-the-eukaryotic-mrna参照)。しかしin vitro転写アッセイにはプロセシング因子が存在しない。したがって、これら3つの過程はそれぞれ人工的な代替物で置き換えられる:

  • キャップなし: は、mRNA中でGAAトリプレットとそれに続くモザイクウイルス(オメガ)配列に置き換えられうる
  • ポリA鎖なし: の下流に位置する長い3’が、mRNAの安定性を大幅に改善しうる
  • スプライシングなし: 目的遺伝子のcDNA(コピー)がベクターにされる

💡 オメガ配列の正体は「TMVの5’67塩基」である。 SP6プロモーターとレポーター遺伝子の間にこの67ヌクレオチドを挟むと、5’キャップの有無にかかわらず翻訳量が2〜10倍に増える1。キャップが無くても効くという点がまさに「キャップの代わり」たりうる理由であり、オメガ配列はキャップ依存的な開始経路を迂回させる翻訳として働く。

💡 転写を回すのは由来のポリメラーゼである。 in vitro転写では、SP6・T7・T3といったファージのポリメラーゼと、それに対応する短い特異的だけで転写が始まる1。真核生物のポリメラーゼIIのように多数の基本転写因子から成る前を組む必要がないため、で成立する。前段ので使うベクター(pEU-E01系)がSP6プロモーターを持つのはこのためである。

翻訳

:

→ GFP= 緑色蛍光タンパク質(実験室でマーカーとして用いられる)。

翻訳反応

はリボソーム、類、翻訳因子、、エネルギー源を含む。

  • 基質: アミノ酸基質
  • 翻訳の鋳型: mRNA(in vitroで合成されたもの)
  • 構造(バイレイヤー法): 翻訳混合液の上に基質混合液を重ね、その界面を通じて基質を連続的に供給し、小さな副産物を連続的に除去する
  • 陰性対照: もう1本の試験管にはポリメラーゼを含めない(mRNAが合成されないので蛋白質もできない)

⚠️ 「」は対照実験のことではなく、収量を上げるための反応形式の名前である。 コムギ胚芽無細胞系で使われる(バイレイヤー)法は、翻訳混合液と基質混合液という2つの層を1つのウェル/試験管の中で重ね、その間の拡散によって基質の供給と副産物の除去を続ける仕組みで、同じ系のバッチ反応の10倍を超える蛋白質収量が得られる2。ポリメラーゼを抜いた試験管は、これとは別に置く陰性対照である。この2つを混同しない。

💡 無細胞翻訳系はコムギ胚芽だけではない。 代表的な3つはウサギライセート・・大腸菌抽出液で、同じmRNAをどれでも翻訳できる1。コムギ胚芽系は真核型の翻訳装置を持ちながら内在mRNAが少なく、長時間安定に働くため、法と組み合わせた大量合成・ハイスループット解析に向く2。

flowchart TD
  A["cDNA(イントロンなし)をベクターへ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cloning'>クローニング</span>"] --> B["in vitro転写:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacteriophage'>バクテリオファージ</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>ポリメラーゼ"]
  B --> C["GAAトリプレット+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enhancer'>エンハンサー</span>配列(キャップの代替)+長い3'UTR(ポリAの代替)を持つmRNA"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wheat germ extract'>コムギ胚芽抽出液</span>(リボソーム・tRNA・翻訳因子・アミノ酸)との<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epiblast/hypoblast'>二層</span>構成"]
  D --> E["インキュベートによる翻訳"]
  E --> F["GFPの産生→誘導光発光による検出"]

まとめ

  • in vitro転写では、真核生物の通常のmRNA成熟過程(、スプライシング、)がプロセシング因子の非存在下で行われるため、GAAトリプレット+モザイクウイルス配列(キャップの代替)、長い3’UTR(ポリAの代替)、あらかじめイントロンを除いたcDNA(スプライシングの代替)といった人工的な代替物が用いられる。
  • in vitro翻訳()は(リボソーム、tRNA、翻訳因子、アミノ酸、エネルギー源を含む)とin vitro合成されたmRNAを用いて、生きた細胞なしにGFPなどの目的タンパク質をで産生する。無細胞系にはこのほかウサギライセートと大腸菌抽出液がある。
  • 「(バイレイヤー)法」は翻訳混合液と基質混合液を重ねて基質供給と副産物除去を続ける反応形式で、バッチ法の10倍超の収量を与える——ポリメラーゼを抜いた陰性対照の試験管とは別の話である。

出典

  1. 1.The 5'-leader sequence of tobacco mosaic virus RNA enhances the expression of foreign gene transcripts in vitro and in vivo(Nucleic Acids Research・1987)タバコモザイクウイルスRNAの5'リーダー由来67ヌクレオチドのオメガ配列を、バクテリオファージSP6プロモーターとレポーター遺伝子の間に挿入すると、5'キャップの有無にかかわらず翻訳が2〜10倍に増強される。ウサギ網赤血球ライセート・コムギ胚芽抽出液・大腸菌のいずれの無細胞翻訳系でも同様に働く閲覧 2026-08-22
  2. 2.A bilayer cell-free protein synthesis system for high-throughput screening of gene products(FEBS Letters・2002)二層(バイレイヤー)法は翻訳混合液と基質混合液の界面を通じて基質を連続供給し副産物を連続除去する拡散系で、コムギ胚芽無細胞翻訳系と組み合わせるとバッチ法の10倍を超える蛋白質収量が得られる閲覧 2026-08-22