薬剤ノート一覧へ

Drug Atlas · C5 Antivirals / 抗ウイルス薬

チキサゲビマブ

tixagevimab

分類
Antivirals / 抗ウイルス薬
商品名(EU)
Evusheld
科目
Pharmacology
トピック
C5: Agents to treat Herpes simplex (HSV), varicella-zoster (VZV), cytomegalovirus (CMV). Anti-influenza agents. Drugs against Corona- and other viruses
承認適応
COVID-19
標的微生物
SARS-CoV-2
副作用
頭痛注射部位反応

🧠 全体像:チキサゲビマブは、シルガビマブと必ず2剤1組(EVUSHELD)で使われるの片翼である。単独の「保存エピトープ狙い」で最終的に無効化されたとは異なり、EVUSHELDはRBD上の非重複な2つのエピトープを、性質の異なる2剤で同時にふさぐことでによるエスケープを防ぐ設計を採った。また他の(治療薬)と違い、(PrEP)という独自の適応を持つ——ワクチンに十分応答できない中等度〜者のための薬である。(YTE改変)により単回投与で半年程度の防御を狙ったが、Omicron以降のには次第に通用しなくなり、最終的に米国のEUA(EUA 104)は2024年12月13日に取り消された。

薬効群の中での位置づけ

・ チキサゲビマブ/シルガビマブ(EVUSHELD)
適応 発症後早期の治療 未感染者への(PrEP)
(2回の連続注射)
抗体の数 単剤 2剤併用(チキサゲビマブ+シルガビマブ)
変異への戦略 保存されたエピトープ1か所を狙う RBD上の2か所を同時にふさぐ
米国EUA取消し 2024年12月13日 2024年12月13日(同日・同条項)

💡 「2剤併用」という設計自体が、単剤の限界への回答だった。 チキサゲビマブ単独ではのF486S変異で感受性が800倍超低下し、シルガビマブ単独でもK444系統の変異で200倍超低下したが、2剤併用条件ではが選択されなかった1。それでも最終的にOmicron以降のはこの防御を上回り、同じ運命をたどった。

機序

flowchart TD
    A["チキサゲビマブ・シルガビマブが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='spike protein'>スパイク蛋白</span>RBD上の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-overlapping epitope'>非重複エピトープ</span>に同時結合"] --> B["ACE2への結合を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='competitive'>競合的</span>に阻害"]
    B --> C["ウイルスの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell entry'>細胞侵入</span>を防ぐ(中和)"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fc region'>Fc領域</span>への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amino acid substitution'>アミノ酸置換</span>(YTE改変)"] --> E["FcRnを介した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='half-life extension'>半減期延長</span><br>(チキサゲビマブ 約88日)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='effector function'>エフェクター機能</span>(ADCC等)を低下させ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='antibody-dependent enhancement, ADE'>抗体依存性感染増強</span>(ADE)のリスクを最小化"]
    A --> G["単一抗体への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resistance mutation'>耐性変異</span>が生じても<br>もう一方の抗体が中和を維持する設計"]

チキサゲビマブは、SARS-CoV-2RBD上のエピトープに結合してACE2への結合をに阻害するヒトIgG1κモノクローナル抗体で、K_D 2.76 pM・ACE2結合阻害IC50 0.32 nM(48 ng/mL)と、相方のシルガビマブ(K_D 13.0 pM・IC50 0.53 nM)より高いを示す1。の遺伝子改変マウスから作製されたで、にYTE改変()とを弱める置換を加え、(ADE)のリスクを最小化する設計になっている1。

薬物動態

項目 チキサゲビマブ シルガビマブ(参考)
半減期 約87.9日(SD 13.9) 約82.9日(SD 12.3)
C_max(単回300mg筋注後) 21.9 µg/mL 20.3 µg/mL
(筋注) 68.5% 65.8%
見かけの 7.7 L 8.7 L
見かけのクリアランス 0.062 L/日 0.074 L/日
代謝・排泄 内因性IgGと同じ。されない 同左

