薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · C5 Antivirals / 抗ウイルス薬

シルガビマブ

cilgavimab

分類
Antivirals / 抗ウイルス薬
商品名(EU)
Evusheld
科目
Pharmacology
トピック
C5: Agents to treat Herpes simplex (HSV), varicella-zoster (VZV), cytomegalovirus (CMV). Anti-influenza agents. Drugs against Corona- and other viruses
承認適応
COVID-19
標的微生物
SARS-CoV-2
副作用
頭痛注射部位反応

🧠 全体像:シルガビマブは、チキサゲビマブと必ず2剤1組(EVUSHELD)で使われるのもう片翼である。RBD上でチキサゲビマブとは別のエピトープに結合し、別の(K444系統)を選択する——この「別の場所を叩く」性質こそが、単剤より併用に価値がある理由そのものである。単体で見ると・はチキサゲビマブよりやや劣るが、チキサゲビマブが弱いところをシルガビマブが補い、両者併用条件ではin vitroでが選択されなかった。それでもOmicron以降のには最終的に追いつかれ、米国のEUA(EUA 104)は2024年12月13日にチキサゲビマブと同時に取り消された。

チキサゲビマブとの違い

チキサゲビマブ シルガビマブ
RBDへの(K_D) 2.76 pM 13.0 pM(やや弱い)
ACE2結合阻害IC50 0.32 nM(48 ng/mL) 0.53 nM(80 ng/mL)(やや弱い)
Vero E6中和アッセイEC50(祖先株) 60.7 pM(9 ng/mL) 211.5 pM(32 ng/mL)(約3.5倍弱い)
単独耐性選択変異 F486S(感受性800倍超低下) R346系統・K444系統・N450D(感受性200倍超低下)
半減期 87.9日 82.9日(やや短い)
見かけの・クリアランス 7.7 L・0.062 L/日 8.7 L・0.074 L/日(やや大きい)

💡 単体の指標だけを見るとチキサゲビマブに見劣りするが、それが併用の意味そのものである。 が違い、選択されるも違うため、片方に耐性を持つでももう片方は中和を保てる。事実、両抗体併用条件の耐性選択実験ではが選択されなかった(チキサゲビマブ単独・シルガビマブ単独ではいずれもが選択された)1。

機序

flowchart TD
    A["シルガビマブが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spike protein'>スパイク蛋白</span>RBD上の<br>チキサゲビマブとは別(非重複)のエピトープに結合"] --> B["ACE2への結合を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='competitive'>競合的</span>に阻害"]
    B --> C["ウイルスの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell entry'>細胞侵入</span>を防ぐ(中和)"]
    D["R346・K444・N450付近の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amino acid substitution'>アミノ酸置換</span>"] --> E["シルガビマブへの感受性が<br>4〜200倍超低下(変異により幅がある)"]
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fc region'>Fc領域</span>へのYTE改変"] --> G["FcRnを介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='half-life extension'>半減期延長</span><br>(シルガビマブ 約83日)"]
    A --> H["チキサゲビマブと同時投与し<br>片方の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resistance mutation'>耐性変異</span>をもう片方が補う設計"]

シルガビマブは、チキサゲビマブとは非重複のRBDエピトープに結合してACE2への結合をに阻害するヒトIgG1κモノクローナル抗体である。単剤での(K_D 13.0 pM)・ACE2結合阻害(IC50 0.53 nM)・(EC50 211.5 pM)はいずれもチキサゲビマブよりやや弱いが、選択されるがチキサゲビマブ(F486S)とは異なるR346・K444・N450系統である点が併用の価値を生む1。にはチキサゲビマブと同じYTE改変()とを弱める置換が加えられている。

薬物動態

項目 シルガビマブ チキサゲビマブ(参考)
半減期 約82.9日(SD 12.3) 約87.9日(SD 13.9)
C_max(単回300mg筋注後) 20.3 µg/mL 21.9 µg/mL
(筋注) 65.8% 68.5%
見かけの 8.7 L 7.7 L
見かけのクリアランス 0.074 L/日 0.062 L/日
代謝・排泄 内因性IgGと同じ。されない 同左

1

⭐ シルガビマブの方がチキサゲビマブよりわずかに半減期が短く、クリアランスがやや大きい。 もわずかに大きく、体内動態の細部が異なる別個の分子であることを反映する。ただし差は数日〜数リットル程度で、必ず同時に同回数投与されるため実務上は同一スケジュールで扱われる1。腎機能・肝機能による調整は不要(されず、CYP代謝も受けない)。

適応

COVID-19の(PrEP)として、チキサゲビマブと共にEVUSHELDの構成成分で使われる。適応対象・用量・はチキサゲビマブの頁を参照(両剤は単独では投与されず、常に同時・同量で使用する)。承認の根拠となったPROVENT試験・上の経過(2021年12月承認→2022年2月用量倍増→2023年1月に米国内のどの地域でも使用不可→2024年12月13日EUA取消し)もチキサゲビマブと共通である2。

用法・用量

チキサゲビマブと常に同量・同時投与(初回300mg+300mg筋注、6か月ごとに300mg+300mg反復)で、シルガビマブ単独での投与法は存在しない1。

禁忌・注意

  • 禁忌:EVUSHELD(チキサゲビマブ・シルガビマブいずれかの成分を含む)への重篤な過敏症・アナフィラキシーの既往1
  • ⚠️ COVID-19ワクチンとのリスク。 を含み、一部のCOVID-19ワクチンのPEGと構造的に類似するため注意する1
  • ⚠️ 事象。 チキサゲビマブの頁で述べた注意(未確立だが心血管リスクの高い患者では投与後1時間以上の観察を推奨)はシルガビマブにも共通して適用される1
  • のため、やのある患者には慎重に投与する
  • 中和されないへの曝露では発症を防げない——特にシルガビマブが単独で失う耐性エピトープ(K444系統など)を持つの流行時は、チキサゲビマブ側の活性に依存することになる1

