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Symptoms · Published

遺糞症

Encopresis

別名
便失禁(小児機能性)
臓器系
消化器小児
科目
Psychiatry
トピック
精神医学 A-16:乳幼児期・児童期・青年期に明らかとなる精神疾患

🧠 全体像:は「4歳以上の子どもが、下着や床など不適切な場所へ繰り返し便を排出する」状態を指す症候であり、その9割以上は慢性便秘によるオーバーフロー()失禁である。「わざと」でも「しつけの失敗」でもなく、直腸にが貯留し続けた結果、直腸が拡張して便意そのものを感じにくくなり、その周りを軟便・液状便がすり抜けて漏れ出るという機械的な病態が土台にある。まず原因のred flagsを除外し、無ければ便秘の治療(除去→維持療法→)として組み立てる。

定義と用語の整理

  • は、発達年齢が4歳以上の子どもで、不適切な場所(衣類・床など)への便排出が1か月以上にわたり月1回以上繰り返される状態を指す。「」「soiling」とほぼ同義に使われるが、という語は小児科領域で慣用的に使われる呼称である。
  • 大部分(80〜95%)は貯留型(便秘随伴性)で、慢性便秘によるオーバーフロー失禁として生じる。残りの一部は明らかな便貯留を伴わない非貯留型で、行動・心理的要因が主体になりうる(本ノートは貯留型を中心に扱う)。
  • 便秘・と関連するが、は成人領域も含む一般的な用語で・なども含む点が異なる。は小児期・便秘関連の文脈で用いられる語である。
  • 診断はRome IV基準(週1回以上の頻度で1か月以上続く、①排便回数が週2回以下、②週1回以上の、③排便を我慢する姿勢や過度のな便保持の既往、④・排便時痛の既往、⑤直腸に大きなを触知、⑥トイレを詰まらせるほどの太い便、のうち2項目以上)を用いる。は小児の便秘全体の約95%を占める。1

病態生理:便秘からオーバーフロー失禁への悪循環

flowchart TD
    A["排便時の疼痛<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hard stool'>硬便</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anal fissure'>裂肛</span>など)"] --> B["排便を我慢する(保持行動)"]
    B --> C["結腸内に便が留まり水分が再吸収され<br>さらに硬い便になる"]
    C --> A
    B --> D["直腸が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>に拡張する"]
    D --> E["直腸の感覚が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blunting'>鈍麻</span>し<br>便意を感じにくくなる"]
    E --> F["拡張した直腸の周りを<br>軟便・液状便がすり抜けて漏れる"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encopresis'>遺糞症</span>(オーバーフロー失禁)"]
  • 排便時の疼痛(・など)をきっかけに、子どもは排便を我慢する保持行動(体を硬直させる、しゃがみ込む、体を揺する)を学習する。
  • 便を我慢し続けると結腸内で水分がさらに吸収されて便が硬くなり、排便がいっそう痛くなるという悪循環に陥る。
  • 便貯留が慢性化すると直腸が持続的に拡張し、直腸壁の体がして便意そのものを感じにくくなる。
  • 拡張した直腸の中心部に硬いが居座ったまま、その周囲を軟便・液状便がすり抜けて下着や床に漏れ出るのがの機序である——子どもが気づかずに、また止めようもなく起こる点が重要である。1
  • 直腸の拡張が続くとも低下し、腹部膨満・腹痛・食欲低下を伴うことがある。

⭐ 保護者・本人が「わざと」「反抗的に」やっていると誤解しやすいが、病態としては不随意なオーバーフロー現象である。 この機序を説明すること自体が治療への協力を引き出す第一歩になる。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 次のred flagsがあれば、+と決めつけず器質的疾患を疑う。1

所見 疑う病態
生後48時間を超える胎便排泄遅延、生後1か月以内の発症
・体重増加不良、著明な腹部膨満 、他の腸疾患
・、の非対称、下肢の筋緊張・反射異常、緊張の異常や肛門反射の消失 などの脊髄異常
便への血液混入(便秘治療中・治療後も含む) 腸疾患
胆汁性嘔吐、発熱 腸閉塞などの急性疾患