1

⭐ チキサゲビマブの方がシルガビマブよりわずかに半減期が長く、クリアランスも小さい。 差はいずれも数日程度で臨床的なには影響しないが、両抗体が構造的に異なる分子であることを反映している。腎機能・肝機能による調整は不要(されず、CYP代謝も受けない)1。

適応

COVID-19の(PrEP)として、以下の条件をすべて満たす12歳以上・体重40kg以上の患者に用いる1。

  • 現在SARS-CoV-2に感染しておらず、感染者との既知の最近の曝露歴がない
  • かつ、以下のいずれか
    • 医学的状態・免疫抑制療法により中等度〜重度の免疫不全があり、ワクチンに十分な免疫応答を示せない可能性がある
    • 過去のワクチン接種・成分への重篤な歴により、いずれのCOVID-19ワクチンも接種が推奨されない

ワクチン接種の代替ではなく、接種が推奨される患者はワクチンを受けるべきで、接種後は少なくとも2週間あけて投与する1。承認の根拠となったPROVENT試験(ワクチン未接種のリスク因子保有成人が対象)では、単回300mg AZD7442(当時の用量150mg+150mg)筋注により症候性COVID-19のが76.7%減少した(95%信頼区間46.0〜90.0、P<0.001)2。⚠️ この結果はAlpha・Beta・Gamma・Delta流行期(Omicron出現前)のものであり、後年のへの有効性を保証するものではない2。

治療(既感染者への投与)や曝露後予防としては認可されていない1。

用法・用量

初回投与は300mgチキサゲビマブ+300mgシルガビマブを2回の連続するで投与する(承認当初はPROVENT試験の用量に基づき150mg+150mgだったが、2022年2月にOmicronへのを受けて300mg+300mgへ倍量化された)。以前150mg+150mgのみを受けた患者には、初回投与からの経過期間に応じた追加投与の規定があった。は6か月ごとに300mg+300mgとする1。

規制上の経過を段階ごとに分ける

⚠️ EVUSHELDの「使えなくなった」経過は、と同じく複数の段階に分かれる。

段階 時点 何が起きたか
承認 2021年12月8日 米国でEUA 104発行(当初用量150mg+150mg)3
用量倍増 2022年2月 Omicron(BA.1系統)へのを受け300mg+300mgへ改訂1
使用不可 2023年1月26日改訂反映 非感受性の全国頻度が90%超となり、米国内のいかなる地域でもが認可されない状態に4
EUA取消し 2024年12月13日 AstraZenecaの申請(全ロット有効期限切れ・提供意図なし)によりFDAがEUA 104を取消し3

💡 取消しの根拠条項はと同じFD&C法564(g)(2)(C)(上の保護のために取消しが適切)である。 564(g)(2)(B)(許可要件を満たさなくなった)ではなく、変異による無効化が先に起き、在庫失効・提供中止の申請が後から続いたという順序は他の群と共通する3。同じ日に・・REGEN-COV(/)のEUAも取り消された3。

禁忌・注意

  • 禁忌:EVUSHELD(チキサゲビマブ・シルガビマブいずれかの成分を含む)への重篤な過敏症・アナフィラキシーの既往1
  • ⚠️ COVID-19ワクチンとのリスク。 EVUSHELDにはが含まれ、一部のCOVID-19ワクチンに含まれる(PEG)と構造的に類似するため、ワクチンへの重篤な過敏症歴がある患者はアレルギー専門医への相談を検討する1
  • ⚠️ 事象。 でEVUSHELD群はプラセボ群より心筋梗塞・心不全の重篤な有害事象が多く報告されたが、該当例はいずれもまたは既往を持ち、明確な時間的パターンはなくは確立していない。心血管リスクの高い患者では投与のリスク・を検討し、投与後1時間以上の臨床観察を行う1
  • のため、やのある患者には慎重に投与する1
  • 中和されないへの曝露では発症を防げない。 投与時点で流行しているの感受性を確認せずに投与すると、防御効果が得られないリスクがある1