副作用

頻度 内容
高頻度(全grade 3%以上) 頭痛、倦怠感、咳嗽
局所 注射部位反応
重篤・まれ アナフィラキシー、事象(未確立)

まとめ

  • シルガビマブはチキサゲビマブと必ず2剤1組(EVUSHELD)で使われるで、RBD上のチキサゲビマブとは非重複のエピトープに結合する。
  • 単剤の・はチキサゲビマブよりやや弱いが(K_D 13.0 pM対2.76 pM、EC50 211.5 pM対60.7 pM)、選択されるがR346・K444・N450系統とチキサゲビマブ(F486S)とは異なるため、併用での選択を防ぐ設計になっている1。
  • 半減期は約82.9日とチキサゲビマブ(約87.9日)よりわずかに短いが、実務上は常に同時・同量投与のため差は問題にならない。
  • 適応・用法・上の経過(2021年12月承認、2022年2月用量倍増、2023年1月使用不可、2024年12月13日EUA取消し)はチキサゲビマブと共通する2。
  • ⚠️ K444系統の変異を持つ(一部のOmicronを含む)が流行する局面では、シルガビマブのが特に大きく損なわれ、実質的にチキサゲビマブ側の活性に頼ることになる。

出典

  1. 1.Fact Sheet for Healthcare Providers: Emergency Use Authorization for EVUSHELD (tixagevimab co-packaged with cilgavimab)(U.S. Food and Drug Administration・2023)改訂版(Revised: 01/2023)の全文を取得して確認した。臨床薬理(12.3節)の表5に、単回EVUSHELD(300mgチキサゲビマブ+300mgシルガビマブ)筋注後の薬物動態パラメータが個別に示され、半減期(算術平均±SD)はシルガビマブ82.9日(12.3)・チキサゲビマブ87.9日(13.9)、生物学的利用能はシルガビマブ65.8%・チキサゲビマブ68.5%、見かけの分布容積はシルガビマブ8.7L・チキサゲビマブ7.7L、見かけのクリアランスはシルガビマブ0.074 L/日・チキサゲビマブ0.062 L/日である。12.1節(機序)に、両抗体はRBDの非重複領域に同時結合できること、解離定数(K_D)がシルガビマブ13.0 pM・チキサゲビマブ2.76 pM・併用時13.7 pMであること、ACE2結合阻害のIC50がシルガビマブ0.53 nM(80 ng/mL)・チキサゲビマブ0.32 nM(48 ng/mL)・併用時0.43 nM(65 ng/mL)であることが示されている。12.4節(微生物学)に、Vero E6細胞を用いた中和アッセイ(USA-WA1/2020株)のEC50がシルガビマブ211.5 pM(32 ng/mL)・チキサゲビマブ60.7 pM(9 ng/mL)・併用65.9 pM(10 ng/mL)であること、耐性選択実験でシルガビマブ単独はスパイク蛋白のR346G・R346I・K444E・K444N・K444Q・K444R・K444T・N450Dのいずれかの変異(感受性200倍超低下)を選択したのに対しチキサゲビマブ単独はF486S変異(感受性800倍超低下)を選択し、両抗体併用条件下ではエスケープ変異株が選択されなかったことを確認した。個々のスパイクアミノ酸置換を持つVLPを用いた中和アッセイでは、シルガビマブ単独への感受性低下がR346I(200倍超)・K444E(200倍超)・K444Q(200倍超)・K444R(200倍超)・V445A(21〜51倍)・G446V(4.2倍)・N450K(9.1倍)・L452R(5.8倍)の各変異で確認された。改訂EUAは12歳以上・体重40kg以上で中等度〜重度免疫不全またはワクチン接種不可の患者への曝露前予防(PrEP)に限り、非感受性変異株の全国頻度が90%以下の場合にのみ使用を認可し、用法は初回300mg+300mg筋注・6か月ごとの反復投与とする。禁忌はEVUSHELDへの重篤な過敏症・アナフィラキシーの既往で、警告に過敏症、COVID-19ワクチンとの交差過敏症、非中和変異株への曝露リスク、出血性疾患、心血管系事象(因果関係は確立していない)が挙げられている。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Revocation of Emergency Use of a Drug Product During the COVID-19 Pandemic; Availability(U.S. Food and Drug Administration(Federal Register 90 FR 35685)・2025)官報告示の全文(AstraZeneca宛の取消し通知書を含む)を取得して確認した。FDAは2021年12月8日にAstraZenecaへEVUSHELD(チキサゲビマブ/シルガビマブ、EUA 104)の緊急使用許可を発行した。2024年12月13日、AstraZenecaが同年11月21日に提出した取消し申請に基づきFDAはEUA 104を取り消した。理由はEUAに基づき製造・表示・流通した全ロットが有効期限切れであり、AstraZenecaが今後米国で本製品を提供する意図がないためで、根拠条項はFD&C法564(g)(2)(C)である。取消し通知書の脚注には、AstraZenecaの申請時点で「非感受性のSARS-CoV-2変異株の高頻度により、EVUSHELDは米国内のいかなる地域でも緊急使用が認可されていなかった」と明記されている。同じ2024年12月13日に、REGEN-COV(EUA 091)・ソトロビマブ(EUA 100)・ベブテロビマブ(EUA 111)の3件のEUAも同じ理由・同じ条項で取り消された。閲覧 2026-09-29