スコア体系ノート一覧へ

Scores · Published

Barnesアカシジア評価尺度

Barnes akathisia rating scale

別名
BARS
臓器系
神経精神
科目
Psychiatry
トピック
精神医学 A-03:精神薬理学I:抗精神病薬と抗不安薬の作用機序・適応・効果・副作用精神医学 A-09:統合失調症の急性期・長期治療とリハビリテーション

🧠 全体像:BARSは、薬剤性診断そのものではなく、重症度の定量と治療反応の追跡のために作られた4項目・臨床医評定の尺度である。な観察所見(項目1)と患者本人の訴え(項目2・3)を別々に採点したうえで、最後に臨床医がそれらを統合して1つの重症度に落とし込む(総合臨床評価)という二段構えの構造を持つ。の本体が「動き」ではなく「な内的」であるという性質そのものが尺度の設計に反映されており、観察だけでは点数がつかず、必ずで主観症状を確認しなければ採点できない。

目的と適用場面

内容
目的 薬剤性の重症度の定量化と、治療開始・変更後の推移(治療反応)の追跡
対象 抗精神病薬などの原因薬を投与中、または投与予定の患者。すでにが疑われる、または診断されている患者
使う場面 原因薬の開始・増量前のベースライン評価、減量・変更や対症療法の効果判定、における有害事象の反復測定
施行者・形式 臨床医が患者を着座・起立それぞれ最低2分間観察したうえで、直接して主観症状を確認する。観察のみで完結せず、必ずの段階を経る
評価しないもの そのものの。原因薬との時間関係、振戦を伴うとの鑑別は、側の・診察で別に行う

💡 で原因薬との時間関係と主観症状の有無を確認する段階で診断はすでに大筋がつく。BARSはそのに、重症度を数値として記録し、次回受診時や治療変更後との比較を可能にする位置づけである。

構成要素と配点

BARSは4項目から成る。項目1〜3(観察・・苦痛)はそれぞれ0〜3点の4段階で評定し、この3項目の合計が0〜9点の合計得点になる。総合臨床評価はこれらとは別に、0〜5点の6段階で評定する。12

— 着座・起立それぞれ最低2分間、中立的な会話をしながら観察する

点数 所見
0点 正常。四肢に時々みられる程度の落ち着きのない動きにとどまる
1点 特徴的な運動(下肢・足の踏み替え、着座中の片脚の揺すり、起立時の足踏みなど)がみられるが、観察時間の半分未満にとどまる
2点 1点と同様の所見が、観察時間の少なくとも半分以上に及ぶ
3点 観察時間の大半にわたり特徴的な運動が持続する、または着座・起立の姿勢を保てず歩き回ってしまう

— 観察後、直接して聴取する

点数 所見
0点 内的な感はない
1点 漠然とした内的な落ち着かなさがある
2点 脚をじっとさせておけない、または脚を動かしたいという欲求をしている。あるいは、立ったままでいることを求められると内的な落ち着かなさが増悪すると訴える
3点 ほとんどの時間、強い衝動としての「動きたい」というがある。または、ほとんどの時間、歩き回りたいという強い欲求を訴える

に伴う苦痛

点数 所見
0点 苦痛なし
1点 軽度
2点 中等度
3点 高度

総合臨床評価 — 項目1〜3の合計得点とは別に、臨床医が全体像を1つの重症度に統合して評定する

点数 重症度 所見
0点 なし 内的を示す所見がない。な内的や強い衝動の訴えを伴わずに特徴的な運動だけが観察される場合は、ではなく偽性に分類する
1点 疑い 非特異的な内的緊張感と落ち着きのない動きがある
2点 軽度 脚の感の、または立位保持時に増悪する内的感がある。落ち着きのない動きはあるが、特徴的な運動(足の踏み替えなど)は必ずしも伴わない。苦痛はほとんど、または全くない
3点 中等度 軽度と同様のに加え、立位での足の踏み替えなどの特徴的な運動を伴う。患者はこの状態を苦痛と感じている
4点 高度 歩き回りたいという強い衝動をに体験するが、少なくとも5分間は着座を保てる。明らかに苦痛を伴う
5点 重度 ほとんどの時間、行ったり来たりしたいという強い衝動を訴える。数分以上は着座・を保てない。持続的ながあり、強い苦痛と不眠を伴う

2

総合臨床評価の0点の定義そのものに、偽性の除外基準が組み込まれている。 特徴的な運動(所見)が観察されても、な内的や動きたいという衝動の訴えを伴わなければ、それはではなく偽性に分類される。動きの有無だけで採点しない——これはの本体がな内的であるという理解と表裏一体である。