副作用

頻度 内容
高頻度(全grade 3%以上) 頭痛、倦怠感、咳嗽
局所 注射部位反応
重篤・まれ アナフィラキシー、事象(未確立)

まとめ

  • チキサゲビマブはシルガビマブと必ず2剤1組(EVUSHELD)で使われるで、RBD上のを2剤で同時にふさぐことでによるエスケープを防ぐ設計。単独ではF486S変異で感受性が800倍超低下するが、併用条件ではが選択されなかった1。
  • 他のと異なり(PrEP)専用で、ワクチンに十分応答できない中等度〜者が対象。治療・曝露後予防には認可されていない。
  • 半減期は約87.9日とシルガビマブ(約82.9日)よりわずかに長い。YTE改変によるが、6か月ごとのという用法を支える1。
  • PROVENT試験では単回300mg筋注で症候性COVID-19のを76.7%減少させたが、この結果はOmicron出現前のものである2。
  • ⚠️ 上の経過は複数段階に分かれる。 2021年12月に承認、2022年2月に用量倍増、2023年1月にの非感受性拡大で米国内のどの地域でも使用不可に、2024年12月13日にEUA自体が取り消された3。

出典

  1. 1.Fact Sheet for Healthcare Providers: Emergency Use Authorization for EVUSHELD (tixagevimab co-packaged with cilgavimab)(U.S. Food and Drug Administration・2023)改訂版(Revised: 01/2023)の全文を取得して確認した。EVUSHELDは中等度〜重度の免疫不全(ワクチンへの十分な免疫応答が見込めない)またはワクチン接種が推奨されない既往を持つ12歳以上・体重40kg以上の曝露前予防薬で、既感染者・最近の曝露者には使用しない。承認当時の用法は初回投与300mgチキサゲビマブ+300mgシルガビマブ(連続する2回の筋肉内注射)で、以前150mg+150mgを受けた患者には追加投与の規定があり、6か月ごとに300mg+300mgを反復投与する。非感受性変異株の全国頻度が90%以下の場合に限り使用が認可されるという制限が付されている。禁忌はEVUSHELDへの重篤な過敏症(アナフィラキシー含む)の既往。警告は、過敏症・アナフィラキシー、COVID-19ワクチン(ポリソルベート80を含む)との交差過敏症のリスク、EVUSHELDで中和されない変異株によるCOVID-19発症リスク、出血性疾患(筋注に伴う注意)、心血管系事象(EVUSHELD群で心筋梗塞・心不全の重篤な有害事象がプラセボ群より多く報告されたが、該当例はいずれも心血管危険因子または既往を持ち、明確な時間的パターンはなく因果関係は確立していない。心血管リスクの高い患者への投与は risk-benefit を検討し、投与後1時間以上の観察を推奨)である。最も多い有害事象(全grade、発現率3%以上)は頭痛・倦怠感・咳嗽。臨床薬理(12.3節)の表5に、単回EVUSHELD(300mgチキサゲビマブ+300mgシルガビマブ)筋注後の薬物動態パラメータが個別に示され、半減期(算術平均±SD)はチキサゲビマブ87.9日(13.9)・シルガビマブ82.9日(12.3)、生物学的利用能はチキサゲビマブ68.5%・シルガビマブ65.8%、見かけの分布容積はチキサゲビマブ7.7L・シルガビマブ8.7L、見かけのクリアランスはチキサゲビマブ0.062 L/日・シルガビマブ0.074 L/日である。12.1節(機序)に、両抗体はRBDの非重複領域に同時結合できること、解離定数(K_D)がチキサゲビマブ2.76 pM・シルガビマブ13.0 pM・併用時13.7 pMであること、ACE2結合阻害のIC50がチキサゲビマブ0.32 nM(48 ng/mL)・シルガビマブ0.53 nM(80 ng/mL)・併用時0.43 nM(65 ng/mL)であることが示されている。12.4節(微生物学)に、Vero E6細胞を用いた中和アッセイ(USA-WA1/2020株)のEC50がチキサゲビマブ60.7 pM(9 ng/mL)・シルガビマブ211.5 pM(32 ng/mL)・併用65.9 pM(10 ng/mL)であること、耐性選択実験でチキサゲビマブ単独はスパイク蛋白のF486S変異(感受性800倍超低下)を選択したのに対しシルガビマブ単独はR346G・R346I・K444E/N/Q/R/T・N450Dのいずれか(感受性200倍超低下)を選択し、両抗体併用条件下ではエスケープ変異株が選択されなかったことを確認した。閲覧 2026-09-29