これらの所見が無ければ、に伴う典型的なとして便秘の治療を優先してよい。

鑑別・評価の進め方

flowchart TD
    A["4歳以上、不適切な場所への便排出"] --> B{"red flagsはあるか<br>(胎便排泄遅延、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='faltering growth'>成長不良</span>、<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sacrum'>仙骨部</span>所見、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological'>神経学的</span>異常など)"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hirschsprung disease'>Hirschsprung病</span>・脊髄異常などの<br>器質的疾患の精査へ"]
    B -->|"なし"| D["Rome IV<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional constipation'>機能性便秘</span>基準に照らす"]
    D --> E["腹部・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digital rectal examination, DRE'>直腸診</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impacted stool (fecal mass)'>便塊</span>の有無を確認"]
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impacted stool (fecal mass)'>便塊</span>あり(貯留型)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disimpaction'>便塊除去</span>"]
    E -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impacted stool (fecal mass)'>便塊</span>なし(非貯留型)"| G["行動・心理的要因の評価"]
    F --> H["維持療法+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toilet training'>トイレトレーニング</span>へ"]
  • 病歴では、排便回数・便の硬さ・保持行動・失禁のタイミング(下着の汚れが持続的か間欠的か)を具体的に聞く。
  • 腹部触診・での有無を確認する。画像検査()はルーチンには不要だが、が難しい場合の補助に使われることがある。

対症療法の考え方(便秘治療としての介入)

貯留型のは、除去→維持療法→の順で組み立てる。1

  1. :第一選択はの(1〜1.5 g/kg/日を最大6日間)。が低い場合は・製剤のや、・グリセリンなどの直腸的アプローチを代替とする。
  2. 維持療法:0.4 g/kg/日から開始し、軟便が毎日〜隔日になるよう用量を調整する。少なくとも2か月間、あるいは良好な排便パターンが得られてから1か月間は継続し、その後する。
  3. ・行動療法:食後(を利用)に排便を試みる習慣づけとシステムを組み合わせた構造化を行う。3か月経っても正常な排便パターンが戻らなければ、心理面の評価・介入を検討する。集中的な行動療法・を一律にすることは、現時点のエビデンスでは支持されていない。
  4. 心理社会的側面への配慮:のある子どもは無い子どもより心理社会的問題を有する頻度が明らかに高く、受診自体をためらう保護者も多い(実際にを受診したのは対象児の3〜4割にとどまる)。2 恥や叱責につながらない説明の仕方が治療継続の鍵になる。

まとめ

  • は4歳以上の子どもが不適切な場所へ繰り返し便を排出する症候で、80〜95%は慢性便秘によるオーバーフロー失禁である。
  • 病態は「疼痛による便保持→便の硬化→直腸拡張→→周囲からの漏れ」という悪循環であり、子どものな行動ではない。
  • ⚠️ 胎便排泄遅延、、所見、異常などのred flagsがあれば、や脊髄異常などの器質的疾患を先に除外する。
  • 治療は除去→維持療法(が第一選択)→の順で組み立て、集中的な行動療法のは一律には推奨されない。
  • は5〜6歳で4.1%、11〜12歳で1.6%と報告され、心理社会的問題を合併しやすいにもかかわらず実際の受診率は低い。

出典

  1. 1.Constipation in Children and Adolescents: Evaluation and Treatment(American Family Physician・2022)Rome IV基準(4歳以上で週1回以上の便失禁が1か月以上週1回以上など6項目のうち2項目以上)、機能性便秘が全便秘の95%を占めること、病態生理(疼痛を伴う排便→便の保持→結腸での水分再吸収増加→さらに硬い便→意図的な肛門括約筋収縮という悪循環を経て直腸が拡張し便意が鈍麻する)、器質的疾患を疑うred flags(生後48時間以降の胎便排泄遅延・生後1か月以内の発症・成長不良・仙骨部の陥凹や叢毛・下肢の神経学的異常・便への血液混入など)、便塊除去(ポリエチレングリコール1〜1.5 g/kg/日を最大6日間が第一選択、代替としてラクツロース・浣腸)と維持療法(ポリエチレングリコール0.4 g/kg/日から開始し軟便が毎日〜隔日になるよう調整、少なくとも2か月または改善後1か月は継続)、食後排便を促す構造化トイレトレーニングと報酬system、集中的な行動療法・バイオフィードバックは現時点のエビデンスでは支持されないこと、1年間の積極的治療での回復率が50〜60%であることを確認した。閲覧 2026-09-22
  2. 2.The prevalence of encopresis in a multicultural population(Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition・2005)OpenAlexのabstract_inverted_indexを語順に戻して抄録を確認した。アムステルダム在住の5〜6歳児13,111組・11〜12歳児9,780組の親を対象とした住民ベース調査で、遺糞症の有病率は5〜6歳群で4.1%、11〜12歳群で1.6%であり、男児と困窮地域の子どもに多く、モロッコ系・トルコ系の子どもでは少なかったこと。遺糞症のある子どものうち実際に医師を受診したのは5〜6歳群で37.7%、11〜12歳群で27.4%にとどまり、遺糞症のある子どもは無い子どもより心理社会的問題を有する頻度が明らかに高いことを確認した。閲覧 2026-09-22