解釈とカットオフ

評価 内容
合計得点(項目1〜3、0〜9点) 客観所見・・苦痛それぞれの重症度を横断的に足し合わせた点数。原著はこの合計得点そのものに重症度カテゴリー(軽症・中等症・重症など)を定めていない
総合臨床評価(0〜5点) 0=なし、1=疑い、2=軽度、3=中等度、4=高度、5=重度という6段階のカテゴリー自体がとして機能する
での運用的 総合臨床評価スコア2点以上を「あり」と定義し、有害事象の発現率を集計する運用が、複数のの統計解析計画で採られている3

💡 合計得点と総合臨床評価は別々に評定する2つの数字であり、機械的に一方から他方を計算できない。経過を記録・比較するときは、どちらの点数を追っているかを明示する。

限界と使ってはいけない場面

⚠️ 診断そのものを確定・除外する検査ではない。 原因薬との時間関係、他の)やとの鑑別は、側の・診察で別に行う。BARSは「と判断した後」の重症度記録に用いる尺度である。

⚠️ 3項目のうち2項目(・苦痛)は自己申告に依存する。 患者の言語化能力、面接者との信頼関係、の質に点数が左右される。障害や活発なのために内的体験を言語化しづらい患者では、実際より低く評価されうる。

⚠️ 活動量計による測定との相関は弱いと報告されている。 BARSは動きそのものだけでなく、患者の・苦痛という体験も測定するためであり、単純なの代理指標として扱わない4

⚠️ は確立されていない。 な点数の変化を「臨床的に意味のある改善」と解釈する際は、点数の変化幅だけでなく症状の推移や本人の訴えを合わせて判断する4

⚠️ 原著のデータはの入院患者42名という小規模な集団に基づく。 他の背景疾患、外来患者、小児など、原著のと異なる患者群への外挿は慎重に行う1

まとめ

  • BARSは薬剤性の重症度を定量し治療反応を追跡するための4項目・臨床医評定の尺度で、診断そのものは行わない。
  • 項目1〜3(観察・・苦痛、各0〜3点)を合計した0〜9点の合計得点と、別に評定する総合臨床評価(0〜5点の6段階)という2種類の点数を持つ。
  • 総合臨床評価の0点の定義には偽性の除外基準が組み込まれており、観察上の異常運動だけでは高い点数がつかない。
  • では総合臨床評価スコア2点以上を「あり」とする運用的がしばしば用いられる。
  • 主観申告への依存、活動量計との相関の弱さ、未確立、原著のの小ささ(入院患者42名)を踏まえ、単独のな重症度判定や診断の根拠として過信しない。

出典

  1. 1.A Rating Scale for Drug-Induced Akathisia(British Journal of Psychiatry(PubMed抄録)・1989)BARSが統合失調症入院患者42名を対象に開発され、うち8名にアカシジア、9名に偽性アカシジアが認められたこと、尺度項目の評価者間信頼性(Cohen's kappa)が0.738〜0.955であったこと、尺度が偽性アカシジアおよび軽症・中等症・重症のアカシジアの判定基準を組み込んで作られたことを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.Clinical Study Protocol 331-10-234(付録:Barnes Akathisia Rating Scaleの採点表を再録、原典 Barnes TR, Br J Psychiatry 1989;154:672-6)(Otsuka Pharmaceutical Development & Commercialization(ClinicalTrials.gov公開文書)・2022)BARSがObjective(0〜3点)・Subjective Awareness of Restlessness(0〜3点)・Distress related to restlessness(0〜3点)・Global Clinical Assessment of Akathisia(0〜5点の6段階)の4項目から成ること、各項目の0点から3点(Global項目は0点から5点)までの判定基準の文言、Global Clinical Assessmentの0点(Absent)の定義に「主観的な内的不穏や強い衝動の訴えを伴わない観察上の異常運動は偽性アカシジアに分類すべき」という注記が含まれることを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.Clinical Review Report: Brexpiprazole (Rexulti)(Canadian Agency for Drugs and Technologies in Health (CADTH)・2017)BARSの3項目(観察・自覚・苦痛)の評価者間信頼性(Cohen's kappa)がそれぞれ0.74・0.83・0.90であったこと、BARSは活動量計(actometry)による客観的運動量測定との相関が弱く、これはBARSが動きだけでなく患者の自覚・苦痛も測定するためと説明されていること、BARSの最小臨床的重要差(MCID)が確立されていないことを確認した閲覧 2026-08-10
  4. 4.Statistical Analysis Plan, Protocol ACP-103-038(NCT02970305)(ACADIA Pharmaceuticals Inc.(ClinicalTrials.gov公開文書)・2019)臨床試験の統計解析計画において、BARSのGlobal Clinical Assessment of Akathisiaスコア2点以上を「アカシジアあり」と定義し、有害事象として発現率を集計する運用が採られていることを確認した閲覧 2026-08-10