  2. 2.Intramuscular AZD7442 (Tixagevimab-Cilgavimab) for Prevention of Covid-19(New England Journal of Medicine(Levin MJ, et al.、PROVENT試験)・2022)PMC全文(PMC9069994)を取得して確認した。ワクチン未接種でSARS-CoV-2未感染の成人(平均年齢53.5歳、43.4%が60歳以上、77.5%が重症化リスクとなる併存疾患を有する)を対象に、単回300mg AZD7442(150mgチキサゲビマブ+150mgシルガビマブ、当時の承認用量)筋注とプラセボを比較したPROVENT試験で、症候性COVID-19の発症がAZD7442群3441例中8例(0.2%)・プラセボ群1731例中17例(1.0%)となり、相対リスク減少76.7%(95%信頼区間46.0〜90.0、P<0.001)だったことを確認した。安全性は、少なくとも1件の有害事象を報告した割合がAZD7442群35.3%・プラセボ群34.2%で大半が軽度〜中等度、重篤な有害事象はAZD7442群1.4%・プラセボ群1.3%だった。⚠️ 本試験はOmicron変異株出現前(2020年11月〜2021年3月)に実施されており、この76.7%という数値はAlpha・Beta・Gamma・Delta流行期のものである。閲覧 2026-09-29
  3. 3.Revocation of Emergency Use of a Drug Product During the COVID-19 Pandemic; Availability(U.S. Food and Drug Administration(Federal Register 90 FR 35685)・2025)官報告示の全文(AstraZeneca宛の取消し通知書を含む)を取得して確認した。FDAは2021年12月8日にAstraZenecaへEVUSHELD(チキサゲビマブ/シルガビマブ、EUA 104)の緊急使用許可を発行した。2024年12月13日、AstraZenecaが同年11月21日に提出した取消し申請に基づきFDAはEUA 104を取り消した。理由はEUAに基づき製造・表示・流通した全ロットが有効期限切れであり、AstraZenecaが今後米国で本製品を提供する意図がないためで、根拠条項はFD&C法564(g)(2)(C)(公衆衛生上の保護のために取消しが適切、564(g)(2)(B)の「許可要件を満たさなくなった」ではない)である。取消し通知書の脚注には、AstraZenecaの申請時点で「非感受性のSARS-CoV-2変異株の高頻度により、EVUSHELDは米国内のいかなる地域でも緊急使用が認可されていなかった(was not authorized for emergency use in the United States due to the high frequency of circulating SARS-CoV-2 variants that are non-susceptible to EVUSHELD)」と明記されている。同じ2024年12月13日に、REGEN-COV(EUA 091)・ソトロビマブ(EUA 100)・ベブテロビマブ(EUA 111)の3件のEUAも同じ理由・同じ条項で取り消された。閲覧 2026-09-29
  4. 4.Letter of Authorization Reissuance — EVUSHELD (tixagevimab co-packaged with cilgavimab)(U.S. Food and Drug Administration・2023)2023年1月26日付の認可書(Letter of Authorization)改訂版を取得して確認した。EVUSHELDは、非感受性変異株の頻度があらかじめ定めた基準を超える米国内のいかなる地域においても使用が認可されない(not authorized for use in any U.S. region)と明記している。閲覧 2026-09-29